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第3部 周りと仲良くしろと言われました
125.楽しい時間は過ぎるのが早いものです
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紅児とのやりとりの詳細は「貴方色に染まる」112,113話を参照してください。
ーーーーー
昨日はほぼほぼ玄武と朱雀と共に過ごしたせいか、香子の目覚めは比較的早かった。
『玄武様、朱雀様、ありがとうございます……エリーザと、朝食を共にしたいです……』
『わかった』
今日、紅児は四神宮を出ていく。
『どこで共にするのか』
『そう、ですね……』
香子はぼんやりと考えた。いつもより早い時間のせいか、まだ頭がうまく働いていない。
『四神宮の、食堂ではどうでしょうか』
『わかった。紅夏に伝えよう』
『お願いします』
寝起きの空腹はあるので、行儀が悪いとは思ったが香子は先に少しお菓子を摘まませてもらった。二神に抱かれているのでこればかりはどうしようもなかった。
部屋に一旦戻してもらい、食堂へ向かう為の支度を侍女たちに整えてもらう。香子が起きたことで延夕玲や黒月たちには話は通っている。だから後はスムーズだった。
朱雀が香子を連れにきた。
食堂に移動して、席を準備させる。香子の隣に二席用意してもらった。香子の隣は紅児、その隣に紅夏が座れるようにした。紅夏に抱かれて紅児が来るまでに、前菜が並べられた。厨師たちも張り切ったらしく、いつもよりも品数が多い。香子はそれに笑みを浮かべた。
やがて紅児と紅夏がやってきた。
二人に腰掛けるよう促す。沢山の料理を見て、紅児は目を丸くした。
昨日紅児たちが報告に来たのにすぐに帰したことを香子は詫びた。前菜の、皮蛋の生姜醤油かけを紅児があまり好きではないということも知れた。確かに皮蛋はクセがあるから人によっては苦手かもしれないと、香子は笑んだ。
みな沢山食べた。食休みをしてから、香子は紅児を部屋に招いた。玄武は香子を部屋の長椅子に下ろすと退室し、延夕玲と部屋付の侍女もお茶を淹れてから退室した。そうして香子たちは二人きりになった。今日はもう紅児が四神宮を出るまで一緒にいるつもりだ。
そう紅児に告げると、紅児は戸惑ったような顔をした。
香子の言葉でじわじわと実感が湧いてきたらしく返事をする紅児の声は震えた。
そんな紅児を香子優しく抱きしめた。
紅児を抱きしめたまま、紅夏と紅児の結婚の証明書のようなものはまだ出せないということを伝えた。
このまま紅児が帰国すると少し困ったことになるだろうと香子は思う。だが、おそらく紅児は船に乗れないだろう。トラウマというのはそう簡単に克服できるものではない。しかも紅児のトラウマがわかったのはここに来てからだ。
だが、もしかしたら船に乗れるかもしれない。それを前提としていろいろ手配はした。
今回船に乗れなかったら紅児はとてもショックを受けるだろう。だから、もし乗れなくても次がある。それで乗れなくてもそのまた次があるのだという話はした。
やっと紅児の顔に笑みが浮かんだ。
半年も経てば紅児の誕生日は過ぎる。そうすれば紅夏と正式に結婚できる。帰る時にその証明書を持っていければセレスト王国で暮らすのも多少は楽になるはずだ。
昼食も共にした。
紅児がこの国に来てからの話などを聞いたり、セレスト王国のことを改めて尋ねたりした。紅児はよく笑った。
けれど、楽しい時間は早く過ぎるものだ。
『花嫁様』
部屋の扉の向こうから黒月の声が届いた。
出発の時が来たのだと香子も紅児も理解した。
紅児をぎゅっときつく抱きしめる。しばらくそうしてからそっと離した。
『花嫁さま……』
『いってらっしゃい。お母様が待っているんでしょう?』
泣きそうな顔をする紅児を促す。母親に会えるなら会ってきた方がいい。その後どうするかは紅児が決めればいいのだ。
紅児が退室し、出かける準備をさせる。香子はそのちょっとした間に、紅児に向けて一言だけメモのような手紙を書いた。それを紅炎に託す。
『エリーザが四神宮を出る時に渡してちょうだい』
『承知しました』
紅炎はなにか言いたそうな顔をしたが素直に従った。
朱雀が香子を迎えにきた。四神宮に併設している謁見の間には準備ができているだろう。今回はそこに椅子を用意させた。
朱雀に抱かれたまま香子は謁見の間に入る。椅子から立ち上がろうとする紅児を手で制した。
『エリーザ、これまでよく仕えてくれました。グッテンバーグ氏(紅児の叔父)と、国のお母上によろしく伝えてください』
『……はい……花嫁様のご厚意に感謝します』
紅児の声は、泣いているようだった。
朱雀を促してそのまま四神宮に戻る。香子は振り返らなかった。
これから紅児は馬車に乗って天津に移動し(途中からは紅夏が抱えて走る予定だ)、そして天津の港から船に乗るのだろう。
『乗れますかね』
『さあな』
朱雀が笑んだ。こればかりは紅児にかかってくる。だが朱雀が笑んだことで、なんとなくだが……紅児はやはり船には乗れないのではないかと香子は思った。
未来まではわからないと四神は言う。それは誰かの行動一つで変わってしまうことだからだ。
だが、四神にはわかっているのだろう。
朝ごはんはいろいろな種類があって楽しかった。今夜の夕飯はなんだろう。肉団子と春雨のスープが食べたい気がする。
朱雀にぎゅっと抱き付いて、香子はそんなことを思った。
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「貴方色に染まる」は111~113話辺りです。
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昨日はほぼほぼ玄武と朱雀と共に過ごしたせいか、香子の目覚めは比較的早かった。
『玄武様、朱雀様、ありがとうございます……エリーザと、朝食を共にしたいです……』
『わかった』
今日、紅児は四神宮を出ていく。
『どこで共にするのか』
『そう、ですね……』
香子はぼんやりと考えた。いつもより早い時間のせいか、まだ頭がうまく働いていない。
『四神宮の、食堂ではどうでしょうか』
『わかった。紅夏に伝えよう』
『お願いします』
寝起きの空腹はあるので、行儀が悪いとは思ったが香子は先に少しお菓子を摘まませてもらった。二神に抱かれているのでこればかりはどうしようもなかった。
部屋に一旦戻してもらい、食堂へ向かう為の支度を侍女たちに整えてもらう。香子が起きたことで延夕玲や黒月たちには話は通っている。だから後はスムーズだった。
朱雀が香子を連れにきた。
食堂に移動して、席を準備させる。香子の隣に二席用意してもらった。香子の隣は紅児、その隣に紅夏が座れるようにした。紅夏に抱かれて紅児が来るまでに、前菜が並べられた。厨師たちも張り切ったらしく、いつもよりも品数が多い。香子はそれに笑みを浮かべた。
やがて紅児と紅夏がやってきた。
二人に腰掛けるよう促す。沢山の料理を見て、紅児は目を丸くした。
昨日紅児たちが報告に来たのにすぐに帰したことを香子は詫びた。前菜の、皮蛋の生姜醤油かけを紅児があまり好きではないということも知れた。確かに皮蛋はクセがあるから人によっては苦手かもしれないと、香子は笑んだ。
みな沢山食べた。食休みをしてから、香子は紅児を部屋に招いた。玄武は香子を部屋の長椅子に下ろすと退室し、延夕玲と部屋付の侍女もお茶を淹れてから退室した。そうして香子たちは二人きりになった。今日はもう紅児が四神宮を出るまで一緒にいるつもりだ。
そう紅児に告げると、紅児は戸惑ったような顔をした。
香子の言葉でじわじわと実感が湧いてきたらしく返事をする紅児の声は震えた。
そんな紅児を香子優しく抱きしめた。
紅児を抱きしめたまま、紅夏と紅児の結婚の証明書のようなものはまだ出せないということを伝えた。
このまま紅児が帰国すると少し困ったことになるだろうと香子は思う。だが、おそらく紅児は船に乗れないだろう。トラウマというのはそう簡単に克服できるものではない。しかも紅児のトラウマがわかったのはここに来てからだ。
だが、もしかしたら船に乗れるかもしれない。それを前提としていろいろ手配はした。
今回船に乗れなかったら紅児はとてもショックを受けるだろう。だから、もし乗れなくても次がある。それで乗れなくてもそのまた次があるのだという話はした。
やっと紅児の顔に笑みが浮かんだ。
半年も経てば紅児の誕生日は過ぎる。そうすれば紅夏と正式に結婚できる。帰る時にその証明書を持っていければセレスト王国で暮らすのも多少は楽になるはずだ。
昼食も共にした。
紅児がこの国に来てからの話などを聞いたり、セレスト王国のことを改めて尋ねたりした。紅児はよく笑った。
けれど、楽しい時間は早く過ぎるものだ。
『花嫁様』
部屋の扉の向こうから黒月の声が届いた。
出発の時が来たのだと香子も紅児も理解した。
紅児をぎゅっときつく抱きしめる。しばらくそうしてからそっと離した。
『花嫁さま……』
『いってらっしゃい。お母様が待っているんでしょう?』
泣きそうな顔をする紅児を促す。母親に会えるなら会ってきた方がいい。その後どうするかは紅児が決めればいいのだ。
紅児が退室し、出かける準備をさせる。香子はそのちょっとした間に、紅児に向けて一言だけメモのような手紙を書いた。それを紅炎に託す。
『エリーザが四神宮を出る時に渡してちょうだい』
『承知しました』
紅炎はなにか言いたそうな顔をしたが素直に従った。
朱雀が香子を迎えにきた。四神宮に併設している謁見の間には準備ができているだろう。今回はそこに椅子を用意させた。
朱雀に抱かれたまま香子は謁見の間に入る。椅子から立ち上がろうとする紅児を手で制した。
『エリーザ、これまでよく仕えてくれました。グッテンバーグ氏(紅児の叔父)と、国のお母上によろしく伝えてください』
『……はい……花嫁様のご厚意に感謝します』
紅児の声は、泣いているようだった。
朱雀を促してそのまま四神宮に戻る。香子は振り返らなかった。
これから紅児は馬車に乗って天津に移動し(途中からは紅夏が抱えて走る予定だ)、そして天津の港から船に乗るのだろう。
『乗れますかね』
『さあな』
朱雀が笑んだ。こればかりは紅児にかかってくる。だが朱雀が笑んだことで、なんとなくだが……紅児はやはり船には乗れないのではないかと香子は思った。
未来まではわからないと四神は言う。それは誰かの行動一つで変わってしまうことだからだ。
だが、四神にはわかっているのだろう。
朝ごはんはいろいろな種類があって楽しかった。今夜の夕飯はなんだろう。肉団子と春雨のスープが食べたい気がする。
朱雀にぎゅっと抱き付いて、香子はそんなことを思った。
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「貴方色に染まる」は111~113話辺りです。
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