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第3部 周りと仲良くしろと言われました
147.人の作法というのはとかく面倒なものです(延夕玲視点)
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花嫁が気にしてくれているのはとてもよくわかる。
人と四神、そして四神の眷属は違うのだ。
「夕玲、皇太后に渡りをつけてはくれぬか?」
「何故、でございましょう?」
「そなたをもらい受けたい。そなたの両親にも挨拶はせねばならぬだろうが、まずは皇太后に言わねばならぬだろう」
夕玲はどう返事をしたらいいのかわからなかった。
「花嫁様には……」
「何故花嫁様に伝える必要がある?」
「妾は花嫁様の女官です。そういうことは事前にお伝えしなければ失礼に当たりましょう」
「……わかった」
皇太后に伝える前に花嫁に伝えなければならない。そうしてから挨拶の日取りなどを相談しなければ……夕玲は頭が痛くなるのを感じた。
「……こういうことって妾が手配することなのかしらね?」
黒月ぐらいしかこういうことを愚痴れる相手もいない。
「……我にはわからぬな」
「そうよね」
黒月はそういう経験がないのだから知っているわけはなかった。それに見た目は成人しているが黒月はまだ未成年だという。胸はたわわで背も高、く理想的な身体つきをしている黒月が未成年だなどと夕玲は冗談ではないかと思ったがそうではなかった。だから結婚の準備の話をしても全くピンとこないだろう。かといって紅児に愚痴れば心配させてしまうだろうし、と思ったところで侍女頭の陳秀美が通りかかった。
「陳」
夕玲は手招きした。
「延様、どうかなさいましたか?」
「愚痴を聞いてほしいの。だめかしら?」
上目遣いで陳を見れば苦笑された。
「私でよろしければ」
夕玲は笑んで、青藍に言われたことを陳に伝えた。
「それは……青藍様が花嫁様にお伝えするのが筋ではないでしょうか。ただ、青藍様が皇太后にご挨拶をとなると、どなたからお伝えした方がいいのかはわかりかねます」
陳は真面目に答えてくれた。
それならばと夕玲が青藍に伝えたら、青藍はほんの少し顔を顰めた。さすがに夕玲はカチンときた。
「……妾は青藍様に嫁がなくてもかまいませぬが?」
「かようなことを言ってくれるな」
「何故青藍様が挨拶をするのに、妾がいろいろ聞いて回る必要があるのでしょう。そういったことは青藍様が手配すべきことです」
本当は青藍に両親がいれば両親が手配することではある。だが青藍の両親はすでに亡い。両親といっても先代の青龍と先代の花嫁だ。両親というくくりにもならないだろう。
「……すまない。我には人のことはわからぬ故、そなたならばわかるのではないかと考えたのだ」
青藍は素直に頭を下げた。こういうところが憎めないと夕玲は思う。
「……わかってくださればいいのです。青藍様、どうぞ花嫁様にお伝えくださいませ」
「そうしよう」
延夕玲も呼ばれて、青龍の室で花嫁に挨拶をすることになった。花嫁は困ったような顔をしていた。
「”つがい”だものね……夕玲が青藍と共になってもかまわないというのならば、私が言うことはないわ。でも……夕玲は人で、青藍とは違うのだから、きちんと話合ってね? 青藍が勝手に決めたりしてはいけないわ」
「はい。皇太后に挨拶をしたいと思っています。どうすればよいでしょうか?」
花嫁は少し考える顔をした。
「以前も顔見せはしているのよね? 青藍が挨拶をしたいのだから、趙に手配をしてもらいましょう」
「趙殿に、でございますか?」
「青龍様が直接行ってもいいけど」
花嫁がとんでもないことを言う。
「花嫁様! そのようなこと青龍様にはさせられません!」
夕玲は悲鳴を上げた。
「そう? でも青藍の主神は青龍様なんだから、青龍様が直接頼んでもおかしくはないと思うけど?」
「花嫁様!」
花嫁は肩を竦め、そして舌をちろりと出した。
「ごめんなさい? でも挨拶をするのに誰かを通すのって面倒じゃないかしら?」
夕玲のこめかみに青筋が浮かんだ。
「花嫁様がそのようなことをおっしゃられるようでは困ります……」
「そうでなければやっぱり趙を通した方がいいと思うのよ。夕玲だって自分で皇太后に青藍が挨拶に来ますって伝えたい?」
「あまり……そういうことは……」
「でしょう?」
というわけで趙には青藍が頼み、中書省を経て皇太后へ手紙が届いたようだった。返事は夕玲の侍女が届けた。その方が早いからだろう。侍女から皇太后からの手紙を渡されて、夕玲は頭が痛くなるのを感じた。
「青藍様、皇太后から返事が来ました」
「そうか。見せてくれ」
「その前に、返信があったことを趙殿に伝えてくださいませ」
「……人というのは面倒だな」
「……青藍様」
「わかっている。口にするぐらいは許せ」
「妾を娶るというのはそういうことです。それが耐えられないのでしたら……」
「そなたにはかなわぬ」
青藍は苦笑して、夕玲を抱き寄せた。
「青藍様!」
「そなたの為ならば全て耐えてみせよう。だが、こうしてそなたに触れることは許してほしい」
「っ!?」
夕玲の頬はいつになく真っ赤に染まった。それを見て、青藍は優しく笑む。
なんだかんだいってお互いは好き合っているのだ。
「青藍様は……ずるいですわ」
「夕玲、そなたが好きだ。愛している。ずっと側にいてくれ」
「……はい」
渡り廊下でそんなやりとりをしていた夕玲は知らなかった。侍女たちや眷属がこっそりとそんな彼らを見守っていた。そして、香子は後からそんなことになっていたことを知って「私も見たかった!」と地団太を踏んだのだった。
人と四神、そして四神の眷属は違うのだ。
「夕玲、皇太后に渡りをつけてはくれぬか?」
「何故、でございましょう?」
「そなたをもらい受けたい。そなたの両親にも挨拶はせねばならぬだろうが、まずは皇太后に言わねばならぬだろう」
夕玲はどう返事をしたらいいのかわからなかった。
「花嫁様には……」
「何故花嫁様に伝える必要がある?」
「妾は花嫁様の女官です。そういうことは事前にお伝えしなければ失礼に当たりましょう」
「……わかった」
皇太后に伝える前に花嫁に伝えなければならない。そうしてから挨拶の日取りなどを相談しなければ……夕玲は頭が痛くなるのを感じた。
「……こういうことって妾が手配することなのかしらね?」
黒月ぐらいしかこういうことを愚痴れる相手もいない。
「……我にはわからぬな」
「そうよね」
黒月はそういう経験がないのだから知っているわけはなかった。それに見た目は成人しているが黒月はまだ未成年だという。胸はたわわで背も高、く理想的な身体つきをしている黒月が未成年だなどと夕玲は冗談ではないかと思ったがそうではなかった。だから結婚の準備の話をしても全くピンとこないだろう。かといって紅児に愚痴れば心配させてしまうだろうし、と思ったところで侍女頭の陳秀美が通りかかった。
「陳」
夕玲は手招きした。
「延様、どうかなさいましたか?」
「愚痴を聞いてほしいの。だめかしら?」
上目遣いで陳を見れば苦笑された。
「私でよろしければ」
夕玲は笑んで、青藍に言われたことを陳に伝えた。
「それは……青藍様が花嫁様にお伝えするのが筋ではないでしょうか。ただ、青藍様が皇太后にご挨拶をとなると、どなたからお伝えした方がいいのかはわかりかねます」
陳は真面目に答えてくれた。
それならばと夕玲が青藍に伝えたら、青藍はほんの少し顔を顰めた。さすがに夕玲はカチンときた。
「……妾は青藍様に嫁がなくてもかまいませぬが?」
「かようなことを言ってくれるな」
「何故青藍様が挨拶をするのに、妾がいろいろ聞いて回る必要があるのでしょう。そういったことは青藍様が手配すべきことです」
本当は青藍に両親がいれば両親が手配することではある。だが青藍の両親はすでに亡い。両親といっても先代の青龍と先代の花嫁だ。両親というくくりにもならないだろう。
「……すまない。我には人のことはわからぬ故、そなたならばわかるのではないかと考えたのだ」
青藍は素直に頭を下げた。こういうところが憎めないと夕玲は思う。
「……わかってくださればいいのです。青藍様、どうぞ花嫁様にお伝えくださいませ」
「そうしよう」
延夕玲も呼ばれて、青龍の室で花嫁に挨拶をすることになった。花嫁は困ったような顔をしていた。
「”つがい”だものね……夕玲が青藍と共になってもかまわないというのならば、私が言うことはないわ。でも……夕玲は人で、青藍とは違うのだから、きちんと話合ってね? 青藍が勝手に決めたりしてはいけないわ」
「はい。皇太后に挨拶をしたいと思っています。どうすればよいでしょうか?」
花嫁は少し考える顔をした。
「以前も顔見せはしているのよね? 青藍が挨拶をしたいのだから、趙に手配をしてもらいましょう」
「趙殿に、でございますか?」
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花嫁がとんでもないことを言う。
「花嫁様! そのようなこと青龍様にはさせられません!」
夕玲は悲鳴を上げた。
「そう? でも青藍の主神は青龍様なんだから、青龍様が直接頼んでもおかしくはないと思うけど?」
「花嫁様!」
花嫁は肩を竦め、そして舌をちろりと出した。
「ごめんなさい? でも挨拶をするのに誰かを通すのって面倒じゃないかしら?」
夕玲のこめかみに青筋が浮かんだ。
「花嫁様がそのようなことをおっしゃられるようでは困ります……」
「そうでなければやっぱり趙を通した方がいいと思うのよ。夕玲だって自分で皇太后に青藍が挨拶に来ますって伝えたい?」
「あまり……そういうことは……」
「でしょう?」
というわけで趙には青藍が頼み、中書省を経て皇太后へ手紙が届いたようだった。返事は夕玲の侍女が届けた。その方が早いからだろう。侍女から皇太后からの手紙を渡されて、夕玲は頭が痛くなるのを感じた。
「青藍様、皇太后から返事が来ました」
「そうか。見せてくれ」
「その前に、返信があったことを趙殿に伝えてくださいませ」
「……人というのは面倒だな」
「……青藍様」
「わかっている。口にするぐらいは許せ」
「妾を娶るというのはそういうことです。それが耐えられないのでしたら……」
「そなたにはかなわぬ」
青藍は苦笑して、夕玲を抱き寄せた。
「青藍様!」
「そなたの為ならば全て耐えてみせよう。だが、こうしてそなたに触れることは許してほしい」
「っ!?」
夕玲の頬はいつになく真っ赤に染まった。それを見て、青藍は優しく笑む。
なんだかんだいってお互いは好き合っているのだ。
「青藍様は……ずるいですわ」
「夕玲、そなたが好きだ。愛している。ずっと側にいてくれ」
「……はい」
渡り廊下でそんなやりとりをしていた夕玲は知らなかった。侍女たちや眷属がこっそりとそんな彼らを見守っていた。そして、香子は後からそんなことになっていたことを知って「私も見たかった!」と地団太を踏んだのだった。
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