上 下
474 / 598
第4部 四神を愛しなさいと言われました

22.四神は嫉妬しないと言っていたけれど

しおりを挟む
『白虎様』

 白虎の室の扉が、白雲によって開かれる。居間の長椅子で寝転がってくつろいでいる白虎が目に入り、香子は笑んだ。
 白虎に会うのも久しぶりだと香子は思った。実際には、全然久しぶりではないのだが。
 そう香子が思ってしまうぐらい、朱雀の領地での経験は濃かったのだと言えよう。

香子シャンズ

 白虎は緩慢な仕草で立ち上がり、白虎の室に足を踏み入れた香子を抱き上げた。その当たり前だという白虎の動きに、香子は目を丸くした。
 そのまま長椅子に戻るのかと香子は思っていたのだが、白虎の足は寝室に向かう。

『えっ?』

 香子は慌てた。

『白虎様、ちょっとちょっと!』
『なんだ?』

 低い声が香子の鼓膜を震えさせた。その低さにゾクリとするものを感じて、香子は軽く首を振った。

『お話、したいです』
ベッドでもできよう』
『じゃあ触らせてください!』

 白虎は大仰にため息をついた。

『……本性を現わしたら襲ってしまいそうだが、いいのか?』
『うっ……』

 それは困ると香子は思った。しかしもふもふには触れたい。もふもふに触れたらそのまま抱かれてしまうかもしれない。
 香子は葛藤する。もふもふに埋もれながら昼間から抱かれる? カーッと顔が熱くなるのを感じた。

『……たまらぬな』
『えっ?』

 白虎は本当に我慢ができなかったらしく、香子を寝室に運ぶと香子の目を閉じさせて虎の姿に戻り、香子の全身を舐め回した。

「あっ、やっ、白虎、さまぁっ……!」

 どうして昼間からされてしまうのかと大事なところを舐められながら香子は啼いた。
 さすがに理性でどうにか抑えたらしく、白虎は香子を最後まで抱きはしなかった。

『香子、すまぬ……朱雀兄を呼んだ故、連れて行ってもらえ』
『はい……』

 いつもならここで白虎は青龍を呼ぶ。なのに朱雀に声をかけるとは珍しいことだと香子は思った。いきなり襲われてしまったが、香子は白虎のことも好きだから流されてもいいと思っていた。白虎は何故このようなことを己がしたのかわかっていないようだった。

(四神が嫉妬しないなんて嘘じゃないかしら)

 それは香子の自惚れかもしれなかったが、香子は四神の花嫁である。白虎の行動をどう解釈しようと香子の自由であった。
 白虎は香子を見ないようにして人型に戻った。そして軽くだが漢服を直す。香子はそれに礼を言った。

『白虎様、ありがとうございます』
『……礼を言われるようなことはしておらぬ』
『私が言いたいだけです』

 昼間だというのに、抱かれてもよかったのに、なんて思った自分が香子は不思議だった。四神の想いはまっすぐで、ただ香子を愛しいと思ってくれていることがようやく香子にも感じられた。

(私って鈍いのかなぁ?)

 香子は実感するまでが長かったようである。

『白虎、香子を引き取りにきたぞ』

 朱雀が香子を迎えに来た。白虎はふわりと香子を抱き上げると、寝室を出て朱雀に渡した。

『……どうかしたのか』
『……止められなくなりました』

 朱雀の問いに、白虎が静かに答えた。

『それは困るな。今宵香子は玄武兄と二人きりで過ごすことになっている。明日の夜ではどうだ』
『香子、明日の夜はよいか?』

 夜の己のスケジュールを把握されているのはいい。だが勝手に決められるのはどうなのだと香子は思う。
 けれど、白虎の縋るような金の瞳に胸が高鳴った。

『あ……明日の、夜、でしたら……』

 また香子の頬は真っ赤になった。その顔を眺め、白虎は苦笑した。

『香子、そなにかわいい顔をすると抱いてしまうぞ?』
『ええっ?』

 かわいい顔などしていないと香子は思う。けれど四神には香子かわいく見えるのだ。事実、この世界に香子が召喚された時よりも香子は目に見えて美しくなっている。髪は鮮やかな暗紫紅色ワインレッドに染まり、肌は透き通るように白くなっている。白虎によって育てられた胸はたわわで、しかも敏感だ。

『明日の夜で……』
『わかった』

 香子は朱雀の胸に頭をもたせかけた。白虎の室に来たら白虎に襲われてしまうなんて、香子は思ってもみなかった。けれどそれぐらい四神は香子を愛しているのだ。

(なんかー……やっぱ実感すると恥ずかしい……)

 これが朱雀の腕の中でなく、自分の部屋であったならと香子は思う。寝室に駆けこんで床の上で悶え狂ったに違いないだろう。それぐらい四神の想いを感じ取ってしまい、香子の内心はとんでもないことになっていた。

(私、なんで今まで平気だったんだろう……)
『香子、服を直した方がいい。一度そなたの部屋へ向かおう』
『はい、お願いします……』

 如何にも襲われましたという恰好でいることに香子はやっと羞恥を覚えた。朱雀もいつになく冷静である。
 部屋に戻ると、延夕玲や侍女たちが目を丸くした。

『朱雀様? 花嫁さまがどうかなさいましたか?』

 夕玲が狼狽を隠せないのも珍しいことだった。

『香子の服を整えよ』
『承知しました』

 侍女たちによって乱れた漢服と髪を直され、香子はまた朱雀に抱き上げられた。

『夕飯については我の室に知らせを寄こすように』
『承知しました』

 なんだったのだろう、と朱雀の腕の中で香子はぼんやり思った。
しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた

いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。 一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!? 「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」 ##### r15は保険です。 2024年12月12日 私生活に余裕が出たため、投稿再開します。 それにあたって一部を再編集します。 設定や話の流れに変更はありません。

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~

ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。 ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。 一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。 目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!? 「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

処理中です...