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第3部 周りと仲良くしろと言われました
149.唯一無二のつがいを得るには(紅炎視点)
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”つがい”など、ただ厄介なものでしかないと思っていた。
―彼女を見つけるまでは。
* *
その娘は四神の花嫁の部屋にいた。部屋付きの侍女、という者がいるらしいと、紅炎は四神宮に来てから学んだ。
紅夏が”つがい”を得、その”つがい”と別の大陸に渡るのだと聞いた。”つがい”が人だと聞いて、紅炎は呆れた。よく見つけたものだと思ったことは確かだった。眷属同士ならばともかく、人の中で”つがい”に巡り合えるなど奇跡に近いのではないだろうか。
人と性行為はできるが、眷属同士、もしくは”つがい”相手でなければ決して子は成せないものだ。中には人との性行為を嫌がって眷属同士で結婚のようなことをする者たちもいるが、紅炎はそれすらもどうでもよかった。
朱雀は先代の花嫁に眷属を何人か産んでもらった。紅炎もそのうちの一人である。だが次代の朱雀を産んでもらう前に先代の花嫁は先代の青龍と身罷った。情を交わした朱雀はその知らせを聞いても平然としていたが、やはり思うところはあったのだろう。三日程室から出てこなかった。
だから、今回の花嫁に望みをかけた。
けれど朱雀と身体を重ねたはずなのにまだ嫁いではこないという。どういうことなのだと紅炎は内心憤った。
朱雀様にお情けをもらったというのに何故あの花嫁は嫁いでこないのか。紅炎には理解できなかった。
「どういうことなのですか?」
朱雀に問えば、朱雀は笑った。
「そなたたちが人の”つがい”を得るようなものだ。我がどれほど香子に焦がれていても、香子にはわからぬのだ。香子は我らとは違うもの故に」
「朱雀様の深い想いをわからぬとは……」
「もしそなたが人の”つがい”を得ることがあれば理解するだろう」
あの時はそれで引き下がり、領地へ戻った。
領地には一人だけ人を”つがい”とした者がいる。その者にわざわざ会いに行ってみた。ようは気まぐれである。
「そなたが訪ねてくるとは珍しいな」
「……花嫁様は朱雀様と身体を重ねたはずだ。そうだというのに嫁いでは来ぬという。どういうことか」
「……かようなこと、聞かれたとて我にわかるはずはなかろう」
呆れられたがそんなことはどうでもよかった。
「朱雀様は、我らが人の”つがい”を得るようなものだとおっしゃられたのだ」
「ああ、そういうことか」
その者は合点がいったようだった。
「うちはほぼ押しかけ女房だからな。あまり参考にはなるまいよ。だが人と四神や四神の眷属は感じ方や考え方も違う。まして花嫁様は四神全てに求婚されているのだ。いくら朱雀様と身体を重ねたとてすぐに嫁ぐわけにはいかぬだろう」
「だが……」
「紅炎よ。朱雀様は四神であり、花嫁様はその四神の花嫁だ。我らが口を出していい相手ではない。それよりもいいかげん他の眷属と所帯を持ったらどうだ? 全く紅夏といいそなたといい、なかなか結婚しないものだから他の眷属から愚痴られることが多いのだ」
「? 我と他の眷属になんの関係が?」
「……そういうことだろう。誰かと誰かの関係なぞ、気にする必要はない。それよりもそなたの”つがい”を探すか、適当に眷属同士で一緒になるがよい」
「余計なお世話か」
「そういうことだ」
花嫁と朱雀の気持ちや関係については、紅炎にはやはり理解できそうもなかった。
かといって眷属同士で共になりたいとも思えない。まだ子は成す気になれなかった。例え早々に子を成したとしても、朱雀の直接の子である第一世代は子どもよりも長く生きるのだ。だから少なくとも成人してから二百年以上は一人でいるつもりだった。そしてその二百年もとっくに過ぎた。そろそろ終生の相手を探すべきかとは紅炎も思うのだが、やはり気乗りはしなかった。
そんな中、朱雀より四神宮に呼ばれた。
紅夏が”つがい”を得て朱雀の側から離れる為、誰か寄こせと。紅炎は一も二もなくそれに飛びついた。
領地を離れれば視点も変わるのではないかと思ったのだ。それに、紅夏の”つがい”とやらにも興味があった。今の紅夏ならば朱雀に花嫁が嫁がない理由もわかるのだろうか。
そんなわけで四神宮には紅炎が向かうことにした。
そしてあの娘を見つけた。
一目見て、他の人間とは違うと思えた。
最初覚えたのはちょっとした違和感。それまで人など歯牙にもかけなかったというのに、どうしてかあの娘のことは気になった。
それは紅夏が”つがい”と共に一旦四神宮を去った日のことだった。
翌日再びその娘の姿を見て、己の物だと思った。娘は気づかない。ここまで紅炎が娘を求めているということを。
焦燥感で気が狂いそうだった。だが己だけが求めていることを少し悔しくも感じた。
しかし、眷属が”つがい”に逆らえるはずはないのだ。
それからしばらくも経たないうちに、紅炎は林雪紅を捕まえてその溢れる想いを告げていた。
「我が”つがい”よ。花嫁がどなたかに嫁ぐ際、我と共に来るがよい」
だが、林は戸惑うだけだった。そして、就業中は口説くなと命令が出された。紅炎はとても不本意だった。
人と眷属は違う。それをここで知ることになるなんて紅炎は思ってもみなかった。だが林は自分の”つがい”だ。次はもっと想いを籠めて口説こうと、紅炎は思ったのだった。
ーーーーー
紅炎は口説き方を知らない。眷属はみんなこんなん。困る。
―彼女を見つけるまでは。
* *
その娘は四神の花嫁の部屋にいた。部屋付きの侍女、という者がいるらしいと、紅炎は四神宮に来てから学んだ。
紅夏が”つがい”を得、その”つがい”と別の大陸に渡るのだと聞いた。”つがい”が人だと聞いて、紅炎は呆れた。よく見つけたものだと思ったことは確かだった。眷属同士ならばともかく、人の中で”つがい”に巡り合えるなど奇跡に近いのではないだろうか。
人と性行為はできるが、眷属同士、もしくは”つがい”相手でなければ決して子は成せないものだ。中には人との性行為を嫌がって眷属同士で結婚のようなことをする者たちもいるが、紅炎はそれすらもどうでもよかった。
朱雀は先代の花嫁に眷属を何人か産んでもらった。紅炎もそのうちの一人である。だが次代の朱雀を産んでもらう前に先代の花嫁は先代の青龍と身罷った。情を交わした朱雀はその知らせを聞いても平然としていたが、やはり思うところはあったのだろう。三日程室から出てこなかった。
だから、今回の花嫁に望みをかけた。
けれど朱雀と身体を重ねたはずなのにまだ嫁いではこないという。どういうことなのだと紅炎は内心憤った。
朱雀様にお情けをもらったというのに何故あの花嫁は嫁いでこないのか。紅炎には理解できなかった。
「どういうことなのですか?」
朱雀に問えば、朱雀は笑った。
「そなたたちが人の”つがい”を得るようなものだ。我がどれほど香子に焦がれていても、香子にはわからぬのだ。香子は我らとは違うもの故に」
「朱雀様の深い想いをわからぬとは……」
「もしそなたが人の”つがい”を得ることがあれば理解するだろう」
あの時はそれで引き下がり、領地へ戻った。
領地には一人だけ人を”つがい”とした者がいる。その者にわざわざ会いに行ってみた。ようは気まぐれである。
「そなたが訪ねてくるとは珍しいな」
「……花嫁様は朱雀様と身体を重ねたはずだ。そうだというのに嫁いでは来ぬという。どういうことか」
「……かようなこと、聞かれたとて我にわかるはずはなかろう」
呆れられたがそんなことはどうでもよかった。
「朱雀様は、我らが人の”つがい”を得るようなものだとおっしゃられたのだ」
「ああ、そういうことか」
その者は合点がいったようだった。
「うちはほぼ押しかけ女房だからな。あまり参考にはなるまいよ。だが人と四神や四神の眷属は感じ方や考え方も違う。まして花嫁様は四神全てに求婚されているのだ。いくら朱雀様と身体を重ねたとてすぐに嫁ぐわけにはいかぬだろう」
「だが……」
「紅炎よ。朱雀様は四神であり、花嫁様はその四神の花嫁だ。我らが口を出していい相手ではない。それよりもいいかげん他の眷属と所帯を持ったらどうだ? 全く紅夏といいそなたといい、なかなか結婚しないものだから他の眷属から愚痴られることが多いのだ」
「? 我と他の眷属になんの関係が?」
「……そういうことだろう。誰かと誰かの関係なぞ、気にする必要はない。それよりもそなたの”つがい”を探すか、適当に眷属同士で一緒になるがよい」
「余計なお世話か」
「そういうことだ」
花嫁と朱雀の気持ちや関係については、紅炎にはやはり理解できそうもなかった。
かといって眷属同士で共になりたいとも思えない。まだ子は成す気になれなかった。例え早々に子を成したとしても、朱雀の直接の子である第一世代は子どもよりも長く生きるのだ。だから少なくとも成人してから二百年以上は一人でいるつもりだった。そしてその二百年もとっくに過ぎた。そろそろ終生の相手を探すべきかとは紅炎も思うのだが、やはり気乗りはしなかった。
そんな中、朱雀より四神宮に呼ばれた。
紅夏が”つがい”を得て朱雀の側から離れる為、誰か寄こせと。紅炎は一も二もなくそれに飛びついた。
領地を離れれば視点も変わるのではないかと思ったのだ。それに、紅夏の”つがい”とやらにも興味があった。今の紅夏ならば朱雀に花嫁が嫁がない理由もわかるのだろうか。
そんなわけで四神宮には紅炎が向かうことにした。
そしてあの娘を見つけた。
一目見て、他の人間とは違うと思えた。
最初覚えたのはちょっとした違和感。それまで人など歯牙にもかけなかったというのに、どうしてかあの娘のことは気になった。
それは紅夏が”つがい”と共に一旦四神宮を去った日のことだった。
翌日再びその娘の姿を見て、己の物だと思った。娘は気づかない。ここまで紅炎が娘を求めているということを。
焦燥感で気が狂いそうだった。だが己だけが求めていることを少し悔しくも感じた。
しかし、眷属が”つがい”に逆らえるはずはないのだ。
それからしばらくも経たないうちに、紅炎は林雪紅を捕まえてその溢れる想いを告げていた。
「我が”つがい”よ。花嫁がどなたかに嫁ぐ際、我と共に来るがよい」
だが、林は戸惑うだけだった。そして、就業中は口説くなと命令が出された。紅炎はとても不本意だった。
人と眷属は違う。それをここで知ることになるなんて紅炎は思ってもみなかった。だが林は自分の”つがい”だ。次はもっと想いを籠めて口説こうと、紅炎は思ったのだった。
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紅炎は口説き方を知らない。眷属はみんなこんなん。困る。
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