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第4部 四神を愛しなさいと言われました
2.皇帝に晩餐会に招かれました
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いつのまにか90万字超えていましたー(遅) これからもよろしくですー!
ーーーーー
書状を読んで、返書を用意して、また返書をもらって。
『ああもうまどろっこしい!』
『そなたが憤るというのも面白いな』
朱雀がクックッと笑った。
祭祀はまた天壇でするそうだ。今回祀るのは玄武である。でっかい亀は空を飛ばないだろうに、その祭祀をしたということはどうやって民に知らせるのだろうかと香子は思った。
だが普通そんなことは民に知らせるものではない。また籠に乗せられて天壇まで運ばれると聞き、香子は『えええ』と声を上げた。それらは書状に書かれていたことである。
それ以外の詳細を皇帝自ら説明するという。
『……えー、聞きたくない。直接とかいやー』
『ならば我らも聞きにはいかぬがどうする?』
『ううう……』
冬の大祭(春節)を経験したいのは香子である。香子としてはその臨場感を味わいたかっただけなのだが、どうしても四神と花嫁が揃うならばと祭祀もすることになるようだ。
(確か、張老師は玄武の神官なんだよね……)
どうにか止めてもらうことはできないかなと香子は考えたが、四神マニアとも言える張錦飛が聞いてくれるとも思えなかった。それでも香子が嫌だと言えば張も考えてはくれるだろう。四神を不機嫌にさせることは本意ではないのだから。
というわけで皇帝の招きに応じ、簡易の晩餐会に出席することになってしまった。
(ごはんをこっちに届けてくれればいいのにー)
香子は勝手なことを思う。皇帝の顔を見ながら食事などしたくないのだからしかたない。
『ごはん、なら行きますか……』
『そなたは本当に食べることが好きだな』
白虎に感心されてしまった。
違う、と香子は遠い目をした。食べることは好きだけど、皇帝に会いたくないのである。でも冬の大祭には参加したいのだ。そこらへんに葛藤があるのだが、当然のことながら四神が理解してくれるはずはなかった。
『花嫁様、口がへの字になっていますよ』
化粧をしてくれる侍女に言われて、香子は口角を上げた。今日はその晩餐会である。おいしいごはん! と思って香子は気持ちを奮い立たせた。そこに紅を差された。
『こんなにお美しいのですから、そんな不機嫌そうな顔はなさらないでください』
侍女にそう言って微笑まれ、悪いことをしたと香子は思った。そしてハッとする。
『う、美しいは誇張だと思うわ』
『そんなことはありません。朱雀様と同じ色の御髪は艶やかで美しく、肌も透き通るように白くてため息がこぼれる程ですわ』
『このように美しい方が人だなんてとても信じられません!』
『そうです! 花嫁様はご自身の魅力をもっと知るべきです!』
侍女たちにわあわあと言われ、香子は『そ、そう?』と返すことしかできなかった。そして、四神宮の侍女たちは目が悪いのかしらと本気で思ったりもした。
さて、晩餐会ということで香子は薄緑色の衣裳(スカートは臙脂色だ)に黒い長袍を纏った姿で、迎えにきた玄武に抱き上げられた。
簪は少なめだが今日はしっかり髪を結い上げられている。そして少しキツメの化粧を施されていた。
『女性というのは化粧で印象が変わるものだな』
『玄武様はお嫌ですか?』
『そなたは化粧をせずとも美しいが、このような顔も悪くはない』
『私は気に入っています。でも、これは対外的な顔です。四神宮の中では落としますよ』
『そうしてもらえると我も嬉しい』
玄武の柔らかい笑みに、香子は胸がきゅーんとした。安定した玄武の腕の中は香子が安心して身を委ねられる場所だ。
今日は晩餐会なので四神と香子、眷属たち、延夕玲、趙文英、王英明も付いてくる。もちろん四神宮の侍女たちも一部付いてくる。晩餐会の場所には侍女たちは入ってこないが、何かあれば呼ばれて香子の世話をすることになっている。そういう時に侍女は一度も呼ばれたことはないのだが、そういうものだから連れて行くのだ。
王英明に先導され、白雲がその後ろ、それから香子を抱いた玄武と続く。大所帯で皇帝の居室の近くの広間へ通された。ここは皇帝のプライベートゾーンなので広間の大きさもそれほどではない。完全に身内だけという集まりである。皇后と皇太后が待っていたので、香子の顔が明るくなった。こういう場でおしゃべりはできないかもしれないが、それでも姿を見れるのは香子としては嬉しかった。
さすがに皇帝も四神と会う場に寵妃は連れてこないようである。別に皇帝が誰と褥を共にしていようがそんなことはどうでもいいのだ。そんなことよりも香子が許せないのは皇后をないがしろにしたことである。皇后は国母である。その皇后の顔を立て、家庭内のいざこざなども起こさせないようにするのが皇帝の努めだと香子は思っている。
『此度は招きに応じていただき、感謝する』
『……勘違いをするな』
朱雀が唸るような声を出した。珍しいと香子は一瞬眉を上げた。
『香子が参加すると言わなければこのような席に顔を出したりするものか。よいか、例え我らが一年を超えて四神宮に滞在することがあろうとも、香子が祭祀に出るのは今回で終りだ』
『……承知しました』
『言質は取ったぞ。忘れるでないぞ』
『はい、決して』
香子は玄武の腕の中で密かに身もだえた。朱雀が素敵すぎて困ると思った。
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3/25「流星群に結ばれて」カクヨムにて短編を上げました。青春モノで、恋愛は少し。よろしければ読んでやってくださいませー
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書状を読んで、返書を用意して、また返書をもらって。
『ああもうまどろっこしい!』
『そなたが憤るというのも面白いな』
朱雀がクックッと笑った。
祭祀はまた天壇でするそうだ。今回祀るのは玄武である。でっかい亀は空を飛ばないだろうに、その祭祀をしたということはどうやって民に知らせるのだろうかと香子は思った。
だが普通そんなことは民に知らせるものではない。また籠に乗せられて天壇まで運ばれると聞き、香子は『えええ』と声を上げた。それらは書状に書かれていたことである。
それ以外の詳細を皇帝自ら説明するという。
『……えー、聞きたくない。直接とかいやー』
『ならば我らも聞きにはいかぬがどうする?』
『ううう……』
冬の大祭(春節)を経験したいのは香子である。香子としてはその臨場感を味わいたかっただけなのだが、どうしても四神と花嫁が揃うならばと祭祀もすることになるようだ。
(確か、張老師は玄武の神官なんだよね……)
どうにか止めてもらうことはできないかなと香子は考えたが、四神マニアとも言える張錦飛が聞いてくれるとも思えなかった。それでも香子が嫌だと言えば張も考えてはくれるだろう。四神を不機嫌にさせることは本意ではないのだから。
というわけで皇帝の招きに応じ、簡易の晩餐会に出席することになってしまった。
(ごはんをこっちに届けてくれればいいのにー)
香子は勝手なことを思う。皇帝の顔を見ながら食事などしたくないのだからしかたない。
『ごはん、なら行きますか……』
『そなたは本当に食べることが好きだな』
白虎に感心されてしまった。
違う、と香子は遠い目をした。食べることは好きだけど、皇帝に会いたくないのである。でも冬の大祭には参加したいのだ。そこらへんに葛藤があるのだが、当然のことながら四神が理解してくれるはずはなかった。
『花嫁様、口がへの字になっていますよ』
化粧をしてくれる侍女に言われて、香子は口角を上げた。今日はその晩餐会である。おいしいごはん! と思って香子は気持ちを奮い立たせた。そこに紅を差された。
『こんなにお美しいのですから、そんな不機嫌そうな顔はなさらないでください』
侍女にそう言って微笑まれ、悪いことをしたと香子は思った。そしてハッとする。
『う、美しいは誇張だと思うわ』
『そんなことはありません。朱雀様と同じ色の御髪は艶やかで美しく、肌も透き通るように白くてため息がこぼれる程ですわ』
『このように美しい方が人だなんてとても信じられません!』
『そうです! 花嫁様はご自身の魅力をもっと知るべきです!』
侍女たちにわあわあと言われ、香子は『そ、そう?』と返すことしかできなかった。そして、四神宮の侍女たちは目が悪いのかしらと本気で思ったりもした。
さて、晩餐会ということで香子は薄緑色の衣裳(スカートは臙脂色だ)に黒い長袍を纏った姿で、迎えにきた玄武に抱き上げられた。
簪は少なめだが今日はしっかり髪を結い上げられている。そして少しキツメの化粧を施されていた。
『女性というのは化粧で印象が変わるものだな』
『玄武様はお嫌ですか?』
『そなたは化粧をせずとも美しいが、このような顔も悪くはない』
『私は気に入っています。でも、これは対外的な顔です。四神宮の中では落としますよ』
『そうしてもらえると我も嬉しい』
玄武の柔らかい笑みに、香子は胸がきゅーんとした。安定した玄武の腕の中は香子が安心して身を委ねられる場所だ。
今日は晩餐会なので四神と香子、眷属たち、延夕玲、趙文英、王英明も付いてくる。もちろん四神宮の侍女たちも一部付いてくる。晩餐会の場所には侍女たちは入ってこないが、何かあれば呼ばれて香子の世話をすることになっている。そういう時に侍女は一度も呼ばれたことはないのだが、そういうものだから連れて行くのだ。
王英明に先導され、白雲がその後ろ、それから香子を抱いた玄武と続く。大所帯で皇帝の居室の近くの広間へ通された。ここは皇帝のプライベートゾーンなので広間の大きさもそれほどではない。完全に身内だけという集まりである。皇后と皇太后が待っていたので、香子の顔が明るくなった。こういう場でおしゃべりはできないかもしれないが、それでも姿を見れるのは香子としては嬉しかった。
さすがに皇帝も四神と会う場に寵妃は連れてこないようである。別に皇帝が誰と褥を共にしていようがそんなことはどうでもいいのだ。そんなことよりも香子が許せないのは皇后をないがしろにしたことである。皇后は国母である。その皇后の顔を立て、家庭内のいざこざなども起こさせないようにするのが皇帝の努めだと香子は思っている。
『此度は招きに応じていただき、感謝する』
『……勘違いをするな』
朱雀が唸るような声を出した。珍しいと香子は一瞬眉を上げた。
『香子が参加すると言わなければこのような席に顔を出したりするものか。よいか、例え我らが一年を超えて四神宮に滞在することがあろうとも、香子が祭祀に出るのは今回で終りだ』
『……承知しました』
『言質は取ったぞ。忘れるでないぞ』
『はい、決して』
香子は玄武の腕の中で密かに身もだえた。朱雀が素敵すぎて困ると思った。
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3/25「流星群に結ばれて」カクヨムにて短編を上げました。青春モノで、恋愛は少し。よろしければ読んでやってくださいませー
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