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第4部 四神を愛しなさいと言われました
25.あれもこれもと欲張ってしまうものです
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朱雀の熱のみ与えられて、香子は玄武と二人きりで抱き合った。
香子に朱雀の熱を受けよと命じたのは玄武で、それがどうしてなのかは香子はわからなかったが、おそらく香子の身体を気遣っているのだということは香子にも感じられた。
そんな、ただ都合のいい時だけ朱雀に頼るなんてと香子も思ったが、朱雀に熱を与えられたらもう何も考えられなくなった。
「あっ、ああっ……!」
甘い、甘い熱に浮かされて、香子はどろどろに溶かされる。それぐらい四神に抱かれるのは気持ちがいい。
「玄武、さま……玄武さまぁ……」
甘えた声を上げて、玄武が満足するまで香子は貪られた。
さすがに目を覚ました時照れることはなくなった、と香子は思う。
それでも恥ずかしいことは恥ずかしい。
『香子』
玄武の幸せそうな顔が至近距離にあって、香子はぼんっと顔を真っ赤に染めた。何度も言おう。香子はメンクイである。それも超ド級のメンクイなのだ。四神の顔はみな好みだから、こんな近くで見つめられたら困ってしまうのである。
抱かれた翌朝にそのことで照れることはなくなったが、目覚めた時に四神の顔が至近距離にあるのは未だ慣れない。
玄武は香子が目覚めるまで香子を眺めていたようだった。床で頬杖をついて香子を見ている玄武が素敵すぎて、香子は鼻血が出そうだと思った。
『そなに、我の顔が好きか?』
『ええ……心臓に悪いぐらい好きですね……』
『それはいけないな』
玄武は笑んで、香子を抱き寄せた。昨夜大量に夕飯を食べたせいなのか、香子はまだ空腹を覚えてはいなかった。だから玄武にくっついて、しばらくそのまま玄武の逞しさを堪能することができた。
『うーん……』
『如何した?』
『やっぱり食べる量によっておなかのすき方が違うみたいです……』
『そうか。ならば抱いてもよいか?』
色を含んだ流し目をされて、香子は背筋がぞくぞくするのを感じた。
『だ、だめですっ! 明るい時間はしないんですっ!』
玄武はククッと喉の奥で笑った。
『それは残念だ』
本気ではなかったのだろう。香子はほっとした。そして朝食が玄武の室の居間に運ばれ、無事香子は朝ごはんを食べることができたのだった。
その日は張錦飛が書を教えに来てくれた。
年末なのでいろいろ忙しいと張がぼやいていた。
『そんな忙しい中、来ていただいてもよろしいのでしょうか?』
張は長い髭を手ですきながらほっほっほっと笑った。やっぱりバルタン星人かもしれないと香子は思う。
『四神宮は暖かいですし、花嫁様と話すのは楽しいですからな。ここに来るのは癒しと言いましょうか……花嫁様が四神に嫁がれるのは嬉しいことですが、花嫁様に会えなくなるかと思うと少し寂しくも感じますな』
『そうですね……いくらなんでも四神を使いにするわけにもいきませんし』
香子が誰かに嫁いだとして、それでも張に書を習おうと思ったら張を領地にその都度招かなければならないだろう。その際の足を考えると四神に連れてきてもらう方が早いのだが、さすがに四神にそんなことを頼むわけにはいかなかった。四神もじじいを連れて跳ぶのは嫌だと言っていた。
『その時だけ花嫁様がこちらにいらっしゃることも難しいでしょうしな』
張は嘆息した。それも香子は検討したいと思ってはいるが、果たしてそんなことを四神がしてくれるかという問題もある。結婚したらそれこそ四六時中愛欲の日々になってしまいそうなのだ。そうなったら書を習うどころではないだろう。
(そんなことより子を成す方が先なんだってのはわかるけど……)
玄武はすでに千歳を超えていると聞くし、朱雀も七百歳をゆうに超えているのだ。子作りが優先になるのはしかたないことだろうと香子も諦めてはいる。
(でも、張老師は間違いなく私より早く亡くなってしまう)
子が欲しくないとは香子は言えない。張に書を習う日々をもう少し過ごすことはできないのかと思ってしまうだけだ。
『そういえば朱雀様の領地に向かわれたとお聞きしましたが、如何でしたか?』
張は香子の表情が沈んでいるのを見て話題を変えた。年寄りに気を使わせてしまうなんてと香子ははっとしたが、その話題に乗ることにした。
『北京より暖かかったと思います。こちらにいる人々より、街の皆さんの恰好は薄着でしたし……』
『それはいいですなぁ。どうも北京は寒くて困ります。この暖石がなければ私など全身が凍えてしまうでしょう』
『暖石があってよかったです』
香子は笑んだ。張が巾着袋に入れて持っている暖石はけっこうな大きさのものだった。それならば張が凍えることはないだろう。ホッ〇イロなどと違って低温火傷をすることもないらしいスグレモノである。
(元の世界にもこんなのがあったらよかったのに)
夏は特に涼石が重宝される。香子は基本四神と一緒にいるし、四神宮から出ないからあまり気候の影響は受けないが、それでもそれらの石が貴重なものだということはわかっていた。
書は相変わらずあまり上達しているとはいえない。
けれどこの時間もまたかけがえのないものだと香子は思った。
香子に朱雀の熱を受けよと命じたのは玄武で、それがどうしてなのかは香子はわからなかったが、おそらく香子の身体を気遣っているのだということは香子にも感じられた。
そんな、ただ都合のいい時だけ朱雀に頼るなんてと香子も思ったが、朱雀に熱を与えられたらもう何も考えられなくなった。
「あっ、ああっ……!」
甘い、甘い熱に浮かされて、香子はどろどろに溶かされる。それぐらい四神に抱かれるのは気持ちがいい。
「玄武、さま……玄武さまぁ……」
甘えた声を上げて、玄武が満足するまで香子は貪られた。
さすがに目を覚ました時照れることはなくなった、と香子は思う。
それでも恥ずかしいことは恥ずかしい。
『香子』
玄武の幸せそうな顔が至近距離にあって、香子はぼんっと顔を真っ赤に染めた。何度も言おう。香子はメンクイである。それも超ド級のメンクイなのだ。四神の顔はみな好みだから、こんな近くで見つめられたら困ってしまうのである。
抱かれた翌朝にそのことで照れることはなくなったが、目覚めた時に四神の顔が至近距離にあるのは未だ慣れない。
玄武は香子が目覚めるまで香子を眺めていたようだった。床で頬杖をついて香子を見ている玄武が素敵すぎて、香子は鼻血が出そうだと思った。
『そなに、我の顔が好きか?』
『ええ……心臓に悪いぐらい好きですね……』
『それはいけないな』
玄武は笑んで、香子を抱き寄せた。昨夜大量に夕飯を食べたせいなのか、香子はまだ空腹を覚えてはいなかった。だから玄武にくっついて、しばらくそのまま玄武の逞しさを堪能することができた。
『うーん……』
『如何した?』
『やっぱり食べる量によっておなかのすき方が違うみたいです……』
『そうか。ならば抱いてもよいか?』
色を含んだ流し目をされて、香子は背筋がぞくぞくするのを感じた。
『だ、だめですっ! 明るい時間はしないんですっ!』
玄武はククッと喉の奥で笑った。
『それは残念だ』
本気ではなかったのだろう。香子はほっとした。そして朝食が玄武の室の居間に運ばれ、無事香子は朝ごはんを食べることができたのだった。
その日は張錦飛が書を教えに来てくれた。
年末なのでいろいろ忙しいと張がぼやいていた。
『そんな忙しい中、来ていただいてもよろしいのでしょうか?』
張は長い髭を手ですきながらほっほっほっと笑った。やっぱりバルタン星人かもしれないと香子は思う。
『四神宮は暖かいですし、花嫁様と話すのは楽しいですからな。ここに来るのは癒しと言いましょうか……花嫁様が四神に嫁がれるのは嬉しいことですが、花嫁様に会えなくなるかと思うと少し寂しくも感じますな』
『そうですね……いくらなんでも四神を使いにするわけにもいきませんし』
香子が誰かに嫁いだとして、それでも張に書を習おうと思ったら張を領地にその都度招かなければならないだろう。その際の足を考えると四神に連れてきてもらう方が早いのだが、さすがに四神にそんなことを頼むわけにはいかなかった。四神もじじいを連れて跳ぶのは嫌だと言っていた。
『その時だけ花嫁様がこちらにいらっしゃることも難しいでしょうしな』
張は嘆息した。それも香子は検討したいと思ってはいるが、果たしてそんなことを四神がしてくれるかという問題もある。結婚したらそれこそ四六時中愛欲の日々になってしまいそうなのだ。そうなったら書を習うどころではないだろう。
(そんなことより子を成す方が先なんだってのはわかるけど……)
玄武はすでに千歳を超えていると聞くし、朱雀も七百歳をゆうに超えているのだ。子作りが優先になるのはしかたないことだろうと香子も諦めてはいる。
(でも、張老師は間違いなく私より早く亡くなってしまう)
子が欲しくないとは香子は言えない。張に書を習う日々をもう少し過ごすことはできないのかと思ってしまうだけだ。
『そういえば朱雀様の領地に向かわれたとお聞きしましたが、如何でしたか?』
張は香子の表情が沈んでいるのを見て話題を変えた。年寄りに気を使わせてしまうなんてと香子ははっとしたが、その話題に乗ることにした。
『北京より暖かかったと思います。こちらにいる人々より、街の皆さんの恰好は薄着でしたし……』
『それはいいですなぁ。どうも北京は寒くて困ります。この暖石がなければ私など全身が凍えてしまうでしょう』
『暖石があってよかったです』
香子は笑んだ。張が巾着袋に入れて持っている暖石はけっこうな大きさのものだった。それならば張が凍えることはないだろう。ホッ〇イロなどと違って低温火傷をすることもないらしいスグレモノである。
(元の世界にもこんなのがあったらよかったのに)
夏は特に涼石が重宝される。香子は基本四神と一緒にいるし、四神宮から出ないからあまり気候の影響は受けないが、それでもそれらの石が貴重なものだということはわかっていた。
書は相変わらずあまり上達しているとはいえない。
けれどこの時間もまたかけがえのないものだと香子は思った。
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