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第3部 周りと仲良くしろと言われました
129.妥協をしてはいけないそうです
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……ひどい目にあった。
香子はそう思った。
四神の嫉妬は困るのである。しかも朱雀はわざとしたりもするから余計に香子は困ってしまう。
熱を与えられたら香子はもう逆らえない。香子が朱雀に縋りついて、熱をどうにかしてほしいと懇願するだけだ。
香子を抱く朱雀はひどく甘くて、そして意地悪で、どこまでも香子を蕩かす。
「んっんんっ……」
塞がれる口唇が甘い。香子はしっかりと朱雀の想いを受け入れさせられた。
夕飯の時間近くまでそうして抱かれていたせいか、夕飯を食べる為に一度部屋に戻された時には、侍女たちが真っ赤になり、それはそれで侍女たちがたいへんだった。
『花嫁様……花嫁様が四神と愛し合うのはとても喜ばしいことなのですが……その……』
さすがに延夕玲が顔を真っ赤にしながらごにょごにょ言った。
『うん……そうね。ごめんなさい……』
『花嫁様が謝ってはいけません』
(じゃあどうすれば……)
香子は俯くことしかできなかった。黒月は相変わらずのポーカーフェイスである。黒月には性欲っぽいものはないのだろうかと思ったけど、それを聞くのは憚られた。そういった眷属の生態というのは誰に聞けばいいのだろうと香子は首を傾げた。
でもまずは夕飯である。朱雀に抱かれた後軽くお菓子程度は摘まんだが、やはりおなかはすいている。
食べてから考えようと香子は思った。
部屋に迎えに来てくれたのは玄武だった。玄武は香子の様子を見ると満足そうに口角を上げ、香子を優しく抱き上げた。四神はみな香子を当たり前のように抱き上げるけど、一番安定感があるのは玄武だと香子は思っている。
(玄武様はでも、先代の花嫁には触れていないんだよね?)
どうしてこんなに安定感があるのだろう。玄武だから、そういう身体なのだろうか?
なんとなく聞いても玄武にはわからないような気がしたので、香子は聞かないことにした。四神がわからないことも沢山ある。香子だって自分の身体のことはわからないのだ。心の動きだってよくわからない。聞けば答えが出るものではないのだ。
『玄武様、ありがとうございます』
『礼など必要ないぞ』
『言いたかっただけです』
『そうか』
朱雀に散々いじめられたから、今夜は玄武にたっぷり甘えさせてもらおうと香子は思った。
紅児が紅夏に抱かれて戻ってきたのは三日後のことだった。
張に書を習い、
『今回はよくなりましたな』
と言われてほっとしてからのことである。それは知らせだけであったので、香子は書を習った後もいつも通り張錦飛とお茶をした。
『……あと何回、張老師から教えを受けられるのかと考えてしまいます……』
『そうですな……わしも老い先短い爺ですから、花嫁様が考えてしまわれるのも無理はないですな』
ほっほっほっと、相変わらずバルタン星人のように張が笑ったことで、香子はお互いの認識が違うらしいということに気づいた。
『ええと、すみません。老師の歳のことではなくて、私が四神宮にいられる時間のことを言っていました』
『ああ……それもそうでしたな。いや、花嫁様と話すのがあまりにも楽しくて、いつまでも四神宮にいてくださるようなつもりでおりました。面目ない』
張はそう言ってゆっくりと顎鬚を撫でた。
『一年、でしたか……そうなると来年の春までですか』
『そうですね』
長くても、来年の春までしか香子はここにいられない。
『たまにはこちらに来させていただけるとは思うのですが、もうこんなに頻繁には教えを乞うことができないと思うのです』
『それは確かに残念ですな』
張は少し考えるような顔をした。
『まだ決めかねているとおっしゃられていましたが……花嫁様はどの神に嫁がれるおつもりですかな?』
『……まだ、わかりません』
張は笑んだ。
『順調に四神と愛を深められていらっしゃるご様子、素晴らしいことだと存じます。花嫁様が嫁がれる先によっては、わしも神官故共に向かうこともできましょう』
『……そういえば、そうですね……』
張は玄武の神官だったような気がする。
だとしたら。
『ですが』
張は笑んだ。
『結婚するのは花嫁様です。いくら最終的にはどの神にも嫁がれる予定とはいえ、安易に決めてはなりませぬぞ? きちんと話し合い、どうか四神と想いを交わしてくださいませ。そうしていただけることが、この国の、ひいては民たちの未来に繋がります』
『……ありがとうございます』
張の言葉は香子に届いた。張は立場を明確にして物を言っている。それはとても好ましいことだと香子は思った。
国と、この国の民の為に、香子が納得いく答えを出した方がいいと言っているのだ。確かに香子がへんに妥協をして後悔するようなことになれば、先代の花嫁のように早く死にたくなってしまうかもしれない。
香子は自分が欲張りだということをよく知っている。
四神のこともそうだが、香子は可能ならば自分もみんなも納得できるようにしたいとは思っている。きれいごとだと言われればそうかもしれないが、ことは香子本人の結婚だ。
妥協しなくていいと言われたことが香子はとても嬉しかった。
今日の張との時間もとても有意義だった。張を見送ってから、香子は嘆息した。
紅児に会えるのは嬉しい。
ただほんの少しだけ複雑な気持ちを抱えている。
紅夏とどう過ごしたのかわかるだけに、それを目の当たりにするのはつらそうだなと思った。
香子はそう思った。
四神の嫉妬は困るのである。しかも朱雀はわざとしたりもするから余計に香子は困ってしまう。
熱を与えられたら香子はもう逆らえない。香子が朱雀に縋りついて、熱をどうにかしてほしいと懇願するだけだ。
香子を抱く朱雀はひどく甘くて、そして意地悪で、どこまでも香子を蕩かす。
「んっんんっ……」
塞がれる口唇が甘い。香子はしっかりと朱雀の想いを受け入れさせられた。
夕飯の時間近くまでそうして抱かれていたせいか、夕飯を食べる為に一度部屋に戻された時には、侍女たちが真っ赤になり、それはそれで侍女たちがたいへんだった。
『花嫁様……花嫁様が四神と愛し合うのはとても喜ばしいことなのですが……その……』
さすがに延夕玲が顔を真っ赤にしながらごにょごにょ言った。
『うん……そうね。ごめんなさい……』
『花嫁様が謝ってはいけません』
(じゃあどうすれば……)
香子は俯くことしかできなかった。黒月は相変わらずのポーカーフェイスである。黒月には性欲っぽいものはないのだろうかと思ったけど、それを聞くのは憚られた。そういった眷属の生態というのは誰に聞けばいいのだろうと香子は首を傾げた。
でもまずは夕飯である。朱雀に抱かれた後軽くお菓子程度は摘まんだが、やはりおなかはすいている。
食べてから考えようと香子は思った。
部屋に迎えに来てくれたのは玄武だった。玄武は香子の様子を見ると満足そうに口角を上げ、香子を優しく抱き上げた。四神はみな香子を当たり前のように抱き上げるけど、一番安定感があるのは玄武だと香子は思っている。
(玄武様はでも、先代の花嫁には触れていないんだよね?)
どうしてこんなに安定感があるのだろう。玄武だから、そういう身体なのだろうか?
なんとなく聞いても玄武にはわからないような気がしたので、香子は聞かないことにした。四神がわからないことも沢山ある。香子だって自分の身体のことはわからないのだ。心の動きだってよくわからない。聞けば答えが出るものではないのだ。
『玄武様、ありがとうございます』
『礼など必要ないぞ』
『言いたかっただけです』
『そうか』
朱雀に散々いじめられたから、今夜は玄武にたっぷり甘えさせてもらおうと香子は思った。
紅児が紅夏に抱かれて戻ってきたのは三日後のことだった。
張に書を習い、
『今回はよくなりましたな』
と言われてほっとしてからのことである。それは知らせだけであったので、香子は書を習った後もいつも通り張錦飛とお茶をした。
『……あと何回、張老師から教えを受けられるのかと考えてしまいます……』
『そうですな……わしも老い先短い爺ですから、花嫁様が考えてしまわれるのも無理はないですな』
ほっほっほっと、相変わらずバルタン星人のように張が笑ったことで、香子はお互いの認識が違うらしいということに気づいた。
『ええと、すみません。老師の歳のことではなくて、私が四神宮にいられる時間のことを言っていました』
『ああ……それもそうでしたな。いや、花嫁様と話すのがあまりにも楽しくて、いつまでも四神宮にいてくださるようなつもりでおりました。面目ない』
張はそう言ってゆっくりと顎鬚を撫でた。
『一年、でしたか……そうなると来年の春までですか』
『そうですね』
長くても、来年の春までしか香子はここにいられない。
『たまにはこちらに来させていただけるとは思うのですが、もうこんなに頻繁には教えを乞うことができないと思うのです』
『それは確かに残念ですな』
張は少し考えるような顔をした。
『まだ決めかねているとおっしゃられていましたが……花嫁様はどの神に嫁がれるおつもりですかな?』
『……まだ、わかりません』
張は笑んだ。
『順調に四神と愛を深められていらっしゃるご様子、素晴らしいことだと存じます。花嫁様が嫁がれる先によっては、わしも神官故共に向かうこともできましょう』
『……そういえば、そうですね……』
張は玄武の神官だったような気がする。
だとしたら。
『ですが』
張は笑んだ。
『結婚するのは花嫁様です。いくら最終的にはどの神にも嫁がれる予定とはいえ、安易に決めてはなりませぬぞ? きちんと話し合い、どうか四神と想いを交わしてくださいませ。そうしていただけることが、この国の、ひいては民たちの未来に繋がります』
『……ありがとうございます』
張の言葉は香子に届いた。張は立場を明確にして物を言っている。それはとても好ましいことだと香子は思った。
国と、この国の民の為に、香子が納得いく答えを出した方がいいと言っているのだ。確かに香子がへんに妥協をして後悔するようなことになれば、先代の花嫁のように早く死にたくなってしまうかもしれない。
香子は自分が欲張りだということをよく知っている。
四神のこともそうだが、香子は可能ならば自分もみんなも納得できるようにしたいとは思っている。きれいごとだと言われればそうかもしれないが、ことは香子本人の結婚だ。
妥協しなくていいと言われたことが香子はとても嬉しかった。
今日の張との時間もとても有意義だった。張を見送ってから、香子は嘆息した。
紅児に会えるのは嬉しい。
ただほんの少しだけ複雑な気持ちを抱えている。
紅夏とどう過ごしたのかわかるだけに、それを目の当たりにするのはつらそうだなと思った。
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