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第4部 四神を愛しなさいと言われました
13.眷属の思いがそんなに強いなんて知りませんでした
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今回香子が連れて行ってもらったのは表の通りだけだが、もし機会があったら別の通りも連れて行ってほしいと香子は思った。
久しぶりに、香子はまともに息を吸えたような気がした。
金物を扱っている店や、布を扱っている店なども覗いた。品物の良し悪しは香子にはわからない。ただ店構えや、店の造り、商品の並べ方などを見て、時代劇とはちょっと違うなと思ったりもした。昔は写真があったわけではなかったから、時代劇も想像の部分が多いのだろう。
結局香子はほとんど何も買わなかった。
こんなことでは朱雀の地域に貢献できないではないかと思ったが、朱雀が香子を抱いて歩いているということがよかったらしい。
朱雀の館に戻ってお茶をしていたら、
『花嫁様に贈物が届いております。如何なさいますか?』
朱雀の眷属がやってきてこう言った。
『贈物?』
香子は首を傾げた。何故自分に贈物をするのだろうと香子は不思議に思った。
『……そのようなことは、朱雀の領地では普通にあることなのですか?』
『稀にはございますが……おそらく街中で朱雀様が花嫁様を抱いて歩いているのを見たのでしょう。布や宝飾品が届いておりますが、如何なさいますか?』
『ええ? こんなに早く?』
手配が早すぎないかと香子は驚いた。香子を街中で見かけて贈物といっても、普通は今日の今日では届かないだろう。
『花嫁様がこちらにいらっしゃるということは事前に聞いておりましたので、そのせいかと……』
『えええ? ってことは領地の人たちは知っていたってことですか?』
『一部の者には知らせてありました』
眷属に言われて、それもそうかと香子は思い直した。別にお忍びという意図もない。朱雀の髪は赤くて目立つし、香子も朱雀と同じ色の髪をしている。民衆の前に立って手を振れと言われないだけましだと思った。
『贈物って……いただいてもどうしたらいいのでしょうか』
四神宮であれば侍女たちが仕分けをしてくれるだろうが、ここではそうもいかない。思惑はあるだろうが、相手は朱雀の領地の民である。香子は困ってしまった。
『そうでございますね……布は花嫁様の衣裳を作らせましょう。宝飾品はお好みのを身につけていただければ』
『衣裳も宝飾品も四神宮にたくさんあるのに……』
これ以上衣裳を作ってもらっても、着る機会がないように香子には思えた。
『またこちらにいらした時に身につけていただければ幸いです。そうしていただいた方が民も喜びましょう。さっそく手配をしなくては……』
紅雪を筆頭に、眷属たちは嬉しそうに動き出した。やっぱり眷属は自分たちの主が好きでたまらないようである。
『香子、それでよいか?』
香子の椅子になっている朱雀に聞かれた。
『だめとは言えませんし。それに、四神宮に持ち帰ってもしょうがないですしね。私が本当に使わない宝飾品は領地に還元してほしいです』
『そなたは欲がないな』
『欲はありますよ。でも正直、宝飾品とかにはあまり興味がないんです。私が読めるような歴史書などがあれば喜んでいただきますが』
『香子は本当にそういった物が好きなのだな』
玄武がククッと喉の奥で笑った。
『この国の本を自在に読めるようになるのが当面の目標ですね。気の長い話ですが、幸い時間はありそうなので楽しめるかと』
『そなたが楽しむのが一番だ』
紅雪は手配をするだけしてから香子の側に戻ってきた。
『花嫁様、席を外してしまい申し訳ありません』
『大丈夫よ、気にしないで』
朱雀が香子の椅子になっているし、すぐ横には玄武がいるのだ。紅雪は少しほっとしたような顔をしたようだった。
(紅雪には多少表情があるのね)
みな美形だが表情に乏しいので香子は少し落ち着かなかった。能面のような顔が周りにいっぱいいるというのだろうか。アンドロイドか何かしかいないようで、香子は居心地が悪かったのである。
(四神宮だと侍女たちがいるしなぁ……)
そこらへんも考えていかなければいけないようだ。何故か、紅雪の表情に少し緊張が走った。そして紅雪はその場で拱手し、頭を下げた。
『はっ。朱雀様、花嫁様、差し出がましいとは十分承知しております。どうか我らの願いを聞いてはいただけないでしょうか?』
『申せ』
朱雀が気だるげに応えた。
『今宵はこちらで過ごしていただきたいのです。出立は明日の昼以降でどうかお願いできないでしょうか?』
声が緊張をはらんでいた。
『何故(なにゆえ)に?』
『……我ら眷属の我がままでございます。朱雀様は青龍様の領地には赴かれ、先代の花嫁様に眷属を産んでいただきました。ですが、先代の花嫁様はついぞこの領地を訪れることがなかったと伺っております。どうか我らにも花嫁様をお世話する機会をいただけないでしょうか』
紅雪の表情は硬かったが、その声は泣いているようにも聞こえた。
まだ夕飯の準備は四神宮では行われていないだろうかと香子はぼんやり考えた。
『香子、如何する?』
『私が決めていいのですか?』
『一晩であれば問題なかろうが、ここに来たいと言ったのはそなただ。香子が決めるといい』
『そうですね……』
一晩こちらで過ごすことに香子は抵抗があるわけではない。
(眷属たちしかいないって状況も慣れた方がいいのかな……)
『では、お世話になろうかしら? 朱雀様、四神宮に連絡をしていただけますか? 紅夏でも、紅炎でもよろしいので。夕飯はいらないということも伝えてください』
『わかった』
『朱雀様、花嫁様、ありがとうございます!』
その声は嬉しそうに、香子の耳に届いた。香子は玄武の長袍を掴んだ。
『玄武様も、こちらで共に過ごすことは可能ですか?』
『我も共にいてよいのか?』
『一緒にいてはくれないのですか?』
玄武が口元に笑みをはく。
『香子、そなたの思い通りに』
そう言った玄武も、そして朱雀も嬉しそうだと香子は思った。
久しぶりに、香子はまともに息を吸えたような気がした。
金物を扱っている店や、布を扱っている店なども覗いた。品物の良し悪しは香子にはわからない。ただ店構えや、店の造り、商品の並べ方などを見て、時代劇とはちょっと違うなと思ったりもした。昔は写真があったわけではなかったから、時代劇も想像の部分が多いのだろう。
結局香子はほとんど何も買わなかった。
こんなことでは朱雀の地域に貢献できないではないかと思ったが、朱雀が香子を抱いて歩いているということがよかったらしい。
朱雀の館に戻ってお茶をしていたら、
『花嫁様に贈物が届いております。如何なさいますか?』
朱雀の眷属がやってきてこう言った。
『贈物?』
香子は首を傾げた。何故自分に贈物をするのだろうと香子は不思議に思った。
『……そのようなことは、朱雀の領地では普通にあることなのですか?』
『稀にはございますが……おそらく街中で朱雀様が花嫁様を抱いて歩いているのを見たのでしょう。布や宝飾品が届いておりますが、如何なさいますか?』
『ええ? こんなに早く?』
手配が早すぎないかと香子は驚いた。香子を街中で見かけて贈物といっても、普通は今日の今日では届かないだろう。
『花嫁様がこちらにいらっしゃるということは事前に聞いておりましたので、そのせいかと……』
『えええ? ってことは領地の人たちは知っていたってことですか?』
『一部の者には知らせてありました』
眷属に言われて、それもそうかと香子は思い直した。別にお忍びという意図もない。朱雀の髪は赤くて目立つし、香子も朱雀と同じ色の髪をしている。民衆の前に立って手を振れと言われないだけましだと思った。
『贈物って……いただいてもどうしたらいいのでしょうか』
四神宮であれば侍女たちが仕分けをしてくれるだろうが、ここではそうもいかない。思惑はあるだろうが、相手は朱雀の領地の民である。香子は困ってしまった。
『そうでございますね……布は花嫁様の衣裳を作らせましょう。宝飾品はお好みのを身につけていただければ』
『衣裳も宝飾品も四神宮にたくさんあるのに……』
これ以上衣裳を作ってもらっても、着る機会がないように香子には思えた。
『またこちらにいらした時に身につけていただければ幸いです。そうしていただいた方が民も喜びましょう。さっそく手配をしなくては……』
紅雪を筆頭に、眷属たちは嬉しそうに動き出した。やっぱり眷属は自分たちの主が好きでたまらないようである。
『香子、それでよいか?』
香子の椅子になっている朱雀に聞かれた。
『だめとは言えませんし。それに、四神宮に持ち帰ってもしょうがないですしね。私が本当に使わない宝飾品は領地に還元してほしいです』
『そなたは欲がないな』
『欲はありますよ。でも正直、宝飾品とかにはあまり興味がないんです。私が読めるような歴史書などがあれば喜んでいただきますが』
『香子は本当にそういった物が好きなのだな』
玄武がククッと喉の奥で笑った。
『この国の本を自在に読めるようになるのが当面の目標ですね。気の長い話ですが、幸い時間はありそうなので楽しめるかと』
『そなたが楽しむのが一番だ』
紅雪は手配をするだけしてから香子の側に戻ってきた。
『花嫁様、席を外してしまい申し訳ありません』
『大丈夫よ、気にしないで』
朱雀が香子の椅子になっているし、すぐ横には玄武がいるのだ。紅雪は少しほっとしたような顔をしたようだった。
(紅雪には多少表情があるのね)
みな美形だが表情に乏しいので香子は少し落ち着かなかった。能面のような顔が周りにいっぱいいるというのだろうか。アンドロイドか何かしかいないようで、香子は居心地が悪かったのである。
(四神宮だと侍女たちがいるしなぁ……)
そこらへんも考えていかなければいけないようだ。何故か、紅雪の表情に少し緊張が走った。そして紅雪はその場で拱手し、頭を下げた。
『はっ。朱雀様、花嫁様、差し出がましいとは十分承知しております。どうか我らの願いを聞いてはいただけないでしょうか?』
『申せ』
朱雀が気だるげに応えた。
『今宵はこちらで過ごしていただきたいのです。出立は明日の昼以降でどうかお願いできないでしょうか?』
声が緊張をはらんでいた。
『何故(なにゆえ)に?』
『……我ら眷属の我がままでございます。朱雀様は青龍様の領地には赴かれ、先代の花嫁様に眷属を産んでいただきました。ですが、先代の花嫁様はついぞこの領地を訪れることがなかったと伺っております。どうか我らにも花嫁様をお世話する機会をいただけないでしょうか』
紅雪の表情は硬かったが、その声は泣いているようにも聞こえた。
まだ夕飯の準備は四神宮では行われていないだろうかと香子はぼんやり考えた。
『香子、如何する?』
『私が決めていいのですか?』
『一晩であれば問題なかろうが、ここに来たいと言ったのはそなただ。香子が決めるといい』
『そうですね……』
一晩こちらで過ごすことに香子は抵抗があるわけではない。
(眷属たちしかいないって状況も慣れた方がいいのかな……)
『では、お世話になろうかしら? 朱雀様、四神宮に連絡をしていただけますか? 紅夏でも、紅炎でもよろしいので。夕飯はいらないということも伝えてください』
『わかった』
『朱雀様、花嫁様、ありがとうございます!』
その声は嬉しそうに、香子の耳に届いた。香子は玄武の長袍を掴んだ。
『玄武様も、こちらで共に過ごすことは可能ですか?』
『我も共にいてよいのか?』
『一緒にいてはくれないのですか?』
玄武が口元に笑みをはく。
『香子、そなたの思い通りに』
そう言った玄武も、そして朱雀も嬉しそうだと香子は思った。
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