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第1部 四神と結婚しろと言われました
38.宮廷は恐ろしいところです(後半は趙文英視点)
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朝食を終えて香子はやっと部屋に戻った。寝室の卓に置かれた荷物を確認し、ほっと息をつく。
改めてバッグの中身を取り出し、ひとつひとつ確認した。どうしてもこれがないと困る、というものは中日辞典、中国語の本とポケットアルバムぐらいのものである。
「もっと詰め込んでおけばよかったなぁ……」
せめて飛行機の上の物入れに入れたお茶やら本やらを持ってこれればよかったのにと思う。
居間から急須と湯呑みを持ってきているのでお茶を飲むには困らない。急須がこれまた大きく、なんというか茶壺にお茶っ葉が入っているようなかんじなのだ。
香子はふとあることを思い出して首を傾げた。
聞いておきたいと思った事柄である。
(そういえば、神様って日本語も通じるのかな)
別にずっと中国語で暮らしてもかまわないが、やっぱり知らない単語はある。それらを説明しようとする時が面倒くさいのだ。
しかしこの世界に日本語に似た言語がない場合は無理かもしれない。香子はため息をついた。
* *
趙文英は少し困っていた。
思っていたよりも四神や香子に届けられる贈り物が多いのだ。
今まで春節からの三日間はどう対応していたのかと侍女たちに尋ねると、四神はこちらにいる間は一切受け取らなかったので、領地の方に送られるものが多かったらしい。
しかし今回は一年間四神がこちらに滞在するということで、四神宮に贈り物が集中したのではないかという話だった。
いちいち断るにしても数が多すぎる為、呼ばれたついでにお伺いをたてることにした。
『何か困りごとでも?』
緑色の長い髪を頭のてっぺんで軽く結わえただけの美丈夫が、四神宮の表で趙に問うた。趙は言いづらそうに青龍の眷族であろう彼に答えた。
『実は……四神と白香様に贈り物が届いているのです。四神におかれましては今までこちらで受け取られたことはないとのことですが、今回はあまりに数が多いようなのでどう対応すればよろしいかと』
青龍の眷族である青藍は考えるように顎に手を当てた。
『そうですな……花嫁様への贈り物もあるということは我らだけで判断していいことではありますまい。趙殿がお戻りになられるまでに聞いておきましょう』
『ありがとうございます』
趙は拱手して香子の希望を叶える為その場を辞した。
四神とその花嫁の望みはできるだけ叶えるようにと上から言われている。趙は四神宮に勤めるにあたって、中書令直属の部下とされた。それだけ四神への対応に重きを置いているということが伺えるのと、あとは御史大夫からの横槍を受けないようにとの配慮だろうと趙は思う。
そうはいっても四神宮から一歩出れば全く何も起こらないとはいえない。
趙はまだ若輩者と呼ばれるような歳である。その若輩者が地方から中央に任官するということ自体がやっかみの原因になるし、更に四神宮に勤めるなど大抜擢もいいところだ。
趙はそれでもただ四神や香子が過ごしやすい環境を作る為に尽力するだけである。
この時間中書令はおそらく皇帝の執務室にいるはずと見当をつけて趙はそちらへ足を向けた。長い回廊を抜ける間に何名かの官吏とすれ違う。彼らは趙を見ると一様にひそひそと何事かを話しながら足早に去っていった。
そんな官吏たちの姿を見るにつけ、趙は自分が王都に勤めることを夢見ていた日々を思い出しむなしくもなった。
(いや、私の仕事は四神と花嫁に心安らかに過ごしていただくことだ……)
そう自分に言い聞かせながら、趙はようやっと皇帝の執務室の近くに辿りついた。
改めてバッグの中身を取り出し、ひとつひとつ確認した。どうしてもこれがないと困る、というものは中日辞典、中国語の本とポケットアルバムぐらいのものである。
「もっと詰め込んでおけばよかったなぁ……」
せめて飛行機の上の物入れに入れたお茶やら本やらを持ってこれればよかったのにと思う。
居間から急須と湯呑みを持ってきているのでお茶を飲むには困らない。急須がこれまた大きく、なんというか茶壺にお茶っ葉が入っているようなかんじなのだ。
香子はふとあることを思い出して首を傾げた。
聞いておきたいと思った事柄である。
(そういえば、神様って日本語も通じるのかな)
別にずっと中国語で暮らしてもかまわないが、やっぱり知らない単語はある。それらを説明しようとする時が面倒くさいのだ。
しかしこの世界に日本語に似た言語がない場合は無理かもしれない。香子はため息をついた。
* *
趙文英は少し困っていた。
思っていたよりも四神や香子に届けられる贈り物が多いのだ。
今まで春節からの三日間はどう対応していたのかと侍女たちに尋ねると、四神はこちらにいる間は一切受け取らなかったので、領地の方に送られるものが多かったらしい。
しかし今回は一年間四神がこちらに滞在するということで、四神宮に贈り物が集中したのではないかという話だった。
いちいち断るにしても数が多すぎる為、呼ばれたついでにお伺いをたてることにした。
『何か困りごとでも?』
緑色の長い髪を頭のてっぺんで軽く結わえただけの美丈夫が、四神宮の表で趙に問うた。趙は言いづらそうに青龍の眷族であろう彼に答えた。
『実は……四神と白香様に贈り物が届いているのです。四神におかれましては今までこちらで受け取られたことはないとのことですが、今回はあまりに数が多いようなのでどう対応すればよろしいかと』
青龍の眷族である青藍は考えるように顎に手を当てた。
『そうですな……花嫁様への贈り物もあるということは我らだけで判断していいことではありますまい。趙殿がお戻りになられるまでに聞いておきましょう』
『ありがとうございます』
趙は拱手して香子の希望を叶える為その場を辞した。
四神とその花嫁の望みはできるだけ叶えるようにと上から言われている。趙は四神宮に勤めるにあたって、中書令直属の部下とされた。それだけ四神への対応に重きを置いているということが伺えるのと、あとは御史大夫からの横槍を受けないようにとの配慮だろうと趙は思う。
そうはいっても四神宮から一歩出れば全く何も起こらないとはいえない。
趙はまだ若輩者と呼ばれるような歳である。その若輩者が地方から中央に任官するということ自体がやっかみの原因になるし、更に四神宮に勤めるなど大抜擢もいいところだ。
趙はそれでもただ四神や香子が過ごしやすい環境を作る為に尽力するだけである。
この時間中書令はおそらく皇帝の執務室にいるはずと見当をつけて趙はそちらへ足を向けた。長い回廊を抜ける間に何名かの官吏とすれ違う。彼らは趙を見ると一様にひそひそと何事かを話しながら足早に去っていった。
そんな官吏たちの姿を見るにつけ、趙は自分が王都に勤めることを夢見ていた日々を思い出しむなしくもなった。
(いや、私の仕事は四神と花嫁に心安らかに過ごしていただくことだ……)
そう自分に言い聞かせながら、趙はようやっと皇帝の執務室の近くに辿りついた。
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