異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

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第3部 周りと仲良くしろと言われました

140.穏やかな日々はなかなか訪れないものです

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 朱雀のおかげでかなり遠くまで長城を見ることができた。その望楼の一つ一つに兵士がいる。

(軍事施設なんだよねぇ……)

 それだけはきっとこの世界では変わらないのだろうと香子は思う。
 戦争なんて絶対にさせない。この国を守るには四神の力が必要だ。

(地続きの隣国なんて、志が異なってるんだから敵だよね)

 言語も違う。大切なものも違う。だから世界は一つなんて言ったって平和になんかならない。ましてオロス国は玄武の領地よりも更に北にある。少しでも南の土地がほしいに違いなかった。

〈朱雀様、ありがとうございます。戻りましょう〉
〈わかった〉

 本当は瞬間移動だってできるのに、朱雀はまた同じだけの時間をかけて戻ってくれた。それが香子は、泣きたくなるほど嬉しかった。
 そうして、冬の日々は穏やかに過ぎて行った。
 この国は農暦(旧暦)が基本なので、何月何日と言われても香子の感覚からは季節が一月以上もずれている。香子からしたら十一月の空がこんな状態ではないと思った。

(太陽暦と比べたらどうなんだろう……もう少し農暦を真面目に学んでおくんだったー)

 しかし旧暦の計算は難しい。閏年というと一日増えるものだろうが、旧暦には閏月というものがあるのだ。これが香子にはさっぱりわからない。

『元の世界だと、そろそろ新年じゃないかなと思うんですけど……』

 太陽暦だし、と白虎のもふもふに埋もれながら香子が呟いた。

『新年には何かあるのか?』
『うーん……』

 新年といえばおせち料理。初詣、お年玉だろうか。香子が思い浮かぶのはそれぐらいだ。
 そして、書初め。
 香子は眉を寄せた。書初めなんてとんでもないと思う。
 香子の両親の実家は遠いところにあったから、正月に帰省するなんてことはなかった。帰省は夏に一度だけが基本だった。
 羽根つき、はやらないか。凧揚げ……と考えてこの強風下ではないわーと香子は思う。どれもこれも却下だ。

『お餅!』

 香子は思い出した。

『お餅が食べたいかも!』
『餅?』
『もち米を炊いて杵でつくんです!』
『それは餅ではないだろう』
『んー? あー、えーと……年糕(もち)でした』

 使う漢字も同じものが多いせいか時折香子も間違える。香子が言った餅だと、小麦粉を平べったくして焼いたものになってしまう。餡儿餅シャルビン(中国版おやきっぽい食べ物)は香子の大好物だ。とてもおいしい。

『年糕は新年に食べるものではないのか?』
『そうですねぇ……』

 そう、まだここでは十一月なのだ。空は明らかに十二月の空なのに、と香子は内心悪態をついた。
 さりとてそこまでして香子が新暦の正月を祝いたいかと言われるとそうでもない。ようはなんとなくまったりしている時期なのだ。
 ただそのまったりしている時期のはずなのに、新たな問題も起きつつあった。

『あ~、癒される~……』

 香子は白虎に埋もれてご機嫌である。これぐらいの役得がなければやってられなかった。

『あーもー……なんで眷属ってのはこう、問題ばかり起こすんですかー……』
『問題か』
『問題ですよ……だいたい、よりにもよって私の部屋付きの侍女ばかり口説かなくたっていいじゃないですか!』

 香子は思い出したら腹が立ってきた。白虎が苦笑した。

『今は忘れよ』
『ううう……もふもふやわかい……はふー……』

 前足で顔を押さえられて、香子の顔はまた蕩けた。

(肉球たまらんたまらんたまらん……)

 白虎のおかげで、香子は一時頭の痛い問題から逃れることができた。あくまで、一時ではあったが。


 眷属、といったらあれである。
 四神宮に来た四神の眷属は、白雲を筆頭に”つがい”を見つけている。白雲の相手は香子とそう歳も違わない侍女頭だからまだいい。青藍の相手も成人はしている。紆余曲折あったようだが、青藍と延夕玲の関係は満更でもないようだった。そして紅夏は紅児を見つけてしまった。これはもう不可抗力としか言いようがないのだが、どうにかならなかったのかと香子は未だに思っている。
 そして今回だ。
 黒月はまだ未成年だから”つがい”うんぬんは関係ない。
 問題は、最近四神宮に来たばかりの紅炎である。
 どうやら紅炎の”つがい”もここにいたというではないか。
 聞いた時には何かの呪いかと香子は思ってしまった。

(”つがい”? 運命? 何かの呪いなの、これ? なんで四神宮にこんなに眷属の”つがい”がいるのよぉっ!?)

 天皇(ティエンホワン)に問い詰めなければいけないことがまた増えてしまった。

『なんで四神宮に眷属の”つがい”ばかりいるのでしょうか……』
『不思議なことだが、天皇の計らいであろう』

 だからどうしてそういうことを天皇はするのだ。目をかけていた侍女を眷属に奪われる身にもなってほしいと香子はぼやいた。

『天の神さまって、全然私に優しくないですよねぇ……』

 確かにみんな幸せになってほしいとは願っているが、その相手が四神の眷属だなんて苦労するところしか想像ができない。さすがに紅炎には勤務時間中は絶対に口説くなと厳命したけど、部屋付きの侍女が陥落するのは時間の問題である。

(キレーな名前の子なんだよね……確かあの時も振り回されてたっけ……)

 紅児がこちらに来る前にあった騒動を思い出し、香子はげんなりした。

(また別の子が横恋慕とかしなければいいのだけど)

 こればかりはどうしたらいいのか香子にはわからなかった。



ーーーーー
以前の横恋慕事件については第二部85話以降を参照のこと。
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