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第1部 四神と結婚しろと言われました
2.やっぱりここはどこでしょう
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男のうちの一人が乱暴に香子の顔を上げさせる。
『○×……。△○×△△か?』
香子は内心パニックを起こしながらも男たちが話す言葉に既視感を覚えた。
男たちは昔の農民のような格好をしていた。中国や日本の時代劇で見るような粗末な布で作られた服を着ている。
男たちはいぶかしげな顔をしていたがどうも敵意を持っているかんじではなかった。話している言葉は明らかに日本語ではない。
(とりあえず聞いてみるしか……)
『すいません、ここはどこですか?』
普通こういう場面では英語が出てくるのだろうが、香子にとって外国語というとまず中国語が出てくる。言い訳をすると彼らが話す音はアジア系だった。すると男たちは目を見張った。
『×○! △○△××△○だ!』
なんだか知らないがひどく興奮しているらしい。他の誰かが香子の手を取って立たせた。
そしてゆっくりとしゃべった。
『アンタ、オラの言ってること、わかるか?』
なまりはひどかったが、それは明らかに中国語だった。
『はい、わかります!』
そう答えると男は明らかにほっとしたような顔をした。そして仲間たちに身振り手振りを交えてなにやら説明していた。
(あれは方言だな……)
香子はいくら耳を澄ましても聞きとれない言葉にそう判断した。香子は北京で中国語を勉強していた為、基本は標準語を習っていた。一応四年暮らしていた為それに北京の方言やなまりは少し入っているが、その発音は標準である。
しかし中国は広い。暮らしている間にいろいろなところへ旅行したが、標準語を全く解さない人にも会ったし、やはりその土地の言葉で話されると全くわからなかったりとさまざまだった。
かろうじて標準語をしゃべれる人がいたのは僥倖だったのか。
そうしているうちにどうやら話がついたのか、男たちに手招きされた。
『歩けるか?』
『はい』
気づかうような言葉に頷く。
『じゃあ、行くべ』
促されてバッグを抱え歩きだす。荷物を持ってくれるようなそぶりをされたがそれには首を振った。
全財産が入っているのだ。いくら重くても人にゆだねるのは論外だった。
帰りの荷物が多いからと運動靴にしたのは幸いだった。
香子はそのまま森の中を一時間近く歩かされた。
村のようなところに着いた時、香子は情けなくもその場にへたりこんだ。
男たちが苦笑しているのがわかる。けれど香子は疲れていた。
わからない言葉、自分のペースでない歩み、そしてこの先のこと。
茅葺屋根を被せた小さい家々から人々が顔を覗かせている。そのうちの女性が一人おそるおそるという体で近寄ってきた。
『○×△?』
『○△』
彼女もまた粗末な布で作ったような着物を着ていた。そして男たちに何事か話すと、へたりこんでいる香子に手を差し伸べた。
『ありがとう』
そう言ってへらりと笑い立ち上がると、女性は笑った。
『ステキな、色の、髪してる』
ゆっくりとなまりを含んだ標準語で話しかけられ、香子は首を傾げた。そして自分の髪を軽く掴む。
そして納得した。
香子の髪は中国にいる間中ずっと赤に染めていたのだ。大学時代しか髪の色も自由にできないからと、ただひたすらに赤に染めていた。香子の髪は胸につくぐらい長く、それをずっと赤に染めていた為非常に目立つ。染め続けていたせいか髪にはしっかり色が馴染んでおり、元からこのワインレッドの色だと言われても違和感がないぐらいになっていた。
『ありがとう』
『それ本物? 偽物?』
『偽物です』
そう言って笑うと女性もまた笑った。
『よかった』
女性は安心したように言うと、香子を家に招き入れた。
粗末な木の椅子と卓があり、香子は座るよう促された。
『本当の色は? 黒?』
そう聞かれて香子は首を傾げた。何の話だろう。
『髪』
と指差して言われ合点がいった。
『黒です』
(やけにこだわるな……)
どうもこの辺で様子がおかしいことに香子は気づいた。
『お湯どうぞ』
『ありがとう』
お茶を飲む習慣がないのだろうか。それともお茶を買えないほど貧しいのか。それでもここが中国だというなら煮沸したものが出てきただけありがたいとも香子は思う。
湯のみに入っているお湯は透明とは言い難く少し濁っていた。けれど香子はためらわず口をつけた。長江の川の水を煮沸したものを飲んだことがあるが、少し茶色がかっていた。あの時おなかは壊さなかったからこれも大丈夫だろうという判断である。
少し重いかんじがするがへんな味はしない。思ったより喉が渇いていたようだ。
そうしてすすっていると、小屋の表が不意に騒がしくなった。
聞きなれない音と聞きなれた音が混在している。香子は耳を澄ました。
女性は『ちょっと待ってて』と香子に声をかけて立ち上がった。彼女が入口まで歩いていった時入口にかかっていた布が払われた。
『わぁ……』
思わず香子は声を上げた。
入ってきたのはいかにも中国古代の文官服を着た、ひどく秀麗な男性だった。
『○×……。△○×△△か?』
香子は内心パニックを起こしながらも男たちが話す言葉に既視感を覚えた。
男たちは昔の農民のような格好をしていた。中国や日本の時代劇で見るような粗末な布で作られた服を着ている。
男たちはいぶかしげな顔をしていたがどうも敵意を持っているかんじではなかった。話している言葉は明らかに日本語ではない。
(とりあえず聞いてみるしか……)
『すいません、ここはどこですか?』
普通こういう場面では英語が出てくるのだろうが、香子にとって外国語というとまず中国語が出てくる。言い訳をすると彼らが話す音はアジア系だった。すると男たちは目を見張った。
『×○! △○△××△○だ!』
なんだか知らないがひどく興奮しているらしい。他の誰かが香子の手を取って立たせた。
そしてゆっくりとしゃべった。
『アンタ、オラの言ってること、わかるか?』
なまりはひどかったが、それは明らかに中国語だった。
『はい、わかります!』
そう答えると男は明らかにほっとしたような顔をした。そして仲間たちに身振り手振りを交えてなにやら説明していた。
(あれは方言だな……)
香子はいくら耳を澄ましても聞きとれない言葉にそう判断した。香子は北京で中国語を勉強していた為、基本は標準語を習っていた。一応四年暮らしていた為それに北京の方言やなまりは少し入っているが、その発音は標準である。
しかし中国は広い。暮らしている間にいろいろなところへ旅行したが、標準語を全く解さない人にも会ったし、やはりその土地の言葉で話されると全くわからなかったりとさまざまだった。
かろうじて標準語をしゃべれる人がいたのは僥倖だったのか。
そうしているうちにどうやら話がついたのか、男たちに手招きされた。
『歩けるか?』
『はい』
気づかうような言葉に頷く。
『じゃあ、行くべ』
促されてバッグを抱え歩きだす。荷物を持ってくれるようなそぶりをされたがそれには首を振った。
全財産が入っているのだ。いくら重くても人にゆだねるのは論外だった。
帰りの荷物が多いからと運動靴にしたのは幸いだった。
香子はそのまま森の中を一時間近く歩かされた。
村のようなところに着いた時、香子は情けなくもその場にへたりこんだ。
男たちが苦笑しているのがわかる。けれど香子は疲れていた。
わからない言葉、自分のペースでない歩み、そしてこの先のこと。
茅葺屋根を被せた小さい家々から人々が顔を覗かせている。そのうちの女性が一人おそるおそるという体で近寄ってきた。
『○×△?』
『○△』
彼女もまた粗末な布で作ったような着物を着ていた。そして男たちに何事か話すと、へたりこんでいる香子に手を差し伸べた。
『ありがとう』
そう言ってへらりと笑い立ち上がると、女性は笑った。
『ステキな、色の、髪してる』
ゆっくりとなまりを含んだ標準語で話しかけられ、香子は首を傾げた。そして自分の髪を軽く掴む。
そして納得した。
香子の髪は中国にいる間中ずっと赤に染めていたのだ。大学時代しか髪の色も自由にできないからと、ただひたすらに赤に染めていた。香子の髪は胸につくぐらい長く、それをずっと赤に染めていた為非常に目立つ。染め続けていたせいか髪にはしっかり色が馴染んでおり、元からこのワインレッドの色だと言われても違和感がないぐらいになっていた。
『ありがとう』
『それ本物? 偽物?』
『偽物です』
そう言って笑うと女性もまた笑った。
『よかった』
女性は安心したように言うと、香子を家に招き入れた。
粗末な木の椅子と卓があり、香子は座るよう促された。
『本当の色は? 黒?』
そう聞かれて香子は首を傾げた。何の話だろう。
『髪』
と指差して言われ合点がいった。
『黒です』
(やけにこだわるな……)
どうもこの辺で様子がおかしいことに香子は気づいた。
『お湯どうぞ』
『ありがとう』
お茶を飲む習慣がないのだろうか。それともお茶を買えないほど貧しいのか。それでもここが中国だというなら煮沸したものが出てきただけありがたいとも香子は思う。
湯のみに入っているお湯は透明とは言い難く少し濁っていた。けれど香子はためらわず口をつけた。長江の川の水を煮沸したものを飲んだことがあるが、少し茶色がかっていた。あの時おなかは壊さなかったからこれも大丈夫だろうという判断である。
少し重いかんじがするがへんな味はしない。思ったより喉が渇いていたようだ。
そうしてすすっていると、小屋の表が不意に騒がしくなった。
聞きなれない音と聞きなれた音が混在している。香子は耳を澄ました。
女性は『ちょっと待ってて』と香子に声をかけて立ち上がった。彼女が入口まで歩いていった時入口にかかっていた布が払われた。
『わぁ……』
思わず香子は声を上げた。
入ってきたのはいかにも中国古代の文官服を着た、ひどく秀麗な男性だった。
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