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第4部 四神を愛しなさいと言われました
11.朱雀の領地を歩いてみました(朱雀が)
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風が少し吹く。四神宮で時折吹く風よりは冷たくないと香子には感じられたが、それは朱雀に抱かれているせいかもしれなかった。
どちらにせよ今回香子が朱雀の腕から下りることはないので、気候などを確認することはできなさそうだった。
『こちらが館から一番近い繁華街でございます。飯店、飯館、茶館、その他いろいろな店があります。どうなさいますか?』
紅雪が先導をし、店が集まっている通りに連れて行ってくれた。みなそれなりに暖かそうな恰好をしているが、自分たちは薄着に見えると香子は思った。周りから見て寒そうではないかと少しだけ香子は気にしたが、街を歩く人たちは朱雀の姿を認めると一様に笑顔になった。そして朱雀の腕の中の香子を見て、みな目を見開いた。
少し居心地が悪いがしょうがないということは香子もわかっている。
『香子、どの店に入りたいのか』
『えっ?』
視線が多くて困っている時に声をかけられて、香子は聞き返した。
『香子、そなたはどの店を見たいのだ?』
『あ、ええと……そのう……』
何がほしいとか、何が見たいとか、そういう具体的なものがあったわけではない。ただぶらぶらと見て歩きたかっただけである。それでほしいものがあれば買い、ということが香子はしたかっただけだ。
『その……一緒に街を歩きたかっただけですよ?』
『……そなたを下ろすことはまかりならぬ』
『わかっていますから』
香子は笑んだ。声はいつものテナーだし、あまり表情も動いてはいないのだけど、朱雀の機嫌がいいことだけは香子もわかっていた。
『? あれはお酒を飲ませるところですか? 外なのに寒くないのでしょうか?』
台のようなものの上に酒という布が上からつり下がっている。そこで自分の杯に酒を注いでもらってお金を払った男が、すぐ横にある椅子に腰掛けて飲み始めた。
『安酒をあのように屋台で売ることで更に値段を下げているのです。あれと似たような店ですと、茶を飲ませる屋台もございます』
紅雪が説明をした。
『へえ……お茶を……』
『香子、そなたが普段飲んでいるようなものとは全然違うぞ』
『わかっています』
いくらなんでもここにきて屋台のお茶を飲みたいとは思わない。
『お茶の葉を売っているような店はないのですか?』
『ございますが、通りに面して売っているものですと価格の方が高い印象はあります』
紅雪は正直だった。香子は苦笑する。それはもう場所代込みの値段というやつだろう。
『この通りが一番人通りが多いのですよね?』
『そうです。そういった通りのうちの一本です』
紅雪が頷いた。
『ならば物がそれなりに高くなるのは当たり前かと思います』
『そういうものでしょうか』
紅雪が世間知らずなのか、それともただ若いだけなのかは香子にはわからなかった。何せ四神の眷属の容姿は一定の年齢を超えると変わらなくなってしまうから見た目だけでは歳がわからないのだ。
『茶葉を扱う店に案内してもらえる?』
『承知しました』
紅雪に先導してもらい、この辺りが茶葉を扱う店ですと案内された。三軒ぐらいあった。
『朱雀様、玄武様、端から全部入ってもよろしいですか?』
『かまわぬ』
『いいぞ』
朱雀が端の店に足を踏み入れた。
『朱雀様、玄武様、並びに花嫁様、ようこそいらっしゃいました。当店自慢の茶を是非試飲していってくださいませ!』
店長が揉み手をしながら現れて、香子はびっくりした。まぁこれだけ派手な集団が通りを歩いていたら、うちの店に来るのではないかと待っていてもおかしくはなかったが、それにしてもと香子は思った。
店内の手前には一応お茶を飲ませるスペースもあったので、そこでお茶を淹れてもらい飲んでみた。
(ちょっと渋みはあるけど、これってプーアル茶かな?)
そう思うようなお茶の味だった。
『これはなんのお茶ですか?』
『南西の地域から入ってきましたプーアルというお茶でございます』
『そうですか。おいしかったです、ごちそうさまでした』
店内を見回し、香子は三軒全部見て回った。もちろん価格も尋ねてみた。ただ、この国のお茶への価値基準がわからなかったので香子では判断がつかなかった。
『……うーん』
『香子、どうした?』
『勧められたお茶葉はこういうところで売られていることを考えると、どれも一応悪くないと思うんですよ。買うのは全然かまわないんですけど、四神宮ではもっといい茶葉が用意されていますから買っても飲まないと思うんですよね。無駄にするぐらいなら買わない方がいいしなぁ……』
『ふむ……紅雪』
『はい』
『そなたらは茶を飲むか?』
『はい、いただきます』
紅雪は目を瞬かせた。
『これらの店で飲んだ茶葉をもし購入した場合、そなたらは飲むのか?』
『そう、ですね。高いとは思いますが飲みます』
『ならば朱雀の名で、勧められた茶葉をそなたらが飲む分だけ買っておけ』
『……承知しました』
紅雪は何かいいたそうだったが茶葉を買ってきた。自分のわがままに付き合わせて悪いなと香子は思ったが、飲んでくれるというならば買った方がいいと思ったのだ。地元の経済活性化には買うのが一番である。
『ただし、過剰な宣伝はさせぬように。あくまで我が好奇心で購入しただけと周知せよ』
『承知しました』
確かにそれで名前を使われても困るもんねと香子は頷く。
神さまだというのに、いろいろ考えなければいけないようでたいへんそうだと香子は思ったのだった。
どちらにせよ今回香子が朱雀の腕から下りることはないので、気候などを確認することはできなさそうだった。
『こちらが館から一番近い繁華街でございます。飯店、飯館、茶館、その他いろいろな店があります。どうなさいますか?』
紅雪が先導をし、店が集まっている通りに連れて行ってくれた。みなそれなりに暖かそうな恰好をしているが、自分たちは薄着に見えると香子は思った。周りから見て寒そうではないかと少しだけ香子は気にしたが、街を歩く人たちは朱雀の姿を認めると一様に笑顔になった。そして朱雀の腕の中の香子を見て、みな目を見開いた。
少し居心地が悪いがしょうがないということは香子もわかっている。
『香子、どの店に入りたいのか』
『えっ?』
視線が多くて困っている時に声をかけられて、香子は聞き返した。
『香子、そなたはどの店を見たいのだ?』
『あ、ええと……そのう……』
何がほしいとか、何が見たいとか、そういう具体的なものがあったわけではない。ただぶらぶらと見て歩きたかっただけである。それでほしいものがあれば買い、ということが香子はしたかっただけだ。
『その……一緒に街を歩きたかっただけですよ?』
『……そなたを下ろすことはまかりならぬ』
『わかっていますから』
香子は笑んだ。声はいつものテナーだし、あまり表情も動いてはいないのだけど、朱雀の機嫌がいいことだけは香子もわかっていた。
『? あれはお酒を飲ませるところですか? 外なのに寒くないのでしょうか?』
台のようなものの上に酒という布が上からつり下がっている。そこで自分の杯に酒を注いでもらってお金を払った男が、すぐ横にある椅子に腰掛けて飲み始めた。
『安酒をあのように屋台で売ることで更に値段を下げているのです。あれと似たような店ですと、茶を飲ませる屋台もございます』
紅雪が説明をした。
『へえ……お茶を……』
『香子、そなたが普段飲んでいるようなものとは全然違うぞ』
『わかっています』
いくらなんでもここにきて屋台のお茶を飲みたいとは思わない。
『お茶の葉を売っているような店はないのですか?』
『ございますが、通りに面して売っているものですと価格の方が高い印象はあります』
紅雪は正直だった。香子は苦笑する。それはもう場所代込みの値段というやつだろう。
『この通りが一番人通りが多いのですよね?』
『そうです。そういった通りのうちの一本です』
紅雪が頷いた。
『ならば物がそれなりに高くなるのは当たり前かと思います』
『そういうものでしょうか』
紅雪が世間知らずなのか、それともただ若いだけなのかは香子にはわからなかった。何せ四神の眷属の容姿は一定の年齢を超えると変わらなくなってしまうから見た目だけでは歳がわからないのだ。
『茶葉を扱う店に案内してもらえる?』
『承知しました』
紅雪に先導してもらい、この辺りが茶葉を扱う店ですと案内された。三軒ぐらいあった。
『朱雀様、玄武様、端から全部入ってもよろしいですか?』
『かまわぬ』
『いいぞ』
朱雀が端の店に足を踏み入れた。
『朱雀様、玄武様、並びに花嫁様、ようこそいらっしゃいました。当店自慢の茶を是非試飲していってくださいませ!』
店長が揉み手をしながら現れて、香子はびっくりした。まぁこれだけ派手な集団が通りを歩いていたら、うちの店に来るのではないかと待っていてもおかしくはなかったが、それにしてもと香子は思った。
店内の手前には一応お茶を飲ませるスペースもあったので、そこでお茶を淹れてもらい飲んでみた。
(ちょっと渋みはあるけど、これってプーアル茶かな?)
そう思うようなお茶の味だった。
『これはなんのお茶ですか?』
『南西の地域から入ってきましたプーアルというお茶でございます』
『そうですか。おいしかったです、ごちそうさまでした』
店内を見回し、香子は三軒全部見て回った。もちろん価格も尋ねてみた。ただ、この国のお茶への価値基準がわからなかったので香子では判断がつかなかった。
『……うーん』
『香子、どうした?』
『勧められたお茶葉はこういうところで売られていることを考えると、どれも一応悪くないと思うんですよ。買うのは全然かまわないんですけど、四神宮ではもっといい茶葉が用意されていますから買っても飲まないと思うんですよね。無駄にするぐらいなら買わない方がいいしなぁ……』
『ふむ……紅雪』
『はい』
『そなたらは茶を飲むか?』
『はい、いただきます』
紅雪は目を瞬かせた。
『これらの店で飲んだ茶葉をもし購入した場合、そなたらは飲むのか?』
『そう、ですね。高いとは思いますが飲みます』
『ならば朱雀の名で、勧められた茶葉をそなたらが飲む分だけ買っておけ』
『……承知しました』
紅雪は何かいいたそうだったが茶葉を買ってきた。自分のわがままに付き合わせて悪いなと香子は思ったが、飲んでくれるというならば買った方がいいと思ったのだ。地元の経済活性化には買うのが一番である。
『ただし、過剰な宣伝はさせぬように。あくまで我が好奇心で購入しただけと周知せよ』
『承知しました』
確かにそれで名前を使われても困るもんねと香子は頷く。
神さまだというのに、いろいろ考えなければいけないようでたいへんそうだと香子は思ったのだった。
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