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第4部 四神を愛しなさいと言われました
26.皇太后にまたまた招かれました
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冬の大祭と呼ばれる春節は、穏やかに近づいてきていた。
春節の十日前になって、香子は皇太后に呼ばれて慈寧宮に顔を出した。昼食の後である。
白虎の腕に抱かれ、玄武、白雲、黒月、青藍、延夕玲と共に向かった。青藍は最近夕玲を口説くのに場所を選ばなくなった。それにはさすがに香子も苦情を言った。
『仕事中はだめ!』と。
『……せめて時間を区切っていただきたい。夕玲が花嫁様の部屋にいる時間は長すぎます』
『……仕事ってそういうものでしょう?』
『でしたら女官を増やしてください。夕玲の仕事が多すぎます』
青藍に文句を言われ、香子は考えた。そう簡単に女官とは増やせるものなのだろうか。ただでさえ四神宮の侍女を確保するのが難しいのに女官など、と香子が思うのも無理はなかった。
それはともかく慈寧宮である。
皇太后と皇后がにこやかに香子を迎えた。一通り挨拶を終えると、皇太后は眩しそうに白虎を眺めた。
『白虎様が花嫁様を抱き上げているのを見るのはほんに、眼福ですのぅ』
皇太后は目尻を拭う仕草をした。香子は内心苦笑した。
『此度は冬の大祭でございます故、花嫁様は玄武様に抱き上げていただきましょう』
玄武が当たり前のように香子を白虎から受け取った。そして香子の髪にそっと口づける。香子は真っ赤になった。
『ほ、ほ……なんと初々しいこと。さ、お茶をどうぞ』
香子は玄武の腕に抱かれたまま長椅子に腰掛けることとなった。
(わざわざこの長椅子、用意してくれたのかな……)
最近は四神が絶対に香子を離すまいとしているから、長椅子も用意されるようになっていた。それはそれで香子としては恥ずかしいのだが、四神が離さないのだからしかたない。毎回こんな恰好ですみませんと、香子は思うばかりである。
『花嫁様、朱雀様の領地に向かわれたとお聞きしましたが、如何でしたか?』
皇后に聞かれて、みな知っているのだなと香子は理解した。
『こちらより暖かいところでした。市井に下りたのですが、なかなか活気があって楽しかったです』
『まぁ……北京と比べてはどうなのでしょう?』
それは香子としても聞かれて困ることだった。
『こちらでは……街歩きなどしていないので比べられないのです』
皇后は口元を押さえた。
『妾としたことが……。申し訳ありません。花嫁様がこちらで街歩きなどされたら、確かにたいへんなことになってしまいますね』
『おそらくは。この髪の色は目立つでしょうし』
『それだけではございますまい。花嫁様は必ず四神の腕に抱かれて移動されることになりますから、そのような姿で街を歩かれたら大騒ぎになってしまいましょうな』
『そうですね。そういえば、老仏爺は街歩きはしたことはございますか?』
ないだろうとは思ったが、ちょっと気になって聞いてみた。すると、皇太后は嬉しそうに目を細めた。
『ほ、ほ……内緒でございますよ』
そう言って、皇太后はお忍びで先代の皇帝と街歩きをしたことがあると教えてくれた。
『ええー! そんなことが!』
『あの頃は平和でございました故、皇上(皇帝)もよく街歩きをしていたのです。それに一、二度同行させていただいただけでございますよ』
その一、二度が皇太后の宝物になっていることは想像に難くなかった。皇后は眩しそうに皇太后を眺めた。
『ですがのぅ……皇上はまだ若い身の上で即位されましたから、まだ旧態依然とした輩は残ってございます。しばらくは市井にお忍びで遊びに行くなどということはできますまい』
皇太后は首を振った。今皇太后が言った”皇上”は現在の皇帝のことだったが、皇太后は本当に先代の皇帝と仲が良かったのだろうということが香子にも感じられた。
(でも、皇帝って奥さんがいっぱいいるんだもんね……)
そんなのは嫌だと香子は思ってしまう。これは香子がそういう文化で暮らしてきたから思うことであって、この国の上流階級ではそれはまかり通らない。それを香子もわかってはいるが気持ちとしては納得がいかなかった。
皇后に皇帝との仲を聞くのは失礼かと思ったが、香子は聞かずにはいられなかった。
『皇后、最近皇帝はどうかしら? 皇后につらく当たったりはしていない?』
皇后ははっとしたような顔をした。
『はい、花嫁様のおかげでつつがなく過ごしております』
『そう? それならいいのだけど……』
香子にとって女性を泣かせるような男は論外である。ハーレムならハーレムでもいいが、全ての女性を幸せにするべきだというのが香子の持論だった。
『国母を尊重しない皇上など、民はついてきませぬからのぉ。そこは妾も話はしましたぞ』
皇太后がにこやかに言う。
確かに皇后とは政略結婚かもしれないが、皇后が不満を抱えて四神の花嫁を攻撃するようでは下手したら国そのものが滅んでしまうだろう。
あまり顔を合わせたくはないが、また香子は皇帝の顔を見に行かなくてはならないのではないかと思う。
(やだなぁ……)
いくら顔がよくてもあんなのはお断りだと香子はげんなりしたのだった。
春節の十日前になって、香子は皇太后に呼ばれて慈寧宮に顔を出した。昼食の後である。
白虎の腕に抱かれ、玄武、白雲、黒月、青藍、延夕玲と共に向かった。青藍は最近夕玲を口説くのに場所を選ばなくなった。それにはさすがに香子も苦情を言った。
『仕事中はだめ!』と。
『……せめて時間を区切っていただきたい。夕玲が花嫁様の部屋にいる時間は長すぎます』
『……仕事ってそういうものでしょう?』
『でしたら女官を増やしてください。夕玲の仕事が多すぎます』
青藍に文句を言われ、香子は考えた。そう簡単に女官とは増やせるものなのだろうか。ただでさえ四神宮の侍女を確保するのが難しいのに女官など、と香子が思うのも無理はなかった。
それはともかく慈寧宮である。
皇太后と皇后がにこやかに香子を迎えた。一通り挨拶を終えると、皇太后は眩しそうに白虎を眺めた。
『白虎様が花嫁様を抱き上げているのを見るのはほんに、眼福ですのぅ』
皇太后は目尻を拭う仕草をした。香子は内心苦笑した。
『此度は冬の大祭でございます故、花嫁様は玄武様に抱き上げていただきましょう』
玄武が当たり前のように香子を白虎から受け取った。そして香子の髪にそっと口づける。香子は真っ赤になった。
『ほ、ほ……なんと初々しいこと。さ、お茶をどうぞ』
香子は玄武の腕に抱かれたまま長椅子に腰掛けることとなった。
(わざわざこの長椅子、用意してくれたのかな……)
最近は四神が絶対に香子を離すまいとしているから、長椅子も用意されるようになっていた。それはそれで香子としては恥ずかしいのだが、四神が離さないのだからしかたない。毎回こんな恰好ですみませんと、香子は思うばかりである。
『花嫁様、朱雀様の領地に向かわれたとお聞きしましたが、如何でしたか?』
皇后に聞かれて、みな知っているのだなと香子は理解した。
『こちらより暖かいところでした。市井に下りたのですが、なかなか活気があって楽しかったです』
『まぁ……北京と比べてはどうなのでしょう?』
それは香子としても聞かれて困ることだった。
『こちらでは……街歩きなどしていないので比べられないのです』
皇后は口元を押さえた。
『妾としたことが……。申し訳ありません。花嫁様がこちらで街歩きなどされたら、確かにたいへんなことになってしまいますね』
『おそらくは。この髪の色は目立つでしょうし』
『それだけではございますまい。花嫁様は必ず四神の腕に抱かれて移動されることになりますから、そのような姿で街を歩かれたら大騒ぎになってしまいましょうな』
『そうですね。そういえば、老仏爺は街歩きはしたことはございますか?』
ないだろうとは思ったが、ちょっと気になって聞いてみた。すると、皇太后は嬉しそうに目を細めた。
『ほ、ほ……内緒でございますよ』
そう言って、皇太后はお忍びで先代の皇帝と街歩きをしたことがあると教えてくれた。
『ええー! そんなことが!』
『あの頃は平和でございました故、皇上(皇帝)もよく街歩きをしていたのです。それに一、二度同行させていただいただけでございますよ』
その一、二度が皇太后の宝物になっていることは想像に難くなかった。皇后は眩しそうに皇太后を眺めた。
『ですがのぅ……皇上はまだ若い身の上で即位されましたから、まだ旧態依然とした輩は残ってございます。しばらくは市井にお忍びで遊びに行くなどということはできますまい』
皇太后は首を振った。今皇太后が言った”皇上”は現在の皇帝のことだったが、皇太后は本当に先代の皇帝と仲が良かったのだろうということが香子にも感じられた。
(でも、皇帝って奥さんがいっぱいいるんだもんね……)
そんなのは嫌だと香子は思ってしまう。これは香子がそういう文化で暮らしてきたから思うことであって、この国の上流階級ではそれはまかり通らない。それを香子もわかってはいるが気持ちとしては納得がいかなかった。
皇后に皇帝との仲を聞くのは失礼かと思ったが、香子は聞かずにはいられなかった。
『皇后、最近皇帝はどうかしら? 皇后につらく当たったりはしていない?』
皇后ははっとしたような顔をした。
『はい、花嫁様のおかげでつつがなく過ごしております』
『そう? それならいいのだけど……』
香子にとって女性を泣かせるような男は論外である。ハーレムならハーレムでもいいが、全ての女性を幸せにするべきだというのが香子の持論だった。
『国母を尊重しない皇上など、民はついてきませぬからのぉ。そこは妾も話はしましたぞ』
皇太后がにこやかに言う。
確かに皇后とは政略結婚かもしれないが、皇后が不満を抱えて四神の花嫁を攻撃するようでは下手したら国そのものが滅んでしまうだろう。
あまり顔を合わせたくはないが、また香子は皇帝の顔を見に行かなくてはならないのではないかと思う。
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いくら顔がよくてもあんなのはお断りだと香子はげんなりしたのだった。
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