426 / 597
第3部 周りと仲良くしろと言われました
123.朱雀の眷属に会ってみました
しおりを挟む
朱雀の眷属が来たと聞いて香子ははっとした。
紅児はもう帰国してしまうかもしれないのに、まだ張錦飛に結婚の記帳ができるかどうか聞いていなかった。今から張を呼び出すことはできないだろう。だが手紙などで尋ねることならばと香子は考えた。
(手紙書いてたら間に合わないよね?)
『玄武様、お願いがあります』
『なんだ?』
『張老師に紅児の結婚の記帳がこの国で可能かどうか聞きたいのです。紅児は14歳なのでまだできないとは思うのですが……』
『可能か否かを聞いて、可能であればどうする?』
玄武は香子がしたいことがよくわかっているようだ。香子は嬉しくなった。
(玄武様のこういうところ、好き!)
『即日で記帳できればし、その証拠が欲しいのです。そうすれば紅夏と紅児の結婚が正当なものとなります。それは二人の力になりますから……』
『不可能であったならばどうする』
『それは……それで構いません。法を曲げる必要はありません』
『わかった。聞いて参ろう』
『ありがとうございます』
なんでこんな大事なことを忘れていたのだろうと香子は嘆息した。やはりちゃんとメモをしておかなければならなかったと後悔した。
玄武は身だしなみを整えると、
『では、参る』
そう厳かに言って、瞬時に姿を消した。
『うわ、かっこいい……』
香子は思わず呟いた。四神はみんな素敵すぎていやだと香子は思う。
『香子』
後ろから朱雀に抱き込まれた。
『朱雀様、じゅんび……んんっ……』
眷属が来たと聞いたのに、香子は朱雀に唇を塞がれた。そのまま床に押し倒される。
(え? これってどういうこと? 四神同士は嫉妬しないんじゃ? このままじゃ……)
香子は必死で朱雀の頬を掴み、引っ張った。
『……香子』
『け、眷属が来たと聞きました! せめて顔は出しましょう。私も挨拶したいですし!』
恨めしそうな顔をされたが引き下がるわけにはいかない。ここで引き下がったら朱雀の眷属をずっと待たせることになってしまうだろう。それは香子としては嫌だった。
朱雀は嘆息した。まるでしょうがないなと言いたそうな様子に香子はムッとした。
『朱雀様、眷属の方に合わせてください』
『……わかった。全く……待たせておけばいいものを』
『そういうわけにはいきませんから!』
いくら四神の気が長くても周りまで気が長いわけではない。紅夏との引継ぎもあるだろうし放っておくわけにはいかないのである。
香子は侍女たちに自分の支度をさせ、朱雀にも身なりを整えさせた。そしてやっと白雲と黒月を従えて謁見の間へ移動した。
趙文英がほっとした顔をする。悪いことをしたなと香子は思った。
眷属は謁見の間の中ほどで平伏して待っていた。もしやずっとこの状態で待っていたのではあるまいなと香子は冷汗をかいた。
『そなたか』
朱雀が気のない声をかけた。ゆっくりと眷属が顔を上げる。その顔には確か見覚えがあった。
『あっ』
『花嫁様に覚えていただけていたとは、恐悦至極に存じます』
朱雀の眷属なので、みな確かに朱雀と似たような顔はしているのだが微妙に違う。名前までは覚えていなかったが、この眷属は慇懃無礼だなと香子は思った。
『名前までは憶えていないわ。ごめんなさいね』
『顔を覚えていただけただけでも十分です。我は紅炎(ホンイエン)と申します。今後は我が朱雀様にお仕えします。以後お見知りおきを』
やはり気のせいではなかったらしい。前回紅炎が朱雀の領地からやってきたのはいつだっただろうかと、香子は記憶を辿った。
(ああ、あの時……)
確か朱雀に抱かれてすぐぐらいの時だ。
香子が朱雀に抱かれたことで春が優しく訪れたとこの眷属は伝えにきたのだ。あの時香子が朱雀に抱かれたことで、香子が朱雀に嫁いでくるものだとこの眷属は思い込んでいた。
抱かれたのにまだ嫁ぐかどうか決められないと言ったから、気に食わないのだろうと香子は思った。
(そんなことを根に持たれてもなー……)
そしてそんな雰囲気を黒月が感じ取ってか、またキレている気がする。黒月にとって香子への態度が悪い相手は全て敵なのだ。それはそれで面倒なことだと香子は内心ため息をついた。
『顔合わせは済んだな。では戻ろうぞ』
けれど朱雀はどこまでもマイペースだった。
『朱雀様、私の部屋でお願いしますね。玄武様も戻っていらっしゃるでしょうし』
『わかった』
『朱雀様、我はどちらで控えていればよろしいのでしょうか』
『我の室の前にでも控えていればよいのではないか』
朱雀はいらいらしたように言うと、香子を連れて跳んだ。
跳んだ先は香子の部屋の寝室だった。香子は頭が痛くなりそうだと思った。
『朱雀様、黒月に私の部屋の中にいると伝えてください』
『……わかった』
なんだか朱雀はガルガルしているように見える。
『もう……朱雀様ってばそんなに私が好きなんですか?』
『愛している』
即答されて香子は絶句した。そこに玄武が戻ってきた。
『今戻った』
風をまとって戻ってきた玄武の美しい黒髪が微かになびいて、やっぱり玄武はキレイだしかっこいいなと香子は思った。それを朱雀が気づかないはずはなく、玄武へのご褒美も相まって香子はまた二神に甘く啼かされてしまったのだった。
ーーーーー
紅炎がかつて四神宮にやってきた場面は、第二部22話を参照してください。
「貴方色に染まる」は108話辺りです。
紅児はもう帰国してしまうかもしれないのに、まだ張錦飛に結婚の記帳ができるかどうか聞いていなかった。今から張を呼び出すことはできないだろう。だが手紙などで尋ねることならばと香子は考えた。
(手紙書いてたら間に合わないよね?)
『玄武様、お願いがあります』
『なんだ?』
『張老師に紅児の結婚の記帳がこの国で可能かどうか聞きたいのです。紅児は14歳なのでまだできないとは思うのですが……』
『可能か否かを聞いて、可能であればどうする?』
玄武は香子がしたいことがよくわかっているようだ。香子は嬉しくなった。
(玄武様のこういうところ、好き!)
『即日で記帳できればし、その証拠が欲しいのです。そうすれば紅夏と紅児の結婚が正当なものとなります。それは二人の力になりますから……』
『不可能であったならばどうする』
『それは……それで構いません。法を曲げる必要はありません』
『わかった。聞いて参ろう』
『ありがとうございます』
なんでこんな大事なことを忘れていたのだろうと香子は嘆息した。やはりちゃんとメモをしておかなければならなかったと後悔した。
玄武は身だしなみを整えると、
『では、参る』
そう厳かに言って、瞬時に姿を消した。
『うわ、かっこいい……』
香子は思わず呟いた。四神はみんな素敵すぎていやだと香子は思う。
『香子』
後ろから朱雀に抱き込まれた。
『朱雀様、じゅんび……んんっ……』
眷属が来たと聞いたのに、香子は朱雀に唇を塞がれた。そのまま床に押し倒される。
(え? これってどういうこと? 四神同士は嫉妬しないんじゃ? このままじゃ……)
香子は必死で朱雀の頬を掴み、引っ張った。
『……香子』
『け、眷属が来たと聞きました! せめて顔は出しましょう。私も挨拶したいですし!』
恨めしそうな顔をされたが引き下がるわけにはいかない。ここで引き下がったら朱雀の眷属をずっと待たせることになってしまうだろう。それは香子としては嫌だった。
朱雀は嘆息した。まるでしょうがないなと言いたそうな様子に香子はムッとした。
『朱雀様、眷属の方に合わせてください』
『……わかった。全く……待たせておけばいいものを』
『そういうわけにはいきませんから!』
いくら四神の気が長くても周りまで気が長いわけではない。紅夏との引継ぎもあるだろうし放っておくわけにはいかないのである。
香子は侍女たちに自分の支度をさせ、朱雀にも身なりを整えさせた。そしてやっと白雲と黒月を従えて謁見の間へ移動した。
趙文英がほっとした顔をする。悪いことをしたなと香子は思った。
眷属は謁見の間の中ほどで平伏して待っていた。もしやずっとこの状態で待っていたのではあるまいなと香子は冷汗をかいた。
『そなたか』
朱雀が気のない声をかけた。ゆっくりと眷属が顔を上げる。その顔には確か見覚えがあった。
『あっ』
『花嫁様に覚えていただけていたとは、恐悦至極に存じます』
朱雀の眷属なので、みな確かに朱雀と似たような顔はしているのだが微妙に違う。名前までは覚えていなかったが、この眷属は慇懃無礼だなと香子は思った。
『名前までは憶えていないわ。ごめんなさいね』
『顔を覚えていただけただけでも十分です。我は紅炎(ホンイエン)と申します。今後は我が朱雀様にお仕えします。以後お見知りおきを』
やはり気のせいではなかったらしい。前回紅炎が朱雀の領地からやってきたのはいつだっただろうかと、香子は記憶を辿った。
(ああ、あの時……)
確か朱雀に抱かれてすぐぐらいの時だ。
香子が朱雀に抱かれたことで春が優しく訪れたとこの眷属は伝えにきたのだ。あの時香子が朱雀に抱かれたことで、香子が朱雀に嫁いでくるものだとこの眷属は思い込んでいた。
抱かれたのにまだ嫁ぐかどうか決められないと言ったから、気に食わないのだろうと香子は思った。
(そんなことを根に持たれてもなー……)
そしてそんな雰囲気を黒月が感じ取ってか、またキレている気がする。黒月にとって香子への態度が悪い相手は全て敵なのだ。それはそれで面倒なことだと香子は内心ため息をついた。
『顔合わせは済んだな。では戻ろうぞ』
けれど朱雀はどこまでもマイペースだった。
『朱雀様、私の部屋でお願いしますね。玄武様も戻っていらっしゃるでしょうし』
『わかった』
『朱雀様、我はどちらで控えていればよろしいのでしょうか』
『我の室の前にでも控えていればよいのではないか』
朱雀はいらいらしたように言うと、香子を連れて跳んだ。
跳んだ先は香子の部屋の寝室だった。香子は頭が痛くなりそうだと思った。
『朱雀様、黒月に私の部屋の中にいると伝えてください』
『……わかった』
なんだか朱雀はガルガルしているように見える。
『もう……朱雀様ってばそんなに私が好きなんですか?』
『愛している』
即答されて香子は絶句した。そこに玄武が戻ってきた。
『今戻った』
風をまとって戻ってきた玄武の美しい黒髪が微かになびいて、やっぱり玄武はキレイだしかっこいいなと香子は思った。それを朱雀が気づかないはずはなく、玄武へのご褒美も相まって香子はまた二神に甘く啼かされてしまったのだった。
ーーーーー
紅炎がかつて四神宮にやってきた場面は、第二部22話を参照してください。
「貴方色に染まる」は108話辺りです。
22
お気に入りに追加
4,015
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる