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第3部 周りと仲良くしろと言われました

136.確認が大切であることがよくわかりました

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 冬である。
 さすがに四神が側にいれば快適な気温になるとはいっても、もう外でお茶をする季節ではない。さすがに冬の陽射しと時折吹く風まで遮ることは難しい。香子は常に四神の腕の中なので風などの影響は受けないが、周りの者は影響を受けるのだ。(みな暖石は持っているのでそこまでつらいというほどではない)
 今回は話が話だけに皇帝の執務室に向かうことになった。中書令(宰相)である李雲も同席すると香子は聞いた。四神と四神の花嫁、そして皇室との関係について宰相が知っていいものなのか、香子にはよくわからなかった。今回は女官や侍女は執務室の手前で控え、中には入らないそうだ。

(それぐらい知られてはまずい内容ってことよね?)

 だったらそういうことはしっかり説明しておいてほしいと香子は思った。
 どう考えてもコミュニケーションが足りない。でも花嫁が四神宮に滞在する期間が一年間というのはともかく、それを過ぎても花嫁が相手を決めない場合皇帝がその夫を決めるということを、皇太后はどうやって知ったのだろう。そういうことは夫婦で把握しておくものなのだろうか。
 香子はそんなことを考えながら、玄武の腕に抱かれたまま皇帝の執務室に入った。今回は皇帝、中書令、皇太后、玄武、朱雀、香子、白雲のみである。延夕玲はみなにお茶を淹れてから退室した。執務室の前では黒月と紅夏が控えていることになっている。執務室から少し離れた控室で女官や侍女たちは待っている形だ。武官は執務室の扉を眷属と共に守っている。

『そなに厳重に隠さなばならぬ内容とは思えぬがな』

 朱雀が呆れたように言った。皇帝が頭を下げた。

『……申し訳ない。契約の内容の擦り合わせが必要かと思いまして。国と契約をしたのが先代の四神とはいえ伝わっていないとは思いませんでしたから』
『先々代の花嫁がいらっしゃった頃の話であろう。見せよ』

 朱雀が手を出した。中書令が黒塗りの箱を出した。

『長い時を持たせるようにと、石に刻印しております。どうぞご確認ください』

 蓋を開けて見せられた石は黒くてツヤツヤしていた。長細い平らな石に文字が彫られているのが見えた。

『ふむ』

 玄武と朱雀が箱に入っている石を眺めた。香子も見てみたが、さっぱりわからなかった。使われている漢字は香子から見れば全て繁体字(旧字)だし、句読点はない。なんで読みづらいのに句読点というものをいつまでも開発してくれなかったのだろう。亀の甲羅や木や竹に彫っていたから、できるだけ彫らないで済むようにと考えた結果なのだろうかと香子は考えた。
 どうせ香子が読んでもわからないのだ。

『……解釈の違いか、もしくは』

 玄武が呟くように言った。

『と、おっしゃられますと?』

 宰相が反応した。

『ここに季節が四回巡るまでいう記載はある。だがそれは最低でも季節が四回巡るまでは、四神とその花嫁を滞在させることとある。例外は、四神と花嫁がお互いに納得して季節が巡る前に四神宮を去る場合。そして四神と花嫁が納得した上であればその代の皇帝が身罷るまで四神宮での滞在を許可すること』
『ええっ!?』

 言っていることが違うではないか。香子は皇帝を睨んだ。

『ただし、四神の花嫁が季節が四回巡っても四神を受け入れない場合は、その代の皇帝が花嫁の嫁ぎ先を決めることとは書いてあるな』

 玄武が顔を上げた。

光基グワンジー(皇帝の名)、そなたはこれを見て先日のようなことを申したのか』
『大変申し訳ありません!!』

 皇帝と皇太后がその場に平伏した。
 話を聞くと、この契約書は普段天壇にしまわれているらしい。皇帝が許可を出した者以外には触れることはできず、動かすこともできないようだ。
 なので皇帝がこの契約書を直接確認したのはこれが初めてだったという。

『ってことは……先代の皇帝から口伝えされたことを朱雀様に伝えたのですか?』
『此度は、本当に申し訳ないことをした』

 皇帝、皇太后、宰相が平伏する。香子ははらわたが煮えくり返りそうだったが、ふと気づいた。

『……この契約書が入った箱って、運びたい時に運べるものなのですか?』
『いえ、天壇の出入りには許可がいります』

 宰相が答えた。

『その許可を得るにはどれぐらいの期間がかかりますか?』
『……今回は緊急ということで、二日で許可を取りました』
『なるほど』

 香子は皇帝を許すことにした。一応こちらが声をかける前に動いてはいたようだったからだ。

『ということは、私が四神宮にもっと滞在したいと思えばいられるということよね? 私は四神を拒んではいないのだから』
『……そういうことになりますな』

 宰相は苦笑した。

『顔を上げてちょうだい。そういうことなら、これからもよろしくお願いするわ』

 顔を上げた皇帝は蒼褪めていた。皇太后は笑んでいた。そして宰相もまた笑顔だった。目は笑っていなかったが。

『……妾がお騒がせしたようですな』
老仏爺ラオフオイエは先帝からお聞きになられたのでしょうか? その都度確認しなければ千四百年も昔の話なんてわかりませんわ。気になさらないでください』
『花嫁様の慈悲深いお言葉、この年寄りの胸にしみます』
『老仏爺、これからもよろしくお願いします』
『もちろんですとも……』

 正しい契約内容が知れたことは収穫だったと香子は思った。その後、お茶は冷めてしまったがみなでお茶をし、香子は上機嫌で四神宮に戻ったのだった。
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