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第1部 四神と結婚しろと言われました
25.正論は時に人を激しく傷つけるものです
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昼食を取っていなかった香子のおなかが空腹を訴えたので、玄武は苦笑しながらも床を出ることにした。内心ずっと床の中で香子を抱きしめていたかったのだが、そんなことを香子が知るはずはない。
玄武は香子の漢服をある程度まで整え、それから自分の漢服を整える。その手慣れた行動に、本当に世話係など必要ないのだなということが見て取れた。
玄武は部屋の中を改めて確認すると香子の為に侍女を呼んでくれた。
『食堂で待っている』
そう言って玄武は香子の手にそっと口づけを落とし、さっそうと部屋を出ていった。
香子は真っ赤になった。
(……キ、キザ~~~~~~!)
あの端正な顔も身長も甘いバリトンも全てがいけないと香子は思う。
(性欲なんて無縁ですって顔してたのに……)
最後まではされていないが結局玄武には全身を触れられ、何度も感じさせられてしまった。
侍女たちに改めて着替えをさせられながら、香子は眠りに落ちるまでの行為を思い出しては赤面した。
そうして身支度が整えられると当たり前のように食堂へ連れていかれる。
(あれ? 今って中途半端な時間じゃないのかな?)
昼食を食べなかったのは仕方ないことだし、夕食には時間が少し早い気がした。けれど食堂に足を踏み入れれば四神が揃っており、その後ろに眷族たちが付き従っている。
『あ、あの……ご迷惑をおかけしました……』
朱雀の面に気遣わしげな色を認めて、香子は自分がどれだけはしたないことをしたのか気づき頭を下げる。
『そなたが気にすることではない。……いろいろあって疲れたのだろう』
そう言われてお茶を勧められ、香子は一口飲んだ。
『おいしい……』
玄武とずっと一緒にいたとわかっているだろうに朱雀はどこまでも優しかった。けれど表面でしか物事を見れない者はいるものだ。
『……そんなに大事な物なら預けなければよかっただろう』
澄んだ声が柔らかい空気を切り裂く。
『青龍!』
『青龍様!』
朱雀と白虎、そして眷族の青藍が鋭い声を発した。
手が震える。香子はどうにか茶椀を取り落とさないようにそっと#卓__テーブル__に戻した。
青龍が言ったことは間違っていない。けれどそれは今更で。
青龍には香子の葛藤や、迷い、困惑は一切伝わらないし、想像もできないのだろう。それまで空腹だった胃が一気に縮んだような気がした。
本当は叫びたかった。
自分は中国人ではなくて、今話している言葉は母国語ですらなくて、だから間違って召喚されてきたのだと。
本当は自分が四神の花嫁のはずはないのだと。
けれど趙文英は優しかったし、玄武も朱雀も嬉しそうだったから言えないでいた。
(なんの為に私、ここにいるんだろう……)
『……そうですね……。離さないでおけばよかった……』
そう言って席を立つ。
『白香! そなたが気にすることではない!』
朱雀が慌てて香子を抱き寄せる。香子はいやいやをするように首を振った。
『私は……本当は……』
『言わなくていい』
そう言って後ろから香子の口を塞いだのは玄武の手だった。あれだけ泣いてもう枯れたと思ったはずの涙が再びぼろぼろと溢れてくる。
玄武は片手で香子の涙をぬぐいながら顔を上げた。
『青龍、そなたの言動は目に余る。これ以上白香を傷つけることしかできぬのなら戻るがよい』
その言葉に青龍、白虎と青龍の眷族である青藍が真っ青になった。青藍が無礼を承知で玄武の前に平伏する。
『どうか! どうかそれだけはお許しを! これは青龍様をきちんとお育て申し上げることができなかった我らの不徳! きちんと言って聞かせますのでどうか、どうか!』
香子は青藍のあまりの剣幕に涙が止まってしまった。そして玄武の手を自分の口から外し、どういうことかと玄武を窺った。
それに朱雀が嘆息した。まだまだ香子がわかりえないことがあるようだった。
玄武は香子の漢服をある程度まで整え、それから自分の漢服を整える。その手慣れた行動に、本当に世話係など必要ないのだなということが見て取れた。
玄武は部屋の中を改めて確認すると香子の為に侍女を呼んでくれた。
『食堂で待っている』
そう言って玄武は香子の手にそっと口づけを落とし、さっそうと部屋を出ていった。
香子は真っ赤になった。
(……キ、キザ~~~~~~!)
あの端正な顔も身長も甘いバリトンも全てがいけないと香子は思う。
(性欲なんて無縁ですって顔してたのに……)
最後まではされていないが結局玄武には全身を触れられ、何度も感じさせられてしまった。
侍女たちに改めて着替えをさせられながら、香子は眠りに落ちるまでの行為を思い出しては赤面した。
そうして身支度が整えられると当たり前のように食堂へ連れていかれる。
(あれ? 今って中途半端な時間じゃないのかな?)
昼食を食べなかったのは仕方ないことだし、夕食には時間が少し早い気がした。けれど食堂に足を踏み入れれば四神が揃っており、その後ろに眷族たちが付き従っている。
『あ、あの……ご迷惑をおかけしました……』
朱雀の面に気遣わしげな色を認めて、香子は自分がどれだけはしたないことをしたのか気づき頭を下げる。
『そなたが気にすることではない。……いろいろあって疲れたのだろう』
そう言われてお茶を勧められ、香子は一口飲んだ。
『おいしい……』
玄武とずっと一緒にいたとわかっているだろうに朱雀はどこまでも優しかった。けれど表面でしか物事を見れない者はいるものだ。
『……そんなに大事な物なら預けなければよかっただろう』
澄んだ声が柔らかい空気を切り裂く。
『青龍!』
『青龍様!』
朱雀と白虎、そして眷族の青藍が鋭い声を発した。
手が震える。香子はどうにか茶椀を取り落とさないようにそっと#卓__テーブル__に戻した。
青龍が言ったことは間違っていない。けれどそれは今更で。
青龍には香子の葛藤や、迷い、困惑は一切伝わらないし、想像もできないのだろう。それまで空腹だった胃が一気に縮んだような気がした。
本当は叫びたかった。
自分は中国人ではなくて、今話している言葉は母国語ですらなくて、だから間違って召喚されてきたのだと。
本当は自分が四神の花嫁のはずはないのだと。
けれど趙文英は優しかったし、玄武も朱雀も嬉しそうだったから言えないでいた。
(なんの為に私、ここにいるんだろう……)
『……そうですね……。離さないでおけばよかった……』
そう言って席を立つ。
『白香! そなたが気にすることではない!』
朱雀が慌てて香子を抱き寄せる。香子はいやいやをするように首を振った。
『私は……本当は……』
『言わなくていい』
そう言って後ろから香子の口を塞いだのは玄武の手だった。あれだけ泣いてもう枯れたと思ったはずの涙が再びぼろぼろと溢れてくる。
玄武は片手で香子の涙をぬぐいながら顔を上げた。
『青龍、そなたの言動は目に余る。これ以上白香を傷つけることしかできぬのなら戻るがよい』
その言葉に青龍、白虎と青龍の眷族である青藍が真っ青になった。青藍が無礼を承知で玄武の前に平伏する。
『どうか! どうかそれだけはお許しを! これは青龍様をきちんとお育て申し上げることができなかった我らの不徳! きちんと言って聞かせますのでどうか、どうか!』
香子は青藍のあまりの剣幕に涙が止まってしまった。そして玄武の手を自分の口から外し、どういうことかと玄武を窺った。
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