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第4部 四神を愛しなさいと言われました
20.四神宮に戻ってきました
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移動は一瞬だった。
相変わらず情緒もへったくれもないなと香子は思った。
紅雪にお土産を、と持たされた袋だけが朱雀の領地へ行った証拠のように香子は思えた。跳んだ先は朱雀の室である。
四神宮の四神の室もそれなりの広さはあるが、朱雀の領地の室を見てしまうと狭いように思えてしまうのだから不思議だと香子は思った。
『……戻ってきましたね?』
『うむ』
『そうだな』
なにも寝室に戻らなくてもいいではないかと香子は思う。
『朱雀様、下ろしてください』
『何故に?』
下ろしてもらうのに理由がいるのかと香子は呆れた。
『いいかげん身体を伸ばしたいのです。このままでは身体ががちがちに固まってしまいます』
『そうか』
朱雀は頷くと香子を下ろしてくれた。
(うん、大丈夫。自分の足で立てる)
香子は自分の身体の状態を確認してから両手を上げてうーんと伸びをした。床の上ではどうも思いっきり伸びることができなかったのだ。首をコキコキと動かし、肩を回す。思ったより緊張していたらしいことに香子は気づいた。ちら、と玄武と朱雀を窺う。二人の手はとても大きい。それで肩とか揉んでもらったら気持ちいいかなと香子は考えたが、すぐに首を振った。
玄武と朱雀は肩こり自体しないし、眷属も二神に按摩をしたりしないだろう。した経験もされた経験もないならうまくはできないはずである。香子は小さい頃から親の肩を揉んだりしていたからそれなりにできるが、そういうのは経験なのだ。
『香子、如何した?』
玄武に聞かれてしまった。
『……いえ、お茶が飲みたいなって』
『居間へ行こう』
朱雀が当たり前のようにまた香子を抱き上げ、居間へ移動した。居間には紅夏と紅炎がいた。
『朱雀様、玄武様、花嫁さま、おかえりなさいませ』
『うむ』
『た、ただいま……』
玄武は無言である。そういうものなのだろう。
『香子が茶を飲みたいそうだ』
『すぐ準備させましょう』
紅夏が室を出て行った。
これぐらいの時間に帰ると言ってあったのだろう。お茶とお茶菓子はすぐに運ばれてきた。
『ありがとう。ところでこれ、開けていいのかしら。紅雪からもらったのだけど』
紅夏と紅炎に尋ねた。
『紅雪、ですか。それは花嫁さまが受け取ったものですから、花嫁さまの好きにしてください』
紅炎にそう答えられたので、香子はさっそくその布袋を開けてみた。
『わぁ……』
中にはお茶葉と、香子がおいしいと食べていたお茶菓子、そして朱雀の飾りがついた簪が入っていた。そして猫眼石の装飾品も。
『私、猫眼石(キャッツアイ)が好きって紅雪に伝えたかしら?』
香子は首を傾げた。伝えた覚えはなかった。
『花嫁さまの好まれるものについては、朱雀さまにお願いして領地へ連絡させていただきました』
紅炎がしれっと答えた。自分たちで知らせに行くのではないらしい。まぁ、朱雀を通せばここにいながらしていろいろ伝えることはできるのだから便利といえば便利だが、朱雀をただの連絡係にするとはさすがである。
『そ、そうだったんだ……』
『紅炎は神使いが荒い。もう少し敬え』
『花嫁さまを領地に留めておけない時点で敬うに値はしませんな。せっかく領地にまで連れていったというのに』
紅炎が嘆息した。香子はびっくりして紅炎と朱雀を交互に見た。いくらなんでも自分たちの神に向かってあんまりな言い分ではないかと思った。
『玄武兄もいたのだぞ。そのようなことできようはずもない』
『……玄武様、失礼しました』
『かまわぬ。香子を手に入れたいのはどこも同じだ。だが香子が四神の花嫁であることに変わりはない。まず香子が誰を選んでもかまわぬ』
玄武は鷹揚として言う。そして香子の手を取り、指に口づけた。香子は一気に真っ赤になった。数えきれない程もう抱かれているというのに、こういうちょっとしたことが香子には恥ずかしい。
『香子、今宵は我と二人きりで過ごしてはくれぬか?』
『え……』
玄武の申し出は珍しいことだった。香子は椅子になっている朱雀を窺う。朱雀は頷いた。
『……あの……はい……』
『玄武兄、香子と二人きりでというのはかまいませぬが、熱は与えた方がいいのでは?』
『そうだな。それだけはすまぬが頼もう』
『承知しました』
『え……』
朱雀の熱は受けることになるらしい。確かにその方が香子も気持ち的には楽だ。あられもなく感じてしまう自分を、熱のせいにできるのだから。
その後は朱雀に抱き上げられたまま朱雀の室を出て、香子はほっとした。建物のかんじは朱雀の領地の館も変わらなかったが、ところどころに見えた侍女の姿が香子を安心させたのだ。
眷属の表情が動かないのはしょうがない。だがもう少しどうにかならないものかと香子は首を傾げた。
『香子?』
朱雀も玄武もすぐこうやって香子の気持ちの変化をわかってくれる。でも言葉にするとあまり伝わないのはなんでだろうと、香子は反対側に首を傾げた。
『眷属たちのせいではありませんが、表情が動かない人たちしかいないと疲れるんですよね』
『表情か……』
『そうか』
四神の表情もあまり動かないのだが、ちょっとした目の動きや顔の筋肉の動きで何かを考えているということはわかった。
『気にしないでください』
気にしてもどうなるというわけでもないしと香子は思ったが、それ以後眷属たちが引きつったような笑みを浮かべるようになる。香子はすまなかったと眷属たちに謝ることになったのだった。
相変わらず情緒もへったくれもないなと香子は思った。
紅雪にお土産を、と持たされた袋だけが朱雀の領地へ行った証拠のように香子は思えた。跳んだ先は朱雀の室である。
四神宮の四神の室もそれなりの広さはあるが、朱雀の領地の室を見てしまうと狭いように思えてしまうのだから不思議だと香子は思った。
『……戻ってきましたね?』
『うむ』
『そうだな』
なにも寝室に戻らなくてもいいではないかと香子は思う。
『朱雀様、下ろしてください』
『何故に?』
下ろしてもらうのに理由がいるのかと香子は呆れた。
『いいかげん身体を伸ばしたいのです。このままでは身体ががちがちに固まってしまいます』
『そうか』
朱雀は頷くと香子を下ろしてくれた。
(うん、大丈夫。自分の足で立てる)
香子は自分の身体の状態を確認してから両手を上げてうーんと伸びをした。床の上ではどうも思いっきり伸びることができなかったのだ。首をコキコキと動かし、肩を回す。思ったより緊張していたらしいことに香子は気づいた。ちら、と玄武と朱雀を窺う。二人の手はとても大きい。それで肩とか揉んでもらったら気持ちいいかなと香子は考えたが、すぐに首を振った。
玄武と朱雀は肩こり自体しないし、眷属も二神に按摩をしたりしないだろう。した経験もされた経験もないならうまくはできないはずである。香子は小さい頃から親の肩を揉んだりしていたからそれなりにできるが、そういうのは経験なのだ。
『香子、如何した?』
玄武に聞かれてしまった。
『……いえ、お茶が飲みたいなって』
『居間へ行こう』
朱雀が当たり前のようにまた香子を抱き上げ、居間へ移動した。居間には紅夏と紅炎がいた。
『朱雀様、玄武様、花嫁さま、おかえりなさいませ』
『うむ』
『た、ただいま……』
玄武は無言である。そういうものなのだろう。
『香子が茶を飲みたいそうだ』
『すぐ準備させましょう』
紅夏が室を出て行った。
これぐらいの時間に帰ると言ってあったのだろう。お茶とお茶菓子はすぐに運ばれてきた。
『ありがとう。ところでこれ、開けていいのかしら。紅雪からもらったのだけど』
紅夏と紅炎に尋ねた。
『紅雪、ですか。それは花嫁さまが受け取ったものですから、花嫁さまの好きにしてください』
紅炎にそう答えられたので、香子はさっそくその布袋を開けてみた。
『わぁ……』
中にはお茶葉と、香子がおいしいと食べていたお茶菓子、そして朱雀の飾りがついた簪が入っていた。そして猫眼石の装飾品も。
『私、猫眼石(キャッツアイ)が好きって紅雪に伝えたかしら?』
香子は首を傾げた。伝えた覚えはなかった。
『花嫁さまの好まれるものについては、朱雀さまにお願いして領地へ連絡させていただきました』
紅炎がしれっと答えた。自分たちで知らせに行くのではないらしい。まぁ、朱雀を通せばここにいながらしていろいろ伝えることはできるのだから便利といえば便利だが、朱雀をただの連絡係にするとはさすがである。
『そ、そうだったんだ……』
『紅炎は神使いが荒い。もう少し敬え』
『花嫁さまを領地に留めておけない時点で敬うに値はしませんな。せっかく領地にまで連れていったというのに』
紅炎が嘆息した。香子はびっくりして紅炎と朱雀を交互に見た。いくらなんでも自分たちの神に向かってあんまりな言い分ではないかと思った。
『玄武兄もいたのだぞ。そのようなことできようはずもない』
『……玄武様、失礼しました』
『かまわぬ。香子を手に入れたいのはどこも同じだ。だが香子が四神の花嫁であることに変わりはない。まず香子が誰を選んでもかまわぬ』
玄武は鷹揚として言う。そして香子の手を取り、指に口づけた。香子は一気に真っ赤になった。数えきれない程もう抱かれているというのに、こういうちょっとしたことが香子には恥ずかしい。
『香子、今宵は我と二人きりで過ごしてはくれぬか?』
『え……』
玄武の申し出は珍しいことだった。香子は椅子になっている朱雀を窺う。朱雀は頷いた。
『……あの……はい……』
『玄武兄、香子と二人きりでというのはかまいませぬが、熱は与えた方がいいのでは?』
『そうだな。それだけはすまぬが頼もう』
『承知しました』
『え……』
朱雀の熱は受けることになるらしい。確かにその方が香子も気持ち的には楽だ。あられもなく感じてしまう自分を、熱のせいにできるのだから。
その後は朱雀に抱き上げられたまま朱雀の室を出て、香子はほっとした。建物のかんじは朱雀の領地の館も変わらなかったが、ところどころに見えた侍女の姿が香子を安心させたのだ。
眷属の表情が動かないのはしょうがない。だがもう少しどうにかならないものかと香子は首を傾げた。
『香子?』
朱雀も玄武もすぐこうやって香子の気持ちの変化をわかってくれる。でも言葉にするとあまり伝わないのはなんでだろうと、香子は反対側に首を傾げた。
『眷属たちのせいではありませんが、表情が動かない人たちしかいないと疲れるんですよね』
『表情か……』
『そうか』
四神の表情もあまり動かないのだが、ちょっとした目の動きや顔の筋肉の動きで何かを考えているということはわかった。
『気にしないでください』
気にしてもどうなるというわけでもないしと香子は思ったが、それ以後眷属たちが引きつったような笑みを浮かべるようになる。香子はすまなかったと眷属たちに謝ることになったのだった。
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