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第1部 四神と結婚しろと言われました

19.荷物一つが大事に発展しました

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『!?』

 趙文英ジャオウェンインがいきなり叩頭したことに香子こうこはびっくりして朱雀の腕から下りようとしたが、もちろん下ろしてはくれなかった。朱雀の目がすっと細くなる。

『そなたは白香の荷物を誰に渡したのだ?』

 テノールが凄みを帯びる。室内の温度がいきなり上がったような気がした。

『……御史大夫の李様が陛下にまずはお伺いしてからと……』
『ほほう』

 朱雀の怒りが香子に伝わってくる。香子もさすがに眉を寄せた。

(なんで私の荷物なのに皇帝の許可を取らないといけないわけ?)

 そう思うとなんだか腹が立ってきた。
 バッグの中身はこの国の人間には全く必要ないものだと香子は思う。女性の荷物の中身をいちいち検分するというのも失礼だし、それでそのまま返してくれないとしたらただの泥棒だ。

『……皇帝ってのはこんな小娘の荷物にまで興味があるんですかね?』

 趙文英に当たってもしょうがないとは思うが、嫌味ぐらい言ってやらないと気が済まない。

『本当に申し訳ありません……』

 明らかに小さくなっている趙に、香子は後悔した。当たるならその御史大夫とやらに当たればよかったと思いなおす。

『趙さんのせいじゃないからいいです。じゃあ私の荷物は皇帝のところにあるんですか?』

 改めて尋ねると、趙ははっとしたように顔を上げた。

『……いえ、おそらくは李様の部下がまず中身を検分しているかと思われます』
(……キれてもいいかなー? いいよねー?)

 香子はだんだん自分の目が据わってくるのを感じた。

『その御史大夫とやらはどこにいる?』
『本日はまだ朝議の間におられるかと……』

 朱雀の問いに趙は考えながら答える。

『わかった。趙文英とやら、御苦労であった』

 そう言うと朱雀は香子を抱き上げたまま席を立った。

『では参ろうか』

 玄武の声がしたと同時に、香子は体がふわりと浮いた気がした。

(なっ、何っ!?)

 香子が狼狽している間に朱雀がどこかへ降り立つ。いきなり周りに大勢の人が現れて香子はびっくりした。
 みな官服を着ていることから、おそらく一瞬で朝議の間に移動したらしいということがわかる。どうやら四神は瞬間移動ができるらしい。

『四神様!?』
『何故四神様が!?』

 人々は狼狽しながらもみなその場で一斉に平伏した。
 四神はそれにかまわず、玉座でいぶかしげな顔をしている皇帝に向き直った。

『四神よ、わざわざ朝議の間にいらっしゃるとは何用か?』

 さすが皇帝と言うべきか、官吏たちとは違い落ち着いた様子である。

『白香の荷物はどこにある?』

 単刀直入に朱雀が尋ねた。それに皇帝の近くで平伏していた者がびくりと身を震わせる。

(あれが御史大夫かな?)

 香子はそちらへ視線を向けた。どうも香子以上に四神が怒ってくれているようなので置いていかれたような感がある。

『白香殿の荷物? なんのことやら……』

 皇帝は心当たりがないというように朱雀を見た。その目に偽りはないと朱雀も判断したらしい。

『御史大夫の李とか申す者が、白香の荷物を返すには皇帝の許可が必要だというようなことを言ったらしいが?』

 朱雀の言葉に皇帝が近くでがたがた震えている男に目をやり、そして嘆息した。

『……勝手なことを……』

 皇帝が低く唸るように言う。

『白香殿の荷物を速やかにお返しするがいい』
『……承知いたしました……!』

 李が転げるように朝議の間を立ち去っていった。それに皇帝は冷たい目を向ける。

『部下が勝手なことをして申し訳ない。四神宮まで届けさせるのでお許し願いたい』

 朱雀が香子を見る。香子としては戻ってくればそれでいいので頷いた。

『できるだけ早く持ってこさせるように』

 朱雀はそう言い置いて朝議の間から戻ろうとした。そこで香子はあることを思い出す。

『ま、待ってください! あのっ、どうか趙文英を私の護衛にしてはもらえませんか!?』

 その言葉に四神以下その場にいた人々は目を丸くした。
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