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第4部 四神を愛しなさいと言われました
18.朱雀の領地で着替えをすることになりました
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朝食を終えて、お茶を啜り、香子は嘆息した。
ごはんはとてもおいしかった。あまり表情が動かないはずの眷属たちが、玄武と朱雀、そして香子の健啖っぷりに目をむいていた。
抱き合った翌日はどうしてもこうなってしまう。こちらへはそんなに来ることはないかもしれないが、覚えておいてもらえると助かるかもと香子は思った。
『香子を迎える際は食事の量も伝えておかねばならぬな』
玄武が何気なく言った。その「迎える」の意味はなんだろうと香子は考えてしまう。今回のように一泊だけお試しで領地に来るということなのか、それとも玄武と結婚して領地に向かうという意味なのか。どちらにせよ行くのならばそういうことは伝えておかなければならないだろう。
(今考えてもしかたないものね……)
香子はまず誰に嫁ぐのか決められないでいるのだから。
(全員が私と寿命をまっとうしてくれるというなら誰に嫁いでもいいんだけどなぁ……)
香子は自分が欲張りだとわかっている。四神が全てほしいのだ。四神宮ではみな香子が四神全ての花嫁でいることを求めてくれる。だから四神の誰に抱かれてもそれほど後ろめたいとは思っていない。けれど時折香子の倫理観が疼くのだ。こんなことはありえないと。
『香子、如何した?』
朱雀に顔を覗き込まれ、香子はどきっとした。
『いろいろ決めなきゃいけないので……たいへんだなぁって思ってるんです』
『そうだな。そなたの負担は大きいと我も感じている。……ただそなたが愛しくてたまらないだけだというのに難儀なことだ』
香子は朱雀の腕を抱きしめた。
『……好きなんですよ? 朱雀様も、玄武様のことも……だから余計に……』
『みなまで言うな』
香子の唇に朱雀の指が当てられた。
『それ以上はだめだ』
『……どうして』
『そなたを抱きたくなってしまう』
その色を含んだテナーに、香子は身体の奥がゾクリとするのを感じた。頬が一気に赤くなる。
今ここで抱かれたら、また泊まりになってしまうかもしれない。それだけは香子は避けたかった。そんななし崩しに嫁いでしまったら香子は絶対に後悔すると思ったからである。朱雀のことは好きだが、まだ嫁ぐ覚悟ができていない。
『は、はい……あの、いつ戻りましょうか?』
『すぐ戻っても問題はなかろう』
玄武がさらりと言う。四神の感覚だとそうだろう。香子は聞いてしまったことを後悔した。
『うーん……せめていつぐらいに帰るか連絡してからですね。お昼をいただいてからにするかどうかもかかってきますし』
『失礼します!』
控えていた紅雪が被せるように声をかけてきた。香子は目を丸くして、紅雪の方を見やる。
『どうかご昼食も召し上がっていってください!』
『あ、うん』
香子は面食らい、素で答えてしまった。どこで昼食を取るかの違いである。だが今度こそ泊まるわけにはいかないので、そこはきっちり線引きをしないといけないと香子は思った。
『じゃあ……昼食をこちらでいただいてから戻りましょう。朱雀様、玄武様、趙に連絡をお願いできますか?』
『わかった』
朱雀と玄武は頷いた。今朝食を終えたところである。昼までこちらで何をして過ごそうかと香子は首を傾げた。
そういえば館の中を見て回っていないと香子は考えた。
(でも館の中っていうか敷地内を歩いたりしたら迷惑かな)
『朱雀様、こちらの館の敷地内を散策することは可能でしょうか? どれぐらいの広さがあるのか知りたいです』
『よかろう』
朱雀は香子を抱いたまま立ち上がった。さっそく出かけようとしているが、香子は己の恰好を見てギョッとした。
『あ、あああのっ! 私まだ着替えをしていません!』
『……そうであったな』
朱雀も言われて気づいたようだった。朱雀と玄武の恰好も適当である。何せ朱雀の室の居間で朝食をとっていたのだ。恰好が適当なのはもうしかたなかった。
『衣裳を持て』
『はっ』
眷属たちが音も立てずに動き出す。
『私の服ってあるんでしたっけ?』
昨夜のエロ下着っぽいのはごめんだと香子は思う。ただこちらの服は基本ゆったりした作りだから、誰かの衣裳を借りても問題ないとは思った。
『花嫁様、こちらの衣裳は如何でしょうか?』
香子が思っていたのとは反して、眷属たちは大量に衣装箱を持ってきた。どういうことなのかと香子は朱雀を見た。
『あ、あの……この衣裳って……』
『いつ花嫁様がこちらへいらしてもいいようにと作らせていたものでございます。好みはわかりませんでしたので、様々な意匠の物をご用意しました』
紅雪が得意そうに言う。香子は眩暈がするのを感じた。
いつからこんなことになっていたのだろうか。それを聞いたところで頭痛も眩暈も消えないので考えないことにした。
朱雀は嬉しそうに香子を抱き上げたままでいるし、玄武もまた嬉しそうに香子に衣裳を合わせる。着替えまで抱き上げたままで行わなくてもと香子は思ったが、できるだけ地に足をつけてはいけないと言われているから逆らえもしなかった。
結局桃色の、あまり普段着ないような衣裳を着せてもらった。短襦(上衣)が桃色で裙子(スカート)が紺である。長袍は鮮やかな暗紫紅色だった。
『うわあ……素敵ね……』
確かに素敵な衣装である。香子は遠い目をした。
ごはんはとてもおいしかった。あまり表情が動かないはずの眷属たちが、玄武と朱雀、そして香子の健啖っぷりに目をむいていた。
抱き合った翌日はどうしてもこうなってしまう。こちらへはそんなに来ることはないかもしれないが、覚えておいてもらえると助かるかもと香子は思った。
『香子を迎える際は食事の量も伝えておかねばならぬな』
玄武が何気なく言った。その「迎える」の意味はなんだろうと香子は考えてしまう。今回のように一泊だけお試しで領地に来るということなのか、それとも玄武と結婚して領地に向かうという意味なのか。どちらにせよ行くのならばそういうことは伝えておかなければならないだろう。
(今考えてもしかたないものね……)
香子はまず誰に嫁ぐのか決められないでいるのだから。
(全員が私と寿命をまっとうしてくれるというなら誰に嫁いでもいいんだけどなぁ……)
香子は自分が欲張りだとわかっている。四神が全てほしいのだ。四神宮ではみな香子が四神全ての花嫁でいることを求めてくれる。だから四神の誰に抱かれてもそれほど後ろめたいとは思っていない。けれど時折香子の倫理観が疼くのだ。こんなことはありえないと。
『香子、如何した?』
朱雀に顔を覗き込まれ、香子はどきっとした。
『いろいろ決めなきゃいけないので……たいへんだなぁって思ってるんです』
『そうだな。そなたの負担は大きいと我も感じている。……ただそなたが愛しくてたまらないだけだというのに難儀なことだ』
香子は朱雀の腕を抱きしめた。
『……好きなんですよ? 朱雀様も、玄武様のことも……だから余計に……』
『みなまで言うな』
香子の唇に朱雀の指が当てられた。
『それ以上はだめだ』
『……どうして』
『そなたを抱きたくなってしまう』
その色を含んだテナーに、香子は身体の奥がゾクリとするのを感じた。頬が一気に赤くなる。
今ここで抱かれたら、また泊まりになってしまうかもしれない。それだけは香子は避けたかった。そんななし崩しに嫁いでしまったら香子は絶対に後悔すると思ったからである。朱雀のことは好きだが、まだ嫁ぐ覚悟ができていない。
『は、はい……あの、いつ戻りましょうか?』
『すぐ戻っても問題はなかろう』
玄武がさらりと言う。四神の感覚だとそうだろう。香子は聞いてしまったことを後悔した。
『うーん……せめていつぐらいに帰るか連絡してからですね。お昼をいただいてからにするかどうかもかかってきますし』
『失礼します!』
控えていた紅雪が被せるように声をかけてきた。香子は目を丸くして、紅雪の方を見やる。
『どうかご昼食も召し上がっていってください!』
『あ、うん』
香子は面食らい、素で答えてしまった。どこで昼食を取るかの違いである。だが今度こそ泊まるわけにはいかないので、そこはきっちり線引きをしないといけないと香子は思った。
『じゃあ……昼食をこちらでいただいてから戻りましょう。朱雀様、玄武様、趙に連絡をお願いできますか?』
『わかった』
朱雀と玄武は頷いた。今朝食を終えたところである。昼までこちらで何をして過ごそうかと香子は首を傾げた。
そういえば館の中を見て回っていないと香子は考えた。
(でも館の中っていうか敷地内を歩いたりしたら迷惑かな)
『朱雀様、こちらの館の敷地内を散策することは可能でしょうか? どれぐらいの広さがあるのか知りたいです』
『よかろう』
朱雀は香子を抱いたまま立ち上がった。さっそく出かけようとしているが、香子は己の恰好を見てギョッとした。
『あ、あああのっ! 私まだ着替えをしていません!』
『……そうであったな』
朱雀も言われて気づいたようだった。朱雀と玄武の恰好も適当である。何せ朱雀の室の居間で朝食をとっていたのだ。恰好が適当なのはもうしかたなかった。
『衣裳を持て』
『はっ』
眷属たちが音も立てずに動き出す。
『私の服ってあるんでしたっけ?』
昨夜のエロ下着っぽいのはごめんだと香子は思う。ただこちらの服は基本ゆったりした作りだから、誰かの衣裳を借りても問題ないとは思った。
『花嫁様、こちらの衣裳は如何でしょうか?』
香子が思っていたのとは反して、眷属たちは大量に衣装箱を持ってきた。どういうことなのかと香子は朱雀を見た。
『あ、あの……この衣裳って……』
『いつ花嫁様がこちらへいらしてもいいようにと作らせていたものでございます。好みはわかりませんでしたので、様々な意匠の物をご用意しました』
紅雪が得意そうに言う。香子は眩暈がするのを感じた。
いつからこんなことになっていたのだろうか。それを聞いたところで頭痛も眩暈も消えないので考えないことにした。
朱雀は嬉しそうに香子を抱き上げたままでいるし、玄武もまた嬉しそうに香子に衣裳を合わせる。着替えまで抱き上げたままで行わなくてもと香子は思ったが、できるだけ地に足をつけてはいけないと言われているから逆らえもしなかった。
結局桃色の、あまり普段着ないような衣裳を着せてもらった。短襦(上衣)が桃色で裙子(スカート)が紺である。長袍は鮮やかな暗紫紅色だった。
『うわあ……素敵ね……』
確かに素敵な衣装である。香子は遠い目をした。
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