482 / 598
第4部 四神を愛しなさいと言われました
30.何事も過ぎてはいけないのです
しおりを挟む
延夕玲を通して、香子は厨房へ要望を送った。
もちろん主官である趙文英にも報告をしてもらった。
『花嫁様、厨師たちはとても悲しんでいました。理由を知りたいと言われましたが、それは断って参りました』
『ありがとう……』
空腹を覚える時間がないと四神に抱き潰されてしまうだなんて、香子にはとても言えなかった。
『ですが、お伺いしてもよろしいでしょうか?』
さすがに夕玲には言わなければいけないだろうと、しぶしぶではあったが香子は理由を話した。
夕玲と侍女たちは『まぁ……』と声を出して絶句した。頬がほんのりと染まっている。香子はいたたまれなくなった。
一番最初に復帰したのは夕玲だった。
『花嫁様、朝食と昼食の量は増やしても問題はないのでしょうか?』
『それは……たぶん大丈夫だと思うわ。でも夕飯の量は……』
『そうですね。ではそのように厨房へは伝えましょう。確かに……花嫁様の召し上がる量が増えているとは聞いておりましたが、そのような弊害があるなんて……』
夕玲が困ったように言う。香子はそれで思い出した。
『あ、でも……』
ただそれは言いづらいといえば言いづらいことである。けれど言わなければ香子が困るので、そのまま続けた。
『ええと……青龍様と過ごすことになる日は夕飯の量を増やしてもらいたい……かな……』
言いながら香子は己の頬が熱くなるのを感じた。それを見ていた夕玲や侍女たちの頬も更に赤くなる。みな、香子が青龍に抱かれる日のことを思い出したのだった。
(青龍様って龍、なんだよね? なんであんなに時間が長くなるんだろう……)
前にも聞いたような気がするが、それでひどい目に遭ったような気が香子はした。それにしてもと香子は首を傾げた。朱雀の熱もそうなのだが、抱かれている最中はひどく気持ちがいいだけで何を口走っているかもその時はわからなくなってしまう。でも朝になれば自分の科白とか、何をされたとか覚えているから毎朝身もだえているわけで。
だというのに、何故か青龍に抱かれて力尽きて眠り、目覚めた後は一部ぼんやりしているように香子は思えるのだ。
(あれ? なんで青龍様に抱かれた後の朝ってあんなに記憶があいまいなんだろう……)
疑問に思うことだらけだが、聞けば確実にひどい目に遭うことはわかっているので心の中に留めておくことにした。きっと今はまだ香子が知るべきではないのだろうと蓋をして。
それにしても、春節が近いというのに四神宮はいつも通りである。
今日は青龍と過ごす日だ。
もう玄武や朱雀と日中過ごしてもかまわないといえばかまわないが、毎晩のように抱き合っているということもあり、日中はやはり白虎と青龍を優先して、香子は共に過ごすことにしている。
『青龍様に迎えに来ていただきたいわ』
そう呟けば夕玲が動いた。
一人しかいない女官を動かすのは、香子としてもいけないような気がする。夕玲は途中誰かに言付けできたのか、すぐに戻ってきた。
『夕玲、ありがとう』
夕玲は膝を少し曲げて両手をおなかに当てる礼をした。確かあれは万福礼というのではなかったかと香子はなんとなく思った。
(今日はどうしようかな)
春節の前である。四神宮は全体的に過ごしやすい気候だが、さすがに庭でお茶をするには向かない季節だ。気候自体は四神のおかげで快適だが、風などは遮れない為風が吹くとさすがに寒い。それでも香子としては青龍の室にいるより外にいる方が気が楽ではある。
なにせ最近は青龍も香子と共にいる時は手を出してくるようになってしまったからだった。
口づけをされながら身体に触れられると、香子もすぐに抵抗ができなくなってしまう。花嫁の身体は四神の為に日々作り変えられているので、香子が感じやすくなっているのは仕方のないことなのだが、香子は己の身体の反応に慣れないままだった。
お茶を飲みながら考えている間に、青龍が香子を迎えにきた。
『香子』
『青龍様』
香子はいつも通り両手を伸ばした。青龍は当たり前のように香子を抱き上げる。その光景を見て、侍女たちは内心ため息を吐いた。
花嫁が四神に抱き上げられている姿は一幅の絵のようである。それを侍女たちは密かに眼福だと身もだえているのだった。
『青龍様、今日は庭でお茶がしたいのですが……』
『我の室ではいけないのか?』
香子は頬を染め、青龍の腕に触れた。この先は誰にも聞かれたくなかったから、香子は心話で青龍に話すことにした。
《だって青龍様の室だと……》
《我の室だとなんだ?》
青龍の口元がほんの少しだけ上がる。青龍がニヤリとしているのがわかって、香子はムッとした。
《だって青龍様、最近私の身体を触るではありませんか》
《今も触れているぞ》
《そうではなくて……》
青龍がわかっていて言っているのも香子はわかっている。
《意地悪な青龍様は嫌です……》
だから拗ねてみせた。
《……わかった。昼までは庭に向かおう》
青龍がほんのりと笑みを浮かべ、譲歩した。
『東側の庭で過ごす。用意するように伝えよ』
『かしこまりました』
夕玲が返事をする。そして青龍は香子を抱いたまま渡り廊下に出た。
今日も晴れていて、空がとても青い。
(北京の空も晴れてはいたけど)
元の世界にいた時は、こんなに澄み切ってはいなかったなと香子は思った。
もちろん主官である趙文英にも報告をしてもらった。
『花嫁様、厨師たちはとても悲しんでいました。理由を知りたいと言われましたが、それは断って参りました』
『ありがとう……』
空腹を覚える時間がないと四神に抱き潰されてしまうだなんて、香子にはとても言えなかった。
『ですが、お伺いしてもよろしいでしょうか?』
さすがに夕玲には言わなければいけないだろうと、しぶしぶではあったが香子は理由を話した。
夕玲と侍女たちは『まぁ……』と声を出して絶句した。頬がほんのりと染まっている。香子はいたたまれなくなった。
一番最初に復帰したのは夕玲だった。
『花嫁様、朝食と昼食の量は増やしても問題はないのでしょうか?』
『それは……たぶん大丈夫だと思うわ。でも夕飯の量は……』
『そうですね。ではそのように厨房へは伝えましょう。確かに……花嫁様の召し上がる量が増えているとは聞いておりましたが、そのような弊害があるなんて……』
夕玲が困ったように言う。香子はそれで思い出した。
『あ、でも……』
ただそれは言いづらいといえば言いづらいことである。けれど言わなければ香子が困るので、そのまま続けた。
『ええと……青龍様と過ごすことになる日は夕飯の量を増やしてもらいたい……かな……』
言いながら香子は己の頬が熱くなるのを感じた。それを見ていた夕玲や侍女たちの頬も更に赤くなる。みな、香子が青龍に抱かれる日のことを思い出したのだった。
(青龍様って龍、なんだよね? なんであんなに時間が長くなるんだろう……)
前にも聞いたような気がするが、それでひどい目に遭ったような気が香子はした。それにしてもと香子は首を傾げた。朱雀の熱もそうなのだが、抱かれている最中はひどく気持ちがいいだけで何を口走っているかもその時はわからなくなってしまう。でも朝になれば自分の科白とか、何をされたとか覚えているから毎朝身もだえているわけで。
だというのに、何故か青龍に抱かれて力尽きて眠り、目覚めた後は一部ぼんやりしているように香子は思えるのだ。
(あれ? なんで青龍様に抱かれた後の朝ってあんなに記憶があいまいなんだろう……)
疑問に思うことだらけだが、聞けば確実にひどい目に遭うことはわかっているので心の中に留めておくことにした。きっと今はまだ香子が知るべきではないのだろうと蓋をして。
それにしても、春節が近いというのに四神宮はいつも通りである。
今日は青龍と過ごす日だ。
もう玄武や朱雀と日中過ごしてもかまわないといえばかまわないが、毎晩のように抱き合っているということもあり、日中はやはり白虎と青龍を優先して、香子は共に過ごすことにしている。
『青龍様に迎えに来ていただきたいわ』
そう呟けば夕玲が動いた。
一人しかいない女官を動かすのは、香子としてもいけないような気がする。夕玲は途中誰かに言付けできたのか、すぐに戻ってきた。
『夕玲、ありがとう』
夕玲は膝を少し曲げて両手をおなかに当てる礼をした。確かあれは万福礼というのではなかったかと香子はなんとなく思った。
(今日はどうしようかな)
春節の前である。四神宮は全体的に過ごしやすい気候だが、さすがに庭でお茶をするには向かない季節だ。気候自体は四神のおかげで快適だが、風などは遮れない為風が吹くとさすがに寒い。それでも香子としては青龍の室にいるより外にいる方が気が楽ではある。
なにせ最近は青龍も香子と共にいる時は手を出してくるようになってしまったからだった。
口づけをされながら身体に触れられると、香子もすぐに抵抗ができなくなってしまう。花嫁の身体は四神の為に日々作り変えられているので、香子が感じやすくなっているのは仕方のないことなのだが、香子は己の身体の反応に慣れないままだった。
お茶を飲みながら考えている間に、青龍が香子を迎えにきた。
『香子』
『青龍様』
香子はいつも通り両手を伸ばした。青龍は当たり前のように香子を抱き上げる。その光景を見て、侍女たちは内心ため息を吐いた。
花嫁が四神に抱き上げられている姿は一幅の絵のようである。それを侍女たちは密かに眼福だと身もだえているのだった。
『青龍様、今日は庭でお茶がしたいのですが……』
『我の室ではいけないのか?』
香子は頬を染め、青龍の腕に触れた。この先は誰にも聞かれたくなかったから、香子は心話で青龍に話すことにした。
《だって青龍様の室だと……》
《我の室だとなんだ?》
青龍の口元がほんの少しだけ上がる。青龍がニヤリとしているのがわかって、香子はムッとした。
《だって青龍様、最近私の身体を触るではありませんか》
《今も触れているぞ》
《そうではなくて……》
青龍がわかっていて言っているのも香子はわかっている。
《意地悪な青龍様は嫌です……》
だから拗ねてみせた。
《……わかった。昼までは庭に向かおう》
青龍がほんのりと笑みを浮かべ、譲歩した。
『東側の庭で過ごす。用意するように伝えよ』
『かしこまりました』
夕玲が返事をする。そして青龍は香子を抱いたまま渡り廊下に出た。
今日も晴れていて、空がとても青い。
(北京の空も晴れてはいたけど)
元の世界にいた時は、こんなに澄み切ってはいなかったなと香子は思った。
14
お気に入りに追加
4,015
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~
ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。
ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。
一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。
目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!?
「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる