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第1部 四神と結婚しろと言われました
32.できるだけそばに(白虎視点の回想)
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最初の記憶は、涙を流しながら自分に乳をくれていた人間の女性。
異形であろう我を愛おしそうに胸に抱き、『どうしたらいいの……?』と毎日呟いて途方に暮れていた。
それが頻繁に訪ねてくる青龍のせいだろうということは白虎もわかっていた。四神の花嫁は次代を産み落とした後はまた別の神の次代を産むことになる。それでも女性が自分の元にいることに白虎は甘えていた。
先代を父という概念はない。けれど自分の毛皮を優しく撫でてくれる女性が母なのだということはわかっていた。
人型をとれないわけではなかったが、しばらくは不安定なので生まれてから十年程は元の姿のままでいた。ようやく安定したと思い人型を取ると、母はしばらく茫然と白虎を見つめ、そして、
『白虎様……』
と呟いた。
『母上……?』
なんだかその声がひどく切なそうで声をかけると、母ははっとしたように『そうよね……』と言って涙をこぼした。そうして泣きながら白虎に手を伸ばす。白虎はいつものように母の腕の中に収まろうとして、自分が人型をとった為に収まれないことを不満に思った。しかたなく母を抱き上げるようにして自分の腕の中に収める。
『少し、このままでいてくれる……?』
そう言って母は泣いた。なんとなく先代の白虎と比べられているようなそんな気がした。
母が泣き疲れて眠ってしまうと、青龍がやってきた。
『……やはり同じだな』
青龍は人型をとった白虎を見ると、そう呟いた。
人型はいわば仮の姿にすぎない。型に嵌めたように、器をただ複製しているだけだ。
青龍は母を連れていく為に来たのだろう。
『どうぞ……』
これ以上母を独占しておくことはできそうもない。白虎は抱きしめていた腕を解くと、青龍が母を受け取った。
『白虎よ、そなたは果報者だな』
そう言われて頷く。他の三神が訪ねてくることはあっても、母はこの十年ずっと白虎の側にいてくれた。それが先代を失った哀しみによるものであっても、母という存在に触れさせてもらえたのはありがたかった。
人型をとった白虎を見れば、先代を思い出すだろう。
これ以上哀しませるわけにはいかないし、他にも次代を必要とする神がいる。
(さよなら……)
青龍に抱かれたまま眠っている母に白虎は心の中で決別した。
花嫁である張燕は青龍の領地に連れていかれ、しばらくは泣いたりと不安定だったらしい。
けれど青龍に慰められているうちにほだされ、やがてその身を委ねた。
張燕が安定した頃には朱雀も口説きに通い、眷族をいくらか産んでもらったようである。
白虎が一番読めないのは玄武だった。たまに訪ねてきたりしていたが、一線を引いているようにも見えた。けれどその目は雄弁に張燕を愛しいといっていた。
情に厚かったであろう張燕は、結局青龍と共に身罷った。
『……何故、張燕を逝かせたのですか?』
一度だけ白虎は玄武に失礼を承知で尋ねた。それに玄武は遠くを見るような目で、
『……愛していたからだ』
とだけ呟いた。
白虎にはわからなかった。愛していたなら何故奪わなかったのだろう。青龍の次代を張燕が産み落とした後に慰めに通えばどうにかその手に入ったかもしれないというのに。
だが、今はなんとなく玄武の気持ちがわからないでもない。
香子はおそらく玄武と朱雀の次代を産むことになるだろう。
けれどそれは、二神を見送ることでもある。
(……それでも、できることならそばに……)
玄武のようにただ見守るだけの愛もあるだろうが、白虎は無理を承知で口説いてしまうに違いない。
玄武と朱雀の腕の中にいるであろう香子を想いながら、白虎は酒瓶を傾け夜を明かした。
異形であろう我を愛おしそうに胸に抱き、『どうしたらいいの……?』と毎日呟いて途方に暮れていた。
それが頻繁に訪ねてくる青龍のせいだろうということは白虎もわかっていた。四神の花嫁は次代を産み落とした後はまた別の神の次代を産むことになる。それでも女性が自分の元にいることに白虎は甘えていた。
先代を父という概念はない。けれど自分の毛皮を優しく撫でてくれる女性が母なのだということはわかっていた。
人型をとれないわけではなかったが、しばらくは不安定なので生まれてから十年程は元の姿のままでいた。ようやく安定したと思い人型を取ると、母はしばらく茫然と白虎を見つめ、そして、
『白虎様……』
と呟いた。
『母上……?』
なんだかその声がひどく切なそうで声をかけると、母ははっとしたように『そうよね……』と言って涙をこぼした。そうして泣きながら白虎に手を伸ばす。白虎はいつものように母の腕の中に収まろうとして、自分が人型をとった為に収まれないことを不満に思った。しかたなく母を抱き上げるようにして自分の腕の中に収める。
『少し、このままでいてくれる……?』
そう言って母は泣いた。なんとなく先代の白虎と比べられているようなそんな気がした。
母が泣き疲れて眠ってしまうと、青龍がやってきた。
『……やはり同じだな』
青龍は人型をとった白虎を見ると、そう呟いた。
人型はいわば仮の姿にすぎない。型に嵌めたように、器をただ複製しているだけだ。
青龍は母を連れていく為に来たのだろう。
『どうぞ……』
これ以上母を独占しておくことはできそうもない。白虎は抱きしめていた腕を解くと、青龍が母を受け取った。
『白虎よ、そなたは果報者だな』
そう言われて頷く。他の三神が訪ねてくることはあっても、母はこの十年ずっと白虎の側にいてくれた。それが先代を失った哀しみによるものであっても、母という存在に触れさせてもらえたのはありがたかった。
人型をとった白虎を見れば、先代を思い出すだろう。
これ以上哀しませるわけにはいかないし、他にも次代を必要とする神がいる。
(さよなら……)
青龍に抱かれたまま眠っている母に白虎は心の中で決別した。
花嫁である張燕は青龍の領地に連れていかれ、しばらくは泣いたりと不安定だったらしい。
けれど青龍に慰められているうちにほだされ、やがてその身を委ねた。
張燕が安定した頃には朱雀も口説きに通い、眷族をいくらか産んでもらったようである。
白虎が一番読めないのは玄武だった。たまに訪ねてきたりしていたが、一線を引いているようにも見えた。けれどその目は雄弁に張燕を愛しいといっていた。
情に厚かったであろう張燕は、結局青龍と共に身罷った。
『……何故、張燕を逝かせたのですか?』
一度だけ白虎は玄武に失礼を承知で尋ねた。それに玄武は遠くを見るような目で、
『……愛していたからだ』
とだけ呟いた。
白虎にはわからなかった。愛していたなら何故奪わなかったのだろう。青龍の次代を張燕が産み落とした後に慰めに通えばどうにかその手に入ったかもしれないというのに。
だが、今はなんとなく玄武の気持ちがわからないでもない。
香子はおそらく玄武と朱雀の次代を産むことになるだろう。
けれどそれは、二神を見送ることでもある。
(……それでも、できることならそばに……)
玄武のようにただ見守るだけの愛もあるだろうが、白虎は無理を承知で口説いてしまうに違いない。
玄武と朱雀の腕の中にいるであろう香子を想いながら、白虎は酒瓶を傾け夜を明かした。
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