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第3部 周りと仲良くしろと言われました
118.見守ることしかできないのはしかたないのです
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紅児との会話の詳細は「貴方色に染まる」92話を参照してください。
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一通りこれからの流れを確認してから、香子はみなを朱雀の室から追い出した。
紅児と話したいことがあったのだ。もちろん室の主である朱雀も追いやった。朱雀の室の前に黒月だけ残すよう伝え、香子は紅児に言っておかなければならないことを伝えた。
紅夏から、紅児の叔父が話した内容を聞いたこと。
紅児の母が叔父と結婚したということを、紅児が受け入れられないのは当然であること。
セレスト王国へ帰国するとしたら、片道二か月は同じ船の中にいることになる。もし叔父と母親をどうしても許せないのなら今回は帰るのを見合わせた方がいいということなどを香子は伝えた。
セレスト王国からの船は年に一、二回はやってくる。だから渡航は今回だけに限るわけではない。ただし、今回見送ったことで何かが国で起こるかもしれない。紅児には後悔しないように決めるよう、香子はせめて言葉を尽くした。
そうしたことで、紅児もある程度腹が決まったようだった。
『花嫁さま、ありがとうございます。私、がんばってみます!』
先ほどとは打って変わった晴れやかな笑顔で頭を下げ、紅児は勢いよく立ち上がった。
若さっていいなぁと香子は年寄りのようなことを思う。おそらくもう、紅児は大丈夫だろう。
紅児が朱雀の室を出ていく際、黒月に朱雀に声をかけてもらうよう香子は頼んだ。
紅児を見送ってから、香子はため息をついた。
紅児は船に乗るつもりだろう。ということは今夜辺り紅夏に抱かれる予定なのだろう。
紅夏に抱かれたら、紅児は人ではなくなってしまう。
『ごめんね……』
香子は呟いた。
紅夏を止められなくて本当に申し訳ないことをしたと香子は思っていた。涙までは出なかったが、香子は自分がとても情けないと思った。
『香子、如何した?』
朱雀が戻ってきた。香子は無言で立ち上がり、朱雀に抱き付いた。
『……何をそんなに気に病む。あの娘のこれまでのことを思えば、今が最善ではないか』
『それは、そうなんですけど……もっとどうにかしてあげられなかったのかなって……』
朱雀は香子を抱き上げた。
『香子、そなたはもう何も考えるな。あの娘の手はもう離したのだ。……今は我のことだけ考えよ』
『うー……』
朱雀はどこまでも優しい。
そうなのだ。これ以上香子が紅児にしてあげられることはない。香子にできるのは餞別をできるだけ多く渡すとか、もし船に乗れなくて戻ってきたならば温かく再び迎え入れることぐらいだ。そう、紅児の精神上の問題で船に乗れない可能性だってあるのだ。そうしたらセレスト王国に帰るにはもっと時間がかかるかもしれない。
紅児を本当の意味で支えるのは紅夏の役目ではあるが、香子もそれに少しは関われたらいいなと思った。
昼間からとか、今日はもうそんなこと関係なかった。香子は自分が弱いことをよく知っている。自分の心がどうにもならないのだから誰かに頼るしかない。
『朱雀様、抱いてくださ……』
唇に指が当てられた。
『元よりそのつもりだ。だから、煽るな。昼食は遅らせるよう伝えておこう』
『ありがとうございます』
朱雀はいつも強引で、香子がくよくよ悩んでいたりしてもぐいぐい引っ張っていってくれる。朱雀とか、玄武に頼れば大丈夫だと香子は思う。
(なんで四神には花嫁が一人なんだろうって疑問だったけど……)
花嫁の心を守るには一人では足りなかったのだ。そこの気遣いを天皇(ティエンホワン)がしてくれたのはありがたいと香子も思うが、やっぱり早く返事を寄こせとも思ってしまうわけで。
とりあえず今は朱雀に慰めてもらうことにしたのだった。
紅児にはもう暇を出した。
迎えが来たのだからそれは当然のことである。だからもう香子の部屋の隅に紅児が控えることはない。
(……ちょっと寂しいかも)
また部屋付の侍女を探してもらわないといけないだろう。ただ、紅児が戻ってくる可能性もないとは言えないから、十日ばかりは保留になるのだが。
(あれ? でも……)
『夕玲』
『はい』
『エリーザって、もしこちらに戻って来ることになったらどうするのかしら? 私の部屋付に戻ってくれるのかしらね?』
『……花嫁さま、気がはようございます』
『わかってるけど、侍女を手配するのもたいへんだって聞いたわ』
しれっと香子は答えた。延夕玲が香子にわかるように嘆息する。困ったものだと思っているようだった。
『紅児がどうするつもりなのかは趙様に一任すればよろしいかと』
『それもそうね』
最近四神宮の主官である趙の影は非常に薄いと香子は思う。単純に四神が香子に趙との接触をさせないだけなのだが、姿を見ないとそんな風に思ってしまうものだ。
趙は趙なりに、香子を筆頭とした四神宮に関わる人たちの為に奔走していたりするのだが、それに香子が気づく日が来ることはない。香子がそれを知るとしてもあと最低十年はかかるはずである。
それはともかく香子の部屋付の侍女の件である。どちらにせよ四神宮の人員が足りていないことに違いはない。
『誰か、雇用できないものかしらね?』
香子が気にすることではないが、首を傾げて呟いたのだった。
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「貴方色に染まる」は92~94話辺りです。
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一通りこれからの流れを確認してから、香子はみなを朱雀の室から追い出した。
紅児と話したいことがあったのだ。もちろん室の主である朱雀も追いやった。朱雀の室の前に黒月だけ残すよう伝え、香子は紅児に言っておかなければならないことを伝えた。
紅夏から、紅児の叔父が話した内容を聞いたこと。
紅児の母が叔父と結婚したということを、紅児が受け入れられないのは当然であること。
セレスト王国へ帰国するとしたら、片道二か月は同じ船の中にいることになる。もし叔父と母親をどうしても許せないのなら今回は帰るのを見合わせた方がいいということなどを香子は伝えた。
セレスト王国からの船は年に一、二回はやってくる。だから渡航は今回だけに限るわけではない。ただし、今回見送ったことで何かが国で起こるかもしれない。紅児には後悔しないように決めるよう、香子はせめて言葉を尽くした。
そうしたことで、紅児もある程度腹が決まったようだった。
『花嫁さま、ありがとうございます。私、がんばってみます!』
先ほどとは打って変わった晴れやかな笑顔で頭を下げ、紅児は勢いよく立ち上がった。
若さっていいなぁと香子は年寄りのようなことを思う。おそらくもう、紅児は大丈夫だろう。
紅児が朱雀の室を出ていく際、黒月に朱雀に声をかけてもらうよう香子は頼んだ。
紅児を見送ってから、香子はため息をついた。
紅児は船に乗るつもりだろう。ということは今夜辺り紅夏に抱かれる予定なのだろう。
紅夏に抱かれたら、紅児は人ではなくなってしまう。
『ごめんね……』
香子は呟いた。
紅夏を止められなくて本当に申し訳ないことをしたと香子は思っていた。涙までは出なかったが、香子は自分がとても情けないと思った。
『香子、如何した?』
朱雀が戻ってきた。香子は無言で立ち上がり、朱雀に抱き付いた。
『……何をそんなに気に病む。あの娘のこれまでのことを思えば、今が最善ではないか』
『それは、そうなんですけど……もっとどうにかしてあげられなかったのかなって……』
朱雀は香子を抱き上げた。
『香子、そなたはもう何も考えるな。あの娘の手はもう離したのだ。……今は我のことだけ考えよ』
『うー……』
朱雀はどこまでも優しい。
そうなのだ。これ以上香子が紅児にしてあげられることはない。香子にできるのは餞別をできるだけ多く渡すとか、もし船に乗れなくて戻ってきたならば温かく再び迎え入れることぐらいだ。そう、紅児の精神上の問題で船に乗れない可能性だってあるのだ。そうしたらセレスト王国に帰るにはもっと時間がかかるかもしれない。
紅児を本当の意味で支えるのは紅夏の役目ではあるが、香子もそれに少しは関われたらいいなと思った。
昼間からとか、今日はもうそんなこと関係なかった。香子は自分が弱いことをよく知っている。自分の心がどうにもならないのだから誰かに頼るしかない。
『朱雀様、抱いてくださ……』
唇に指が当てられた。
『元よりそのつもりだ。だから、煽るな。昼食は遅らせるよう伝えておこう』
『ありがとうございます』
朱雀はいつも強引で、香子がくよくよ悩んでいたりしてもぐいぐい引っ張っていってくれる。朱雀とか、玄武に頼れば大丈夫だと香子は思う。
(なんで四神には花嫁が一人なんだろうって疑問だったけど……)
花嫁の心を守るには一人では足りなかったのだ。そこの気遣いを天皇(ティエンホワン)がしてくれたのはありがたいと香子も思うが、やっぱり早く返事を寄こせとも思ってしまうわけで。
とりあえず今は朱雀に慰めてもらうことにしたのだった。
紅児にはもう暇を出した。
迎えが来たのだからそれは当然のことである。だからもう香子の部屋の隅に紅児が控えることはない。
(……ちょっと寂しいかも)
また部屋付の侍女を探してもらわないといけないだろう。ただ、紅児が戻ってくる可能性もないとは言えないから、十日ばかりは保留になるのだが。
(あれ? でも……)
『夕玲』
『はい』
『エリーザって、もしこちらに戻って来ることになったらどうするのかしら? 私の部屋付に戻ってくれるのかしらね?』
『……花嫁さま、気がはようございます』
『わかってるけど、侍女を手配するのもたいへんだって聞いたわ』
しれっと香子は答えた。延夕玲が香子にわかるように嘆息する。困ったものだと思っているようだった。
『紅児がどうするつもりなのかは趙様に一任すればよろしいかと』
『それもそうね』
最近四神宮の主官である趙の影は非常に薄いと香子は思う。単純に四神が香子に趙との接触をさせないだけなのだが、姿を見ないとそんな風に思ってしまうものだ。
趙は趙なりに、香子を筆頭とした四神宮に関わる人たちの為に奔走していたりするのだが、それに香子が気づく日が来ることはない。香子がそれを知るとしてもあと最低十年はかかるはずである。
それはともかく香子の部屋付の侍女の件である。どちらにせよ四神宮の人員が足りていないことに違いはない。
『誰か、雇用できないものかしらね?』
香子が気にすることではないが、首を傾げて呟いたのだった。
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「貴方色に染まる」は92~94話辺りです。
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