29 / 598
第1部 四神と結婚しろと言われました
29.四神は人と感覚が違うようです
しおりを挟む
玄武に抱き上げられたまま謁見の間に移動する。
四神だけではなく当然のように眷族たちも着いてくるので大移動という感が強い。もう香子は抱き上げられるのに抵抗するのはやめてしまった。こういうものなのだと思わなければ恥ずかしさで転げ回ってしまいそうである。
謁見の間に着くと、午前中のように趙文英が平伏して待っていた。
『趙文英、ただ今着任のご挨拶に参りました』
『許す』
『ありがとうございます』
通り一遍の挨拶の後四神宮着任を告げる。玄武の厳かな声に趙が立ち上がり拱手した。
『私は基本こちらにおりますので、外出や御用の際は侍女たちにお申し付けください。来客や贈り物の対応は全てこちらでさせていただきます』
趙は自分の仕事の内容をそう説明した。
『あ、あの……』
事務的な趙の様子に香子は思わず声をかけた。
『何か?』
趙は相変わらず柔らかい表情で香子を見る。けれど内心はどうなのだろう。
『あの、私……余計なことをしたのでは、と……』
趙は石家荘に勤めていたのだ。それを御史大夫の毒牙から守ろうとして勝手に四神宮に勤めさせることにした。それはもしかしなくても、香子の独りよがりだったのではないかという気がしてならなかった。
趙はふっと笑った。
『私の両親はすでに他界しておりますし、未だ妻帯もしておりません。私自身中央に勤めたいとずっと思っていました。ですから、白香様が気にされることはありません』
香子の後悔を正しく飲み込んで、趙は言い聞かせるように言葉を紡いだ。
『あ、ありがとうございます……』
『大事なお時間をとらせまして申し訳ありませんでした。どうぞ四神と花嫁様には心安らかにお過ごしいただきたく存じます』
それに玄武が頷く。
『ご苦労であった』
それだけ言うと玄武は香子を抱き上げたまま謁見の間を出た。その後に三神と眷族たちが続く。
(え、これだけ?)
香子は戸惑った。
『さて、我らももう少し意思の疎通を図った方がよさそうではあるな』
玄武が香子の顔を覗き込みながら言う。
(ひー! お手柔らかにーーーー!)
なんだか玄武が怒っているような気がして香子は背中を脂汗がじわじわと流れるのを感じた。自分はただ事実を伝えただけなのになんで玄武も朱雀も不機嫌そうなのだろう。
『それでしたら先ほどの茶室がよろしいかと』
白雲に促されてまた茶室に戻る。
『茶を入れてくれるか? そなたの入れる茶はうまい』
玄武に言われ香子は少し照れた。再び侍女たちにお湯の用意をさせてお茶を入れる。先ほどと同じように侍女たちを下がらせ、表には青藍と黒月が立つことになった。黒月は些か不満そうではあったがそれを口にすることはできないようでしぶしぶ表へ出て行った。
確かに白雲は調整役としていてもらった方がいい気がするので香子としても異論はないが、なんだか少し黒月が可哀想な気もした。表を気にしていると、
『香子よ、そなたたち人間にとって国というのはそんなに大事なくくりなのか?』
と朱雀に聞かれた。そう尋ねる朱雀はなんだか不思議そうな表情をしている。
なんと説明してよいのか香子は悩んだ。
『ええと、国というか、人種が違えば価値観も言語も異なりますし……』
そう言いながら香子は違和感を感じた。
(そうだ、相手は神様なんだ……)
『だが現にそなたは我らと同じ言語を話し、この国と通じる異世界の国のことも詳しそうだ。しかしそれらは後付けの考えにすぎぬ。香子が我らの花嫁であることは揺るぎのない事実だ』
(だからなんで花嫁だってわかるのよーーーーーーー!?)
香子は混乱した。
『あの……私が四神の相手という根拠はなんなんですか!?』
怒鳴るように聞くと四神はぽかんとした。どうしてわからないのかとでも言いたそうである。
玄武が苦笑した。
『香りだ』
『…………は?』
犬じゃあるまいしと香子は眉をひそめる。
『そなたからは我らを虜にするような香りが常にしている。だが他の人間からは一切しない。それが答えだ』
(虜……? 香り……?)
香子は首を傾げ、それに思い至った時真っ赤になった。
四神だけではなく当然のように眷族たちも着いてくるので大移動という感が強い。もう香子は抱き上げられるのに抵抗するのはやめてしまった。こういうものなのだと思わなければ恥ずかしさで転げ回ってしまいそうである。
謁見の間に着くと、午前中のように趙文英が平伏して待っていた。
『趙文英、ただ今着任のご挨拶に参りました』
『許す』
『ありがとうございます』
通り一遍の挨拶の後四神宮着任を告げる。玄武の厳かな声に趙が立ち上がり拱手した。
『私は基本こちらにおりますので、外出や御用の際は侍女たちにお申し付けください。来客や贈り物の対応は全てこちらでさせていただきます』
趙は自分の仕事の内容をそう説明した。
『あ、あの……』
事務的な趙の様子に香子は思わず声をかけた。
『何か?』
趙は相変わらず柔らかい表情で香子を見る。けれど内心はどうなのだろう。
『あの、私……余計なことをしたのでは、と……』
趙は石家荘に勤めていたのだ。それを御史大夫の毒牙から守ろうとして勝手に四神宮に勤めさせることにした。それはもしかしなくても、香子の独りよがりだったのではないかという気がしてならなかった。
趙はふっと笑った。
『私の両親はすでに他界しておりますし、未だ妻帯もしておりません。私自身中央に勤めたいとずっと思っていました。ですから、白香様が気にされることはありません』
香子の後悔を正しく飲み込んで、趙は言い聞かせるように言葉を紡いだ。
『あ、ありがとうございます……』
『大事なお時間をとらせまして申し訳ありませんでした。どうぞ四神と花嫁様には心安らかにお過ごしいただきたく存じます』
それに玄武が頷く。
『ご苦労であった』
それだけ言うと玄武は香子を抱き上げたまま謁見の間を出た。その後に三神と眷族たちが続く。
(え、これだけ?)
香子は戸惑った。
『さて、我らももう少し意思の疎通を図った方がよさそうではあるな』
玄武が香子の顔を覗き込みながら言う。
(ひー! お手柔らかにーーーー!)
なんだか玄武が怒っているような気がして香子は背中を脂汗がじわじわと流れるのを感じた。自分はただ事実を伝えただけなのになんで玄武も朱雀も不機嫌そうなのだろう。
『それでしたら先ほどの茶室がよろしいかと』
白雲に促されてまた茶室に戻る。
『茶を入れてくれるか? そなたの入れる茶はうまい』
玄武に言われ香子は少し照れた。再び侍女たちにお湯の用意をさせてお茶を入れる。先ほどと同じように侍女たちを下がらせ、表には青藍と黒月が立つことになった。黒月は些か不満そうではあったがそれを口にすることはできないようでしぶしぶ表へ出て行った。
確かに白雲は調整役としていてもらった方がいい気がするので香子としても異論はないが、なんだか少し黒月が可哀想な気もした。表を気にしていると、
『香子よ、そなたたち人間にとって国というのはそんなに大事なくくりなのか?』
と朱雀に聞かれた。そう尋ねる朱雀はなんだか不思議そうな表情をしている。
なんと説明してよいのか香子は悩んだ。
『ええと、国というか、人種が違えば価値観も言語も異なりますし……』
そう言いながら香子は違和感を感じた。
(そうだ、相手は神様なんだ……)
『だが現にそなたは我らと同じ言語を話し、この国と通じる異世界の国のことも詳しそうだ。しかしそれらは後付けの考えにすぎぬ。香子が我らの花嫁であることは揺るぎのない事実だ』
(だからなんで花嫁だってわかるのよーーーーーーー!?)
香子は混乱した。
『あの……私が四神の相手という根拠はなんなんですか!?』
怒鳴るように聞くと四神はぽかんとした。どうしてわからないのかとでも言いたそうである。
玄武が苦笑した。
『香りだ』
『…………は?』
犬じゃあるまいしと香子は眉をひそめる。
『そなたからは我らを虜にするような香りが常にしている。だが他の人間からは一切しない。それが答えだ』
(虜……? 香り……?)
香子は首を傾げ、それに思い至った時真っ赤になった。
55
お気に入りに追加
4,015
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
皆で異世界転移したら、私だけがハブかれてイケメンに囲まれた
愛丸 リナ
恋愛
少女は綺麗過ぎた。
整った顔、透き通るような金髪ロングと薄茶と灰色のオッドアイ……彼女はハーフだった。
最初は「可愛い」「綺麗」って言われてたよ?
でも、それは大きくなるにつれ、言われなくなってきて……いじめの対象になっちゃった。
クラス一斉に異世界へ転移した時、彼女だけは「醜女(しこめ)だから」と国外追放を言い渡されて……
たった一人で途方に暮れていた時、“彼ら”は現れた
それが後々あんな事になるなんて、その時の彼女は何も知らない
______________________________
ATTENTION
自己満小説満載
一話ずつ、出来上がり次第投稿
急亀更新急チーター更新だったり、不定期更新だったりする
文章が変な時があります
恋愛に発展するのはいつになるのかは、まだ未定
以上の事が大丈夫な方のみ、ゆっくりしていってください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる