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第3部 周りと仲良くしろと言われました
128.予想通りなことと、そうでないこともありました
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茶室でゆっくりとお茶を飲んでいたら、朱雀がやってきた。
『終わったのではないか』
『はい、終わりました。ちょっとぼーっとしていたかったのでお茶を飲んでいたんです』
『そうか』
朱雀が隣に腰掛けた。
『我にも茶を淹れてくれ』
『はい』
香子はにっこりした。
朱雀はわかっていて空気を読まないことが多いが、時折こうして香子に寄り添ってくれもする。空気を読まない時も別段香子をないがしろにしているわけではなく、きちんと周りは見ているのだ。そういうところはずるいとは思うが、こんな時寄り添ってくれるのはとても嬉しいと香子は感じた。
(なんだかんだいって、朱雀様のこと好きだもんね)
香子は四神をそういう意味で好いている。ただ、最初に嫁ぐとなると……と考えてしまうのだ。みなそれぞれいいところがあって、そして寿命の問題もある。
『そなたが淹れる茶はどれもうまいな』
『茶葉がいいんですよ』
『それだけではあるまい。そなたが淹れたからこそうまいのだ』
『……お世辞を言っても何もでませんよ~』
香子は照れた。朱雀は不思議そうな顔をした。
『我がそなたに世辞を言うと思っているのか?』
『もう! そのまっすぐが恥ずかしいんです!』
四神がお世辞を言わないことぐらい香子だってわかっている。香子が頬を染めれば朱雀が笑んだ。こういうところがずるいというのだ。
『……朱雀様はずるいです』
『何がずるいというのか』
『いろいろです。わかっているのにあえて言うところとか』
『嫌か』
『……嫌な時もあります』
全てが全てではないから、香子はそう答えた。
『失礼します。朱雀様、花嫁様、昼食の準備が整ったとのことでございます』
延夕玲に静かに言われて香子ははっとした。
『夕玲、ありがとう。また、着替えた方がいいのかしら』
『はい。着替えをお願いします』
『わかったわ』
このままでもいいではないかと香子は思うのだが、書の練習をしたから墨の匂いが衣類についてしまっていると怒られるのだ。それに、四神宮には毎日のように贈物が届く為香子の衣裳の充実度はすごい。香子の着替えやメイクなどを担当している侍女たちは、日々衣裳を確認しては今日は香子に何を着せようかと考えている。衣裳の数があまりにも多いので、香子がどこにも出かけなくても侍女たちは香子を着替えさせたくてしかたないのだ。
そんなわけでただ昼食を食堂でとるというだけなのに着替えさせられる香子だった。
もちろん香子もそんなに着替えをしなくてもいいのではないかと言ったことはあったのだ。だがその時、侍女たちがこの世の終りのような顔をしたので以来逆らわないことにしている。さすがに化粧はほとんどしない方向で考えてもらっているし、髪飾りも極力減らしてはもらっているが、着替えだけはどうにもならない。
今日の昼食もおいしかった。書を習ったせいか特においしく感じられた。ヘーゼルナッツを使った炒め物がなかなかおいしいと香子は思った。単純に香子がヘーゼルナッツが好きなだけかもしれないが。
午後は予定通り朱雀と過ごすことにした。
食休みも兼ねて朱雀の居間でお茶を飲む。
紅児は船に乗ったかな、とぼんやり考えていたら、部屋の外から声がかかった。白雲だった。
『如何か』
紅炎が扉を開けた。
『紅夏から使いが参りました』
途端、香子の身体が強張った。
『入ってちょうだい』
白雲に、朱雀の室に入ってもらい、香子は報告を聞くことにした。
『結論から申しますと、船には乗れなかったそうです』
『……そう』
香子は脱力した。
予想はしていた。けれど乗れる可能性も0ではなかったから、口にはしていなかった。
『じゃあ、すぐに戻ってくるのかしら?』
『朱雀様の領地へ連れて行くそうです』
『は?』
思わずそんな声が出た。
紅夏は紅児を香子に会わせない気なのだろうか。
『眷属たちに妻をお披露目してから戻ってくるそうです』
『……アイツ……』
既成事実はある。紅夏は再び香子に紅児と引き離されてはなるまいと、先に外堀を埋めにいったようである。香子は拳を握りしめた。
『朱雀様!』
『なんだ?』
『貴方の眷属はなんなんですか! 私に喧嘩を売っているんですか!?』
『”つがい”が愛しくてならぬのだろう。いくらそなたでも引き離すことはまかりならぬぞ』
朱雀がクックックッと笑う。
『引き離すつもりはありません! でも、まだエリーザは未成年なんですよ! 同衾なんて言語道断です!』
『……だがセレスト王国では、結婚前の性行為は推奨されているのでは?』
『エリーザはセレスト王国で性教育を受けておりません!』
『……難しいものだな』
『ぜんっぜん難しくないです! せめてエリーザが十五歳になるまでは同室なんて認めませんよ、私は! 朱雀様、それはきちんと紅夏に言ってください』
『香子』
あ、まずいと香子は思った。どうやら朱雀の何かを刺激してしまったようである。
濃厚な色気を浴びて、香子は頬を染めた。白雲と紅炎がさりげなく室を出て行った。
『紅夏に伝えるのはかまわぬ。だが、そろそろ我を見てもよいのではないか?』
あ、これ嫉妬だ。
香子が気づいた時には手遅れで、朱雀の色気にあてられて寝室に運ばれてしまったのだった。
『終わったのではないか』
『はい、終わりました。ちょっとぼーっとしていたかったのでお茶を飲んでいたんです』
『そうか』
朱雀が隣に腰掛けた。
『我にも茶を淹れてくれ』
『はい』
香子はにっこりした。
朱雀はわかっていて空気を読まないことが多いが、時折こうして香子に寄り添ってくれもする。空気を読まない時も別段香子をないがしろにしているわけではなく、きちんと周りは見ているのだ。そういうところはずるいとは思うが、こんな時寄り添ってくれるのはとても嬉しいと香子は感じた。
(なんだかんだいって、朱雀様のこと好きだもんね)
香子は四神をそういう意味で好いている。ただ、最初に嫁ぐとなると……と考えてしまうのだ。みなそれぞれいいところがあって、そして寿命の問題もある。
『そなたが淹れる茶はどれもうまいな』
『茶葉がいいんですよ』
『それだけではあるまい。そなたが淹れたからこそうまいのだ』
『……お世辞を言っても何もでませんよ~』
香子は照れた。朱雀は不思議そうな顔をした。
『我がそなたに世辞を言うと思っているのか?』
『もう! そのまっすぐが恥ずかしいんです!』
四神がお世辞を言わないことぐらい香子だってわかっている。香子が頬を染めれば朱雀が笑んだ。こういうところがずるいというのだ。
『……朱雀様はずるいです』
『何がずるいというのか』
『いろいろです。わかっているのにあえて言うところとか』
『嫌か』
『……嫌な時もあります』
全てが全てではないから、香子はそう答えた。
『失礼します。朱雀様、花嫁様、昼食の準備が整ったとのことでございます』
延夕玲に静かに言われて香子ははっとした。
『夕玲、ありがとう。また、着替えた方がいいのかしら』
『はい。着替えをお願いします』
『わかったわ』
このままでもいいではないかと香子は思うのだが、書の練習をしたから墨の匂いが衣類についてしまっていると怒られるのだ。それに、四神宮には毎日のように贈物が届く為香子の衣裳の充実度はすごい。香子の着替えやメイクなどを担当している侍女たちは、日々衣裳を確認しては今日は香子に何を着せようかと考えている。衣裳の数があまりにも多いので、香子がどこにも出かけなくても侍女たちは香子を着替えさせたくてしかたないのだ。
そんなわけでただ昼食を食堂でとるというだけなのに着替えさせられる香子だった。
もちろん香子もそんなに着替えをしなくてもいいのではないかと言ったことはあったのだ。だがその時、侍女たちがこの世の終りのような顔をしたので以来逆らわないことにしている。さすがに化粧はほとんどしない方向で考えてもらっているし、髪飾りも極力減らしてはもらっているが、着替えだけはどうにもならない。
今日の昼食もおいしかった。書を習ったせいか特においしく感じられた。ヘーゼルナッツを使った炒め物がなかなかおいしいと香子は思った。単純に香子がヘーゼルナッツが好きなだけかもしれないが。
午後は予定通り朱雀と過ごすことにした。
食休みも兼ねて朱雀の居間でお茶を飲む。
紅児は船に乗ったかな、とぼんやり考えていたら、部屋の外から声がかかった。白雲だった。
『如何か』
紅炎が扉を開けた。
『紅夏から使いが参りました』
途端、香子の身体が強張った。
『入ってちょうだい』
白雲に、朱雀の室に入ってもらい、香子は報告を聞くことにした。
『結論から申しますと、船には乗れなかったそうです』
『……そう』
香子は脱力した。
予想はしていた。けれど乗れる可能性も0ではなかったから、口にはしていなかった。
『じゃあ、すぐに戻ってくるのかしら?』
『朱雀様の領地へ連れて行くそうです』
『は?』
思わずそんな声が出た。
紅夏は紅児を香子に会わせない気なのだろうか。
『眷属たちに妻をお披露目してから戻ってくるそうです』
『……アイツ……』
既成事実はある。紅夏は再び香子に紅児と引き離されてはなるまいと、先に外堀を埋めにいったようである。香子は拳を握りしめた。
『朱雀様!』
『なんだ?』
『貴方の眷属はなんなんですか! 私に喧嘩を売っているんですか!?』
『”つがい”が愛しくてならぬのだろう。いくらそなたでも引き離すことはまかりならぬぞ』
朱雀がクックックッと笑う。
『引き離すつもりはありません! でも、まだエリーザは未成年なんですよ! 同衾なんて言語道断です!』
『……だがセレスト王国では、結婚前の性行為は推奨されているのでは?』
『エリーザはセレスト王国で性教育を受けておりません!』
『……難しいものだな』
『ぜんっぜん難しくないです! せめてエリーザが十五歳になるまでは同室なんて認めませんよ、私は! 朱雀様、それはきちんと紅夏に言ってください』
『香子』
あ、まずいと香子は思った。どうやら朱雀の何かを刺激してしまったようである。
濃厚な色気を浴びて、香子は頬を染めた。白雲と紅炎がさりげなく室を出て行った。
『紅夏に伝えるのはかまわぬ。だが、そろそろ我を見てもよいのではないか?』
あ、これ嫉妬だ。
香子が気づいた時には手遅れで、朱雀の色気にあてられて寝室に運ばれてしまったのだった。
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