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第1部 四神と結婚しろと言われました
20.荷物が戻ってくることになりました
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荷物は戻ってくることになったが、御史大夫に香子の荷物を持っていかれたと告白した趙文英がそのままで済むとは思えなかった。
御史大夫といえば監察官の長でもある。すぐになにかあるわけではなくても、そのうち何かねつ造して趙が罰せられたりしないとも限らない。皇帝の名を勝手に使って香子の荷物を押収したぐらいだからそれぐらいしそうだと香子は思った。
そんな香子の考えを玄武や朱雀はすぐに気付いたようだった。
『……白香、趙とはそこまで信頼できる者なのか?』
先の先まで考えて聞いてくれる朱雀は正しいと香子は思う。
『それはなんともいえません。でも少なくともここに着くまでの二日間、趙さんはいろいろ便宜を図ってくれました』
そしてその気遣いに香子が助けられたことは確かだった。
皇帝も香子の意図に気付いたらしい。
『確かに……四神宮にはそれほど来客があるとは思えぬが専任で取次ぎの者がいた方がいいだろう。護衛を兼ねられるかどうかはそちらで判断していただきたい』
皇帝の言葉に、香子はもしかしたら自分の判断が間違ったかもしれないとも思った。趙は石家荘で働いていた。ここで使うということは家族と引き離してしまうことになりはしないだろうか。
香子がぐるぐる考えている間に、皇帝はすぐに手続きをするように言い、午後からは四神宮に着任できるだろうということを四神に告げた。
四神が頷き、『では戻るとしよう』と踵を返す。朝議の間を出たところで香子はやっとぐるぐるしている思考から浮上した。
『……そういえば、来る時一瞬で移動したように感じたのですが……』
神様というのはやはりなんでもありなのだろうか。物語の中でしか起こり得ないであろう瞬間移動をされたことで今頃になって身を震わせる。
『一度足を運んだことがある場所であれば空間移動は可能だ』
玄武がこともなげに答える。
(うわー、瞬間移動じゃなくて空間移動ときたよー……)
とはいえ香子が異世界に飛ばされているのだから空間移動ぐらいできてもおかしくはないのだろう。
『この世界の人たちの中にもそういうことができる人はいるんですか?』
香子はちょっと心配になった。そういった力を持つ人が善人ならいいが悪人ならたいへんなことになる。
『人間では聞かぬな。我らの眷族でもそういう能力を持つ者は……いないか、もしくは少ないだろう』
斜め前を歩く玄武が答えてくれるのに、香子は安心して聞き入った。穏やかなバリトンが耳に心地いい。
四神の見た目は全員あまり変わらないがその雰囲気が違う為、玄武はやはり一番年長に見える。長い艶やかな黒髪と落ち着いた感のある美貌を直視するのはまだ香子には難しい。
(美形ってのは少し離れたところからきゃーきゃー言いながら見てるぐらいがちょうどいいんだよねー……)
留学一年目のクラスメイトにスイス人の青年がいた。金髪碧眼ですごくカッコイイ彼は人懐っこく、要領が悪いからと真面目に毎日授業に出ていた香子と仲良くしてくれた。最初彼は付き合うなら金髪碧眼の彼女がいいと言っていたが、やがてドイツ語のできる中国人の彼女ができた。そうしたらある時最近は黒髪で、香子のような茶色の目をした女の子が好きだと、香子の瞳を至近距離で覗きこんでのたまったのだった。
(やーめーてーーーーーーー!!)
彼女がいるとわかっていてもあれは心臓にとんでもなく悪かったと香子は思う。ある意味寿命が縮みそうな勢いであった。
四神の顔を見ているとそのことがありありと思い出されてやっぱり心臓に悪いことこの上ない。
ちなみにそのスイス人の彼はその後中国人の彼女と結婚したと風の噂で聞いた。めでたい。
(でも、玄武様が一番次代を必要とされてるんだよね……)
玄武は優しいが、それでも香子と一線を引いているというのがわかる。朱雀のようにぐいぐい押されるのも考えものだが玄武の態度も解せない。
けれどそれを香子は口にする気はなかった。下手なことを言ってすぐに連れ帰られても困る。
香子がそんなとりとめもないことを考えている間に、四神宮に着いたようだった。
御史大夫といえば監察官の長でもある。すぐになにかあるわけではなくても、そのうち何かねつ造して趙が罰せられたりしないとも限らない。皇帝の名を勝手に使って香子の荷物を押収したぐらいだからそれぐらいしそうだと香子は思った。
そんな香子の考えを玄武や朱雀はすぐに気付いたようだった。
『……白香、趙とはそこまで信頼できる者なのか?』
先の先まで考えて聞いてくれる朱雀は正しいと香子は思う。
『それはなんともいえません。でも少なくともここに着くまでの二日間、趙さんはいろいろ便宜を図ってくれました』
そしてその気遣いに香子が助けられたことは確かだった。
皇帝も香子の意図に気付いたらしい。
『確かに……四神宮にはそれほど来客があるとは思えぬが専任で取次ぎの者がいた方がいいだろう。護衛を兼ねられるかどうかはそちらで判断していただきたい』
皇帝の言葉に、香子はもしかしたら自分の判断が間違ったかもしれないとも思った。趙は石家荘で働いていた。ここで使うということは家族と引き離してしまうことになりはしないだろうか。
香子がぐるぐる考えている間に、皇帝はすぐに手続きをするように言い、午後からは四神宮に着任できるだろうということを四神に告げた。
四神が頷き、『では戻るとしよう』と踵を返す。朝議の間を出たところで香子はやっとぐるぐるしている思考から浮上した。
『……そういえば、来る時一瞬で移動したように感じたのですが……』
神様というのはやはりなんでもありなのだろうか。物語の中でしか起こり得ないであろう瞬間移動をされたことで今頃になって身を震わせる。
『一度足を運んだことがある場所であれば空間移動は可能だ』
玄武がこともなげに答える。
(うわー、瞬間移動じゃなくて空間移動ときたよー……)
とはいえ香子が異世界に飛ばされているのだから空間移動ぐらいできてもおかしくはないのだろう。
『この世界の人たちの中にもそういうことができる人はいるんですか?』
香子はちょっと心配になった。そういった力を持つ人が善人ならいいが悪人ならたいへんなことになる。
『人間では聞かぬな。我らの眷族でもそういう能力を持つ者は……いないか、もしくは少ないだろう』
斜め前を歩く玄武が答えてくれるのに、香子は安心して聞き入った。穏やかなバリトンが耳に心地いい。
四神の見た目は全員あまり変わらないがその雰囲気が違う為、玄武はやはり一番年長に見える。長い艶やかな黒髪と落ち着いた感のある美貌を直視するのはまだ香子には難しい。
(美形ってのは少し離れたところからきゃーきゃー言いながら見てるぐらいがちょうどいいんだよねー……)
留学一年目のクラスメイトにスイス人の青年がいた。金髪碧眼ですごくカッコイイ彼は人懐っこく、要領が悪いからと真面目に毎日授業に出ていた香子と仲良くしてくれた。最初彼は付き合うなら金髪碧眼の彼女がいいと言っていたが、やがてドイツ語のできる中国人の彼女ができた。そうしたらある時最近は黒髪で、香子のような茶色の目をした女の子が好きだと、香子の瞳を至近距離で覗きこんでのたまったのだった。
(やーめーてーーーーーーー!!)
彼女がいるとわかっていてもあれは心臓にとんでもなく悪かったと香子は思う。ある意味寿命が縮みそうな勢いであった。
四神の顔を見ているとそのことがありありと思い出されてやっぱり心臓に悪いことこの上ない。
ちなみにそのスイス人の彼はその後中国人の彼女と結婚したと風の噂で聞いた。めでたい。
(でも、玄武様が一番次代を必要とされてるんだよね……)
玄武は優しいが、それでも香子と一線を引いているというのがわかる。朱雀のようにぐいぐい押されるのも考えものだが玄武の態度も解せない。
けれどそれを香子は口にする気はなかった。下手なことを言ってすぐに連れ帰られても困る。
香子がそんなとりとめもないことを考えている間に、四神宮に着いたようだった。
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