異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

文字の大きさ
上 下
494 / 608
第4部 四神を愛しなさいと言われました

42.身体の変化にはもう少し気をつけなければいけません

しおりを挟む
 お茶を一口飲んで、香子は喉が渇いていたことに気づいた。
 四神の側にいると常に快適なので喉の渇きも忘れてしまったりする。少し気を付けた方がいいと、香子は改めて思った。
 しかし香子はもう人とは違うものだと言われている。この先病気になったりすることはあるのだろうかと疑問にも思った。

『玄武様』
『如何した?』
『私とか、四神って、病気にかかったりするのですか?』

 おそらくかかることはないだろうと香子もわかってはいる。あくまで話題のようなものだ。
 しかし玄武は少し視線を下に向け、考えるような表情をした。え? 病気ってするの? と香子は内心慌てた。

『……そうだな。人間の定義するような身体の疾患にはかからぬだろう』
『ですよね』

 香子はほっと胸を撫で下ろした。

『だが』

 整った綺麗な顔が近づいてきて、香子はどきどきする。

『恋の病にはかかるぞ』
『え』

 ちゅ……と口づけられて、香子の顔は一気にぼんっと真っ赤になった。

『まだそなにかわいい反応をするのだな。そなたがかわいくてならぬ』
『待っ、待って、待ってくださいっ!』

 長椅子にそのまま押し倒されそうになり、香子は必死で腕を突っ張ろうとした。

『何を待てというのか』
『ごはん! せめてお昼ご飯を食べてからにしてくださいー!』

 色気がないと言われそうだが、香子にとっては切実である。このまま昼食抜きで抱かれたりしたら、抱かれている間はいいがその後で玄武を嫌いになってしまうかもしれない。中華料理をいくら食べても飽きないというのもあるが、四神に抱かれるととにかくおなかが減る香子としては、そこまでして抱き合いたくはないのだ。

『そなに、食べることが大事か』

 玄武は口角を少しだけ上げ、笑みの形を作った。

『……玄武様はそれほどではないかもしれませんが、私は抱かれるととてもおなかがすくのです。だから食事抜きは考えられません』
『確かに、空腹というものはそなたを抱いてから初めて感じたが、あれが続くのはつらそうだ。すまない』

 玄武が素直に謝ってくれたことで、香子はほっとした。

(ごり押しされなくてよかった……)

 四神に抱かれるのが、香子はもう好きになっているけれどもそれとこれとは別である。ちょうど室の表から声をかけられたことで、香子はほっとした。
 玄武の腕から下りようとしたけれども、玄武は香子を離さなかった。香子を抱いたまま立ち上がり、扉を開けた。

『玄武様……花嫁様のお召し替えを……』

 侍女が礼をして、戸惑うように言う。

『わかっている。そなたの部屋まで送ろう』
『はい、ありがとうございます』

 どうしても玄武は香子を下ろしたくはないようだった。そんなところも好きだと、香子は胸が熱くなるのを感じた。


 すでに黒月も延夕玲も戻ってきている。昼食の為にと、着替えだけでなく髪も直された。
 豪奢な衣装は肌触りもよくて着心地はよかったが、やはり汚してはいけないと思ってしまうので、香子としては肩が凝った。いつもの衣裳に着替えさせられたことで、軽く肩を押さえた。

『花嫁様、お身体をお揉みします』
『もう昼食の時間でしょう。もし後で時間があったらお願いするわ』

 せめて肩だけでもと侍女に言われたので、香子は肩だけ揉んでもらった。本当に、至れり尽くせりで香子はくすぐったくも感じた。
 昼食はとても豪華だった。本日もメインは水餃子である。西安の餃子宴を思わせる量に、香子は目を丸くした。
 皮もいろいろな種類があり、もちろん中の餡もさまざまである。ごま餡などの甘い餃子もあり、香子は贅沢だと思った。

『……とってもおいしいし嬉しいのだけど……厨師コックには無理はしないように伝えてくれる?』

 苦笑しながら、香子は侍女に言付けを頼んだ。

『かしこまりました』
『あ、ええと……今すぐじゃなくていいわ』

 今伝えに行ったら厨師長が何事かと現れそうである。香子は仕事の邪魔をしたいわけではなかった。
 もちろん餃子以外にも沢山の料理が出されて、以前であれば食べ切れないような量のラインナップを、香子は無意識でぺろりと食べてしまった。

『あー、おいしかった……』

 そうため息混じりに呟いてから、ちら、と侍女を眺める。香子はしまったと思った。さすがに侍女たちが目を剥いている。

(やりすぎたかも……)

 とはいえ食べてしまったものはしかたない。

『あんまりおいしいから食べすぎてしまったわ。厨師には明日以降はもう少し量を控えめにしてくれるよう伝えてくれる? こんなに食べたら太ってしまうわ』

 四神が何やら言いたそうな顔をしていたが、香子は目で制した。
 いくら香子がすでに人ではなくなっていると四神宮の者たちが知っていたとしても、その人間離れした行動などを目の当たりにしてどういう反応を示すかはまた別の話である。

『かしこまりました』

 侍女たちは礼をした。
 玄武が当たり前のように香子を抱き上げた。

『……玄武様、食休みはさせてください』
『わかっている。そなたを離したくないだけだ』

 侍女たちの頬がうっすらと染まる。彼女たちにとって四神が花嫁に甘い科白を紡ぐのはご褒美に近い。

『もう、玄武様は……』

 香子もさすがにもう逆らう気はなかった。玄武の首に腕を回す。

『本当に、休ませてくださいね』
『約束しよう』

 その後は、どこまでも甘かった。


ーーーーー
年内更新最後です。今年も沢山読んでいただきありがとうございました。
来年もどうぞよろしくお願いします。
しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

巻き戻ったから切れてみた

こもろう
恋愛
昔からの恋人を隠していた婚約者に断罪された私。気がついたら巻き戻っていたからブチ切れた! 軽~く読み飛ばし推奨です。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

報われなくても平気ですので、私のことは秘密にしていただけますか?

小桜
恋愛
レフィナード城の片隅で治癒師として働く男爵令嬢のペルラ・アマーブレは、騎士隊長のルイス・クラベルへ密かに思いを寄せていた。 しかし、ルイスは命の恩人である美しい女性に心惹かれ、恋人同士となってしまう。 突然の失恋に、落ち込むペルラ。 そんなある日、謎の騎士アルビレオ・ロメロがペルラの前に現れた。 「俺は、放っておけないから来たのです」 初対面であるはずのアルビレオだが、なぜか彼はペルラこそがルイスの恩人だと確信していて―― ペルラには報われてほしいと願う一途なアルビレオと、絶対に真実は隠し通したいペルラの物語です。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

これは紛うことなき政略結婚である

七瀬菜々
恋愛
 没落寸前の貧乏侯爵家の令嬢アンリエッタ・ペリゴールは、スラム街出身の豪商クロード・ウェルズリーと結婚した。  金はないが血筋だけは立派な女と、金はあるが賤しい血筋の男。  互いに金と爵位のためだけに結婚した二人はきっと、恋も愛も介在しない冷めきった結婚生活を送ることになるのだろう。  アンリエッタはそう思っていた。  けれど、いざ新婚生活を始めてみると、何だか想像していたよりもずっと甘い気がして……!?   *この物語は、今まで顔を合わせれば喧嘩ばかりだった二人が夫婦となり、いろんな人の妨害を受けながらも愛と絆を深めていく、ただのハイテンションラブコメ………になる予定です。   ーーーーーーーーーー *主要な登場人物* ○アンリエッタ・ペリゴール いろんな不幸が重なり落ちぶれた、貧乏侯爵家の一人娘。意地っ張りでプライドの高いツンデレヒロイン。 ○クロード・ウェルズリー 一代で莫大な富を築き上げた豪商。生まれは卑しいが、顔がよく金持ち。恋愛に関しては不器用な男。 ○ニコル アンリエッタの侍女。 アンリエッタにとっては母であり、姉であり、友である大切な存在。 ○ミゲル クロードの秘書。 優しそうに見えて辛辣で容赦がない性格。常にひと言多い。

白い結婚のはずでしたが、王太子の愛人に嘲笑されたので隣国へ逃げたら、そちらの王子に大切にされました

ゆる
恋愛
「王太子妃として、私はただの飾り――それなら、いっそ逃げるわ」 オデット・ド・ブランシュフォール侯爵令嬢は、王太子アルベールの婚約者として育てられた。誰もが羨む立場のはずだったが、彼の心は愛人ミレイユに奪われ、オデットはただの“形式だけの妻”として冷遇される。 「君との結婚はただの義務だ。愛するのはミレイユだけ」 そう嘲笑う王太子と、勝ち誇る愛人。耐え忍ぶことを強いられた日々に、オデットの心は次第に冷え切っていった。だが、ある日――隣国アルヴェールの王子・レオポルドから届いた一通の書簡が、彼女の運命を大きく変える。 「もし君が望むなら、私は君を迎え入れよう」 このまま王太子妃として屈辱に耐え続けるのか。それとも、自らの人生を取り戻すのか。 オデットは決断する。――もう、アルベールの傀儡にはならない。 愛人に嘲笑われた王妃の座などまっぴらごめん! 王宮を飛び出し、隣国で新たな人生を掴み取ったオデットを待っていたのは、誠実な王子の深い愛。 冷遇された令嬢が、理不尽な白い結婚を捨てて“本当の幸せ”を手にする

処理中です...