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第4部 四神を愛しなさいと言われました
38.抱き上げられるのは基本なのです
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そういえば玄武は夕飯前もどうのと言っていなかったか。
香子はやっとそれを思い出した。
床に優しく押し倒されて、内心どきどきである。
『玄武様?』
『最後まで抱きはせぬ。だが触れさせよ』
『……どれだけ玄武様は私に触れたいのですか……』
香子はため息混じりに呟いた。
とはいえもう香子も諦めてはいる。四神は可能であれば常に花嫁に触れていたい。長い間生きてようやく会える大事な花嫁である。玄武は特にであった。
先代の花嫁には出会えた。けれど先代の花嫁が玄武を見ることはなかった。
四神は花嫁以外に想いを寄せることはないというのに、その唯一の相手から想いを返してもらえなかった。
だからこそ玄武は香子を離せない。それを香子は本当の意味では理解していないが、香子は香子なりに玄武を愛しているので逆らわなかった。
『……玄武様、抱かないでくださいね。あ、それから……』
香子は慈寧宮で思ったことを聞いてみることにした。
『如何した?』
ここで煩わしく思うでもなく聞いてくれる玄武が好きだと香子は思う。
『私、ずっと玄武様とか、四神にだっこされて運ばれてることが多いではありませんか』
『それがなにか?』
『神様はどうか知りませんけど、人間て適度に動かないと筋力が落ちるのですよ。だから私、相当筋力が落ちてるんじゃないかなと思うのですが』
『ふむ。筋力とやらが落ちるとどうなる?』
玄武は床の上で香子を抱き込んで聞いた。わからないことはすぐに聞く、そんな姿勢も好きだと香子は胸が熱くなる。香子が四神を好きなことに代わりはないのだ。
『筋力が落ちると疲れやすくなります。今日は慈寧宮で大祭の衣裳の確認をしましたけど、何度も着せ替えをしてとても疲れました。衣裳もとても重く感じられましたし……』
『そうか。だが仮にも大祭用の衣裳であれば普段より重さもあるのではないか?』
玄武にそう言われ、香子は目を見開いた。それも確かにそうかと合点がいった。
『玄武様、すごいです……』
玄武がほんの少しだけ首を傾げたように、香子には映った。
『すごい、とはなにか?』
『いえ……私が考えつかなかったことを教えていただき、ありがとうございます……』
『そなたがいいならそれでいい。香子』
『あ……はい』
話はこれで終りか? と聞かれたようで香子は頬を染めた。
この後は玄武に触れられてしまうのだろうと香子は思ったが、根本的な解決にはなっていないことに気づいた。
『あ、あああの、でもっ……』
『香子、後にせよ』
めったに見られない玄武の笑みがこわい。そのまま漢服の前を寛げられたら、香子はもう逆らえなかった。
『あっ……はい……』
また後で覚えていたら聞いてみようと思いながら、香子は胸に落とされる玄武の頭を抱きしめた。
甘い、甘い。
夕飯の席である。
あれから本当に、玄武は夕飯だと声をかけられるまで香子を離さなかった。おかげで香子は食堂へ向かうまでの間も熱い吐息を漏らすことになってしまった。さすがに玄武に触れられた後その恰好のまま食堂へ向かうことはできないので、玄武の室の居間で侍女たちに髪型や衣裳は整えさせた。
侍女たちもうっすらと頬を染めながらも手早く香子を整えた。
(たぶん……私の色気に中てられてるんだよね……)
四神に触れられた後はいくばくかの色気が漏れてしまうらしい。侍女たちに特別手当でもつけられないかと香子は考えてしまう。
(私のこと、襲いたくなったりするのかな……?)
だとしたらとても悪いことをしていると香子は思う。かといって四神に触れるなと言うこともできないので心中なかなかに複雑ではあった。
『香子、如何した?』
朱雀に声をかけられてはっとした。
そう、夕飯の席なのである。いつも通り卓の上には香子の好物ばかりが載っている。海老の殻をキレイに剥いた辛味炒めは最高だ。日本だとエビのチリソース煮だが、ここの料理にチリソースは使われていない。エビチリは陳建民さんが日本で考案したとされる日本人向け中華料理である。そんなわけでここで食べられるエビの辛い料理は四川料理だ。しかしこれもまた香子の好物なので全く問題はなかった。
もちろん香子が食べたいと言った水餃子もいろんな種類が出てきた。過年(年越し)である。香子は喜んで沢山食べた。
『……いろいろ、気になることが多いのです……。後で話を聞いて下さい』
『承知した』
そんなことを言いながら、食後は茶室で四神に話を聞いてもらおうと香子は思った。
そんなわけで予定通り、食後は四神と共に茶室へ移動した。
お茶を淹れると、香子はなんとなくだがほっとした。ここで振舞うのは烏龍茶である。
『して、気になることとはなにか?』
朱雀がずず……とお茶を口の中で転がして嚥下してから聞いた。四神もお茶を味わうのがうまくなったと香子はぼんやり思った。
『あの……ええと……私、ほとんど四神に抱き上げられて移動しているので、筋力が落ちていると思うのです。なので、少しは身体を鍛えないとと思っていまして……』
今更といえば今更な話ではある。最初の頃動きたいと香子が訴えたことはあるが、四神の独占欲のおかげで実現はしていなかった。
『ふむ……確かに人であればそうであろうな』
『……え?』
朱雀にさらりと言われて、あ、と香子は気づいた。
『……人ではなくなりつつある私は、どうなのでしょうか?』
『それはわからぬ。それについては今後考えていくとしよう』
『……はい』
結局わからないままではあったが、自分が人ではないのだと確認したことで香子は少し吹っ切れたような気が――した。
香子はやっとそれを思い出した。
床に優しく押し倒されて、内心どきどきである。
『玄武様?』
『最後まで抱きはせぬ。だが触れさせよ』
『……どれだけ玄武様は私に触れたいのですか……』
香子はため息混じりに呟いた。
とはいえもう香子も諦めてはいる。四神は可能であれば常に花嫁に触れていたい。長い間生きてようやく会える大事な花嫁である。玄武は特にであった。
先代の花嫁には出会えた。けれど先代の花嫁が玄武を見ることはなかった。
四神は花嫁以外に想いを寄せることはないというのに、その唯一の相手から想いを返してもらえなかった。
だからこそ玄武は香子を離せない。それを香子は本当の意味では理解していないが、香子は香子なりに玄武を愛しているので逆らわなかった。
『……玄武様、抱かないでくださいね。あ、それから……』
香子は慈寧宮で思ったことを聞いてみることにした。
『如何した?』
ここで煩わしく思うでもなく聞いてくれる玄武が好きだと香子は思う。
『私、ずっと玄武様とか、四神にだっこされて運ばれてることが多いではありませんか』
『それがなにか?』
『神様はどうか知りませんけど、人間て適度に動かないと筋力が落ちるのですよ。だから私、相当筋力が落ちてるんじゃないかなと思うのですが』
『ふむ。筋力とやらが落ちるとどうなる?』
玄武は床の上で香子を抱き込んで聞いた。わからないことはすぐに聞く、そんな姿勢も好きだと香子は胸が熱くなる。香子が四神を好きなことに代わりはないのだ。
『筋力が落ちると疲れやすくなります。今日は慈寧宮で大祭の衣裳の確認をしましたけど、何度も着せ替えをしてとても疲れました。衣裳もとても重く感じられましたし……』
『そうか。だが仮にも大祭用の衣裳であれば普段より重さもあるのではないか?』
玄武にそう言われ、香子は目を見開いた。それも確かにそうかと合点がいった。
『玄武様、すごいです……』
玄武がほんの少しだけ首を傾げたように、香子には映った。
『すごい、とはなにか?』
『いえ……私が考えつかなかったことを教えていただき、ありがとうございます……』
『そなたがいいならそれでいい。香子』
『あ……はい』
話はこれで終りか? と聞かれたようで香子は頬を染めた。
この後は玄武に触れられてしまうのだろうと香子は思ったが、根本的な解決にはなっていないことに気づいた。
『あ、あああの、でもっ……』
『香子、後にせよ』
めったに見られない玄武の笑みがこわい。そのまま漢服の前を寛げられたら、香子はもう逆らえなかった。
『あっ……はい……』
また後で覚えていたら聞いてみようと思いながら、香子は胸に落とされる玄武の頭を抱きしめた。
甘い、甘い。
夕飯の席である。
あれから本当に、玄武は夕飯だと声をかけられるまで香子を離さなかった。おかげで香子は食堂へ向かうまでの間も熱い吐息を漏らすことになってしまった。さすがに玄武に触れられた後その恰好のまま食堂へ向かうことはできないので、玄武の室の居間で侍女たちに髪型や衣裳は整えさせた。
侍女たちもうっすらと頬を染めながらも手早く香子を整えた。
(たぶん……私の色気に中てられてるんだよね……)
四神に触れられた後はいくばくかの色気が漏れてしまうらしい。侍女たちに特別手当でもつけられないかと香子は考えてしまう。
(私のこと、襲いたくなったりするのかな……?)
だとしたらとても悪いことをしていると香子は思う。かといって四神に触れるなと言うこともできないので心中なかなかに複雑ではあった。
『香子、如何した?』
朱雀に声をかけられてはっとした。
そう、夕飯の席なのである。いつも通り卓の上には香子の好物ばかりが載っている。海老の殻をキレイに剥いた辛味炒めは最高だ。日本だとエビのチリソース煮だが、ここの料理にチリソースは使われていない。エビチリは陳建民さんが日本で考案したとされる日本人向け中華料理である。そんなわけでここで食べられるエビの辛い料理は四川料理だ。しかしこれもまた香子の好物なので全く問題はなかった。
もちろん香子が食べたいと言った水餃子もいろんな種類が出てきた。過年(年越し)である。香子は喜んで沢山食べた。
『……いろいろ、気になることが多いのです……。後で話を聞いて下さい』
『承知した』
そんなことを言いながら、食後は茶室で四神に話を聞いてもらおうと香子は思った。
そんなわけで予定通り、食後は四神と共に茶室へ移動した。
お茶を淹れると、香子はなんとなくだがほっとした。ここで振舞うのは烏龍茶である。
『して、気になることとはなにか?』
朱雀がずず……とお茶を口の中で転がして嚥下してから聞いた。四神もお茶を味わうのがうまくなったと香子はぼんやり思った。
『あの……ええと……私、ほとんど四神に抱き上げられて移動しているので、筋力が落ちていると思うのです。なので、少しは身体を鍛えないとと思っていまして……』
今更といえば今更な話ではある。最初の頃動きたいと香子が訴えたことはあるが、四神の独占欲のおかげで実現はしていなかった。
『ふむ……確かに人であればそうであろうな』
『……え?』
朱雀にさらりと言われて、あ、と香子は気づいた。
『……人ではなくなりつつある私は、どうなのでしょうか?』
『それはわからぬ。それについては今後考えていくとしよう』
『……はい』
結局わからないままではあったが、自分が人ではないのだと確認したことで香子は少し吹っ切れたような気が――した。
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