異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

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第3部 周りと仲良くしろと言われました

137.少し先のことを考えています

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香子シャンズ、許してもよいのか?』

 四神宮に戻ると、玄武に不思議そうに聞かれた。

『契約書を確認させてもらえたのだからいいではありませんか。それで内容の齟齬もわかりましたし』

 香子はあっけらかんと答えた。

『そういうものか』
『そういうものです』

 それが香子の望まない方向の内容であったならばこんなに冷静ではなかっただろう。だが香子は四神宮での滞在を伸ばすことができると知ってとても嬉しかった。

『玄武様の室へ行ってもいいですか?』
『もちろん』

 そう香子が聞くと、玄武はとても嬉しそうに目を細めた。

『あ、でも。しませんからね? お話をするだけです。だから、朱雀様も一緒に……』
『……わかった』

 今度は朱雀が嬉しそうになった。なんとなく、玄武に尾がついて、それがしょんぼりしているような幻影を香子は見たような気がした。
 内容の擦り合わせなので、四神全てと面と向かって話をする必要はないだろうと香子は思ったのだ。
 玄武の室で、長椅子に腰掛けた玄武に横抱きにされたまま香子はお茶を啜った。朱雀も一緒である。部屋には紅夏が控えていた。紅炎はどうしたのかというと、一応玄武の室の外で黒月と共に控えている。今回の内容はとりあえず知る人が少ない方がいいし、紅炎は香子が朱雀と共になって朱雀の領地へ向かうことを切望しているので席を外させた。

(悪いけど、私はもう少し四神宮にいたいし……)

 それがわかっていればこんなに早くエリーザを手放したりしなかったのに! と香子は今更ながら思った。やはり皇帝、許すまじである。(逆恨み)現在紅児は四神宮の香子の部屋で控えているがそういうことではないのだ。まだ未成年である紅児を紅夏の嫁にしたということが、ある意味香子のストレスとなっていた。今のところはまだ同室で暮らすことは許してはいないが、何日かに一回、紅夏が我慢できなくて紅児を部屋に連れ込むことについては黙認している。香子としては血の涙が出そうな所業ではあった。
 さて、話を戻そう。
 四神とその花嫁に関する、皇室との契約についてである。

『……私、まだここにいてもいいんですね……』
『……そういうことだな』

 朱雀が同意した。

『香子は、一年が過ぎてもここにいたいのか?』

 玄武に聞かれて香子は首を傾げた。

『ここにずっといたいかどうかと聞かれれば微妙です。一応一、二か月延長できればいいのではないかとは思いますけど』
『その程度でよいのか』

 玄武はほっとしたようだった。

『いえ、厳密に一年でないといけないでなくてよかったです。あの一年で皇帝が~ってのは私が延々四神を拒んでいた場合に限りだったんですね』
『そうだな』

 二神が頷く。

『……そんな花嫁もいたのですか?』
『……理由はある』

 なにかあったのだろうと香子は思ったが、聞かない方がいいと判断して追及はしなかった。過去の花嫁の名誉の為に、香子が知らなくていいことは沢山あるはずだった。

『あ、でも。なんで今代の皇帝が身罷るまでなんでしょう?』
『昔そういう花嫁がいたらしい』
『へえ……』

 花嫁にもいろいろあったんだろうなと香子はなんとなく納得した。そして、このことは隠しておいた方がいいだろうと香子は思った。

『……一年を過ぎてもここにいられるというのは、誰にも知らせないでおきましょう』
何故なにゆえか』

 玄武が軽く首を傾げた。

『それで滞在を延ばせとか言われても困るじゃないですか』

 香子はこの国の周辺国家の王や使者たちを思い出した。長く滞在することにより、また春の大祭などに駆り出されるのは御免被る。参加するのは一度だけと四神と約束をしたのだ。あれは一度だけだからいいのである。
 それに、もう一日であんなに何度も着替えたくはなかった。
 四神宮にいれば大祭の参加もそうだが各国の王たちが集まる晩餐会への出席も求められるだろう。それは香子としても嫌だった。
 だから四神宮の滞在を延ばすのは長くて二月ぐらいだろうと香子は思う。
 四神宮に長く居続けるのも問題だ。

『延長はしたとしても二か月程度ということでいいのだな』
『はい』

 玄武に確認されて、香子はきっぱり答えた。

『変更とかがあればその都度言いますけど、春の大祭まではいたくないのでそれぐらいが限界だと思います』
『そうか』
『来年も参加するなどとは言うまいな』

 朱雀が茶化すように言う。

『もういいですよ。一生に一度でいいんです、あんなことは』
『そうか』
『でも、春節に何かするのでしたらそれは参加しますよ』
『そうなのか?』

 玄武はほんの少しだけ表情を動かした。不思議そうだった。

『だって、春節って玄武様を讃える大祭じゃないですか。だから一度ぐらいは参加したいです』

 この国では、春節に玄武を讃えるのだ。今までは形式的だっただろうがこれからは違うだろうと香子は思っている。
 四神の花嫁が降臨し、玄武と想いを交わしたことでいつまでも訪れなかった春が今年は早めに訪れたのだ。だから新年の大祭はすごいだろうと香子はわくわくしていた。

『……全く、そなたにはかなわぬな』

 玄武が苦笑した。

『だが……そう簡単に許可は出せぬぞ?』
『もう、玄武様ったら……』

 ここは玄武の室だ。お茶を飲み終えたら、もう玄武が放してくれるはずはなかった。
 朱雀に手を取られて、香子はしょうがないなぁと頷いたのだった。
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