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第1部 四神と結婚しろと言われました
8.晩餐会の準備が整ったそうです
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香子は正直諦めるしかないだろうが、四神たちは実際この異世界からの花嫁に対してどう思っているのだろう。
『知っている範囲でいいので質問に答えてもらっても?』
『はい、なんなりと』
趙文英は本当に申し訳ないと思っているのか、香子の頼みに従順だった。頭が混乱している状態なので、聞き洩らしがないように何を質問するか考え考え言葉を紡ぐ。
『私を召喚したのは四神なのですか?』
『いいえ。召喚する力を持つのは天皇のみと伝えられています』
(……天皇……?)
ここで言う天皇とは日本の天皇でないことは確かだ。
『天皇とは……確か神話上の帝王のことですよね?』
『さすが白香様、お詳しくていらっしゃる。ご存知の通り三皇五帝は伝説上の存在とされておりますが、三皇は神、五帝は聖人を指します。聖人はすでにこの世になく、三皇は天に昇りました。人の前に姿を現すことはなくなりましたが、四神を通してこの国を見守っていらっしゃいます』
この世界に来てから香子の頭は休まる暇がない。
(三皇まで存在してるなんて……)
三皇(天皇・地皇・人皇)と言われる存在は中国ではあくまで伝説上の存在であることが知られているが、五帝には諸説があり、最後の舜から禅譲された禹が夏王朝を建てたと言われている。
『あの……ではこちらの世界では夏王朝の遺跡などは発見されているんですか?』
夏王朝も伝説上の王朝と言われている。それはもちろん遺跡が発見されていないからだ。
『考古学のことは存知ませんが、夏王朝は陽城に建国したとされていますね』
それは『史記』にも記載があったから香子も知っている。その陽城という地名がどこに当たるのかわからない。
『陽城というのはどこなんですか?』
だんだん話が脱線しているのはわかっていたが、中国歴史オタクである香子にとって夏王朝の実在は大事な問題である。
『どの辺りとお答えすればわかりやすいでしょうか……』
(うわっ! この人知ってるんだ!?)
香子は興奮した。
『ええと、近くに有名な建造物とか地名があれば!』
『それでしたら少林寺がございますが、ご存知ですか?』
(ぎゃああああああああああ!!)
声に出すわけにもいかないので香子は心の中で叫んだ。まさか少林寺のそばに夏王朝が実在していたなんて! と身悶える。
『白香様?』
明らかに尋常でない香子の様子に趙が心配そうに声をかけた。香子ははっとする。
『いえ、いいえ、なんでもっ、なんでもないです! わかりました!』
『それはよろしゅうございました』
と会話が脱線しまくった状態の時、晩餐会の為の準備に参りましたと侍女たちが現れた。
結局四神について大したことは聞けないまま趙は部屋を辞してしまった。香子はまだ夏王朝の都の場所について思いをはせていたせいか、侍女たちに促されるままに入浴し、体を磨かれ、彼女たちの好きなように着飾られた。
『なんて見事な赤い髪でしょう』
『朱雀様とどちらがより赤いのでしょうね』
だから侍女たちの褒めそやす声にも生返事をしただけであった。けれどそれでも彼女たちは満足したらしい。
やがて部屋の表から声がかかり、侍女が扉を開けに行った。
予想に反して、香子を迎えにきたのは馬車から下りた際に先導してくれたおじさんだった。
『晩餐会の準備が整いましたのでお迎えにあがりました』
そう言われて香子は機械的に立ち上がる。長い赤い髪は結い上げられ、簪をいくつも挿されて正直重い。昔の人はよくこんなに重い物を頭に挿して文句を言わなかったなとぼんやり思った。
香子がまとっている衣装は髪の色が映えるような色合いのものだった。黒地にところどころ赤の入った豪奢な衣装である。その上に白い薄絹がかけられた。
晩餐会の会場は先ほどの謁見したところとはまた違う場所らしい。
何度も角を曲がり自分では元の部屋に帰れないなと思った頃、おじさんが足を止めた。
『白香様はこちらからお入りください。中に入られましたらお席に案内する者が控えてございます』
『ありがとうございます』
礼を言うとひどく恐縮された。香子は首を傾げながら言われた通りの扉の前に立った。
『白香様が到着されました』
おじさんが朗々とした声で扉の向こうに声をかける。するとその扉は内側にゆっくりと開いた。
香子はごくりと唾を飲み込む。
ここで自分の運命が決まるのだ。
『知っている範囲でいいので質問に答えてもらっても?』
『はい、なんなりと』
趙文英は本当に申し訳ないと思っているのか、香子の頼みに従順だった。頭が混乱している状態なので、聞き洩らしがないように何を質問するか考え考え言葉を紡ぐ。
『私を召喚したのは四神なのですか?』
『いいえ。召喚する力を持つのは天皇のみと伝えられています』
(……天皇……?)
ここで言う天皇とは日本の天皇でないことは確かだ。
『天皇とは……確か神話上の帝王のことですよね?』
『さすが白香様、お詳しくていらっしゃる。ご存知の通り三皇五帝は伝説上の存在とされておりますが、三皇は神、五帝は聖人を指します。聖人はすでにこの世になく、三皇は天に昇りました。人の前に姿を現すことはなくなりましたが、四神を通してこの国を見守っていらっしゃいます』
この世界に来てから香子の頭は休まる暇がない。
(三皇まで存在してるなんて……)
三皇(天皇・地皇・人皇)と言われる存在は中国ではあくまで伝説上の存在であることが知られているが、五帝には諸説があり、最後の舜から禅譲された禹が夏王朝を建てたと言われている。
『あの……ではこちらの世界では夏王朝の遺跡などは発見されているんですか?』
夏王朝も伝説上の王朝と言われている。それはもちろん遺跡が発見されていないからだ。
『考古学のことは存知ませんが、夏王朝は陽城に建国したとされていますね』
それは『史記』にも記載があったから香子も知っている。その陽城という地名がどこに当たるのかわからない。
『陽城というのはどこなんですか?』
だんだん話が脱線しているのはわかっていたが、中国歴史オタクである香子にとって夏王朝の実在は大事な問題である。
『どの辺りとお答えすればわかりやすいでしょうか……』
(うわっ! この人知ってるんだ!?)
香子は興奮した。
『ええと、近くに有名な建造物とか地名があれば!』
『それでしたら少林寺がございますが、ご存知ですか?』
(ぎゃああああああああああ!!)
声に出すわけにもいかないので香子は心の中で叫んだ。まさか少林寺のそばに夏王朝が実在していたなんて! と身悶える。
『白香様?』
明らかに尋常でない香子の様子に趙が心配そうに声をかけた。香子ははっとする。
『いえ、いいえ、なんでもっ、なんでもないです! わかりました!』
『それはよろしゅうございました』
と会話が脱線しまくった状態の時、晩餐会の為の準備に参りましたと侍女たちが現れた。
結局四神について大したことは聞けないまま趙は部屋を辞してしまった。香子はまだ夏王朝の都の場所について思いをはせていたせいか、侍女たちに促されるままに入浴し、体を磨かれ、彼女たちの好きなように着飾られた。
『なんて見事な赤い髪でしょう』
『朱雀様とどちらがより赤いのでしょうね』
だから侍女たちの褒めそやす声にも生返事をしただけであった。けれどそれでも彼女たちは満足したらしい。
やがて部屋の表から声がかかり、侍女が扉を開けに行った。
予想に反して、香子を迎えにきたのは馬車から下りた際に先導してくれたおじさんだった。
『晩餐会の準備が整いましたのでお迎えにあがりました』
そう言われて香子は機械的に立ち上がる。長い赤い髪は結い上げられ、簪をいくつも挿されて正直重い。昔の人はよくこんなに重い物を頭に挿して文句を言わなかったなとぼんやり思った。
香子がまとっている衣装は髪の色が映えるような色合いのものだった。黒地にところどころ赤の入った豪奢な衣装である。その上に白い薄絹がかけられた。
晩餐会の会場は先ほどの謁見したところとはまた違う場所らしい。
何度も角を曲がり自分では元の部屋に帰れないなと思った頃、おじさんが足を止めた。
『白香様はこちらからお入りください。中に入られましたらお席に案内する者が控えてございます』
『ありがとうございます』
礼を言うとひどく恐縮された。香子は首を傾げながら言われた通りの扉の前に立った。
『白香様が到着されました』
おじさんが朗々とした声で扉の向こうに声をかける。するとその扉は内側にゆっくりと開いた。
香子はごくりと唾を飲み込む。
ここで自分の運命が決まるのだ。
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