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第4部 四神を愛しなさいと言われました
43.自覚なんて一つもありません
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玄武の室の居間で、香子は杯を傾けた。
お茶を一杯飲んだら玄武を受け入れようと思ったが、香子は内心は少し戸惑っていた。
ここには朱雀がいない。朱雀がいない状態で玄武に抱かれたことはある。あの時、朱雀に”熱”は与えられていただろうか。香子はなんとか思い出そうとした。
あと一口でお茶を飲み干してしまう。
香子はそれを一瞬ためらった。
毎晩のように玄武と朱雀に抱かれていても、香子はこれから抱かれるという空気に慣れない。毎晩のことであれば入浴後に玄武か朱雀が迎えに来てくれるからそういうものだと流されることができるが、いざ昼間から抱かれると考えただけで香子の頬は赤くなった。
『香子』
『……はい』
玄武に優しく声をかけられて、香子はお茶を飲み干した。
長椅子で、玄武の膝に乗せられたままお茶を飲んでいたから、玄武はそのまま香子を抱いて立ち上がった。香子の胸が早鐘を打つ。
『……しばし、我に身を委ねよ』
『はい、玄武様……』
寝室に運ばれ、床に優しく横たえられる。香子は観念してそっと目を閉じた。
昨夜の分と考えるととても足りないだろうと香子は思った。
それぐらい玄武は香子の快感を優先し、香子の中で達したのは一度きりだった。
(ってことはー……今夜も、だよね)
本日の夜は晩餐会である。新年の祝いの料理とはどういうものなのだろうと香子はとても期待していた。
『香子』
『はい』
玄武に声をかけられて、香子ははっとした。すでに心は晩餐会の料理に飛んでいた。玄武と裸でくっついたままだからおそらくその思考というか、雰囲気は玄武に知られてしまったに違いない。香子は真っ赤になった。
『……香子が愛しくてたまらぬ。そなたに好きなものがあるというのはいいことだが……もう少し我らの存在を気にしてもらえると嬉しい』
『も、申し訳ありません……』
香子の食への執着は激しい。元々食べることが大好きということもあるが、食べられなければこの世の終わりかと思ってしまうぐらいである。だがそんな香子を四神は好ましく思っていた。
四神が花嫁を求めていることは変わらない。本音を言えば四六時中片時も離さず抱いていたいのだが、先代の白虎や青龍がそうしたが為に先代の花嫁には早めに身罷られている。そんなことになるぐらいなら、香子が多少他のことを気にするぐらいなんてことはないのだった。
特に玄武は切実である。できるだけ余裕を見せるようにしているが、それでもできることなら香子を誰にも見せたくないし、床から出したくないと思っている。
玄武は口角を少し上げ、笑みの形を作った。
『香子、今宵もよいか? 今宵は朱雀と共に……』
『……はい』
香子の顔がまた赤くなった。このまま香子をまた抱きたいと玄武は思ったが我慢した。そろそろ準備の時間である。
居間の向こうから声がかかった。それを玄武も香子も聞き逃しはしなかった。
とかく女性は準備に時間がかかるということも、玄武は香子と会ってから知った。それぐらい玄武は先代の花嫁に関わってこなかった。先代の白虎がすぐに花嫁を囲い込んだというのもある。先代の白虎が身罷れば先代の青龍が花嫁を連れて行ってしまい、玄武はついぞその肌に触れることはなかった。
香子は玄武に衣裳を軽く直してもらってから己の部屋へ運ばれた。呼びに来た侍女がうっすらと頬を染めている。
(またやっちゃったかしら)
香子は内心冷汗を掻いた。玄武に抱かれたばかりだから、色香が出ているのかもしれないと香子はげんなりした。
『のちほど参る』
『わかりました。お待ちしています』
着替えの前にお茶をし、香子は軽くお茶菓子を摘まんだ。そうしてから、玄武が手加減をしてくれた理由に思い当って頬を染めた。
(あんまり抱かれるとおなかが空いてしまうから……)
だから、甘く濃厚ではあったが玄武は一度で引き下がったのだろう。そうなると晩餐会では沢山食べなければいけないかもしれないと香子は思う。ただどこまで食べていいのかが悩ましい問題だった。
(どうせみんなお膳で出てくるから、大丈夫よね)
香子はそう結論付け、侍女に支度をしてもらった。
夜の衣裳もまた見事であった。
晩餐会は四神全員が参加するものであるから、袍は臙脂色、スカートは白金、帯は青龍を思わせる緑に、長袍は光沢のある黒を使われていた。なんとも派手な衣裳にそれぞれ四神が刺繍されているから香子は思わず、『うわぁ……』と感嘆の声を上げた。
『本当に、見事でございますね。この衣裳を着こなされる花嫁様も美しゅうございます』
香子に衣裳を着せた侍女たちがうっとりしたように言う。髪を整えられているから香子は首を振ることもできなかった。
(どう考えても過大評価されてるよね。見慣れてくるとブスもブスに見えなくなるっていうし……)
鏡で己の姿を見ても、綺麗にしてもらえて嬉しいとしか香子には思えない。香子の部屋にある鏡は大きい方ではあるが、それでも全身を映すような姿見はない。だから香子の己への評価はいつまで経っても低いままだった。
『とてもお似合いです』
『さすがは花嫁さまです』
『……ありがとう』
恥ずかしそうに頬を染めながら、香子は頭に刺さった簪が重いと思っていたのだった。
お茶を一杯飲んだら玄武を受け入れようと思ったが、香子は内心は少し戸惑っていた。
ここには朱雀がいない。朱雀がいない状態で玄武に抱かれたことはある。あの時、朱雀に”熱”は与えられていただろうか。香子はなんとか思い出そうとした。
あと一口でお茶を飲み干してしまう。
香子はそれを一瞬ためらった。
毎晩のように玄武と朱雀に抱かれていても、香子はこれから抱かれるという空気に慣れない。毎晩のことであれば入浴後に玄武か朱雀が迎えに来てくれるからそういうものだと流されることができるが、いざ昼間から抱かれると考えただけで香子の頬は赤くなった。
『香子』
『……はい』
玄武に優しく声をかけられて、香子はお茶を飲み干した。
長椅子で、玄武の膝に乗せられたままお茶を飲んでいたから、玄武はそのまま香子を抱いて立ち上がった。香子の胸が早鐘を打つ。
『……しばし、我に身を委ねよ』
『はい、玄武様……』
寝室に運ばれ、床に優しく横たえられる。香子は観念してそっと目を閉じた。
昨夜の分と考えるととても足りないだろうと香子は思った。
それぐらい玄武は香子の快感を優先し、香子の中で達したのは一度きりだった。
(ってことはー……今夜も、だよね)
本日の夜は晩餐会である。新年の祝いの料理とはどういうものなのだろうと香子はとても期待していた。
『香子』
『はい』
玄武に声をかけられて、香子ははっとした。すでに心は晩餐会の料理に飛んでいた。玄武と裸でくっついたままだからおそらくその思考というか、雰囲気は玄武に知られてしまったに違いない。香子は真っ赤になった。
『……香子が愛しくてたまらぬ。そなたに好きなものがあるというのはいいことだが……もう少し我らの存在を気にしてもらえると嬉しい』
『も、申し訳ありません……』
香子の食への執着は激しい。元々食べることが大好きということもあるが、食べられなければこの世の終わりかと思ってしまうぐらいである。だがそんな香子を四神は好ましく思っていた。
四神が花嫁を求めていることは変わらない。本音を言えば四六時中片時も離さず抱いていたいのだが、先代の白虎や青龍がそうしたが為に先代の花嫁には早めに身罷られている。そんなことになるぐらいなら、香子が多少他のことを気にするぐらいなんてことはないのだった。
特に玄武は切実である。できるだけ余裕を見せるようにしているが、それでもできることなら香子を誰にも見せたくないし、床から出したくないと思っている。
玄武は口角を少し上げ、笑みの形を作った。
『香子、今宵もよいか? 今宵は朱雀と共に……』
『……はい』
香子の顔がまた赤くなった。このまま香子をまた抱きたいと玄武は思ったが我慢した。そろそろ準備の時間である。
居間の向こうから声がかかった。それを玄武も香子も聞き逃しはしなかった。
とかく女性は準備に時間がかかるということも、玄武は香子と会ってから知った。それぐらい玄武は先代の花嫁に関わってこなかった。先代の白虎がすぐに花嫁を囲い込んだというのもある。先代の白虎が身罷れば先代の青龍が花嫁を連れて行ってしまい、玄武はついぞその肌に触れることはなかった。
香子は玄武に衣裳を軽く直してもらってから己の部屋へ運ばれた。呼びに来た侍女がうっすらと頬を染めている。
(またやっちゃったかしら)
香子は内心冷汗を掻いた。玄武に抱かれたばかりだから、色香が出ているのかもしれないと香子はげんなりした。
『のちほど参る』
『わかりました。お待ちしています』
着替えの前にお茶をし、香子は軽くお茶菓子を摘まんだ。そうしてから、玄武が手加減をしてくれた理由に思い当って頬を染めた。
(あんまり抱かれるとおなかが空いてしまうから……)
だから、甘く濃厚ではあったが玄武は一度で引き下がったのだろう。そうなると晩餐会では沢山食べなければいけないかもしれないと香子は思う。ただどこまで食べていいのかが悩ましい問題だった。
(どうせみんなお膳で出てくるから、大丈夫よね)
香子はそう結論付け、侍女に支度をしてもらった。
夜の衣裳もまた見事であった。
晩餐会は四神全員が参加するものであるから、袍は臙脂色、スカートは白金、帯は青龍を思わせる緑に、長袍は光沢のある黒を使われていた。なんとも派手な衣裳にそれぞれ四神が刺繍されているから香子は思わず、『うわぁ……』と感嘆の声を上げた。
『本当に、見事でございますね。この衣裳を着こなされる花嫁様も美しゅうございます』
香子に衣裳を着せた侍女たちがうっとりしたように言う。髪を整えられているから香子は首を振ることもできなかった。
(どう考えても過大評価されてるよね。見慣れてくるとブスもブスに見えなくなるっていうし……)
鏡で己の姿を見ても、綺麗にしてもらえて嬉しいとしか香子には思えない。香子の部屋にある鏡は大きい方ではあるが、それでも全身を映すような姿見はない。だから香子の己への評価はいつまで経っても低いままだった。
『とてもお似合いです』
『さすがは花嫁さまです』
『……ありがとう』
恥ずかしそうに頬を染めながら、香子は頭に刺さった簪が重いと思っていたのだった。
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