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第3部 周りと仲良くしろと言われました
123.朱雀の眷属に会ってみました
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朱雀の眷属が来たと聞いて香子ははっとした。
紅児はもう帰国してしまうかもしれないのに、まだ張錦飛に結婚の記帳ができるかどうか聞いていなかった。今から張を呼び出すことはできないだろう。だが手紙などで尋ねることならばと香子は考えた。
(手紙書いてたら間に合わないよね?)
『玄武様、お願いがあります』
『なんだ?』
『張老師に紅児の結婚の記帳がこの国で可能かどうか聞きたいのです。紅児は14歳なのでまだできないとは思うのですが……』
『可能か否かを聞いて、可能であればどうする?』
玄武は香子がしたいことがよくわかっているようだ。香子は嬉しくなった。
(玄武様のこういうところ、好き!)
『即日で記帳できればし、その証拠が欲しいのです。そうすれば紅夏と紅児の結婚が正当なものとなります。それは二人の力になりますから……』
『不可能であったならばどうする』
『それは……それで構いません。法を曲げる必要はありません』
『わかった。聞いて参ろう』
『ありがとうございます』
なんでこんな大事なことを忘れていたのだろうと香子は嘆息した。やはりちゃんとメモをしておかなければならなかったと後悔した。
玄武は身だしなみを整えると、
『では、参る』
そう厳かに言って、瞬時に姿を消した。
『うわ、かっこいい……』
香子は思わず呟いた。四神はみんな素敵すぎていやだと香子は思う。
『香子』
後ろから朱雀に抱き込まれた。
『朱雀様、じゅんび……んんっ……』
眷属が来たと聞いたのに、香子は朱雀に唇を塞がれた。そのまま床に押し倒される。
(え? これってどういうこと? 四神同士は嫉妬しないんじゃ? このままじゃ……)
香子は必死で朱雀の頬を掴み、引っ張った。
『……香子』
『け、眷属が来たと聞きました! せめて顔は出しましょう。私も挨拶したいですし!』
恨めしそうな顔をされたが引き下がるわけにはいかない。ここで引き下がったら朱雀の眷属をずっと待たせることになってしまうだろう。それは香子としては嫌だった。
朱雀は嘆息した。まるでしょうがないなと言いたそうな様子に香子はムッとした。
『朱雀様、眷属の方に合わせてください』
『……わかった。全く……待たせておけばいいものを』
『そういうわけにはいきませんから!』
いくら四神の気が長くても周りまで気が長いわけではない。紅夏との引継ぎもあるだろうし放っておくわけにはいかないのである。
香子は侍女たちに自分の支度をさせ、朱雀にも身なりを整えさせた。そしてやっと白雲と黒月を従えて謁見の間へ移動した。
趙文英がほっとした顔をする。悪いことをしたなと香子は思った。
眷属は謁見の間の中ほどで平伏して待っていた。もしやずっとこの状態で待っていたのではあるまいなと香子は冷汗をかいた。
『そなたか』
朱雀が気のない声をかけた。ゆっくりと眷属が顔を上げる。その顔には確か見覚えがあった。
『あっ』
『花嫁様に覚えていただけていたとは、恐悦至極に存じます』
朱雀の眷属なので、みな確かに朱雀と似たような顔はしているのだが微妙に違う。名前までは覚えていなかったが、この眷属は慇懃無礼だなと香子は思った。
『名前までは憶えていないわ。ごめんなさいね』
『顔を覚えていただけただけでも十分です。我は紅炎(ホンイエン)と申します。今後は我が朱雀様にお仕えします。以後お見知りおきを』
やはり気のせいではなかったらしい。前回紅炎が朱雀の領地からやってきたのはいつだっただろうかと、香子は記憶を辿った。
(ああ、あの時……)
確か朱雀に抱かれてすぐぐらいの時だ。
香子が朱雀に抱かれたことで春が優しく訪れたとこの眷属は伝えにきたのだ。あの時香子が朱雀に抱かれたことで、香子が朱雀に嫁いでくるものだとこの眷属は思い込んでいた。
抱かれたのにまだ嫁ぐかどうか決められないと言ったから、気に食わないのだろうと香子は思った。
(そんなことを根に持たれてもなー……)
そしてそんな雰囲気を黒月が感じ取ってか、またキレている気がする。黒月にとって香子への態度が悪い相手は全て敵なのだ。それはそれで面倒なことだと香子は内心ため息をついた。
『顔合わせは済んだな。では戻ろうぞ』
けれど朱雀はどこまでもマイペースだった。
『朱雀様、私の部屋でお願いしますね。玄武様も戻っていらっしゃるでしょうし』
『わかった』
『朱雀様、我はどちらで控えていればよろしいのでしょうか』
『我の室の前にでも控えていればよいのではないか』
朱雀はいらいらしたように言うと、香子を連れて跳んだ。
跳んだ先は香子の部屋の寝室だった。香子は頭が痛くなりそうだと思った。
『朱雀様、黒月に私の部屋の中にいると伝えてください』
『……わかった』
なんだか朱雀はガルガルしているように見える。
『もう……朱雀様ってばそんなに私が好きなんですか?』
『愛している』
即答されて香子は絶句した。そこに玄武が戻ってきた。
『今戻った』
風をまとって戻ってきた玄武の美しい黒髪が微かになびいて、やっぱり玄武はキレイだしかっこいいなと香子は思った。それを朱雀が気づかないはずはなく、玄武へのご褒美も相まって香子はまた二神に甘く啼かされてしまったのだった。
ーーーーー
紅炎がかつて四神宮にやってきた場面は、第二部22話を参照してください。
「貴方色に染まる」は108話辺りです。
紅児はもう帰国してしまうかもしれないのに、まだ張錦飛に結婚の記帳ができるかどうか聞いていなかった。今から張を呼び出すことはできないだろう。だが手紙などで尋ねることならばと香子は考えた。
(手紙書いてたら間に合わないよね?)
『玄武様、お願いがあります』
『なんだ?』
『張老師に紅児の結婚の記帳がこの国で可能かどうか聞きたいのです。紅児は14歳なのでまだできないとは思うのですが……』
『可能か否かを聞いて、可能であればどうする?』
玄武は香子がしたいことがよくわかっているようだ。香子は嬉しくなった。
(玄武様のこういうところ、好き!)
『即日で記帳できればし、その証拠が欲しいのです。そうすれば紅夏と紅児の結婚が正当なものとなります。それは二人の力になりますから……』
『不可能であったならばどうする』
『それは……それで構いません。法を曲げる必要はありません』
『わかった。聞いて参ろう』
『ありがとうございます』
なんでこんな大事なことを忘れていたのだろうと香子は嘆息した。やはりちゃんとメモをしておかなければならなかったと後悔した。
玄武は身だしなみを整えると、
『では、参る』
そう厳かに言って、瞬時に姿を消した。
『うわ、かっこいい……』
香子は思わず呟いた。四神はみんな素敵すぎていやだと香子は思う。
『香子』
後ろから朱雀に抱き込まれた。
『朱雀様、じゅんび……んんっ……』
眷属が来たと聞いたのに、香子は朱雀に唇を塞がれた。そのまま床に押し倒される。
(え? これってどういうこと? 四神同士は嫉妬しないんじゃ? このままじゃ……)
香子は必死で朱雀の頬を掴み、引っ張った。
『……香子』
『け、眷属が来たと聞きました! せめて顔は出しましょう。私も挨拶したいですし!』
恨めしそうな顔をされたが引き下がるわけにはいかない。ここで引き下がったら朱雀の眷属をずっと待たせることになってしまうだろう。それは香子としては嫌だった。
朱雀は嘆息した。まるでしょうがないなと言いたそうな様子に香子はムッとした。
『朱雀様、眷属の方に合わせてください』
『……わかった。全く……待たせておけばいいものを』
『そういうわけにはいきませんから!』
いくら四神の気が長くても周りまで気が長いわけではない。紅夏との引継ぎもあるだろうし放っておくわけにはいかないのである。
香子は侍女たちに自分の支度をさせ、朱雀にも身なりを整えさせた。そしてやっと白雲と黒月を従えて謁見の間へ移動した。
趙文英がほっとした顔をする。悪いことをしたなと香子は思った。
眷属は謁見の間の中ほどで平伏して待っていた。もしやずっとこの状態で待っていたのではあるまいなと香子は冷汗をかいた。
『そなたか』
朱雀が気のない声をかけた。ゆっくりと眷属が顔を上げる。その顔には確か見覚えがあった。
『あっ』
『花嫁様に覚えていただけていたとは、恐悦至極に存じます』
朱雀の眷属なので、みな確かに朱雀と似たような顔はしているのだが微妙に違う。名前までは覚えていなかったが、この眷属は慇懃無礼だなと香子は思った。
『名前までは憶えていないわ。ごめんなさいね』
『顔を覚えていただけただけでも十分です。我は紅炎(ホンイエン)と申します。今後は我が朱雀様にお仕えします。以後お見知りおきを』
やはり気のせいではなかったらしい。前回紅炎が朱雀の領地からやってきたのはいつだっただろうかと、香子は記憶を辿った。
(ああ、あの時……)
確か朱雀に抱かれてすぐぐらいの時だ。
香子が朱雀に抱かれたことで春が優しく訪れたとこの眷属は伝えにきたのだ。あの時香子が朱雀に抱かれたことで、香子が朱雀に嫁いでくるものだとこの眷属は思い込んでいた。
抱かれたのにまだ嫁ぐかどうか決められないと言ったから、気に食わないのだろうと香子は思った。
(そんなことを根に持たれてもなー……)
そしてそんな雰囲気を黒月が感じ取ってか、またキレている気がする。黒月にとって香子への態度が悪い相手は全て敵なのだ。それはそれで面倒なことだと香子は内心ため息をついた。
『顔合わせは済んだな。では戻ろうぞ』
けれど朱雀はどこまでもマイペースだった。
『朱雀様、私の部屋でお願いしますね。玄武様も戻っていらっしゃるでしょうし』
『わかった』
『朱雀様、我はどちらで控えていればよろしいのでしょうか』
『我の室の前にでも控えていればよいのではないか』
朱雀はいらいらしたように言うと、香子を連れて跳んだ。
跳んだ先は香子の部屋の寝室だった。香子は頭が痛くなりそうだと思った。
『朱雀様、黒月に私の部屋の中にいると伝えてください』
『……わかった』
なんだか朱雀はガルガルしているように見える。
『もう……朱雀様ってばそんなに私が好きなんですか?』
『愛している』
即答されて香子は絶句した。そこに玄武が戻ってきた。
『今戻った』
風をまとって戻ってきた玄武の美しい黒髪が微かになびいて、やっぱり玄武はキレイだしかっこいいなと香子は思った。それを朱雀が気づかないはずはなく、玄武へのご褒美も相まって香子はまた二神に甘く啼かされてしまったのだった。
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紅炎がかつて四神宮にやってきた場面は、第二部22話を参照してください。
「貴方色に染まる」は108話辺りです。
応援ありがとうございます!
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