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第4部 四神を愛しなさいと言われました
23.葛藤が深すぎます
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朱雀の室に入ると、朱雀は長椅子に腰掛けた。
香子は内心ほっとした。白虎のように寝室に運ばれなくてよかったと思う。
紅夏がお茶を淹れた。
『ありがとう……』
大きな陶器の急須だ。まるで香子が来るのを待っていたかのようである。
(四神は連絡もできるんだもんね……)
香子はぼんやり思った。
白虎が朱雀にヘルプをかけ、朱雀は香子を受け取りに行くとでも眷属に告げたのだろうか。いちいち確認することでもないが、眷属は本当に自分たちの神がよいように行動する。
(別にお金をもらったりしてるわけじゃないんだよね?)
侍女や武官、主官である趙文英や女官である延夕玲は給金をもらって働いているわけだが、眷属たちはどうなのだろうと、香子は今更ながら考えた。
『ねえ、紅夏。貴方たち眷属は賃金をもらっているの?』
『賃金という形ではもらっていませんが、使えるお金はございます』
『そうなんだ……』
『財務を担っている眷属と人間の役人が貢物と税金から全てを賄えるように計算しているはずです。人間の役人がごまかしなどをしていないかどうかは朱雀様に会わせればすぐにわかりますので、財務管理などもしやすいようです』
紅夏はそう言って、珍しく楽しそうに笑んだ。
『そうなのね。ありがとう』
だからなんだというわけではないが、白雲は侍女頭である陳秀美と、紅夏は紅児と、青藍は延夕玲を娶る予定なのだから経済力は必須であると香子は考えたのだ。紅児はすでに紅夏に娶られているのだが……。
(ああ、もう一人いたああああ)
紅炎が香子の侍女である林雪紅を口説いていることを香子は思い出した。
四神には貢物が山と届けられる。その貢物と領地の税金で四神の領地は潤っている。土地自体は辺鄙で、過酷な場所らしいのだが、四神がいることで領民たちはそこから離れようとしないし、かえってそこに住みたいと思う者がいるぐらいだ。
だから四神の眷属も経済力はある。
(でもあの口説き方には納得がいかないっ!)
とはいえ人のことである。香子が口を出すとこじれるから止めてくれと夕玲に言われているので、香子はどうにか抑えているのだった。
『花嫁様』
『ん?』
また珍しく紅夏が香子に声をかけた。紅夏が香子に声をかけることはほとんどない。それは紅児の件があるから猶更だった。
『何かしら?』
『朱雀様に嫁がれる気はないのですか? 朱雀様に嫁げば、エリーザにもいつでも会えます』
『う……』
なんというアピール、と香子は詰まった。それを言われると香子は弱い。以前もそんなようなことを言われたことがあったような気がした。
『そ、そそそそんなことで朱雀様に嫁いだら失礼じゃない……』
『失礼ではないぞ。そなたが我と同じぐらい我を想ってくれるよう口説き続ければいいのだからな』
香子の椅子になっている朱雀が楽しそうに囁いた。そのテナーが香子を優しく包む。
(ううう……そんないい声でそんなことを言わないでほしい)
そうでなくとも香子はメンクイだし、いい声にも弱いし、四神の体格も好みだしでどうしようもないのである。香子は自分が何に抗っているのかわからなくなってきた。
しかし香子は四神の花嫁だから、香子を望んでいるのは朱雀だけではないということをどうにか思い出した。
(あ、危なかった……)
香子からすれば、いい声で囁くの禁止! と言いたいぐらいだが朱雀はその声なのだからしょうがない。玄武のバリトンは腰が砕けそうになるし、白虎のバスも痺れるし、青龍の涼やかな声も耳に心地良い。香子は声フェチではないが、四神の声にはたまらんと思っている。
『い、いいえ! ちゃんと、朱雀様のことも、玄武様とか、白虎様とか、青龍様のことも考えますから!』
『真面目なことだ』
朱雀が楽しそうにククッと笑う。その声も反則! と香子は内心大いに身もだえた。
『……エリーザでもつれないとすればどうしたらいいのでしょうかね……』
紅夏が考えるような顔をした。おい、お前! と香子は文句を言いたくなった。
『だからっ! 結婚ってそういうことで決めちゃいけないと思うのよっ!』
『よいではありませんか。朱雀様と結婚したら退屈はしませんよ』
『そうなんだろうってことはわかるけどそうじゃなくて……』
ああうう……と頭を抱えた。
『紅夏、あまり香子を困らせるな』
『……それもこれも朱雀様が本気で口説かないからいけないのではありませんか』
『……そなたにはわからぬ』
香子はその声にゾクッとした。冷たいのに、甘く感じる。冷たい返答は紅夏に、けれどそれは香子にとってはひどく甘い。
香子は朱雀が好きなのだ。抱かれてもいいぐらい好きで、でも嫁ぐとなると二の足を踏んでしまう。
(ずっと朱雀様とだけなんて……まだ想像つかない……)
『朱雀様』
香子は少し振り向くようにして、朱雀を窺った。
『如何した?』
待たせているという自覚もあるし、きっと四神にも嫉妬はあるだろうしと香子の葛藤は深い。
『いえ……お茶、おいしいです』
身体まで甘くなっているのがわかって、香子は戸惑った。このまま朱雀に抱かれたいと香子は思う。
だがそれはしてはいけないことのように、香子には感じられた。
ーーーーー
香子ちゃん、相変わらずもだもだぐーるぐる。
香子は内心ほっとした。白虎のように寝室に運ばれなくてよかったと思う。
紅夏がお茶を淹れた。
『ありがとう……』
大きな陶器の急須だ。まるで香子が来るのを待っていたかのようである。
(四神は連絡もできるんだもんね……)
香子はぼんやり思った。
白虎が朱雀にヘルプをかけ、朱雀は香子を受け取りに行くとでも眷属に告げたのだろうか。いちいち確認することでもないが、眷属は本当に自分たちの神がよいように行動する。
(別にお金をもらったりしてるわけじゃないんだよね?)
侍女や武官、主官である趙文英や女官である延夕玲は給金をもらって働いているわけだが、眷属たちはどうなのだろうと、香子は今更ながら考えた。
『ねえ、紅夏。貴方たち眷属は賃金をもらっているの?』
『賃金という形ではもらっていませんが、使えるお金はございます』
『そうなんだ……』
『財務を担っている眷属と人間の役人が貢物と税金から全てを賄えるように計算しているはずです。人間の役人がごまかしなどをしていないかどうかは朱雀様に会わせればすぐにわかりますので、財務管理などもしやすいようです』
紅夏はそう言って、珍しく楽しそうに笑んだ。
『そうなのね。ありがとう』
だからなんだというわけではないが、白雲は侍女頭である陳秀美と、紅夏は紅児と、青藍は延夕玲を娶る予定なのだから経済力は必須であると香子は考えたのだ。紅児はすでに紅夏に娶られているのだが……。
(ああ、もう一人いたああああ)
紅炎が香子の侍女である林雪紅を口説いていることを香子は思い出した。
四神には貢物が山と届けられる。その貢物と領地の税金で四神の領地は潤っている。土地自体は辺鄙で、過酷な場所らしいのだが、四神がいることで領民たちはそこから離れようとしないし、かえってそこに住みたいと思う者がいるぐらいだ。
だから四神の眷属も経済力はある。
(でもあの口説き方には納得がいかないっ!)
とはいえ人のことである。香子が口を出すとこじれるから止めてくれと夕玲に言われているので、香子はどうにか抑えているのだった。
『花嫁様』
『ん?』
また珍しく紅夏が香子に声をかけた。紅夏が香子に声をかけることはほとんどない。それは紅児の件があるから猶更だった。
『何かしら?』
『朱雀様に嫁がれる気はないのですか? 朱雀様に嫁げば、エリーザにもいつでも会えます』
『う……』
なんというアピール、と香子は詰まった。それを言われると香子は弱い。以前もそんなようなことを言われたことがあったような気がした。
『そ、そそそそんなことで朱雀様に嫁いだら失礼じゃない……』
『失礼ではないぞ。そなたが我と同じぐらい我を想ってくれるよう口説き続ければいいのだからな』
香子の椅子になっている朱雀が楽しそうに囁いた。そのテナーが香子を優しく包む。
(ううう……そんないい声でそんなことを言わないでほしい)
そうでなくとも香子はメンクイだし、いい声にも弱いし、四神の体格も好みだしでどうしようもないのである。香子は自分が何に抗っているのかわからなくなってきた。
しかし香子は四神の花嫁だから、香子を望んでいるのは朱雀だけではないということをどうにか思い出した。
(あ、危なかった……)
香子からすれば、いい声で囁くの禁止! と言いたいぐらいだが朱雀はその声なのだからしょうがない。玄武のバリトンは腰が砕けそうになるし、白虎のバスも痺れるし、青龍の涼やかな声も耳に心地良い。香子は声フェチではないが、四神の声にはたまらんと思っている。
『い、いいえ! ちゃんと、朱雀様のことも、玄武様とか、白虎様とか、青龍様のことも考えますから!』
『真面目なことだ』
朱雀が楽しそうにククッと笑う。その声も反則! と香子は内心大いに身もだえた。
『……エリーザでもつれないとすればどうしたらいいのでしょうかね……』
紅夏が考えるような顔をした。おい、お前! と香子は文句を言いたくなった。
『だからっ! 結婚ってそういうことで決めちゃいけないと思うのよっ!』
『よいではありませんか。朱雀様と結婚したら退屈はしませんよ』
『そうなんだろうってことはわかるけどそうじゃなくて……』
ああうう……と頭を抱えた。
『紅夏、あまり香子を困らせるな』
『……それもこれも朱雀様が本気で口説かないからいけないのではありませんか』
『……そなたにはわからぬ』
香子はその声にゾクッとした。冷たいのに、甘く感じる。冷たい返答は紅夏に、けれどそれは香子にとってはひどく甘い。
香子は朱雀が好きなのだ。抱かれてもいいぐらい好きで、でも嫁ぐとなると二の足を踏んでしまう。
(ずっと朱雀様とだけなんて……まだ想像つかない……)
『朱雀様』
香子は少し振り向くようにして、朱雀を窺った。
『如何した?』
待たせているという自覚もあるし、きっと四神にも嫉妬はあるだろうしと香子の葛藤は深い。
『いえ……お茶、おいしいです』
身体まで甘くなっているのがわかって、香子は戸惑った。このまま朱雀に抱かれたいと香子は思う。
だがそれはしてはいけないことのように、香子には感じられた。
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香子ちゃん、相変わらずもだもだぐーるぐる。
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