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第4部 四神を愛しなさいと言われました
42.身体の変化にはもう少し気をつけなければいけません
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お茶を一口飲んで、香子は喉が渇いていたことに気づいた。
四神の側にいると常に快適なので喉の渇きも忘れてしまったりする。少し気を付けた方がいいと、香子は改めて思った。
しかし香子はもう人とは違うものだと言われている。この先病気になったりすることはあるのだろうかと疑問にも思った。
『玄武様』
『如何した?』
『私とか、四神って、病気にかかったりするのですか?』
おそらくかかることはないだろうと香子もわかってはいる。あくまで話題のようなものだ。
しかし玄武は少し視線を下に向け、考えるような表情をした。え? 病気ってするの? と香子は内心慌てた。
『……そうだな。人間の定義するような身体の疾患にはかからぬだろう』
『ですよね』
香子はほっと胸を撫で下ろした。
『だが』
整った綺麗な顔が近づいてきて、香子はどきどきする。
『恋の病にはかかるぞ』
『え』
ちゅ……と口づけられて、香子の顔は一気にぼんっと真っ赤になった。
『まだそなにかわいい反応をするのだな。そなたがかわいくてならぬ』
『待っ、待って、待ってくださいっ!』
長椅子にそのまま押し倒されそうになり、香子は必死で腕を突っ張ろうとした。
『何を待てというのか』
『ごはん! せめてお昼ご飯を食べてからにしてくださいー!』
色気がないと言われそうだが、香子にとっては切実である。このまま昼食抜きで抱かれたりしたら、抱かれている間はいいがその後で玄武を嫌いになってしまうかもしれない。中華料理をいくら食べても飽きないというのもあるが、四神に抱かれるととにかくおなかが減る香子としては、そこまでして抱き合いたくはないのだ。
『そなに、食べることが大事か』
玄武は口角を少しだけ上げ、笑みの形を作った。
『……玄武様はそれほどではないかもしれませんが、私は抱かれるととてもおなかがすくのです。だから食事抜きは考えられません』
『確かに、空腹というものはそなたを抱いてから初めて感じたが、あれが続くのはつらそうだ。すまない』
玄武が素直に謝ってくれたことで、香子はほっとした。
(ごり押しされなくてよかった……)
四神に抱かれるのが、香子はもう好きになっているけれどもそれとこれとは別である。ちょうど室の表から声をかけられたことで、香子はほっとした。
玄武の腕から下りようとしたけれども、玄武は香子を離さなかった。香子を抱いたまま立ち上がり、扉を開けた。
『玄武様……花嫁様のお召し替えを……』
侍女が礼をして、戸惑うように言う。
『わかっている。そなたの部屋まで送ろう』
『はい、ありがとうございます』
どうしても玄武は香子を下ろしたくはないようだった。そんなところも好きだと、香子は胸が熱くなるのを感じた。
すでに黒月も延夕玲も戻ってきている。昼食の為にと、着替えだけでなく髪も直された。
豪奢な衣装は肌触りもよくて着心地はよかったが、やはり汚してはいけないと思ってしまうので、香子としては肩が凝った。いつもの衣裳に着替えさせられたことで、軽く肩を押さえた。
『花嫁様、お身体をお揉みします』
『もう昼食の時間でしょう。もし後で時間があったらお願いするわ』
せめて肩だけでもと侍女に言われたので、香子は肩だけ揉んでもらった。本当に、至れり尽くせりで香子はくすぐったくも感じた。
昼食はとても豪華だった。本日もメインは水餃子である。西安の餃子宴を思わせる量に、香子は目を丸くした。
皮もいろいろな種類があり、もちろん中の餡もさまざまである。ごま餡などの甘い餃子もあり、香子は贅沢だと思った。
『……とってもおいしいし嬉しいのだけど……厨師には無理はしないように伝えてくれる?』
苦笑しながら、香子は侍女に言付けを頼んだ。
『かしこまりました』
『あ、ええと……今すぐじゃなくていいわ』
今伝えに行ったら厨師長が何事かと現れそうである。香子は仕事の邪魔をしたいわけではなかった。
もちろん餃子以外にも沢山の料理が出されて、以前であれば食べ切れないような量のラインナップを、香子は無意識でぺろりと食べてしまった。
『あー、おいしかった……』
そうため息混じりに呟いてから、ちら、と侍女を眺める。香子はしまったと思った。さすがに侍女たちが目を剥いている。
(やりすぎたかも……)
とはいえ食べてしまったものはしかたない。
『あんまりおいしいから食べすぎてしまったわ。厨師には明日以降はもう少し量を控えめにしてくれるよう伝えてくれる? こんなに食べたら太ってしまうわ』
四神が何やら言いたそうな顔をしていたが、香子は目で制した。
いくら香子がすでに人ではなくなっていると四神宮の者たちが知っていたとしても、その人間離れした行動などを目の当たりにしてどういう反応を示すかはまた別の話である。
『かしこまりました』
侍女たちは礼をした。
玄武が当たり前のように香子を抱き上げた。
『……玄武様、食休みはさせてください』
『わかっている。そなたを離したくないだけだ』
侍女たちの頬がうっすらと染まる。彼女たちにとって四神が花嫁に甘い科白を紡ぐのはご褒美に近い。
『もう、玄武様は……』
香子もさすがにもう逆らう気はなかった。玄武の首に腕を回す。
『本当に、休ませてくださいね』
『約束しよう』
その後は、どこまでも甘かった。
ーーーーー
年内更新最後です。今年も沢山読んでいただきありがとうございました。
来年もどうぞよろしくお願いします。
四神の側にいると常に快適なので喉の渇きも忘れてしまったりする。少し気を付けた方がいいと、香子は改めて思った。
しかし香子はもう人とは違うものだと言われている。この先病気になったりすることはあるのだろうかと疑問にも思った。
『玄武様』
『如何した?』
『私とか、四神って、病気にかかったりするのですか?』
おそらくかかることはないだろうと香子もわかってはいる。あくまで話題のようなものだ。
しかし玄武は少し視線を下に向け、考えるような表情をした。え? 病気ってするの? と香子は内心慌てた。
『……そうだな。人間の定義するような身体の疾患にはかからぬだろう』
『ですよね』
香子はほっと胸を撫で下ろした。
『だが』
整った綺麗な顔が近づいてきて、香子はどきどきする。
『恋の病にはかかるぞ』
『え』
ちゅ……と口づけられて、香子の顔は一気にぼんっと真っ赤になった。
『まだそなにかわいい反応をするのだな。そなたがかわいくてならぬ』
『待っ、待って、待ってくださいっ!』
長椅子にそのまま押し倒されそうになり、香子は必死で腕を突っ張ろうとした。
『何を待てというのか』
『ごはん! せめてお昼ご飯を食べてからにしてくださいー!』
色気がないと言われそうだが、香子にとっては切実である。このまま昼食抜きで抱かれたりしたら、抱かれている間はいいがその後で玄武を嫌いになってしまうかもしれない。中華料理をいくら食べても飽きないというのもあるが、四神に抱かれるととにかくおなかが減る香子としては、そこまでして抱き合いたくはないのだ。
『そなに、食べることが大事か』
玄武は口角を少しだけ上げ、笑みの形を作った。
『……玄武様はそれほどではないかもしれませんが、私は抱かれるととてもおなかがすくのです。だから食事抜きは考えられません』
『確かに、空腹というものはそなたを抱いてから初めて感じたが、あれが続くのはつらそうだ。すまない』
玄武が素直に謝ってくれたことで、香子はほっとした。
(ごり押しされなくてよかった……)
四神に抱かれるのが、香子はもう好きになっているけれどもそれとこれとは別である。ちょうど室の表から声をかけられたことで、香子はほっとした。
玄武の腕から下りようとしたけれども、玄武は香子を離さなかった。香子を抱いたまま立ち上がり、扉を開けた。
『玄武様……花嫁様のお召し替えを……』
侍女が礼をして、戸惑うように言う。
『わかっている。そなたの部屋まで送ろう』
『はい、ありがとうございます』
どうしても玄武は香子を下ろしたくはないようだった。そんなところも好きだと、香子は胸が熱くなるのを感じた。
すでに黒月も延夕玲も戻ってきている。昼食の為にと、着替えだけでなく髪も直された。
豪奢な衣装は肌触りもよくて着心地はよかったが、やはり汚してはいけないと思ってしまうので、香子としては肩が凝った。いつもの衣裳に着替えさせられたことで、軽く肩を押さえた。
『花嫁様、お身体をお揉みします』
『もう昼食の時間でしょう。もし後で時間があったらお願いするわ』
せめて肩だけでもと侍女に言われたので、香子は肩だけ揉んでもらった。本当に、至れり尽くせりで香子はくすぐったくも感じた。
昼食はとても豪華だった。本日もメインは水餃子である。西安の餃子宴を思わせる量に、香子は目を丸くした。
皮もいろいろな種類があり、もちろん中の餡もさまざまである。ごま餡などの甘い餃子もあり、香子は贅沢だと思った。
『……とってもおいしいし嬉しいのだけど……厨師には無理はしないように伝えてくれる?』
苦笑しながら、香子は侍女に言付けを頼んだ。
『かしこまりました』
『あ、ええと……今すぐじゃなくていいわ』
今伝えに行ったら厨師長が何事かと現れそうである。香子は仕事の邪魔をしたいわけではなかった。
もちろん餃子以外にも沢山の料理が出されて、以前であれば食べ切れないような量のラインナップを、香子は無意識でぺろりと食べてしまった。
『あー、おいしかった……』
そうため息混じりに呟いてから、ちら、と侍女を眺める。香子はしまったと思った。さすがに侍女たちが目を剥いている。
(やりすぎたかも……)
とはいえ食べてしまったものはしかたない。
『あんまりおいしいから食べすぎてしまったわ。厨師には明日以降はもう少し量を控えめにしてくれるよう伝えてくれる? こんなに食べたら太ってしまうわ』
四神が何やら言いたそうな顔をしていたが、香子は目で制した。
いくら香子がすでに人ではなくなっていると四神宮の者たちが知っていたとしても、その人間離れした行動などを目の当たりにしてどういう反応を示すかはまた別の話である。
『かしこまりました』
侍女たちは礼をした。
玄武が当たり前のように香子を抱き上げた。
『……玄武様、食休みはさせてください』
『わかっている。そなたを離したくないだけだ』
侍女たちの頬がうっすらと染まる。彼女たちにとって四神が花嫁に甘い科白を紡ぐのはご褒美に近い。
『もう、玄武様は……』
香子もさすがにもう逆らう気はなかった。玄武の首に腕を回す。
『本当に、休ませてくださいね』
『約束しよう』
その後は、どこまでも甘かった。
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来年もどうぞよろしくお願いします。
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