上 下
487 / 597
第4部 四神を愛しなさいと言われました

35.除夕(旧暦の大晦日)をどう過ごすのか考えてしまいます

しおりを挟む
 除夕チュウシー(旧暦の大晦日)になった。
 朝である。相変わらず香子はベッドの上にいて、玄武と朱雀と共に転がっていた。
 忘れないうちにと明日の朝は早いから今夜は誰にも抱かれないと香子が言ったら、そういうことなら今日は一日抱いていたいと玄武と朱雀が言う。
 白虎と青龍には普段から遠慮させているのにそれはどうなのだと香子は目を丸くした。

『そうしたら白虎様や青龍様は……』
香子シャンズを抱きたい』
『知らぬ。抱かせよ』

 玄武と朱雀はいつになく強引だった。

『……せ、せめて白虎様、青龍様と相談ぐらいしてください!』
『相談か……』

 しぶしぶというかんじで、玄武が一瞬虚空を眺めた。きっと念話を使っているのだろうと香子は黙った。その間に朱雀に抱き寄せられ、香子は唇を塞がれた。朝から舌を奪うような激しい口づけをされ、香子は頭がぼうっとなるのを感じた。

『……んっ、んっ、んっ』
『……白虎と青龍はかまわぬそうだ』

 相談ではなく一方的に伝えたのではないかと香子は思ったが、胸をやわやわと揉まれ始めたらもうどうしようもなかった。
 ぐ~きゅるるる~~~
 そんな香子を助けたのはいつもの腹の虫で、香子はほっとした。やはり夕食は余程のことがない限り量を増やしてはならないという思いを新たにした。
 玄武と朱雀が致し方ないというように手を放す。おかげで朝から香子はHされないで済んだ。

(食べ溜めをするのは青龍様と抱き合う時だけにしよう……)
『……香子、しばし待て』
『はい、待ちます』

 玄武が念話で連絡してくれたようである。いわゆるテレパシーの類だが、とても便利だと香子は思う。いちいち鈴を鳴らして侍女を呼ばなくていいのだ。この便利さに慣れてしまうと四神の側にいるのが一番いいのである。

(あれー? 私便利さに負けてる?)

 便利に慣れると不便な生活には戻れないという典型的な状態に、香子は苦笑した。
 朝食が届いたと黒月から声をかけられた。香子は睡衣を直してもらってから玄武に抱かれて居間へ移動する。
 今日の朝食もいつも通りだった。そのいつも通りが豪勢である。
 どうしても四神に抱かれた翌朝は空腹感がひどい。(最近は抱かれない夜はないのだが)
 ふかふかの饅頭(マントウ)の間にザーサイや、小麦粉を揚げて作った細かいスナックのような物を挟んで食べる。あれもこれもおいしくて香子は幸せを感じるのだが、なにぶんとてもおなかがすいているのですごいスピードで食べてしまう。厨師コックが気を遣って毎回春巻を用意してくれるのも香子は嬉しくてたまらない。
 香子の気持ちとしては春巻だったら一度に十本ぐらい食べられると小さい頃から思っていたが、実際のところ三本も食べれば満腹になってしまうしそんなに食べると胃がちょっと重く感じられた。けれど今は何本食べても胃が重くなることはない。好きなものを好きなだけ食べられるという状況は、香子にとって天国のようだった。

『おいしい……春巻好き……』

 はふうとため息をつき、皮がパリパリの海老春巻を香子は食べた。

『ほんにそなたはおいしそうに食べるな』

 玄武もそう言いながら、上品な仕草ではあったがけっこうな量を食べている。

『おいしいですから!』

 そんな香子を、料理を運んでくる侍女たちや玄武と朱雀は微笑ましく見守っていた。


 ごはんがおいしくて香子は忘れていたが、日中は玄武と朱雀と共に抱き合うことになってしまった。
 しかし今日の午後は皇太后のところへ行くことになっている。最終的な衣裳の調整だ。
 先日で済んだではないかと四神は難色を示したが、香子の胸のサイズは日々変化しているのである。そろそろ大きさ的に落ち着いてもらいたいと香子も思っているが、本当にどこまで育つのかわからない。いきなり大きくなるわけではないが、大祭である。針子たちが慎重になるのも無理はなかった。

『では戻ってきてからならよいか』
『……夕飯はきちんといただきたいです。今日はせっかくの除夕なのですから』

 玄武に言われたが、それだけは香子も譲るわけにはいかない。

『ならば昼まで抱かせよ』

 朱雀はどうしてもしたくてたまらないらしい。

『……昼食までに終わりますか?』

 香子としてはあまりこういうことを聞きたくはなかったが、聞かないわけにもいかなかった。抱き合うのは確かに気持ちがいいし、求められるのも嬉しいが、香子の優先順位はごはんなのである。こればかりはどんなイケメンに迫られても変わることはないのだった。
 香子の食い意地が張っていることは間違いない。
 朱雀は苦笑した。

『江緑の元へ向かうのは何時(なんどき)か』
『申の刻だったかと』
『わかった。昼食の時間までにはそなたを離すよう努力しよう』
『……私、時間に遅れるのとかも嫌ですよ?』
『真面目なことだ』

 クックッと朱雀が笑う。

(もうっ!)

 香子はむくれたが、朱雀のことも好きだからどうしようもなかった。

(まずは誰かを選ばなきゃいけないんだよね……?)

 玄武の寝室に戻され、睡衣を脱がされながら香子は考える。それはもしかしたら人の都合かもしれない。
 四神の中で一番年を重ねているのは玄武だ。

(次代を産んだら、玄武様が消えてしまうなんて……私には耐えられるのかしら?)

 玄武と口づけを交わしながら、香子は泣きそうになるのをぐっとこらえた。


ーーーーー
江緑 皇太后の名前
しおりを挟む
感想 85

あなたにおすすめの小説

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた

いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。 一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!? 「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」 ##### r15は保険です。 2024年12月12日 私生活に余裕が出たため、投稿再開します。 それにあたって一部を再編集します。 設定や話の流れに変更はありません。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

お兄ちゃんはお医者さん!?

すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。 如月 陽菜(きさらぎ ひな) 病院が苦手。 如月 陽菜の主治医。25歳。 高橋 翔平(たかはし しょうへい) 内科医の医師。 ※このお話に出てくるものは 現実とは何の関係もございません。 ※治療法、病名など ほぼ知識なしで書かせて頂きました。 お楽しみください♪♪

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

処理中です...