440 / 608
第3部 周りと仲良くしろと言われました
137.少し先のことを考えています
しおりを挟む
『香子、許してもよいのか?』
四神宮に戻ると、玄武に不思議そうに聞かれた。
『契約書を確認させてもらえたのだからいいではありませんか。それで内容の齟齬もわかりましたし』
香子はあっけらかんと答えた。
『そういうものか』
『そういうものです』
それが香子の望まない方向の内容であったならばこんなに冷静ではなかっただろう。だが香子は四神宮での滞在を伸ばすことができると知ってとても嬉しかった。
『玄武様の室へ行ってもいいですか?』
『もちろん』
そう香子が聞くと、玄武はとても嬉しそうに目を細めた。
『あ、でも。しませんからね? お話をするだけです。だから、朱雀様も一緒に……』
『……わかった』
今度は朱雀が嬉しそうになった。なんとなく、玄武に尾がついて、それがしょんぼりしているような幻影を香子は見たような気がした。
内容の擦り合わせなので、四神全てと面と向かって話をする必要はないだろうと香子は思ったのだ。
玄武の室で、長椅子に腰掛けた玄武に横抱きにされたまま香子はお茶を啜った。朱雀も一緒である。部屋には紅夏が控えていた。紅炎はどうしたのかというと、一応玄武の室の外で黒月と共に控えている。今回の内容はとりあえず知る人が少ない方がいいし、紅炎は香子が朱雀と共になって朱雀の領地へ向かうことを切望しているので席を外させた。
(悪いけど、私はもう少し四神宮にいたいし……)
それがわかっていればこんなに早くエリーザを手放したりしなかったのに! と香子は今更ながら思った。やはり皇帝、許すまじである。(逆恨み)現在紅児は四神宮の香子の部屋で控えているがそういうことではないのだ。まだ未成年である紅児を紅夏の嫁にしたということが、ある意味香子のストレスとなっていた。今のところはまだ同室で暮らすことは許してはいないが、何日かに一回、紅夏が我慢できなくて紅児を部屋に連れ込むことについては黙認している。香子としては血の涙が出そうな所業ではあった。
さて、話を戻そう。
四神とその花嫁に関する、皇室との契約についてである。
『……私、まだここにいてもいいんですね……』
『……そういうことだな』
朱雀が同意した。
『香子は、一年が過ぎてもここにいたいのか?』
玄武に聞かれて香子は首を傾げた。
『ここにずっといたいかどうかと聞かれれば微妙です。一応一、二か月延長できればいいのではないかとは思いますけど』
『その程度でよいのか』
玄武はほっとしたようだった。
『いえ、厳密に一年でないといけないでなくてよかったです。あの一年で皇帝が~ってのは私が延々四神を拒んでいた場合に限りだったんですね』
『そうだな』
二神が頷く。
『……そんな花嫁もいたのですか?』
『……理由はある』
なにかあったのだろうと香子は思ったが、聞かない方がいいと判断して追及はしなかった。過去の花嫁の名誉の為に、香子が知らなくていいことは沢山あるはずだった。
『あ、でも。なんで今代の皇帝が身罷るまでなんでしょう?』
『昔そういう花嫁がいたらしい』
『へえ……』
花嫁にもいろいろあったんだろうなと香子はなんとなく納得した。そして、このことは隠しておいた方がいいだろうと香子は思った。
『……一年を過ぎてもここにいられるというのは、誰にも知らせないでおきましょう』
『何故か』
玄武が軽く首を傾げた。
『それで滞在を延ばせとか言われても困るじゃないですか』
香子はこの国の周辺国家の王や使者たちを思い出した。長く滞在することにより、また春の大祭などに駆り出されるのは御免被る。参加するのは一度だけと四神と約束をしたのだ。あれは一度だけだからいいのである。
それに、もう一日であんなに何度も着替えたくはなかった。
四神宮にいれば大祭の参加もそうだが各国の王たちが集まる晩餐会への出席も求められるだろう。それは香子としても嫌だった。
だから四神宮の滞在を延ばすのは長くて二月ぐらいだろうと香子は思う。
四神宮に長く居続けるのも問題だ。
『延長はしたとしても二か月程度ということでいいのだな』
『はい』
玄武に確認されて、香子はきっぱり答えた。
『変更とかがあればその都度言いますけど、春の大祭まではいたくないのでそれぐらいが限界だと思います』
『そうか』
『来年も参加するなどとは言うまいな』
朱雀が茶化すように言う。
『もういいですよ。一生に一度でいいんです、あんなことは』
『そうか』
『でも、春節に何かするのでしたらそれは参加しますよ』
『そうなのか?』
玄武はほんの少しだけ表情を動かした。不思議そうだった。
『だって、春節って玄武様を讃える大祭じゃないですか。だから一度ぐらいは参加したいです』
この国では、春節に玄武を讃えるのだ。今までは形式的だっただろうがこれからは違うだろうと香子は思っている。
四神の花嫁が降臨し、玄武と想いを交わしたことでいつまでも訪れなかった春が今年は早めに訪れたのだ。だから新年の大祭はすごいだろうと香子はわくわくしていた。
『……全く、そなたにはかなわぬな』
玄武が苦笑した。
『だが……そう簡単に許可は出せぬぞ?』
『もう、玄武様ったら……』
ここは玄武の室だ。お茶を飲み終えたら、もう玄武が放してくれるはずはなかった。
朱雀に手を取られて、香子はしょうがないなぁと頷いたのだった。
四神宮に戻ると、玄武に不思議そうに聞かれた。
『契約書を確認させてもらえたのだからいいではありませんか。それで内容の齟齬もわかりましたし』
香子はあっけらかんと答えた。
『そういうものか』
『そういうものです』
それが香子の望まない方向の内容であったならばこんなに冷静ではなかっただろう。だが香子は四神宮での滞在を伸ばすことができると知ってとても嬉しかった。
『玄武様の室へ行ってもいいですか?』
『もちろん』
そう香子が聞くと、玄武はとても嬉しそうに目を細めた。
『あ、でも。しませんからね? お話をするだけです。だから、朱雀様も一緒に……』
『……わかった』
今度は朱雀が嬉しそうになった。なんとなく、玄武に尾がついて、それがしょんぼりしているような幻影を香子は見たような気がした。
内容の擦り合わせなので、四神全てと面と向かって話をする必要はないだろうと香子は思ったのだ。
玄武の室で、長椅子に腰掛けた玄武に横抱きにされたまま香子はお茶を啜った。朱雀も一緒である。部屋には紅夏が控えていた。紅炎はどうしたのかというと、一応玄武の室の外で黒月と共に控えている。今回の内容はとりあえず知る人が少ない方がいいし、紅炎は香子が朱雀と共になって朱雀の領地へ向かうことを切望しているので席を外させた。
(悪いけど、私はもう少し四神宮にいたいし……)
それがわかっていればこんなに早くエリーザを手放したりしなかったのに! と香子は今更ながら思った。やはり皇帝、許すまじである。(逆恨み)現在紅児は四神宮の香子の部屋で控えているがそういうことではないのだ。まだ未成年である紅児を紅夏の嫁にしたということが、ある意味香子のストレスとなっていた。今のところはまだ同室で暮らすことは許してはいないが、何日かに一回、紅夏が我慢できなくて紅児を部屋に連れ込むことについては黙認している。香子としては血の涙が出そうな所業ではあった。
さて、話を戻そう。
四神とその花嫁に関する、皇室との契約についてである。
『……私、まだここにいてもいいんですね……』
『……そういうことだな』
朱雀が同意した。
『香子は、一年が過ぎてもここにいたいのか?』
玄武に聞かれて香子は首を傾げた。
『ここにずっといたいかどうかと聞かれれば微妙です。一応一、二か月延長できればいいのではないかとは思いますけど』
『その程度でよいのか』
玄武はほっとしたようだった。
『いえ、厳密に一年でないといけないでなくてよかったです。あの一年で皇帝が~ってのは私が延々四神を拒んでいた場合に限りだったんですね』
『そうだな』
二神が頷く。
『……そんな花嫁もいたのですか?』
『……理由はある』
なにかあったのだろうと香子は思ったが、聞かない方がいいと判断して追及はしなかった。過去の花嫁の名誉の為に、香子が知らなくていいことは沢山あるはずだった。
『あ、でも。なんで今代の皇帝が身罷るまでなんでしょう?』
『昔そういう花嫁がいたらしい』
『へえ……』
花嫁にもいろいろあったんだろうなと香子はなんとなく納得した。そして、このことは隠しておいた方がいいだろうと香子は思った。
『……一年を過ぎてもここにいられるというのは、誰にも知らせないでおきましょう』
『何故か』
玄武が軽く首を傾げた。
『それで滞在を延ばせとか言われても困るじゃないですか』
香子はこの国の周辺国家の王や使者たちを思い出した。長く滞在することにより、また春の大祭などに駆り出されるのは御免被る。参加するのは一度だけと四神と約束をしたのだ。あれは一度だけだからいいのである。
それに、もう一日であんなに何度も着替えたくはなかった。
四神宮にいれば大祭の参加もそうだが各国の王たちが集まる晩餐会への出席も求められるだろう。それは香子としても嫌だった。
だから四神宮の滞在を延ばすのは長くて二月ぐらいだろうと香子は思う。
四神宮に長く居続けるのも問題だ。
『延長はしたとしても二か月程度ということでいいのだな』
『はい』
玄武に確認されて、香子はきっぱり答えた。
『変更とかがあればその都度言いますけど、春の大祭まではいたくないのでそれぐらいが限界だと思います』
『そうか』
『来年も参加するなどとは言うまいな』
朱雀が茶化すように言う。
『もういいですよ。一生に一度でいいんです、あんなことは』
『そうか』
『でも、春節に何かするのでしたらそれは参加しますよ』
『そうなのか?』
玄武はほんの少しだけ表情を動かした。不思議そうだった。
『だって、春節って玄武様を讃える大祭じゃないですか。だから一度ぐらいは参加したいです』
この国では、春節に玄武を讃えるのだ。今までは形式的だっただろうがこれからは違うだろうと香子は思っている。
四神の花嫁が降臨し、玄武と想いを交わしたことでいつまでも訪れなかった春が今年は早めに訪れたのだ。だから新年の大祭はすごいだろうと香子はわくわくしていた。
『……全く、そなたにはかなわぬな』
玄武が苦笑した。
『だが……そう簡単に許可は出せぬぞ?』
『もう、玄武様ったら……』
ここは玄武の室だ。お茶を飲み終えたら、もう玄武が放してくれるはずはなかった。
朱雀に手を取られて、香子はしょうがないなぁと頷いたのだった。
12
お気に入りに追加
4,026
あなたにおすすめの小説

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

白い結婚のはずでしたが、王太子の愛人に嘲笑されたので隣国へ逃げたら、そちらの王子に大切にされました
ゆる
恋愛
「王太子妃として、私はただの飾り――それなら、いっそ逃げるわ」
オデット・ド・ブランシュフォール侯爵令嬢は、王太子アルベールの婚約者として育てられた。誰もが羨む立場のはずだったが、彼の心は愛人ミレイユに奪われ、オデットはただの“形式だけの妻”として冷遇される。
「君との結婚はただの義務だ。愛するのはミレイユだけ」
そう嘲笑う王太子と、勝ち誇る愛人。耐え忍ぶことを強いられた日々に、オデットの心は次第に冷え切っていった。だが、ある日――隣国アルヴェールの王子・レオポルドから届いた一通の書簡が、彼女の運命を大きく変える。
「もし君が望むなら、私は君を迎え入れよう」
このまま王太子妃として屈辱に耐え続けるのか。それとも、自らの人生を取り戻すのか。
オデットは決断する。――もう、アルベールの傀儡にはならない。
愛人に嘲笑われた王妃の座などまっぴらごめん!
王宮を飛び出し、隣国で新たな人生を掴み取ったオデットを待っていたのは、誠実な王子の深い愛。
冷遇された令嬢が、理不尽な白い結婚を捨てて“本当の幸せ”を手にする

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。
昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。
入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。
その甲斐あってか学年首位となったある日。
「君のことが好きだから」…まさかの告白!

【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。
BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。
父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した!
メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる