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第1部 四神と結婚しろと言われました

21.眷族まで現れました

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『?』

 いいかげん香子こうこは下ろしてほしくなって朱雀に声をかけようとした時、四神宮の入口辺りに武官や侍女たちが集まっているが見えた。彼らは焦っているような途方に暮れているような微妙な表情で右往左往している。宮廷に仕える官女らしくない様子に香子は首を傾げた。
 そのうちの何人かが四神の帰還に気付いたらしくあからさまにほっとしたような顔をした。そのうちの一人がためらうように近づいて来て平伏する。

『謁見の間に、四神の眷族と申される方々がいらっしゃっております……』

 侍女の科白に四神のまとう空気が変わった。

(眷族?)

 香子は朱雀を見上げる。

『あいわかった。下がれ』

 朱雀はため息混じりにそう言うと、香子を抱いたまま謁見の間に足を踏み入れた。
 先ほど趙が平伏していた場所に、立て膝をついた格好で色とりどりの髪色をした者が四人待っていた。彼らは四神の姿を認めると一斉に頭を下げた。

『……何故そなたらがここにいる』

 低く声を発したのは玄武だった。
 あからさまに不機嫌とわかるような黒いオーラが上っているように見えて、香子は恐れを感じながらも目を丸くした。

『青龍、白虎の眷族はまだしも、我と朱雀は不要と申し渡したはずだが?』

 玄武の科白に緑の髪と白い髪をした者の肩が安心したように下がる。

『玄武兄、我の眷族についてはこちらで対処いたします。……紅夏』
『はっ! ご命令に背きましたこと深くお詫び申し上げます。ですが此度は次代様を得るのに大事な仕儀にて……』
『黙れ』

 赤い髪をした者が言葉を尽くして訴えるのを朱雀は一刀両断した。
 四神のことなので香子は沈黙を守る。正直香子に直接関係のあることではないのでいいかげん部屋に返してもらいたかった。何よりも眷族たちの視線が痛い。特に玄武の眷族であろう黒髪の者から感じる視線は全く以て友好的ではなかった。

『……黒月、我は着いてくることはまかりならぬと申したな』

 朱雀の傍らから地の底を這うような低音が響く。

『……覚悟の上でございます。此度こそは次代様が必要かと……』

 香子ははっとした。玄武の眷族の声は女性のそれだった。

『それが余計なことだと思わぬか!』

 玄武は怒りを隠しもせず一喝した。途端眷族たちが一斉に後ろに飛退き再び平伏する。

『どうか! どうかお怒りをお鎮めくださいませ! 花嫁様が召喚されましたのは六五十年ぶりのこと、我らにもどうかお世話をさせていただきたく!』

 そう叫ぶように言ったのは白髪の者だった。
 玄武はあからさまに嘆息した。

『……そなたは確か張燕の……』
『恐れ多くも第一子の白雲と申します』

 そう言って顔を上げた白雲の雰囲気は、顔こそ若いもののすでに老成しているそれだった。

(この人もけっこうな歳なのかな?)

 眷族がどのぐらい生きるのかは知らないが、いくらなんでも四神より長生きということはないだろう。

『……そなたらも白雲と同じか?』

 玄武はため息交じりに他の眷族たちを一瞥する。

『是非我らにも花嫁様のお世話をさせてくださいませ!』

 残る三者が声を揃えて言う。青龍は困ったように顔を背けていたし、白虎も苦虫を噛み潰したような顔をしている。朱雀は香子に視線を向け、きつく抱きしめたまま逃がしてくれない。

(眷族って四神に仕えてる人たちなんだよねぇ……?)

 香子としてはだしにされた感がいなめない。
 眷族はあくまで四神の眷族であり、香子に仕えるものではない。現に黒月と呼ばれた玄武の眷族は科白とは裏腹に香子を憎々しげに睨んでいる。

(もー、青龍といいこの黒月って人といい、いったい私が何をしたっていうのー?)

 青龍の眷族と白雲、紅夏の視線はまっすぐ故に痛いが特に敵意は感じられなかった。
 やがて再び玄武が深く嘆息した。

『白香の添うように行動せよ。それができなければ……わかっておるな?』
『御意!』

 眷族たちは間髪入れずに応える。
 香子は心の中でそっと溜息をついた。

 *  *

設定など:

青龍の眷族 青藍(チンラン)
朱雀の眷族 紅夏(ホンシャー)
白虎の眷族 白雲(バイユン)
玄武の眷族 黒月(ヘイユエ)
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