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第1部 四神と結婚しろと言われました
44.山登りしたいと思います
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景山は四神宮から行くと比較的近いらしい。そうは言っても壁を通り抜けていくわけにもいかないので表へ続く門に辿りつくまででもけっこうな距離がある。その間どんなに香子が自分で歩くと言っても玄武はその腕から下ろしてはくれなかった。
趙文英は石家荘で勤めていたのであまり王城のことは知らないらしい。その為今回は趙の同期である王英明が荷物持ちと案内をかってでてくれたと言う。四神はそれになんの反応もせず当然という体であったが、香子はなんだか悪いことをしたような気になった。香子の表情に気付いた王が『こういう機会でもなければ趙に会えませんから』と鷹揚に笑んだ。中央に勤めるだけあって人の顔色を窺うのはうまいらしいと香子は判断した。
香子のイメージだと王城というところは魑魅魍魎の巣である。人の顔色を正しく判断する能力がなければ生きていけない。できることなら趙がそういったことで嫌な思いをしなければいいと思う。
やっと景山に一番近い北の門から出た。門の外もかなりの広さの石畳が続いている。その先に景山はあった。
香子は景山の全貌を見て唖然とした。
(大は小を兼ねるとはいうけど、これは人工って範囲じゃないでしょ!?)
中国にある景山も五つの山の峰を形成しているが、こんなにスケールはでかくなかった。
『あの……この山の高さって……』
趙と王の方を見て香子がおそるおそる尋ねるとすかさず王が答えた。
『景山の高さは約三引(一引=三十三.三メートル)と言われています。庭園の広さは約五千市畝(一市畝=六六七.六平方メートル)ございます』
香子は気が遠くなりそうになった。
(三引って、三引って! ようは高さが百mあるってこと!? どんだけ広いの王城!?)
元の丘の高さもそれなりにあったのかもしれないが、それに積み上げられた土は主に王城の物であるはずだ。
『……何メートル分掘り返したらこんな山ができるのよ……』
香子の呟きに王は一瞬目を見張った。それは工事に携わった者や一定以上の官吏以外知らされていない極秘事項である。
王城の土地の地下部分は一旦土を全て取り除かれ、そこにレンガを敷き詰めてある。レンガの高さは約二十メートルほどありこれは地下から王城が攻められないようにとの対策だった。
中国の故宮博物院の地下もそういう造りになっているので香子はそれを知っていたにすぎない。
『元の世界の王城もそういう造りだったのか?』
玄武に聞かれて香子は頷いた。それに王はほっとした。
とはいえこの国では極秘事項に当たることを、香子の世界では一般の女性が知っているというのはどうなのだろうとも王は思う。
朱雀ほどではないが鮮やかな赤い髪といい、見れば見るほど得体が知れない。
『玄武様、いいかげん下ろしてください』
『疲れたらすぐに言うといい』
玄武は微笑みながらそっと香子を下ろす。香子はその場でうーんと伸びをした。一応ひらひらの少ない比較的動きやすい格好をさせられてはいるが、それでもなんだか山登りには向かないように見える。
香子は自分の格好を確認すると、景山を見上げた。
(一日じゃ回りきれないかも)
山だけでなく敷地面積自体とんでもない。香子が考えるような顔をしたのに、朱雀が声をかけた。
『香子、どうしたのだ?』
『……毎日散策しに来てもいいのかなぁって……』
趙と王は顔を見合わせた。そう言われるとは思わなかった。これは後で改めて確認しに行かなければいけないようである。
『ところで、上り口はどちらですか?』
香子に聞かれて王ははっとして案内する。
『石段部分が多いですがところどころ土が出ている箇所もございます。足元には十分お気をつけください』
『はい』
香子はわくわくしながら石段を上り始めた。その後ろを四神、眷族の順で続く。
『万春亭という立て札が見えましたら、そちらへ向かってください』
後方から王が声をかける。香子は慌てずゆっくりと山を上っていった。
注:実際の景山公園の面積とは異なります。
趙文英は石家荘で勤めていたのであまり王城のことは知らないらしい。その為今回は趙の同期である王英明が荷物持ちと案内をかってでてくれたと言う。四神はそれになんの反応もせず当然という体であったが、香子はなんだか悪いことをしたような気になった。香子の表情に気付いた王が『こういう機会でもなければ趙に会えませんから』と鷹揚に笑んだ。中央に勤めるだけあって人の顔色を窺うのはうまいらしいと香子は判断した。
香子のイメージだと王城というところは魑魅魍魎の巣である。人の顔色を正しく判断する能力がなければ生きていけない。できることなら趙がそういったことで嫌な思いをしなければいいと思う。
やっと景山に一番近い北の門から出た。門の外もかなりの広さの石畳が続いている。その先に景山はあった。
香子は景山の全貌を見て唖然とした。
(大は小を兼ねるとはいうけど、これは人工って範囲じゃないでしょ!?)
中国にある景山も五つの山の峰を形成しているが、こんなにスケールはでかくなかった。
『あの……この山の高さって……』
趙と王の方を見て香子がおそるおそる尋ねるとすかさず王が答えた。
『景山の高さは約三引(一引=三十三.三メートル)と言われています。庭園の広さは約五千市畝(一市畝=六六七.六平方メートル)ございます』
香子は気が遠くなりそうになった。
(三引って、三引って! ようは高さが百mあるってこと!? どんだけ広いの王城!?)
元の丘の高さもそれなりにあったのかもしれないが、それに積み上げられた土は主に王城の物であるはずだ。
『……何メートル分掘り返したらこんな山ができるのよ……』
香子の呟きに王は一瞬目を見張った。それは工事に携わった者や一定以上の官吏以外知らされていない極秘事項である。
王城の土地の地下部分は一旦土を全て取り除かれ、そこにレンガを敷き詰めてある。レンガの高さは約二十メートルほどありこれは地下から王城が攻められないようにとの対策だった。
中国の故宮博物院の地下もそういう造りになっているので香子はそれを知っていたにすぎない。
『元の世界の王城もそういう造りだったのか?』
玄武に聞かれて香子は頷いた。それに王はほっとした。
とはいえこの国では極秘事項に当たることを、香子の世界では一般の女性が知っているというのはどうなのだろうとも王は思う。
朱雀ほどではないが鮮やかな赤い髪といい、見れば見るほど得体が知れない。
『玄武様、いいかげん下ろしてください』
『疲れたらすぐに言うといい』
玄武は微笑みながらそっと香子を下ろす。香子はその場でうーんと伸びをした。一応ひらひらの少ない比較的動きやすい格好をさせられてはいるが、それでもなんだか山登りには向かないように見える。
香子は自分の格好を確認すると、景山を見上げた。
(一日じゃ回りきれないかも)
山だけでなく敷地面積自体とんでもない。香子が考えるような顔をしたのに、朱雀が声をかけた。
『香子、どうしたのだ?』
『……毎日散策しに来てもいいのかなぁって……』
趙と王は顔を見合わせた。そう言われるとは思わなかった。これは後で改めて確認しに行かなければいけないようである。
『ところで、上り口はどちらですか?』
香子に聞かれて王ははっとして案内する。
『石段部分が多いですがところどころ土が出ている箇所もございます。足元には十分お気をつけください』
『はい』
香子はわくわくしながら石段を上り始めた。その後ろを四神、眷族の順で続く。
『万春亭という立て札が見えましたら、そちらへ向かってください』
後方から王が声をかける。香子は慌てずゆっくりと山を上っていった。
注:実際の景山公園の面積とは異なります。
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