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第1部 四神と結婚しろと言われました
36.いろいろ気になってすいません
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白虎がいきなり噴き出した。一昨日会った時から思っていたが、なんともらしくない神様である。
青龍がため息をついた。
『……玄武兄、朱雀兄……』
青龍が何か言おうとするのを朱雀が遮った。
『説明不足であったな……香子、そなたはすでに不老の存在だ。不死ではないが、そなたが望むだけ生きることは可能だ』
『……は……?』
(……不老で……長生き……?)
香子は眉を寄せた。
『ええと……それはもし私が500年生きたいと望めば不老の状態で生きられる、ということなんですか……?』
『そうだ』
想像もつかないことである。死ぬのはこわいが、そんなに長い時を生きたいとも思わない。けれど聞きたいことはまだあるのでとりあえず脇に置いておくことにした。
聞きづらいことだがはっきりさせておかなければいけないことは沢山ある。
『……あの……もしもですね……私が四神の誰とも結婚したくないと言ったらどうするんですか?』
おそるおそる紡いだ言葉に反応したのは四神ではなく眷族たちの方だった。特に玄武の後ろに控えている黒月の視線が射殺さんばかりに鋭くなる。
『……ならばそなたがその気になるまで口説くとしよう』
『玄武兄、体から落とすという手もありますな』
『……襲うか……』
『……我はかまわぬが……できれば兄らとは一緒になってほしい』
四神四様の答えを聞いて香子は脱力した。そこらへん難しく考える必要はなかったらしい。ちなみに上から玄武、朱雀、白虎、青龍の順である。
とはいえ青龍以外の視線には色が含まれている気がして香子は冷汗をかいた。
『も、もしもの話です! あと一番大事なことなんですが、もし結婚しても子どもができなかったらどうするんですか?』
花嫁であると断定するのが香り、と言われても香子にはピンとこない。よしんば花嫁だったとしても子どもが産まれなければ香子の立ち位置は微妙なものになるだろう。
四神はそれに考えるような表情をした。
『……ふむ、それはそれで天の采配であろう。眷族や次代が産まれぬとすれば我らの存在は不要ということ。そなたが気に病むことではない』
思ってもみなかった玄武の答えに、香子はぽかんと口を開けた。
『……それでもいいんですか……?』
香子の問いに朱雀が後を継いだ。
『元々我らは天皇の遣いとして地上に降りて来ているにすぎぬ。天皇が我らを不要とすれば自然と眷族や次代が産まれることはなくなるだろう』
香子は天を仰いだ。
やっぱり神様の考えはわからない。
『……わかりました。……ところで、一年ここで過ごすとお聞きしましたけど、その間何をすればいいのでしょうか?』
素朴な疑問を口に乗せると、四神は口元に笑みを浮かべた。
『それはもちろん』
『我らと愛を育むことだ』
(やっぱりそれなんですかーーーーーーーーーーー!?)
できれば香子としてはもう少し実のあることをしたい。この国の歴史を紐解くとか、旅行とか、街を散策するとか。
『え、ええと。朝ごはん……』
玄武に手を取られて泣きそうになりながら卓を見やる。するとすぐに玄武はすまなさそうな顔をした。
『食事中であったな。ゆっくり食べるといい』
こういうところが憎めないのだと香子は思う。質問することに頭がいっぱいいっぱいになっていて、料理が冷めていくのにも気がつかなかった。
冷めてもおいしいことはおいしいが、やはり中華は温かくないとなぁと思っていると、
『せっかくの料理が冷めてしまったな。温めなおせ』
朱雀が当たり前のように侍女たちに申しつけた。
『えっ! 冷めててもおいしいですから!』
侍女たちは香子の言を聞かず、料理の皿を下げはじめた。
『申し訳ございません。すぐに新しい物をお持ちします』
侍女たちの中でも位が一番高そうな女性が香子に頭を下げた。
(やっぱり先に全部食べてからにするんだった……)
食べ物を粗末にしてはいけないと思っているのに、これでは新しい皿が出てくるのだろう。香子が肩を落とすのに、
『そう気に病むことはない。残り物は使用人たちに下賜される。無駄はなかろう』
朱雀が優しく言った。
本当にそうならいいのだけど。
うまくいかない。
香子は嘆息した。
青龍がため息をついた。
『……玄武兄、朱雀兄……』
青龍が何か言おうとするのを朱雀が遮った。
『説明不足であったな……香子、そなたはすでに不老の存在だ。不死ではないが、そなたが望むだけ生きることは可能だ』
『……は……?』
(……不老で……長生き……?)
香子は眉を寄せた。
『ええと……それはもし私が500年生きたいと望めば不老の状態で生きられる、ということなんですか……?』
『そうだ』
想像もつかないことである。死ぬのはこわいが、そんなに長い時を生きたいとも思わない。けれど聞きたいことはまだあるのでとりあえず脇に置いておくことにした。
聞きづらいことだがはっきりさせておかなければいけないことは沢山ある。
『……あの……もしもですね……私が四神の誰とも結婚したくないと言ったらどうするんですか?』
おそるおそる紡いだ言葉に反応したのは四神ではなく眷族たちの方だった。特に玄武の後ろに控えている黒月の視線が射殺さんばかりに鋭くなる。
『……ならばそなたがその気になるまで口説くとしよう』
『玄武兄、体から落とすという手もありますな』
『……襲うか……』
『……我はかまわぬが……できれば兄らとは一緒になってほしい』
四神四様の答えを聞いて香子は脱力した。そこらへん難しく考える必要はなかったらしい。ちなみに上から玄武、朱雀、白虎、青龍の順である。
とはいえ青龍以外の視線には色が含まれている気がして香子は冷汗をかいた。
『も、もしもの話です! あと一番大事なことなんですが、もし結婚しても子どもができなかったらどうするんですか?』
花嫁であると断定するのが香り、と言われても香子にはピンとこない。よしんば花嫁だったとしても子どもが産まれなければ香子の立ち位置は微妙なものになるだろう。
四神はそれに考えるような表情をした。
『……ふむ、それはそれで天の采配であろう。眷族や次代が産まれぬとすれば我らの存在は不要ということ。そなたが気に病むことではない』
思ってもみなかった玄武の答えに、香子はぽかんと口を開けた。
『……それでもいいんですか……?』
香子の問いに朱雀が後を継いだ。
『元々我らは天皇の遣いとして地上に降りて来ているにすぎぬ。天皇が我らを不要とすれば自然と眷族や次代が産まれることはなくなるだろう』
香子は天を仰いだ。
やっぱり神様の考えはわからない。
『……わかりました。……ところで、一年ここで過ごすとお聞きしましたけど、その間何をすればいいのでしょうか?』
素朴な疑問を口に乗せると、四神は口元に笑みを浮かべた。
『それはもちろん』
『我らと愛を育むことだ』
(やっぱりそれなんですかーーーーーーーーーーー!?)
できれば香子としてはもう少し実のあることをしたい。この国の歴史を紐解くとか、旅行とか、街を散策するとか。
『え、ええと。朝ごはん……』
玄武に手を取られて泣きそうになりながら卓を見やる。するとすぐに玄武はすまなさそうな顔をした。
『食事中であったな。ゆっくり食べるといい』
こういうところが憎めないのだと香子は思う。質問することに頭がいっぱいいっぱいになっていて、料理が冷めていくのにも気がつかなかった。
冷めてもおいしいことはおいしいが、やはり中華は温かくないとなぁと思っていると、
『せっかくの料理が冷めてしまったな。温めなおせ』
朱雀が当たり前のように侍女たちに申しつけた。
『えっ! 冷めててもおいしいですから!』
侍女たちは香子の言を聞かず、料理の皿を下げはじめた。
『申し訳ございません。すぐに新しい物をお持ちします』
侍女たちの中でも位が一番高そうな女性が香子に頭を下げた。
(やっぱり先に全部食べてからにするんだった……)
食べ物を粗末にしてはいけないと思っているのに、これでは新しい皿が出てくるのだろう。香子が肩を落とすのに、
『そう気に病むことはない。残り物は使用人たちに下賜される。無駄はなかろう』
朱雀が優しく言った。
本当にそうならいいのだけど。
うまくいかない。
香子は嘆息した。
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