479 / 597
第4部 四神を愛しなさいと言われました
27.新年の衣装を見せてもらいました
しおりを挟む
皇太后は香子が喜ぶお茶菓子を用意していた。
これも皇太后の好意だと、香子はありがたくいただいた。
『老仏爺、少々お聞きしたいのですが……私のところには女官が夕玲しかいないのです。もう何人かいた方がいいのでしょうか』
『四神の花嫁様ですから、本来であれば少なくとも十数人女官が付いてもおかしくはないはずですぞ』
『それは……』
当たり前のように皇太后に言われて、香子は内心冷汗をかいた。
『ですが、花嫁様付の女官を探すのは難儀でしょうな。よろしければこちらで一人探してみましょう』
『謝老仏爺』(皇太后、ありがとうございます)
『ほ、ほ……礼を言われるようなことではございません。そこな、眷属殿が夕玲を気に入っていると伺いましたのでな』
香子はちら、と青藍の方を見やった。皇太后に手間をかけさせるのは、香子としては本意ではなかった。青藍は涼やかな表情で佇んでいるのみである。
『老仏爺……』
延夕玲が困ったように小さな声を発した。
『お言葉ですが、気に入っているのではありません。夕玲は妻としていただくとお伝えしたはずです』
しかも青藍まで口を開いた。香子は怒りが沸々と湧いてくるのを感じた。香子の怒りを感じたのか、玄武が再び香子の髪に口づけた。
『青藍、控えよ』
白虎がいつもより低い声を発した。
『失礼しました』
青藍はすぐに引き下がった。
『江緑(皇太后の名)、眷属とはこういうものだ。理解せよ』
白虎が皇太后の方を向く。皇太后はわかっているというように口元に笑みを浮かべ、頷いた。
『わかっておりますとも。ですが夕玲は大事な預かり物でございます。大祭時にでも夕玲の両親にご挨拶を』
『承知しました』
青藍は拱手した。これで話は終ったようである。香子は内心ほっとしたが、やはり眷属のあり方はどうかと思った。
お茶とお茶菓子を楽しんだところで、皇太后と皇后は香子ににっこりと笑んだ。
『さ、花嫁様。衣装合わせの時間でございますよ』
『花嫁様の為にご用意させていただきました。どうぞこちらへ』
『は、はい……ありがとうございます』
春節の十日前である。衣装合わせがあるのは香子もわかっていたが、できれば勘弁してもらいたかったというのが本音だ。だが皇太后と皇后がとても楽しそうだったので、玄武を促して席を立ってもらった。
隣の部屋に用意してあるということで、黒月、夕玲を伴ってそちらへ移る。用意された布の量と、待ち構えていただろう仕立て屋とその針子たちの面々を見て香子は怯んだ。衣装はすでにできているだろうにどういうことなのかと聞きたくなってしまう。けれど、おそらく余計なことを聞けば更に衣装を用意されてしまう恐れもある為、香子はそっと自分の口を手で塞いだ。
『まぁ……いっぱいですね……』
仕立て屋の女主人とその針子たちは一斉にその場に傅いた。
『執明神君万歳万歳万々歳、白香娘娘千歳千歳千々歳!』
うわぁ、と香子は思った。あまり四神宮から出ていないということもあり、この挨拶は久しぶりだった。慈寧宮の女官や侍女にも挨拶は免除しているので香子は目を丸くした。
『免礼』(なおれ)
『謝神君!』(玄武様、ありがとうございます)
玄武にそう返され、彼女たちは頭を上げた。玄武はためらうように、そっと香子をその場で下ろした。
『しばし花嫁様をお借りします。玄武様、すみましたらすぐにお呼びしますので少々お待ちください』
皇太后がにこにこしながらそう言って、玄武を部屋から追い出した。さすがである。
(絶対この量は少々じゃすまないよね……)
香子は用意された衣装の量を見て内心げんなりした。
当然だが顔に出すようなことはしない。仕立て屋の女主人はともかく、その従業員たちの目がきらきらと輝いてるのだ。
『……よろしくお願いしますね?』
香子は改めて彼女たちにそう微笑みかけた。
『ありがたきお言葉……』
女主人は目頭をそっと押さえた。針子たちは頬を染める。そして彼女たちの作品を香子たちにお披露目した。
『花嫁様、こちらが花嫁様用の新年の衣装でございます。どうかご試着をお願いします』
『……わかったわ』
飾られていた物、衣装箱の中の全てが香子の衣装だと聞かされて、香子は遠い目をしたくなった。
新しい衣装は嬉しいと香子も思う。ただその量が尋常ではないのだ。そうでなくとも朱雀の領地からも衣装を用意され、日々四神宮にも贈物と称して数々の衣装が届けられている。香子が好きだと言った猫眼石の装飾品も増えていく一方だ。その数は香子の予想をはるかに超えており、一生かかっても着られないのではないかと思うような量である。一度袖を通したら捨てても問題ないと言えるような衣装の数に、香子は口元を引きつらせた。
基本的にこちらの衣装は身体にぴったりしたものではないので多少太ったぐらいでは問題はない。
『まぁ……こちらの布はもう少しあった方がよかったですね。少々お待ちを』
そう、ウエストはいいのだ。問題は香子の胸だった。
『花嫁様の胸はそんなに大きかったかのう』
皇太后と皇后が首を傾げた。全て白虎のせいである。夕玲はそっと目を逸らした。
『……まだ育っているみたいです』
香子は頬を染めて、そう答えることしかできなかった。
ーーーーー
執明神君 玄武のこと
白香娘娘 香子のこと
これも皇太后の好意だと、香子はありがたくいただいた。
『老仏爺、少々お聞きしたいのですが……私のところには女官が夕玲しかいないのです。もう何人かいた方がいいのでしょうか』
『四神の花嫁様ですから、本来であれば少なくとも十数人女官が付いてもおかしくはないはずですぞ』
『それは……』
当たり前のように皇太后に言われて、香子は内心冷汗をかいた。
『ですが、花嫁様付の女官を探すのは難儀でしょうな。よろしければこちらで一人探してみましょう』
『謝老仏爺』(皇太后、ありがとうございます)
『ほ、ほ……礼を言われるようなことではございません。そこな、眷属殿が夕玲を気に入っていると伺いましたのでな』
香子はちら、と青藍の方を見やった。皇太后に手間をかけさせるのは、香子としては本意ではなかった。青藍は涼やかな表情で佇んでいるのみである。
『老仏爺……』
延夕玲が困ったように小さな声を発した。
『お言葉ですが、気に入っているのではありません。夕玲は妻としていただくとお伝えしたはずです』
しかも青藍まで口を開いた。香子は怒りが沸々と湧いてくるのを感じた。香子の怒りを感じたのか、玄武が再び香子の髪に口づけた。
『青藍、控えよ』
白虎がいつもより低い声を発した。
『失礼しました』
青藍はすぐに引き下がった。
『江緑(皇太后の名)、眷属とはこういうものだ。理解せよ』
白虎が皇太后の方を向く。皇太后はわかっているというように口元に笑みを浮かべ、頷いた。
『わかっておりますとも。ですが夕玲は大事な預かり物でございます。大祭時にでも夕玲の両親にご挨拶を』
『承知しました』
青藍は拱手した。これで話は終ったようである。香子は内心ほっとしたが、やはり眷属のあり方はどうかと思った。
お茶とお茶菓子を楽しんだところで、皇太后と皇后は香子ににっこりと笑んだ。
『さ、花嫁様。衣装合わせの時間でございますよ』
『花嫁様の為にご用意させていただきました。どうぞこちらへ』
『は、はい……ありがとうございます』
春節の十日前である。衣装合わせがあるのは香子もわかっていたが、できれば勘弁してもらいたかったというのが本音だ。だが皇太后と皇后がとても楽しそうだったので、玄武を促して席を立ってもらった。
隣の部屋に用意してあるということで、黒月、夕玲を伴ってそちらへ移る。用意された布の量と、待ち構えていただろう仕立て屋とその針子たちの面々を見て香子は怯んだ。衣装はすでにできているだろうにどういうことなのかと聞きたくなってしまう。けれど、おそらく余計なことを聞けば更に衣装を用意されてしまう恐れもある為、香子はそっと自分の口を手で塞いだ。
『まぁ……いっぱいですね……』
仕立て屋の女主人とその針子たちは一斉にその場に傅いた。
『執明神君万歳万歳万々歳、白香娘娘千歳千歳千々歳!』
うわぁ、と香子は思った。あまり四神宮から出ていないということもあり、この挨拶は久しぶりだった。慈寧宮の女官や侍女にも挨拶は免除しているので香子は目を丸くした。
『免礼』(なおれ)
『謝神君!』(玄武様、ありがとうございます)
玄武にそう返され、彼女たちは頭を上げた。玄武はためらうように、そっと香子をその場で下ろした。
『しばし花嫁様をお借りします。玄武様、すみましたらすぐにお呼びしますので少々お待ちください』
皇太后がにこにこしながらそう言って、玄武を部屋から追い出した。さすがである。
(絶対この量は少々じゃすまないよね……)
香子は用意された衣装の量を見て内心げんなりした。
当然だが顔に出すようなことはしない。仕立て屋の女主人はともかく、その従業員たちの目がきらきらと輝いてるのだ。
『……よろしくお願いしますね?』
香子は改めて彼女たちにそう微笑みかけた。
『ありがたきお言葉……』
女主人は目頭をそっと押さえた。針子たちは頬を染める。そして彼女たちの作品を香子たちにお披露目した。
『花嫁様、こちらが花嫁様用の新年の衣装でございます。どうかご試着をお願いします』
『……わかったわ』
飾られていた物、衣装箱の中の全てが香子の衣装だと聞かされて、香子は遠い目をしたくなった。
新しい衣装は嬉しいと香子も思う。ただその量が尋常ではないのだ。そうでなくとも朱雀の領地からも衣装を用意され、日々四神宮にも贈物と称して数々の衣装が届けられている。香子が好きだと言った猫眼石の装飾品も増えていく一方だ。その数は香子の予想をはるかに超えており、一生かかっても着られないのではないかと思うような量である。一度袖を通したら捨てても問題ないと言えるような衣装の数に、香子は口元を引きつらせた。
基本的にこちらの衣装は身体にぴったりしたものではないので多少太ったぐらいでは問題はない。
『まぁ……こちらの布はもう少しあった方がよかったですね。少々お待ちを』
そう、ウエストはいいのだ。問題は香子の胸だった。
『花嫁様の胸はそんなに大きかったかのう』
皇太后と皇后が首を傾げた。全て白虎のせいである。夕玲はそっと目を逸らした。
『……まだ育っているみたいです』
香子は頬を染めて、そう答えることしかできなかった。
ーーーーー
執明神君 玄武のこと
白香娘娘 香子のこと
22
お気に入りに追加
4,015
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる