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第3部 周りと仲良くしろと言われました
132.それを日常と呼ぶのには抵抗があります
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白虎の室には玄武が来た。
『玄武兄』
『我は見守っている故、香子を癒してやるがよい』
『……はい』
玄武に暗にそうしろと言われ、白虎は嘆息した。香子の手はすでにわきわきしている。
『目を閉じておれ』
寝室に移動して香子が目を閉じるのを確認してから、白虎は本性を現わした。その際に光りが生じるので香子の目を閉じさせたのだ。
『……よいぞ』
香子はゆっくりと目を開け、白虎の美しい虎の姿を見て目を輝かせた。
『わぁ……ありがとうございます!』
床に横たわっている白虎に香子がもふっとダイブする。それがあまりにも幸せそうだったから、玄武もまたうっすらと笑みを浮かべた。白虎は無表情だが困っていた。香子はそれがわかっていたが、こういうことで癒しを得るのは白虎以外いないと思っているので甘えることにした。
(あれ? でも……)
もふもふしながら香子は顔を上げた。
『あのー……朱雀様の本性って鳥なんですよね』
『そうだな』
玄武が答えた。
『朱雀様の羽ってもふもふしてますかね……』
『そなたが触れねばわからぬことだろう』
『それもそうですね』
今考えてもしかたないので、香子は白虎の毛を堪能した。
『香子……』
人の姿になった白虎がうろんな表情を香子に向ける。そもそも四神は表情が動くのが珍しいので香子は目を丸くした。
『はい』
『……ここまで我の毛を堪能したのだ。今宵は覚悟しておろうな?』
香子は肩を竦めた。
『覚悟は……していませんが』
『なに?』
『今宵は共に過ごしていただけますか?』
香子は頬を染めて白虎を誘った。白虎は嘆息した。
『是非もない』
今夜は白虎も一緒に過ごすことが確定した。
翌朝、香子は玄武の腕の中で目覚めた。白虎はすでにいない。
白虎は確かに香子を求めるが、一晩共に過ごすことはそうなかった。白虎なりに、玄武や朱雀に対して遠慮しているのかもしれない。
『おなかすいた……』
香子は、日常が戻ってきたような気がした。これが日常と言われるとどんだけ爛れているのかと香子も思ってしまうのだが、そういうことではない。朱雀が側にいるのがわかった。
『朱雀様……』
『如何した?』
『紅夏はどうなるのですか? 紅炎は?』
朱雀は床の上で気だるそうに髪をかき上げ、嘆息した。
『それは奴らが決めることだ。我は知らぬ』
『そうですか……』
確かに、そもそも眷属がここに来ているのは眷属の自主性によるものだ。紅炎だけは紅夏の代わりにと香子が頼んだが、紅夏が戻ってきたからにはどうするのだろうとも考える。
『朱雀様、そういえば紅炎は第一世代なんですか?』
『ああ……張燕に産んでもらったな』
『そう、なんですね……』
先代の花嫁に対して含むところはない。四神は花嫁に反応するのだ。香子が朱雀の次代を産まずに死ねば、その次の花嫁に産んでもらうことになるのだろう。
『……なんだ、ヤキモチか?』
そんな科白が朱雀が出たことに香子は驚いた。
『いえ……遥か昔のことでしょうからそこまで気にはなりませんけど……うまく言葉にできないだけです』
『そうか』
朝食が届いたと居間から声がかかったので移動した。玄武と一緒の時は必ず玄武の膝の上である。いつのまにかそういうことになってしまっているが、香子も玄武の膝の上は安心するので何も言うことはない。
少し形がいびつで、焦げているような見た目の春巻を見て香子はにっこりした。これは馬が作ったものだろう。もやしやにんじん、ピーマン、卵などが入ったしゃきしゃきの春巻である。それを食べると、香子は大学の休み時間に外で買った春巻を思い出す。
まだこちらにきてからそれほど時間が経っているとはいえないのに、もう遠い世界の話のようだと香子は思った。
揚げた餃子もおいしいし、小さめに作られた揚げ肉まんとかそういうのも香子は好きだ。
『はー……おいしい……』
四神に抱かれるようになって、翌朝はすごい空腹で自力で動けなくなるのだが、いくらでも食べられるようになったのは香子としては嬉しいことだった。何せ大陸の料理は全て大皿でいっぱい出てくる。宴会など食べ切れなくて残すのは当たり前だったから、それはそれで地味にストレスだったのだ。四神宮では残り物は下賜されると聞いているのでそこらへんは安心だし、今はいくらでも食べられるので嬉しくてしかたないのだった。
そう、おいしいものを食べられさえすれば香子は幸せなのである。
炒め物料理も朝とは思えないほど出されるし、香子のリクエストは大概通る。とはいえ、香子はそんなに無茶は言わない。一応季節を考えて、手に入らなければいいと告げる。
そんな香子を四神がひどく愛おしく思っていることを、香子は知らない。
花嫁だから。
きっかけはそれだ。
四神は花嫁以外愛することはないし、花嫁以外とは子が成せない。それでも花嫁に対してなんらかの感情は持つ。
『そなたは本当においしそうに食べるな』
『おいしいですから!』
返答はいつも同じだが、毎回とても楽しそうな香子を眺めて四神もほっとする。
香子は普段四神宮にいるが、いつも気持ちはいろいろなところへ飛んでいるようにも四神には感じられる。
玄武は香子の頬についたたれをペロリと舐めた。
『っっ!?』
『何かついていたぞ』
『あ、ありがとうございます!』
そう言って前を向く香子の耳は真っ赤だった。
『玄武兄』
『我は見守っている故、香子を癒してやるがよい』
『……はい』
玄武に暗にそうしろと言われ、白虎は嘆息した。香子の手はすでにわきわきしている。
『目を閉じておれ』
寝室に移動して香子が目を閉じるのを確認してから、白虎は本性を現わした。その際に光りが生じるので香子の目を閉じさせたのだ。
『……よいぞ』
香子はゆっくりと目を開け、白虎の美しい虎の姿を見て目を輝かせた。
『わぁ……ありがとうございます!』
床に横たわっている白虎に香子がもふっとダイブする。それがあまりにも幸せそうだったから、玄武もまたうっすらと笑みを浮かべた。白虎は無表情だが困っていた。香子はそれがわかっていたが、こういうことで癒しを得るのは白虎以外いないと思っているので甘えることにした。
(あれ? でも……)
もふもふしながら香子は顔を上げた。
『あのー……朱雀様の本性って鳥なんですよね』
『そうだな』
玄武が答えた。
『朱雀様の羽ってもふもふしてますかね……』
『そなたが触れねばわからぬことだろう』
『それもそうですね』
今考えてもしかたないので、香子は白虎の毛を堪能した。
『香子……』
人の姿になった白虎がうろんな表情を香子に向ける。そもそも四神は表情が動くのが珍しいので香子は目を丸くした。
『はい』
『……ここまで我の毛を堪能したのだ。今宵は覚悟しておろうな?』
香子は肩を竦めた。
『覚悟は……していませんが』
『なに?』
『今宵は共に過ごしていただけますか?』
香子は頬を染めて白虎を誘った。白虎は嘆息した。
『是非もない』
今夜は白虎も一緒に過ごすことが確定した。
翌朝、香子は玄武の腕の中で目覚めた。白虎はすでにいない。
白虎は確かに香子を求めるが、一晩共に過ごすことはそうなかった。白虎なりに、玄武や朱雀に対して遠慮しているのかもしれない。
『おなかすいた……』
香子は、日常が戻ってきたような気がした。これが日常と言われるとどんだけ爛れているのかと香子も思ってしまうのだが、そういうことではない。朱雀が側にいるのがわかった。
『朱雀様……』
『如何した?』
『紅夏はどうなるのですか? 紅炎は?』
朱雀は床の上で気だるそうに髪をかき上げ、嘆息した。
『それは奴らが決めることだ。我は知らぬ』
『そうですか……』
確かに、そもそも眷属がここに来ているのは眷属の自主性によるものだ。紅炎だけは紅夏の代わりにと香子が頼んだが、紅夏が戻ってきたからにはどうするのだろうとも考える。
『朱雀様、そういえば紅炎は第一世代なんですか?』
『ああ……張燕に産んでもらったな』
『そう、なんですね……』
先代の花嫁に対して含むところはない。四神は花嫁に反応するのだ。香子が朱雀の次代を産まずに死ねば、その次の花嫁に産んでもらうことになるのだろう。
『……なんだ、ヤキモチか?』
そんな科白が朱雀が出たことに香子は驚いた。
『いえ……遥か昔のことでしょうからそこまで気にはなりませんけど……うまく言葉にできないだけです』
『そうか』
朝食が届いたと居間から声がかかったので移動した。玄武と一緒の時は必ず玄武の膝の上である。いつのまにかそういうことになってしまっているが、香子も玄武の膝の上は安心するので何も言うことはない。
少し形がいびつで、焦げているような見た目の春巻を見て香子はにっこりした。これは馬が作ったものだろう。もやしやにんじん、ピーマン、卵などが入ったしゃきしゃきの春巻である。それを食べると、香子は大学の休み時間に外で買った春巻を思い出す。
まだこちらにきてからそれほど時間が経っているとはいえないのに、もう遠い世界の話のようだと香子は思った。
揚げた餃子もおいしいし、小さめに作られた揚げ肉まんとかそういうのも香子は好きだ。
『はー……おいしい……』
四神に抱かれるようになって、翌朝はすごい空腹で自力で動けなくなるのだが、いくらでも食べられるようになったのは香子としては嬉しいことだった。何せ大陸の料理は全て大皿でいっぱい出てくる。宴会など食べ切れなくて残すのは当たり前だったから、それはそれで地味にストレスだったのだ。四神宮では残り物は下賜されると聞いているのでそこらへんは安心だし、今はいくらでも食べられるので嬉しくてしかたないのだった。
そう、おいしいものを食べられさえすれば香子は幸せなのである。
炒め物料理も朝とは思えないほど出されるし、香子のリクエストは大概通る。とはいえ、香子はそんなに無茶は言わない。一応季節を考えて、手に入らなければいいと告げる。
そんな香子を四神がひどく愛おしく思っていることを、香子は知らない。
花嫁だから。
きっかけはそれだ。
四神は花嫁以外愛することはないし、花嫁以外とは子が成せない。それでも花嫁に対してなんらかの感情は持つ。
『そなたは本当においしそうに食べるな』
『おいしいですから!』
返答はいつも同じだが、毎回とても楽しそうな香子を眺めて四神もほっとする。
香子は普段四神宮にいるが、いつも気持ちはいろいろなところへ飛んでいるようにも四神には感じられる。
玄武は香子の頬についたたれをペロリと舐めた。
『っっ!?』
『何かついていたぞ』
『あ、ありがとうございます!』
そう言って前を向く香子の耳は真っ赤だった。
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