464 / 597
第4部 四神を愛しなさいと言われました
12.ぶらぶらするのが楽しいのです
しおりを挟む
お茶をいくら飲んでも香子はおなかいっぱいにはならないので、その後案内された飯館で香子はしっかり昼食を堪能した。
味付けはどちらかといえば淡泊で、広東料理を髣髴とさせた。南だからそうなのかもしれない。
暖かい地域のせいか、野菜がいっぱい食べられて香子は嬉しかった。豌豆尖(エンドウ豆の葉やつるの部分)のスープは絶品だった。
『香子はこれが好きなのか』
朱雀に聞かれて香子は頷いた。
『大好きです。でもあんまり北京では食べられないんですよね。夏の間だけかな……』
『失礼ですが花嫁様、こちらへいらっしゃれば毎日でも食べられます』
紅雪に言われて香子はうっとつまった。食いしん坊だとさっそくバレてしまったらしい。
『香子は空心菜とかいう野菜も好きであったな』
『聞いて参りましょう』
『ああうう……』
食べ物でつるのはずるいと香子は思ったが、眷属も四神の花嫁を迎えたいと思ってくれているのが少し嬉しかった。女性の眷属というのはそもそも数が少ないらしいというのと、最初に会った女性の眷属が黒月だったから香子も少し身構えてしまっていた。
(黒月は玄武様のことを本気で好きだったんだもんね……)
ちら、と香子は玄武を見る。玄武が香子の視線に気づいて笑んだ。それがまた美しすぎて香子はうっとつまってしまう。何度も言うが香子はメンクイなのだ。未だに四神に微笑みかけられたりするとぽーっとなってしまう。
『香子、如何した?』
しかも四神は声もいい。特に玄武のバリトンは耳を犯されているような気になってしまう。こんないい声で、しかも美形だなんて玄武は自分をどうしたいのかと香子は思ってしまう。(玄武が香子を領地に連れ去りたいと思っていることは間違いない)
『なんでもないです……』
『空心菜もあるそうです』
紅雪が戻ってきた。
『調理法を聞かれましたが、ニンニク炒めでよろしゅうございますか?』
『はい、お願いします』
蒜蓉空心菜(空心菜のニンニク炒め)は香子の大好物である。北京では夏の間しか食べられないので冬のこの時期に! と香子は感動した。
香子が好きだと朱雀が言ったからか、これでもかと大皿で出てきて香子は狂喜した。
『こんなにいっぱい……』
『香子、食べ切れぬようなら我らも食べるから気にせず食べよ』
『はいっ!』
香子は喜んでもりもり食べた。花嫁の身体は人とは異なっている。故に食べようと思えばいくらでも食べられるし、実のところ食べ溜めのようなこともできるようになっていた。だが香子もそうだが四神もそんなことは知らなかった。
『……食べちゃった……』
香子は愕然とした。確かにおいしかったが、まさかあの量を食べ切るとは香子も思ってはいなかった。
『花嫁様は沢山お食べになるのですね』
紅雪が感心したように言ったが、そういう問題ではないように香子には思えた。
『玄武様、朱雀様、私の身体、おかしくないですか?』
『そなたは元々よく食べる故、あまり意識したことはなかったな』
『腹が苦しくなるほど食べていなければいいのではないか?』
四神に聞いた自分がバカだったと香子は思った。香子は自分のおなかに手を当てて、おなかの状態を確認した。確かにおなかはいっぱいなのだが、おそらく食べ物を与えられたら普通に食べそうな気がする。そして、どうもその量は底なしかもしれないということにやっと思い至った。
今まではおなかが満たされたと感じたら食べるのを止めていたが、もしかしたら食べ溜めのようなことができるのではないかとやっとここで香子も考えた。ただそれを検証するのは今ではない。
『とてもおいしかったです』
香子はごちそうさまでしたと手を合わせた。
『花嫁様は食べ終わったら手を合わせるのですね』
『そういうところから来ました』
紅雪が頷いた。昼食後はまた朱雀に抱かれてぶらぶらと通りを回った。
『なにか欲しいものはあるか?』
朱雀に聞かれて香子は考えたが、特に欲しいものはなさそうだった。本を扱う店に寄ってもらったが、達筆すぎてとても読めなかった。ただどのような本が売られているのかは朱雀に尋ねた。(達筆すぎて題名を読むのも少し難しかったのだ)
『三国演技(三国志)があるな』
『うわあ、読みたいです』
朱雀が店主に断って本を手に取り、パラパラとめくって香子に見せた。
『読めそうか?』
『……一人では難しいですね』
達筆だし句読点はないしで、香子としてはとても残念だった。張錦飛に頼んで写本を取り寄せてもらった方が早いかもしれないと香子は思う。その写本を四神に読んでもらって、香子が自分の紙に書き写せば読めるかもしれないと思ったのだ。気の遠くなるような話だが香子には幸い時間はある。そうやって長い時を過ごすのは楽しそうだと香子は思った。
子どもが読むような本を一冊買ってもらい、後で玄武か朱雀に読んでもらうことにした。
『花嫁様は文字は読めないのでしょうか?』
紅雪が不思議そうに尋ねた。
『読めないわけではないのです。ただ、こちらの文字や書き方に慣れていないので難しいのです』
『? そうなのですか』
理解はできないだろうと思う。玄武や朱雀は香子が持っている本を見たことがあるからわかるだろうが、そうでなければ理解を得るのは難しいだろう。
『紅雪、香子は異なる世界から来たのだ。幸いこちらの言葉は喋れるが、文字などの書き方は違ったようだ』
『そうなのですか。失礼しました』
謝られるようなことでもなかったから、香子は苦笑した。
特に何をしたわけでもなかったが、香子は十分朱雀の領地での散策を楽しんだのだった。
ーーーーー
ライト文芸大賞応援ありがとうございました!
引き続き完結まで書いて行きたいと思います。
味付けはどちらかといえば淡泊で、広東料理を髣髴とさせた。南だからそうなのかもしれない。
暖かい地域のせいか、野菜がいっぱい食べられて香子は嬉しかった。豌豆尖(エンドウ豆の葉やつるの部分)のスープは絶品だった。
『香子はこれが好きなのか』
朱雀に聞かれて香子は頷いた。
『大好きです。でもあんまり北京では食べられないんですよね。夏の間だけかな……』
『失礼ですが花嫁様、こちらへいらっしゃれば毎日でも食べられます』
紅雪に言われて香子はうっとつまった。食いしん坊だとさっそくバレてしまったらしい。
『香子は空心菜とかいう野菜も好きであったな』
『聞いて参りましょう』
『ああうう……』
食べ物でつるのはずるいと香子は思ったが、眷属も四神の花嫁を迎えたいと思ってくれているのが少し嬉しかった。女性の眷属というのはそもそも数が少ないらしいというのと、最初に会った女性の眷属が黒月だったから香子も少し身構えてしまっていた。
(黒月は玄武様のことを本気で好きだったんだもんね……)
ちら、と香子は玄武を見る。玄武が香子の視線に気づいて笑んだ。それがまた美しすぎて香子はうっとつまってしまう。何度も言うが香子はメンクイなのだ。未だに四神に微笑みかけられたりするとぽーっとなってしまう。
『香子、如何した?』
しかも四神は声もいい。特に玄武のバリトンは耳を犯されているような気になってしまう。こんないい声で、しかも美形だなんて玄武は自分をどうしたいのかと香子は思ってしまう。(玄武が香子を領地に連れ去りたいと思っていることは間違いない)
『なんでもないです……』
『空心菜もあるそうです』
紅雪が戻ってきた。
『調理法を聞かれましたが、ニンニク炒めでよろしゅうございますか?』
『はい、お願いします』
蒜蓉空心菜(空心菜のニンニク炒め)は香子の大好物である。北京では夏の間しか食べられないので冬のこの時期に! と香子は感動した。
香子が好きだと朱雀が言ったからか、これでもかと大皿で出てきて香子は狂喜した。
『こんなにいっぱい……』
『香子、食べ切れぬようなら我らも食べるから気にせず食べよ』
『はいっ!』
香子は喜んでもりもり食べた。花嫁の身体は人とは異なっている。故に食べようと思えばいくらでも食べられるし、実のところ食べ溜めのようなこともできるようになっていた。だが香子もそうだが四神もそんなことは知らなかった。
『……食べちゃった……』
香子は愕然とした。確かにおいしかったが、まさかあの量を食べ切るとは香子も思ってはいなかった。
『花嫁様は沢山お食べになるのですね』
紅雪が感心したように言ったが、そういう問題ではないように香子には思えた。
『玄武様、朱雀様、私の身体、おかしくないですか?』
『そなたは元々よく食べる故、あまり意識したことはなかったな』
『腹が苦しくなるほど食べていなければいいのではないか?』
四神に聞いた自分がバカだったと香子は思った。香子は自分のおなかに手を当てて、おなかの状態を確認した。確かにおなかはいっぱいなのだが、おそらく食べ物を与えられたら普通に食べそうな気がする。そして、どうもその量は底なしかもしれないということにやっと思い至った。
今まではおなかが満たされたと感じたら食べるのを止めていたが、もしかしたら食べ溜めのようなことができるのではないかとやっとここで香子も考えた。ただそれを検証するのは今ではない。
『とてもおいしかったです』
香子はごちそうさまでしたと手を合わせた。
『花嫁様は食べ終わったら手を合わせるのですね』
『そういうところから来ました』
紅雪が頷いた。昼食後はまた朱雀に抱かれてぶらぶらと通りを回った。
『なにか欲しいものはあるか?』
朱雀に聞かれて香子は考えたが、特に欲しいものはなさそうだった。本を扱う店に寄ってもらったが、達筆すぎてとても読めなかった。ただどのような本が売られているのかは朱雀に尋ねた。(達筆すぎて題名を読むのも少し難しかったのだ)
『三国演技(三国志)があるな』
『うわあ、読みたいです』
朱雀が店主に断って本を手に取り、パラパラとめくって香子に見せた。
『読めそうか?』
『……一人では難しいですね』
達筆だし句読点はないしで、香子としてはとても残念だった。張錦飛に頼んで写本を取り寄せてもらった方が早いかもしれないと香子は思う。その写本を四神に読んでもらって、香子が自分の紙に書き写せば読めるかもしれないと思ったのだ。気の遠くなるような話だが香子には幸い時間はある。そうやって長い時を過ごすのは楽しそうだと香子は思った。
子どもが読むような本を一冊買ってもらい、後で玄武か朱雀に読んでもらうことにした。
『花嫁様は文字は読めないのでしょうか?』
紅雪が不思議そうに尋ねた。
『読めないわけではないのです。ただ、こちらの文字や書き方に慣れていないので難しいのです』
『? そうなのですか』
理解はできないだろうと思う。玄武や朱雀は香子が持っている本を見たことがあるからわかるだろうが、そうでなければ理解を得るのは難しいだろう。
『紅雪、香子は異なる世界から来たのだ。幸いこちらの言葉は喋れるが、文字などの書き方は違ったようだ』
『そうなのですか。失礼しました』
謝られるようなことでもなかったから、香子は苦笑した。
特に何をしたわけでもなかったが、香子は十分朱雀の領地での散策を楽しんだのだった。
ーーーーー
ライト文芸大賞応援ありがとうございました!
引き続き完結まで書いて行きたいと思います。
11
お気に入りに追加
4,015
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる