上 下
492 / 598
第4部 四神を愛しなさいと言われました

40.玄武の本性はそういえばこうでした

しおりを挟む
 玄武の甲羅の上で、蛇に絡みつかれて和んだはいいが、これからどうするのだろうと香子は首を傾げた。
 さすがにここで玄武が空を飛ぶことはあるまい。それはさすがに内緒であるはずだ。
 どうしてもこの姿を見るとガメラのように火を噴きながらぐるぐる回転して飛ぶのを想像してしまう。ちょっと見てみたい気もするがそれはしないだろうと香子は頭を振った。

『回転をしてうまく飛べるものなのか?』

 香子の思考は玄武に伝わっていたらしい。香子は慌てた。

『ち、違うんです。私の世界にそういう映画がって……ええと物語がありまして!』
『そうか。それは見てみたいものだ』
『見なくても大丈夫です……』

 さすがに香子は冷汗を掻いた。そしてようやく周りを見た。

『?』

 香子は大きな二匹の蛇をなでなでしながら、呆気にとられた様子の皇帝、そして平伏している神官たちを眺めた。皇帝は口をポカンと開けている。それを見て香子はほんの少しだけ溜飲を下げた。
 どうだ、私の玄武様はすごいだろう、というやつである。
 香子は己の性格が悪いことを自覚している。だがこのままではいつまで経っても戻ってこなさそうなので、しかたなく声をかけた。

『皇帝?』

 皇上(皇帝陛下)とは絶対に呼ばない。人間で言う立場とか身分という話であれば香子の方がこの国の皇帝よりも遥かに上である。

『あ、はい……。執明神君ジーミンシェンジュン(玄武)の本当のお姿はそのような……』

 皇帝の声は震えているように香子には聞こえた。確かに祈谷壇の下、門までの間をこんな大きいサイズの玄武が埋めているのである。それは本当に大きくて、口を開けたら皇帝ぐらい食べられそうであった。

『……絵姿などが残っているのではないか?』

 玄武が面倒くさそうに言う。

『はい……絵姿を拝見したことはございます』

 皇帝は首肯した。

『ならば何をそなに驚く? 我ら四神はこの国の守護を担っておる。もちろん……愛しの花嫁がこの国を思っている間だけではあるがな』

 四神の意志は花嫁にかかっている。香子は皇帝に向かってにっこりと笑んだ。皇帝はそれを見て蒼褪めた。
 ここにきてようやく、花嫁が脅威であることを理解したようである。

『終わったのか』

 玄武が聞いた。皇帝は一瞬何を聞かれたのかわからなかったようだ。

『……は? え、はい。祭祀は終りました』
『では戻るぞ』
『は、はい……しばしお待ちを……』

 こうしてみると、皇帝は小物だと香子は思った。人の中ではこの国の頂点だが、本性を現した玄武の前では無力だ。いくらなんでも衛兵を玄武にけしかけるわけにもいかない。相手は神である。それも、この国を守護する絶対的な神だ。

(そんな神様に愛されてるって、何事なんだろうねー?)

 香子は首を傾げた。

香子シャンズ
『あっ……』

 玄武が一瞬で人の姿に代わり、気がつけば香子はまた玄武の腕の中にいた。どうしても香子の足を地に付けたくはないらしい。香子はふふっと笑った。

『もっと蛇さんを撫でたかったです』
『かようなこと……我が領地へ向かえばいくらでもさせてやろう』
『そうですね。さすがに場所がありませんね』

 先程の大きさは相当であった。玄武の大きさは直径10mではきかなかったのではないかと香子は思う。玄武の口元が少し上がった。笑みを浮かべているようで、香子は嬉しくなった。
 皇帝はこれから着替えをし、それが終わってからまた輿に乗って戻るらしい。それに付き合わなければならないのは面倒ではあったが、香子は薄絹越しでも街並みが見たかったからそれでかまわなかった。
 玄武の色をベースにした衣裳を、香子は改めて眺めた。玄武もまた瞳の色に合わせた緑色の長袍をまとっている。その長袍には香子の髪の色である暗紫紅色で玄武が刺繍されていた。これは玄武の領地にいる眷属が作ってくれた衣裳らしい。

(この髪の色は朱雀様の色なのだけど……)

 それでもこの髪の色をとにかく気に入っているから、香子はとても嬉しかった。嬉しいことばかりで顔がにやけてしまう。
 玄武の内側の漢服は黒である。それに金色で四神の刺繍がされていた。春節は一年の始まりである。だからこそ、このような贅沢な衣裳が用意されたのだろうと香子は解釈した。

『玄武様って、本当に素敵ですね……』

 しみじみと香子がそう呟けば、

『……香子、我の室に戻ろう』

 玄武が当たり前のようにそう言うから、香子は思わず頷きそうになってはっとした。

『だ、だめです』
『何故?』
『何故とかじゃないです。輿に乗って王城まで戻るんですよ。それは守ってください』
『では王城まで戻ったらよいか?』

 その綺麗な緑色の瞳に見つめられたら香子は逆らえない。

『よ、予定がわかりません』
『今宵は後は晩餐会だけであろう』
『ああうう……』

 玄武の方が今日の予定を把握していることに香子は慌てた。

『お、お昼ご飯はしっかり食べたいです!』
『そうだな……昼食はいただこう』

 玄武はとても楽しそうだった。

『もう、玄武様ったら……どれだけ私のことが……』
『そなたは我の最愛だ。言っているだろう』
『ああうう……』

 そうして皇帝の支度が整うまで、香子は玄武に優しく包まれて過ごしたのだった。


ーーーーー
すみません、修正しましたー。第三部27話で空飛ぶ玄武様がいましたね!(作者、覚えとけ
しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた

いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。 一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!? 「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」 ##### r15は保険です。 2024年12月12日 私生活に余裕が出たため、投稿再開します。 それにあたって一部を再編集します。 設定や話の流れに変更はありません。

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~

ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。 ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。 一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。 目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!? 「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

処理中です...