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第4部 四神を愛しなさいと言われました
37.新年の衣裳は鮮やかな色をしていました
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慈寧宮へはいつものメンバーで向かった。
玄武に抱き上げられた香子がメインで、白虎、白雲、黒月、延夕玲、そして青藍も一緒である。
何故青藍も共に来るのか、香子としては意味がわからない。いつのまにか夕玲の夫扱いで、慈寧宮では歓迎ムードもあるのが憎いと香子は思っている。
『老仏爺』
『おお、花嫁様よういらっしゃった。ささ、どうぞこちらへ』
皇太后は上機嫌だった。皇后も一緒にいたので、香子は玄武の腕の中から挨拶する。もうさすがに睨まれることはないが、香子はやはりこの腕の中から挨拶するということには慣れそうもなかった。
『花嫁様は日増しに美しくなられますね』
皇后が頬にそっと手を当て、ため息混じりに呟いた。皇太后もそれに同意する。
『そうじゃのう。今日は特に色っぽい。そうは思わぬか?』
皇太后が女官や侍女たちに同意を求める。香子としては勘弁してほしかった。
これは間違いなく、昼食まで玄武と朱雀に抱かれていたからであろう。香子は玄武を睨んだ。
『江緑、そなに香子をいじめるな』
白虎が苦笑して窘めた。
『いじめるなどと。かようなことをこの年寄りにできるはずがないではありませんか』
ほ、ほと皇太后が笑う。そういうことは年寄りでも関係ないと香子は知っていたが、そこらへんはあえてツッコまなかった。皇太后を敵に回す必要はないのである。
まずはお茶を振舞われ、香子もお茶菓子はほどほどにいただいた。これから衣裳合わせである。さすがに数日で胸が育つということはないが、香子の身体はもう人のそれではないので確認は必要だった。
長袍は黒地に金で玄武が刺繍してある見事なものである。内側は玄武の瞳の色に合わせた鮮やかな緑色の衣裳だ。これらを毎回その都度作るのだからどうかと香子は思う。
今回は前門の楼台でお披露目こそしないが、先に百官の挨拶を受けたり、皇帝と共に天壇に行ったりと疲れる仕様ではある。けれど香子は一生に一度のことだからと割り切り、参加することにしたのだった。
天壇でも着替えをし、新年の祈願をすることになっている。
(でも、四神はここにいるんだけど?)
何をどう祈願するというのだろうと香子は内心首を傾げた。
『お身体に合っておりますので、直しは必要ございませぬ。どうか明日は心穏やかにお過ごしくださいませ』
針子たちはほっとしたように衣裳を片付けて下がった。これからこの衣裳は箱に納められ、四神宮に運ばれるらしい。仕立て屋の女性は更に言う。
『新年の衣裳は本日中に四神宮に運ばせますので、どうぞよろしくお願いします』
『……ありがとう』
『もったいないお言葉でございます』
仕立て屋は深々と頭を下げながら拱手した。
どうにか明日の衣裳を全て確認し、着替えた後香子はぐったりしてしまった。香子は確かにただ突っ立っていただけだが、それはそれで疲れるのだ。
(もしかして私、筋力が衰えてる?)
それは由々しき問題だった。
よく考えなくても香子は基本的に四神に抱かれて移動している。香子が歩けるのは四神宮の中だけだ。しかも四神に会えばすぐに抱き上げられてしまうので、ほとんど歩くことができない。
(四神宮の中だけでもうろうろ歩いた方がいいのかなぁ。でも敷地自体広くないし……悩ましい)
『香子、如何した?』
衣裳の確認を終えると、玄武が来て当たり前のように香子を抱き上げた。その香子の顔が曇っていることに玄武は気づいたらしい。
『……なんでもない、です。後で話します』
心話であってもここで話すことではないと香子は判断した。
『そうか』
玄武はしぶしぶというかんじで引き下がった。本当に四神はわかりやすくなったと香子は思う。
終わった後はまたお茶を振舞われた。前日準備がやっと終わったので、香子は出された茶菓子を遠慮なく食べた。どうせ残ったら包まれて持ち帰らされてしまうのである。とはいえ全て平らげるのはやはり行儀が悪いので(少しは残すことがマナーとされている)、いつも通り残した。
『ほ、ほ。ほんに花嫁様はおいしそうに召し上がられるのぅ』
皇太后も皇后もにこにこしている。そこに揶揄いの空気はないので、香子は素直に『お茶もお茶菓子もおいしいですから』と伝えた。
『ほんに、のう……玄武様、白虎様、大事になされませ』
皇太后がため息混じりに言う。
『わかっている』
『言われるまでもない』
玄武と白虎は即答した。香子は何も言うことができなかった。大事にされていることは間違いないのだが、四神基準での大事に、なので下手に煽られるとまた床に運ばれてしまいそうである。
精神的に疲れながらも、やることを終えたことで香子はほっとした。
しかし慈寧宮を出た途端玄武が勝手に跳んでしまうのはどうかと香子は思う。
『……できれば事前にお知らせ願いたいのですが……』
『すまぬ。失念していた』
白虎も勝手に戻ってきているかもしれない。夕玲の心労はいかばかりかと香子は心配してしまった。
『必ず周囲に声をかけてからにしてください。四神や眷属にとっては当たり前のことでも、人にとってはそうではないのですよ』
『ああ、そうだな』
そう言いながら当たり前のように床に横たえられ、香子は狼狽したのだった。
玄武に抱き上げられた香子がメインで、白虎、白雲、黒月、延夕玲、そして青藍も一緒である。
何故青藍も共に来るのか、香子としては意味がわからない。いつのまにか夕玲の夫扱いで、慈寧宮では歓迎ムードもあるのが憎いと香子は思っている。
『老仏爺』
『おお、花嫁様よういらっしゃった。ささ、どうぞこちらへ』
皇太后は上機嫌だった。皇后も一緒にいたので、香子は玄武の腕の中から挨拶する。もうさすがに睨まれることはないが、香子はやはりこの腕の中から挨拶するということには慣れそうもなかった。
『花嫁様は日増しに美しくなられますね』
皇后が頬にそっと手を当て、ため息混じりに呟いた。皇太后もそれに同意する。
『そうじゃのう。今日は特に色っぽい。そうは思わぬか?』
皇太后が女官や侍女たちに同意を求める。香子としては勘弁してほしかった。
これは間違いなく、昼食まで玄武と朱雀に抱かれていたからであろう。香子は玄武を睨んだ。
『江緑、そなに香子をいじめるな』
白虎が苦笑して窘めた。
『いじめるなどと。かようなことをこの年寄りにできるはずがないではありませんか』
ほ、ほと皇太后が笑う。そういうことは年寄りでも関係ないと香子は知っていたが、そこらへんはあえてツッコまなかった。皇太后を敵に回す必要はないのである。
まずはお茶を振舞われ、香子もお茶菓子はほどほどにいただいた。これから衣裳合わせである。さすがに数日で胸が育つということはないが、香子の身体はもう人のそれではないので確認は必要だった。
長袍は黒地に金で玄武が刺繍してある見事なものである。内側は玄武の瞳の色に合わせた鮮やかな緑色の衣裳だ。これらを毎回その都度作るのだからどうかと香子は思う。
今回は前門の楼台でお披露目こそしないが、先に百官の挨拶を受けたり、皇帝と共に天壇に行ったりと疲れる仕様ではある。けれど香子は一生に一度のことだからと割り切り、参加することにしたのだった。
天壇でも着替えをし、新年の祈願をすることになっている。
(でも、四神はここにいるんだけど?)
何をどう祈願するというのだろうと香子は内心首を傾げた。
『お身体に合っておりますので、直しは必要ございませぬ。どうか明日は心穏やかにお過ごしくださいませ』
針子たちはほっとしたように衣裳を片付けて下がった。これからこの衣裳は箱に納められ、四神宮に運ばれるらしい。仕立て屋の女性は更に言う。
『新年の衣裳は本日中に四神宮に運ばせますので、どうぞよろしくお願いします』
『……ありがとう』
『もったいないお言葉でございます』
仕立て屋は深々と頭を下げながら拱手した。
どうにか明日の衣裳を全て確認し、着替えた後香子はぐったりしてしまった。香子は確かにただ突っ立っていただけだが、それはそれで疲れるのだ。
(もしかして私、筋力が衰えてる?)
それは由々しき問題だった。
よく考えなくても香子は基本的に四神に抱かれて移動している。香子が歩けるのは四神宮の中だけだ。しかも四神に会えばすぐに抱き上げられてしまうので、ほとんど歩くことができない。
(四神宮の中だけでもうろうろ歩いた方がいいのかなぁ。でも敷地自体広くないし……悩ましい)
『香子、如何した?』
衣裳の確認を終えると、玄武が来て当たり前のように香子を抱き上げた。その香子の顔が曇っていることに玄武は気づいたらしい。
『……なんでもない、です。後で話します』
心話であってもここで話すことではないと香子は判断した。
『そうか』
玄武はしぶしぶというかんじで引き下がった。本当に四神はわかりやすくなったと香子は思う。
終わった後はまたお茶を振舞われた。前日準備がやっと終わったので、香子は出された茶菓子を遠慮なく食べた。どうせ残ったら包まれて持ち帰らされてしまうのである。とはいえ全て平らげるのはやはり行儀が悪いので(少しは残すことがマナーとされている)、いつも通り残した。
『ほ、ほ。ほんに花嫁様はおいしそうに召し上がられるのぅ』
皇太后も皇后もにこにこしている。そこに揶揄いの空気はないので、香子は素直に『お茶もお茶菓子もおいしいですから』と伝えた。
『ほんに、のう……玄武様、白虎様、大事になされませ』
皇太后がため息混じりに言う。
『わかっている』
『言われるまでもない』
玄武と白虎は即答した。香子は何も言うことができなかった。大事にされていることは間違いないのだが、四神基準での大事に、なので下手に煽られるとまた床に運ばれてしまいそうである。
精神的に疲れながらも、やることを終えたことで香子はほっとした。
しかし慈寧宮を出た途端玄武が勝手に跳んでしまうのはどうかと香子は思う。
『……できれば事前にお知らせ願いたいのですが……』
『すまぬ。失念していた』
白虎も勝手に戻ってきているかもしれない。夕玲の心労はいかばかりかと香子は心配してしまった。
『必ず周囲に声をかけてからにしてください。四神や眷属にとっては当たり前のことでも、人にとってはそうではないのですよ』
『ああ、そうだな』
そう言いながら当たり前のように床に横たえられ、香子は狼狽したのだった。
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