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第1部 四神と結婚しろと言われました
3.やっぱり異世界なんですか?
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男性は香子を見ると一瞬はっとしたような顔をした。しかしすぐにその表情は柔和になった。
『あの方ですか?』
『はい』
男性はまず女性に声をかけた。どうやら用があるのはやはり香子に、らしい。
表情は柔らかいがその眼差しは厳しい。けれど彼はゆったりとした動きで香子の側に立つと、
『初めまして、私は趙文英と申します。異なる世界からいらした同胞にお会いできて光栄です。是非私と共にいらしてはいただけないでしょうか』
と優雅にとんでもないことをのたまった。
驚愕した香子の脳裏をいろんなものが駆け巡る。
(”異なる世界からいらした同胞”って今この人言った? これは聞き間違いに違いない!)
趙と名乗った秀麗な男性はとてもきれいな中国語を話した。いわゆる『北京官話』と呼ばれる中国華北地方から東北地方に通用する標準語の発音である。現代中国語はこの『北京官話』を基礎に標準語と定めているが、ここでもそうなのだろうか。
『すいません、先ほどあなたが言った”異なる世界”とはどういう意味でしょうか?』
とりあえず香子は聞いてみることにした。
なんだかとても嫌な予感がする。
『そのままの意味です。貴女は異なる世界から我らが世界の神によって召喚されてきたのです』
(………………は?)
涼しげな表が言ったその科白は、香子を固まらせるには十分だった。
その間も香子の頭の中でぐるぐるといろんな考えが浮かんだ。
(これは平行世界? それとも俗にいう異世界トリップ? しかも召喚されたとかって何ーーーー!?)
考えるだけで頭がくらくらしてくる。そうでなくても慣れない道を一時間も歩かせられて疲れている。
実際のところ今までは考えないようにしてきたのだ。それなのにこの趙という秀麗な男性はあっさりととんでもないことを告げた。
香子が脂汗を流しながら沈黙していると、再び趙が口を開いた。
『失礼ですが、その髪の色は元からのものでしょうか?』
『染めています』
即座に返答すると趙はほっとしたように笑んだ。
『元の髪色は黒、でしょうか?』
『はい』
香子は首を傾げた。そんなに黒であることが大事なのだろうか。
そういえば、と思い出す。
(”同胞”って言われたような……?)
香子は趙と同じ言葉を話している。つまり異なる世界から来たのではあってもルーツは同じ者、つまり中国人と思われているのだろう。おそらく何か手違いがあって香子が召喚されてきたのだろうが、ここで日本人だというのはためらわれた。
(へたすると殺されるかもしれないし……)
それぐらいは混乱した頭でも思いつく。最悪のシナリオである。
『あの、私特別な能力とかないですけどどうして召喚されたのでしょうか?』
そう聞くと趙の顔が一瞬陰った気がする。
『私にはわかりかねます。ですが召喚された方は王城へお招きすることになっております。是非私と共にいらしてください』
丁寧に拱手する。
(答えてくれる気はなさそう……)
きっと趙は召喚の理由を知っている。
(生贄とかだったらやだなぁ……)
『ええと、この国の名前はなんというのですか?』
気になったことをとりあえず教えてもらうことにした。
『唐です。貴女様がいらした国名はなんというのですか?』
(唐……)
『現在は中華人民共和国と言います。略称は中国です』
『随分長い国名ですね』
『はい。長い歴史の中には唐という国名もありました』
そうついでに香子が答えると趙は笑んだ。
『お名前をお聞かせ願えますか?』
そう聞かれてやっと香子は名乗っていなかったことに気づいた。本名を名乗ろうとして考える。
(中国人の名前が四文字ってことはあんまりないよね)
新たに名前を考えるのも面倒なので名前を短くすることにした。
『白香といいます』
香子の本名は白沢香子というが、中国では一般的に姓は一文字、名は時代によって一文字であったりニ文字であったりする。姓名合わせて四文字以上という人は極めて少ない。(いることはいます)
『それでは白香様、参りましょう』
趙に促されて席を立つ。香子は行くともなんとも答えてはいないが、ここでごねてもどうにもならないことはわかっていた。
(なるようになるか……)
そんなことを考えてそっと香子は嘆息した。
『あの方ですか?』
『はい』
男性はまず女性に声をかけた。どうやら用があるのはやはり香子に、らしい。
表情は柔らかいがその眼差しは厳しい。けれど彼はゆったりとした動きで香子の側に立つと、
『初めまして、私は趙文英と申します。異なる世界からいらした同胞にお会いできて光栄です。是非私と共にいらしてはいただけないでしょうか』
と優雅にとんでもないことをのたまった。
驚愕した香子の脳裏をいろんなものが駆け巡る。
(”異なる世界からいらした同胞”って今この人言った? これは聞き間違いに違いない!)
趙と名乗った秀麗な男性はとてもきれいな中国語を話した。いわゆる『北京官話』と呼ばれる中国華北地方から東北地方に通用する標準語の発音である。現代中国語はこの『北京官話』を基礎に標準語と定めているが、ここでもそうなのだろうか。
『すいません、先ほどあなたが言った”異なる世界”とはどういう意味でしょうか?』
とりあえず香子は聞いてみることにした。
なんだかとても嫌な予感がする。
『そのままの意味です。貴女は異なる世界から我らが世界の神によって召喚されてきたのです』
(………………は?)
涼しげな表が言ったその科白は、香子を固まらせるには十分だった。
その間も香子の頭の中でぐるぐるといろんな考えが浮かんだ。
(これは平行世界? それとも俗にいう異世界トリップ? しかも召喚されたとかって何ーーーー!?)
考えるだけで頭がくらくらしてくる。そうでなくても慣れない道を一時間も歩かせられて疲れている。
実際のところ今までは考えないようにしてきたのだ。それなのにこの趙という秀麗な男性はあっさりととんでもないことを告げた。
香子が脂汗を流しながら沈黙していると、再び趙が口を開いた。
『失礼ですが、その髪の色は元からのものでしょうか?』
『染めています』
即座に返答すると趙はほっとしたように笑んだ。
『元の髪色は黒、でしょうか?』
『はい』
香子は首を傾げた。そんなに黒であることが大事なのだろうか。
そういえば、と思い出す。
(”同胞”って言われたような……?)
香子は趙と同じ言葉を話している。つまり異なる世界から来たのではあってもルーツは同じ者、つまり中国人と思われているのだろう。おそらく何か手違いがあって香子が召喚されてきたのだろうが、ここで日本人だというのはためらわれた。
(へたすると殺されるかもしれないし……)
それぐらいは混乱した頭でも思いつく。最悪のシナリオである。
『あの、私特別な能力とかないですけどどうして召喚されたのでしょうか?』
そう聞くと趙の顔が一瞬陰った気がする。
『私にはわかりかねます。ですが召喚された方は王城へお招きすることになっております。是非私と共にいらしてください』
丁寧に拱手する。
(答えてくれる気はなさそう……)
きっと趙は召喚の理由を知っている。
(生贄とかだったらやだなぁ……)
『ええと、この国の名前はなんというのですか?』
気になったことをとりあえず教えてもらうことにした。
『唐です。貴女様がいらした国名はなんというのですか?』
(唐……)
『現在は中華人民共和国と言います。略称は中国です』
『随分長い国名ですね』
『はい。長い歴史の中には唐という国名もありました』
そうついでに香子が答えると趙は笑んだ。
『お名前をお聞かせ願えますか?』
そう聞かれてやっと香子は名乗っていなかったことに気づいた。本名を名乗ろうとして考える。
(中国人の名前が四文字ってことはあんまりないよね)
新たに名前を考えるのも面倒なので名前を短くすることにした。
『白香といいます』
香子の本名は白沢香子というが、中国では一般的に姓は一文字、名は時代によって一文字であったりニ文字であったりする。姓名合わせて四文字以上という人は極めて少ない。(いることはいます)
『それでは白香様、参りましょう』
趙に促されて席を立つ。香子は行くともなんとも答えてはいないが、ここでごねてもどうにもならないことはわかっていた。
(なるようになるか……)
そんなことを考えてそっと香子は嘆息した。
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