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第3部 周りと仲良くしろと言われました
130.無事帰ってきました
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戻ってきたことは聞いたが、香子は紅児たちを敢えて呼び出したりはしなかった。
いろいろ準備などもあるだろうし、昼食後でいいかなと思ったのだ。先送りにしている自覚はあるが、急ぐことではないと香子は思ったのだ。だがさすがにそれではまずいと誰かが思ったのか、朱雀が茶室に訪れた。
今日は白虎と過ごす日だから、朱雀が来たのは珍しいと香子は思った。
『朱雀様? 如何か……』
『紅夏が”つがい”を連れて戻ってきた。謁見の間へ向かうぞ』
『えええ?』
朱雀に抱き上げられた。
『帰着の挨拶なんて……』
『戻ってきたことは知っていよう?』
『ですが、急ぐことでもないかなと……』
朱雀がクックッと笑った。
『出て行った者が戻ってきたのだ。手順は踏まねばなるまい』
『あー……』
そういえば二人を送り出したのも謁見の間だった。だから迎え入れるにもそこを通さなければいけないわけで。
『面倒ですね?』
『そうだな』
朱雀は香子を抱いて歩きながら、楽しそうに笑った。
『そういうことは、人としては大事なことではないのか? 我にはわからぬが……』
『多分大事なことかとは存じますが……面倒は面倒ですよ?』
そんなことを言い合いながら謁見の間に向かえば、紅夏と紅児が平伏していた。
『陵光神君、万歳万歳万々歳! 白香娘娘、千歳千歳千々歳!』
趙文英、そして紅夏と紅児がそう唱えたのを聞いて、香子は目を丸くした。そういえば最近省略はさせていたけれども、そういう立場であったことを香子はやっと思い出した。
『平身(なおれ)』
朱雀が当たり前のように告げる。
『謝神君!(ありがとうございます)』
趙、紅夏、紅児が立ち上がり、頭を下げるようにした。
(わー、やっぱ時代劇っぽいー)
と香子は思った。香子は中国の時代劇が大好きである。
『して、此度戻ってきたのは何故か』
『はっ。先だって使いを出した通りにございます。そこなエリーザは許されるならば、再度花嫁様にお仕えしたいと申しております』
『そうか。香子、そなたはどうしたい?』
朱雀に聞かれて香子は頷いた。
『エリーザがまた私に仕えてくれるのならば、お願いしたいと思います』
『よかろう。まずは長旅の疲れを癒すがよい』
朱雀はそう言って踵を返した。ここで言えるのはそれぐらいである。でも香子は朱雀が、香子に配慮してくれたことが嬉しかった。面倒なやりとりは大分省略した為その程度で済んだといえよう。
本来ならば趙が口上を述べたりといろいろ手順はあるのだが、四神はそれらを嫌っている。いろいろ省略できてよかったと香子は思った。
そろそろ昼ということで部屋に一旦戻り、また侍女たちの着せ替え人形にされた。
『朱雀様は困りますわ』
『え? 何かあったかしら?』
『せっかく謁見の間に向かわれるのに、花嫁様の着替えもさせてくださらないのですから』
侍女から恨み言を聞かされて香子は戦慄した。
『……え?』
『いいですか花嫁様。習い事をした後は必ず着替えなければなりません。書を習ったということは墨の匂いが衣類についております。その匂いをさせながら謁見の間に向かうなんて言語道断です!』
『は、はい……』
侍女たちは、張に書を習った後は着替えろと言っているらしい。今回は謁見もあったから着替えるのが当然であり、その後も表に出たのだから着替えなければならないというのだ。ここでちょうど昼食の時間だから着替えも一度でかまわないが、そうでなければもう一度着替えていただきたいなどとこんこんと説教をされてしまった。
『う、うーんと……そんなに着替えなくてもいいかなって私は思うのだけど……』
『花嫁様は素材がいいのですから着飾るべきです! 着替えの衣裳も沢山ございますから、他の時に着替えをしたいと思われた時はいつでもお声掛けくださいませ!』
『……はい』
侍女たちにはかないそうもなかった。
あれ? 一応私が主人なんじゃないのかな? とはちら、と思ったが、侍女たちは楽しんでいるようなのでいいことにした。
(でも、地味に着替えとかって体力使うよねー……)
普通に洋服を脱ぎ着するわけではないのでたいへんである。十二単を着せられているわけではないので重さはそれほどないが、布を贅沢に使われているので腕の動かし方が難しいと香子は思う。一応袖があまり広くない物を選んでもらってはいるが、ともすれば侍女たちは香子に何もさせないような衣裳を選びたがるので少し困る。
『袖は広くない服にしてね』
『はい』
何か言われることはないが、その何か言いたげな視線も困ると香子は思う。
その日の昼食もおいしかった。きのこをふんだんに使った料理に香子は舌鼓を打った。
『そろそろ鍋料理が食べたいかも。羊のしゃぶしゃぶもいいわね。もちろん羊だけじゃなくて、牛とか、豚も、野菜もいっぱい食べたいけど』
『そなたはほんに食べることが好きだな』
玄武がにこにこしながら言う。
『四神宮のごはん、おいしいですから』
香子はしれっと答える。給仕をする侍女たちは厨房へ香子の希望を伝えに行くのだった。
ーーーーー
陵光神君 朱雀
白香娘娘 香子
いろいろ準備などもあるだろうし、昼食後でいいかなと思ったのだ。先送りにしている自覚はあるが、急ぐことではないと香子は思ったのだ。だがさすがにそれではまずいと誰かが思ったのか、朱雀が茶室に訪れた。
今日は白虎と過ごす日だから、朱雀が来たのは珍しいと香子は思った。
『朱雀様? 如何か……』
『紅夏が”つがい”を連れて戻ってきた。謁見の間へ向かうぞ』
『えええ?』
朱雀に抱き上げられた。
『帰着の挨拶なんて……』
『戻ってきたことは知っていよう?』
『ですが、急ぐことでもないかなと……』
朱雀がクックッと笑った。
『出て行った者が戻ってきたのだ。手順は踏まねばなるまい』
『あー……』
そういえば二人を送り出したのも謁見の間だった。だから迎え入れるにもそこを通さなければいけないわけで。
『面倒ですね?』
『そうだな』
朱雀は香子を抱いて歩きながら、楽しそうに笑った。
『そういうことは、人としては大事なことではないのか? 我にはわからぬが……』
『多分大事なことかとは存じますが……面倒は面倒ですよ?』
そんなことを言い合いながら謁見の間に向かえば、紅夏と紅児が平伏していた。
『陵光神君、万歳万歳万々歳! 白香娘娘、千歳千歳千々歳!』
趙文英、そして紅夏と紅児がそう唱えたのを聞いて、香子は目を丸くした。そういえば最近省略はさせていたけれども、そういう立場であったことを香子はやっと思い出した。
『平身(なおれ)』
朱雀が当たり前のように告げる。
『謝神君!(ありがとうございます)』
趙、紅夏、紅児が立ち上がり、頭を下げるようにした。
(わー、やっぱ時代劇っぽいー)
と香子は思った。香子は中国の時代劇が大好きである。
『して、此度戻ってきたのは何故か』
『はっ。先だって使いを出した通りにございます。そこなエリーザは許されるならば、再度花嫁様にお仕えしたいと申しております』
『そうか。香子、そなたはどうしたい?』
朱雀に聞かれて香子は頷いた。
『エリーザがまた私に仕えてくれるのならば、お願いしたいと思います』
『よかろう。まずは長旅の疲れを癒すがよい』
朱雀はそう言って踵を返した。ここで言えるのはそれぐらいである。でも香子は朱雀が、香子に配慮してくれたことが嬉しかった。面倒なやりとりは大分省略した為その程度で済んだといえよう。
本来ならば趙が口上を述べたりといろいろ手順はあるのだが、四神はそれらを嫌っている。いろいろ省略できてよかったと香子は思った。
そろそろ昼ということで部屋に一旦戻り、また侍女たちの着せ替え人形にされた。
『朱雀様は困りますわ』
『え? 何かあったかしら?』
『せっかく謁見の間に向かわれるのに、花嫁様の着替えもさせてくださらないのですから』
侍女から恨み言を聞かされて香子は戦慄した。
『……え?』
『いいですか花嫁様。習い事をした後は必ず着替えなければなりません。書を習ったということは墨の匂いが衣類についております。その匂いをさせながら謁見の間に向かうなんて言語道断です!』
『は、はい……』
侍女たちは、張に書を習った後は着替えろと言っているらしい。今回は謁見もあったから着替えるのが当然であり、その後も表に出たのだから着替えなければならないというのだ。ここでちょうど昼食の時間だから着替えも一度でかまわないが、そうでなければもう一度着替えていただきたいなどとこんこんと説教をされてしまった。
『う、うーんと……そんなに着替えなくてもいいかなって私は思うのだけど……』
『花嫁様は素材がいいのですから着飾るべきです! 着替えの衣裳も沢山ございますから、他の時に着替えをしたいと思われた時はいつでもお声掛けくださいませ!』
『……はい』
侍女たちにはかないそうもなかった。
あれ? 一応私が主人なんじゃないのかな? とはちら、と思ったが、侍女たちは楽しんでいるようなのでいいことにした。
(でも、地味に着替えとかって体力使うよねー……)
普通に洋服を脱ぎ着するわけではないのでたいへんである。十二単を着せられているわけではないので重さはそれほどないが、布を贅沢に使われているので腕の動かし方が難しいと香子は思う。一応袖があまり広くない物を選んでもらってはいるが、ともすれば侍女たちは香子に何もさせないような衣裳を選びたがるので少し困る。
『袖は広くない服にしてね』
『はい』
何か言われることはないが、その何か言いたげな視線も困ると香子は思う。
その日の昼食もおいしかった。きのこをふんだんに使った料理に香子は舌鼓を打った。
『そろそろ鍋料理が食べたいかも。羊のしゃぶしゃぶもいいわね。もちろん羊だけじゃなくて、牛とか、豚も、野菜もいっぱい食べたいけど』
『そなたはほんに食べることが好きだな』
玄武がにこにこしながら言う。
『四神宮のごはん、おいしいですから』
香子はしれっと答える。給仕をする侍女たちは厨房へ香子の希望を伝えに行くのだった。
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陵光神君 朱雀
白香娘娘 香子
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