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第3部 周りと仲良くしろと言われました
127.練習はサボッてはいけないのです
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『ご無沙汰しております』
いろいろあって、ここのところ張錦飛に来てもらうことができないでいた。おかげで香子は字の練習もろくにできていない。
それでも張に来てもらわないという選択肢はなかった。
『いろいろあったようですな』
『はい、それはもう』
そう言いながら筆を取った。細い筆ならばともかく、やはり一文字一文字をしっかり書いていくのは難しい。少なくとも明日までは朱雀にくっついていることを決めたせいもあり、字の練習ができないことは確定だった。
『ふむ……やはり書かないでいるといけませんな』
『……おっしゃる通りです……』
元々筆が苦手だから、何日か書かないでいるとすぐ下手になってしまう。香子は自分のポンコツっぷりに深く頭(こうべ)を垂れた。
『花嫁様、練習あるのみですよ』
『はい』
やはり張がこない日は青龍に見てもらった方がいいのではないかと香子は思う。ただ……その代わりに抱かれるとなるとなかなか難しい。香子は四神に抱かれるのは嫌ではない。青龍に抱かれると時間がかかるのがネックなのだ。だからといって早めに終わらせろと言うわけにもいかない。うまくいかないものである。
二刻(約一時間)程練習をした後は、お茶を淹れる。今日のお茶は黄金桂(烏龍茶)だった。
『花嫁様に淹れていただく茶は格別ですなぁ』
『お口に合ってよかったです。張老師、先日はありがとうございました』
張はなんのことかというような表情をした。
『玄武様が……』
『ああ! あれは確かに驚きましたぞ。書庫で調べ物をしていたところだったのです。玄武様があのような場所にいらっしゃるなど思ってもみませんでしたからな!』
ほっほっほっと張が笑った。やはり笑い方がバルタン星人っぽいと香子は思う。
『そうですよね。ご迷惑をおかけしました』
『いえいえ! 四神宮以外で、しかも直接お会いできるなど誰も成し得なかったに違いありません。わしは感動に打ち震えておりましたぞ』
『そ、そうでしたか……』
そういえば張は四神の神官であったことを今頃になって香子は思い出した。
言ってしまえば推しに直接会えたという状態である。その証拠に張の目はキラッキラしていた。髭の長い爺さんのキラッキラの目など誰得なのだろうか。
『張老師の邪魔をしたのでなければ、よかったです』
『して、花嫁様』
『はい』
『わしの知識はお役に立ちましたか?』
『はい、それはもう。この国の法律はわからないので助かりました』
『花嫁様は法律は学んでいらっしゃらぬのか?』
『私の知っている唐とこの国は違います。私がいた世界の唐王朝は300年続きました。その後は南北朝時代のような分裂時代に入ります。(五代十国時代)ですから、この国の法律がどう変わっているかまではわからないのです』
『ほうほう、花嫁様がいらっしゃった世界はいろいろ複雑なのですな』
『はい』
張は興味深いというように何度も頷いては顎鬚を撫でた。そういうところを見ると仙人ぽいと香子は思う。
『して、花嫁様の世界の唐は、どのようにして滅亡したのですかな?』
『辺境を治める節度使が力を持ちすぎたのです。節度使の一人が唐を滅ぼしました』
『ほうほう……確かにその可能性はありましたな』
『安史の乱ですか』
『さよう。あの際に徹底的に節度使の力をそぎましたのでな。四神のおかげで国がもったようなものです』
『やはり安定ですか』
『さよう。皇上が四神をないがしろにしなければ王朝は長く続きます。天変地異がなく、国がしっかりしていれば周辺国家などおそるるに足りません。それに』
張は笑んだ。
『花嫁様はこの国を愛していらっしゃるはずです』
『はい』
香子は笑んで、即答した。張にはかなわないと思った。
『しかし……四神の眷属の”つがい”が未成年にも適用されるとは知りませんでした』
香子は苦笑した。
『どうも子が成せる身体かどうかで”つがい”かどうか判定されるようなのです。なので眷属が未成年であっても”つがい”かどうかはわかりませんし、逆に眷属の”つがい”が人であった場合、初潮、もしくは精通していなければわからないらしいのです』
なんだか知らないけど香子は眷属たちからこの辺の話はしっかり教えられていた。白雲も青藍も”つがい”が人であるから、邪魔をされないようにと香子に話したのだろう。知らないよりは知っていた方がいいから素直に香子も聞いたが、”つがい”=何が何でも手に入れるものという図式はあまり納得ができなかった。
『ほうほう。それはとても勉強になります。では唐の法律は四神や眷属には全く通じないのですね』
『そのようです』
元々四神やその眷属は治外法権だが、人が関わってくるならばこの国の法律も多少は関係してくる。紅児が14歳であったから香子もがんばったのだが、他国へ向かうことを考えたら身体を重ねる必要はどうしてもあったのだ。
張は上機嫌で帰っていった。次はまた三日後である。
『楽しかった……けど、疲れたー』
延夕玲と黒月は後ろに控えている。肩が凝るようなことはないが、香子はやはり人に会うと緊張する。
『もう、エリーザは船の上かしら……』
乗れたならいい。でも、帰ってきてくれてもいい。
心理はなかなかに複雑だった。
ーーーーー
安史の乱 中国、盛唐時代に起こった安禄山(あんろくざん)、史思明(ししめい)らの反乱(755~763)。興味がありましたら「コトバンク」からどうぞ。中国史は楽しいです(ぉぃ
いろいろあって、ここのところ張錦飛に来てもらうことができないでいた。おかげで香子は字の練習もろくにできていない。
それでも張に来てもらわないという選択肢はなかった。
『いろいろあったようですな』
『はい、それはもう』
そう言いながら筆を取った。細い筆ならばともかく、やはり一文字一文字をしっかり書いていくのは難しい。少なくとも明日までは朱雀にくっついていることを決めたせいもあり、字の練習ができないことは確定だった。
『ふむ……やはり書かないでいるといけませんな』
『……おっしゃる通りです……』
元々筆が苦手だから、何日か書かないでいるとすぐ下手になってしまう。香子は自分のポンコツっぷりに深く頭(こうべ)を垂れた。
『花嫁様、練習あるのみですよ』
『はい』
やはり張がこない日は青龍に見てもらった方がいいのではないかと香子は思う。ただ……その代わりに抱かれるとなるとなかなか難しい。香子は四神に抱かれるのは嫌ではない。青龍に抱かれると時間がかかるのがネックなのだ。だからといって早めに終わらせろと言うわけにもいかない。うまくいかないものである。
二刻(約一時間)程練習をした後は、お茶を淹れる。今日のお茶は黄金桂(烏龍茶)だった。
『花嫁様に淹れていただく茶は格別ですなぁ』
『お口に合ってよかったです。張老師、先日はありがとうございました』
張はなんのことかというような表情をした。
『玄武様が……』
『ああ! あれは確かに驚きましたぞ。書庫で調べ物をしていたところだったのです。玄武様があのような場所にいらっしゃるなど思ってもみませんでしたからな!』
ほっほっほっと張が笑った。やはり笑い方がバルタン星人っぽいと香子は思う。
『そうですよね。ご迷惑をおかけしました』
『いえいえ! 四神宮以外で、しかも直接お会いできるなど誰も成し得なかったに違いありません。わしは感動に打ち震えておりましたぞ』
『そ、そうでしたか……』
そういえば張は四神の神官であったことを今頃になって香子は思い出した。
言ってしまえば推しに直接会えたという状態である。その証拠に張の目はキラッキラしていた。髭の長い爺さんのキラッキラの目など誰得なのだろうか。
『張老師の邪魔をしたのでなければ、よかったです』
『して、花嫁様』
『はい』
『わしの知識はお役に立ちましたか?』
『はい、それはもう。この国の法律はわからないので助かりました』
『花嫁様は法律は学んでいらっしゃらぬのか?』
『私の知っている唐とこの国は違います。私がいた世界の唐王朝は300年続きました。その後は南北朝時代のような分裂時代に入ります。(五代十国時代)ですから、この国の法律がどう変わっているかまではわからないのです』
『ほうほう、花嫁様がいらっしゃった世界はいろいろ複雑なのですな』
『はい』
張は興味深いというように何度も頷いては顎鬚を撫でた。そういうところを見ると仙人ぽいと香子は思う。
『して、花嫁様の世界の唐は、どのようにして滅亡したのですかな?』
『辺境を治める節度使が力を持ちすぎたのです。節度使の一人が唐を滅ぼしました』
『ほうほう……確かにその可能性はありましたな』
『安史の乱ですか』
『さよう。あの際に徹底的に節度使の力をそぎましたのでな。四神のおかげで国がもったようなものです』
『やはり安定ですか』
『さよう。皇上が四神をないがしろにしなければ王朝は長く続きます。天変地異がなく、国がしっかりしていれば周辺国家などおそるるに足りません。それに』
張は笑んだ。
『花嫁様はこの国を愛していらっしゃるはずです』
『はい』
香子は笑んで、即答した。張にはかなわないと思った。
『しかし……四神の眷属の”つがい”が未成年にも適用されるとは知りませんでした』
香子は苦笑した。
『どうも子が成せる身体かどうかで”つがい”かどうか判定されるようなのです。なので眷属が未成年であっても”つがい”かどうかはわかりませんし、逆に眷属の”つがい”が人であった場合、初潮、もしくは精通していなければわからないらしいのです』
なんだか知らないけど香子は眷属たちからこの辺の話はしっかり教えられていた。白雲も青藍も”つがい”が人であるから、邪魔をされないようにと香子に話したのだろう。知らないよりは知っていた方がいいから素直に香子も聞いたが、”つがい”=何が何でも手に入れるものという図式はあまり納得ができなかった。
『ほうほう。それはとても勉強になります。では唐の法律は四神や眷属には全く通じないのですね』
『そのようです』
元々四神やその眷属は治外法権だが、人が関わってくるならばこの国の法律も多少は関係してくる。紅児が14歳であったから香子もがんばったのだが、他国へ向かうことを考えたら身体を重ねる必要はどうしてもあったのだ。
張は上機嫌で帰っていった。次はまた三日後である。
『楽しかった……けど、疲れたー』
延夕玲と黒月は後ろに控えている。肩が凝るようなことはないが、香子はやはり人に会うと緊張する。
『もう、エリーザは船の上かしら……』
乗れたならいい。でも、帰ってきてくれてもいい。
心理はなかなかに複雑だった。
ーーーーー
安史の乱 中国、盛唐時代に起こった安禄山(あんろくざん)、史思明(ししめい)らの反乱(755~763)。興味がありましたら「コトバンク」からどうぞ。中国史は楽しいです(ぉぃ
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