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第1部 四神と結婚しろと言われました

34.ダメで元々ですが聞いてみます

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 しばらくもしないうちにおなかがすいたので香子は二神に頼んで朝食の用意をしてもらうことにした。
 四神の花嫁であることを身を持って自覚した香子は、やっといろいろなことを考えられるようになった。

(基本的なことから教えてもらわないと……)

 本当は質問を紙に書いた方がいい気がする。どうもいつも香子は後から何かが足りないことに気づくのだ。
 朝食の支度ができたことを告げられて、相変わらず玄武に抱き上げられて移動する。香子ももうこれは仕方がないと諦めているのだが、玄武に抱き上げられていると黒月の視線が痛いのがとても嫌だった。
 青龍はなにか納得したようなのでもう大丈夫なのだろうとは思うが、黒月はどうすることもできない。

(ま、なるようになるよね……)

 食堂に着くとすでに青龍と白虎、そしてその眷族たちが先にお茶を淹れて待っていた。

『遅くなってすいません』

 と声をかけると、白虎が笑って『気にするな』と言った。
 四神と香子の全員が席を着くのを待って前菜から料理が並べられていく。今朝の料理も中国で行ったことがあるホテル並みに豪華だった。
 前菜は冷たく、主菜は温かいものがきちんと出てくる。

(宮廷の料理って、毒見とかされて冷たい物しか出てこないんじゃ?)
『どうかしたのか?』

 香子の疑問が顔に出たのか、円卓の斜め向かいに腰かけている青龍が声をかけてきた。

『あ、いいえ……。こういうところの料理って毒見とかないのかなって……』

 四神が一様にへんな顔をした。

(……いくらなんでも神様に毒を盛るってのはありえないか……)

 つくづく失言続きで嫌になると香子が思った時、

『ああ……我々は食さなくても害のあるものが入っていれば気づく故毒見は必要ないのだ』

 朱雀が少し考えるようにして答えてくれた。

(ってことは神様に毒を盛る人もやっぱりいるってこと……?)

 香子の背中を冷汗が流れる。なーんて罰当たりな、と思ってしまうが、世の中にはいろんな人がいるから仕方ないのかもしれない。

『それでも何かを入れる者はおりますな』

 白虎が面白そうに言う。

『そなたを決して危険な目に合わせることはないから、安心して食べなさい』

 玄武に言われて香子は素直に頷く。確かに神様たちの側にいればこれ以上安全なことはないだろう。
 だが一応これからのことを聞いておかなければいけないと香子は思う。その中にはすごく聞きづらい質問もあるがはっきりさせないと先には進めない。
 とりあえず卵とトマトの炒め物に箸をつけてから(ふわふわでおいしかった)、香子は顔を上げた。
 どうせ聞くなら全員いる時に聞いた方がいいだろう。

『あの……まだいろいろ聞きたいことがあるのですがいいですか?』

 四神はそれに頷いた。
 聞くことが聞くことだけにけっこう緊張する。

『基本的な質問なんですけど、私は元の世界に帰ることはできないのですか?』

 その科白に真っ先に反応したのは眷族たちの方だった。侍女たちもまた給仕の手が一瞬止まる。
 玄武と朱雀は考え込むような表情をした。

『そなたは帰りたいのか』

 玄武から静かに尋ねられて香子はむっとした。質問しているのは香子の方である。

『帰りたいかと聞かれれば帰りたいです。でも今は私の質問に答えてくれませんか』
『ふむ……我らにはわからぬ。三皇であれば答えられるのかもしれぬが、今まで花嫁として召喚された者が帰還したというのは聞いたことがない』
(ということは限りなく不可能に近いってことね……)

 香子は目を伏せた。なんとなくそうだろうとは思っていたが、実際に確認するとしないでは違うのだ。気を取り直して本題に入ることにする。

『じゃあ、私の元の世界での扱いはどうなるのでしょうか? 行方不明者? それとも元から存在がなかったことになるのでしょうか?』

 四神がそれにはっとしたような表情をした。もしかしたら今まで考えたこともなかったのかもしれない。
 けれどこれだけははっきりさせてもらわないと困る。
 残していく者もそうだが、残された者もまたつらい思いをするのだから。
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