異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

文字の大きさ
上 下
435 / 608
第3部 周りと仲良くしろと言われました

132.それを日常と呼ぶのには抵抗があります

しおりを挟む
 白虎の室には玄武が来た。

『玄武兄』
『我は見守っている故、香子シャンズを癒してやるがよい』
『……はい』

 玄武に暗にそうしろと言われ、白虎は嘆息した。香子の手はすでにわきわきしている。

『目を閉じておれ』

 寝室に移動して香子が目を閉じるのを確認してから、白虎は本性を現わした。その際に光りが生じるので香子の目を閉じさせたのだ。

『……よいぞ』

 香子はゆっくりと目を開け、白虎の美しい虎の姿を見て目を輝かせた。

『わぁ……ありがとうございます!』

 ベッドに横たわっている白虎に香子がもふっとダイブする。それがあまりにも幸せそうだったから、玄武もまたうっすらと笑みを浮かべた。白虎は無表情だが困っていた。香子はそれがわかっていたが、こういうことで癒しを得るのは白虎以外いないと思っているので甘えることにした。

(あれ? でも……)

 もふもふしながら香子は顔を上げた。

『あのー……朱雀様の本性って鳥なんですよね』
『そうだな』

 玄武が答えた。

『朱雀様の羽ってもふもふしてますかね……』
『そなたが触れねばわからぬことだろう』
『それもそうですね』

 今考えてもしかたないので、香子は白虎の毛を堪能した。

『香子……』

 人の姿になった白虎がうろんな表情を香子に向ける。そもそも四神は表情が動くのが珍しいので香子は目を丸くした。

『はい』
『……ここまで我の毛を堪能したのだ。今宵は覚悟しておろうな?』

 香子は肩を竦めた。

『覚悟は……していませんが』
『なに?』
『今宵は共に過ごしていただけますか?』

 香子は頬を染めて白虎を誘った。白虎は嘆息した。

『是非もない』

 今夜は白虎も一緒に過ごすことが確定した。


 翌朝、香子は玄武の腕の中で目覚めた。白虎はすでにいない。
 白虎は確かに香子を求めるが、一晩共に過ごすことはそうなかった。白虎なりに、玄武や朱雀に対して遠慮しているのかもしれない。

『おなかすいた……』

 香子は、日常が戻ってきたような気がした。これが日常と言われるとどんだけ爛れているのかと香子も思ってしまうのだが、そういうことではない。朱雀が側にいるのがわかった。

『朱雀様……』
『如何した?』
『紅夏はどうなるのですか? 紅炎は?』

 朱雀は床の上で気だるそうに髪をかき上げ、嘆息した。

『それは奴らが決めることだ。我は知らぬ』
『そうですか……』

 確かに、そもそも眷属がここに来ているのは眷属の自主性によるものだ。紅炎だけは紅夏の代わりにと香子が頼んだが、紅夏が戻ってきたからにはどうするのだろうとも考える。

『朱雀様、そういえば紅炎は第一世代なんですか?』
『ああ……張燕に産んでもらったな』
『そう、なんですね……』

 先代の花嫁に対して含むところはない。四神は花嫁に反応するのだ。香子が朱雀の次代を産まずに死ねば、その次の花嫁に産んでもらうことになるのだろう。

『……なんだ、ヤキモチか?』

 そんな科白が朱雀が出たことに香子は驚いた。

『いえ……遥か昔のことでしょうからそこまで気にはなりませんけど……うまく言葉にできないだけです』
『そうか』

 朝食が届いたと居間から声がかかったので移動した。玄武と一緒の時は必ず玄武の膝の上である。いつのまにかそういうことになってしまっているが、香子も玄武の膝の上は安心するので何も言うことはない。
 少し形がいびつで、焦げているような見た目の春巻を見て香子はにっこりした。これは馬が作ったものだろう。もやしやにんじん、ピーマン、卵などが入ったしゃきしゃきの春巻である。それを食べると、香子は大学の休み時間に外で買った春巻を思い出す。
 まだこちらにきてからそれほど時間が経っているとはいえないのに、もう遠い世界の話のようだと香子は思った。
 揚げた餃子もおいしいし、小さめに作られた揚げ肉まんとかそういうのも香子は好きだ。

『はー……おいしい……』

 四神に抱かれるようになって、翌朝はすごい空腹で自力で動けなくなるのだが、いくらでも食べられるようになったのは香子としては嬉しいことだった。何せ大陸の料理は全て大皿でいっぱい出てくる。宴会など食べ切れなくて残すのは当たり前だったから、それはそれで地味にストレスだったのだ。四神宮では残り物は下賜されると聞いているのでそこらへんは安心だし、今はいくらでも食べられるので嬉しくてしかたないのだった。
 そう、おいしいものを食べられさえすれば香子は幸せなのである。
 炒め物料理も朝とは思えないほど出されるし、香子のリクエストは大概通る。とはいえ、香子はそんなに無茶は言わない。一応季節を考えて、手に入らなければいいと告げる。
 そんな香子を四神がひどく愛おしく思っていることを、香子は知らない。
 花嫁だから。
 きっかけはそれだ。
 四神は花嫁以外愛することはないし、花嫁以外とは子が成せない。それでも花嫁に対してなんらかの感情は持つ。

『そなたは本当においしそうに食べるな』
『おいしいですから!』

 返答はいつも同じだが、毎回とても楽しそうな香子を眺めて四神もほっとする。
 香子は普段四神宮にいるが、いつも気持ちはいろいろなところへ飛んでいるようにも四神には感じられる。
 玄武は香子の頬についたたれをペロリと舐めた。

『っっ!?』
『何かついていたぞ』
『あ、ありがとうございます!』

 そう言って前を向く香子の耳は真っ赤だった。
しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。 昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。 入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。 その甲斐あってか学年首位となったある日。 「君のことが好きだから」…まさかの告白!

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

処理中です...