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第3部 周りと仲良くしろと言われました

112.冷静に話すのも気を使うものです

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詳しいやりとりについては、「貴方色に染まる」83、84話を参照してください。
ーーーーー


 四神宮に戻ってみると、香子は自分で思っていたよりも消耗していたらしい。
 紅児に報告しなければと、香子は部屋に運んでもらうよう頼んだが、侍女によって化粧を落とされたり楽な格好にされたはいいが長椅子に横たわることになってしまった。紅児が心配そうに香子を窺っていたが、ろくに声もかけられない。

『朱雀様を呼んでくれる?』

 それだけ言ってまた朱雀に来てもらった。紅児が何か言いたそうに見ているのもわかっていたが、今すぐ話すことはできそうもない。香子は朱雀に抱かれて朱雀の室へ向かった。そしてため息をついた。

『朱雀様……私、すごく疲れているみたいなんです。治してください……』
『精神的な疲れであろうな』

 朱雀はベッドに腰掛けると、横抱きにしている香子を抱き込むようにした。そうして朱雀は香子に口づけた。それは色を含んだものではなかったから、香子は素直にそれを受けることができた。

「んっ……」

 強張っていた身体から力が抜けていくのがわかる。ただ触れるだけでも治せるはずだけど、今日は香子も朱雀に甘えたかった。

『朱雀様、ありがとうございます……』
『なにほどのこともない。そろそろ白虎を呼ぶぞ。先ほどからうるさくてかなわぬ』
『ええ?』
『今日は白虎と過ごす日なのだろう?』
『……そういえばそうでした』

 忘れていたわけではないが、こんな大事な時にと香子は思ってしまった。だが四神にとって紅児の件はどうでもいいことだ。香子が後見人になっていなければ紅夏が全て対応するものだと思っているだろう。

(まあ、いいか。エリーザに伝えるだけだものね)

 どちらにせよ朱雀一人が知れば四神全てに共有されてしまう事柄である。白虎が共にいようがいまいが関係なかった。

『それならば茶室の準備をさせるよう連絡もお願いします』
『わかった』

 白雲に連絡をさせ、そこから誰に伝わったのかは香子は知らない。白虎も共に部屋に戻り、紅児を伴って茶室へ向かった。
 本当にこの手のやりとりは煩わしいがしかたない。
 茶室に移動してから、香子は人払いをさせた。紅児は真向いに座らせ、まずはお茶を淹れた。香子も日本の茶道は何度か経験したことはあるが、詳しい作法は覚えていない。日本の茶道はお茶の味を楽しむというより、作法を通して心身を落ち着かせる効果があるものだと香子は思っている。
 対する中国茶は茶藝である。こちらも所作一つ一つに意味があるが、烏龍茶をおいしく飲む工夫に溢れている。用意された東方美人を見て香子は笑んだ。
 いつもの手順で烏龍茶を淹れ、紅児の前に置いた聞香杯と品茗杯のセットの、聞香杯の方に茶を注ぐ。

『こうするのよ』

 と縦長の聞香杯に小さい湯呑みに見える品茗杯を逆さまに被せ、親指と人差し指で湯呑み同士の底をしっかりと持ちひっくり返す。聞香杯をゆっくりと引き上げ、香りを嗅いで見せた。

『慣れるまでは熱いから、気をつけてね』

 そう紅児に注意をして、紅児が同じようにするのを見守った。紅児の顔もまた強張っていたが、お茶の香りを嗅いだことで綻んだ。
 お茶を啜る。
 やはりおいしいと香子の顔も綻ぶ。

『おいしい……』

 と紅児が呟いた。

『よかったわ』

 それからみな無言でお茶を飲んだ。
 香子もお茶を淹れ、飲むことで気持ちが落ち着くのを感じた。

(やはりお茶はいい……)

 しみじみとそう思ってから、香子はやっと本題に入ることにした。
 セレスト王国の使者として、紅児の叔父と名乗る人物が来たこと。ベンノ・グッテンバーグという人がそうかと紅児に確認をすると、おそらくそうだと紅児は頷いた。
 その叔父が紅児に会いたがっているから、後日香子も同席することで会わせると伝えた。

『ありがとうございます……』

 感極まったように紅児の頬を涙が伝った。
 まだ14,5歳の少女が三年も異国の地でがんばっていたのだ。知っている人もいない。言葉も通じない場所でどれだけたいへんだっただろうと想像しただけで香子も泣きそうになった。
 だが香子が泣くわけにはいかない。
 朱雀と白虎は黙ってお茶を飲んでいる。そのまま紅児が落ち着くまで、お茶を啜る音だけが茶室に響いた。
 やがて紅児も落ち着いたようだった。

『……ありがとうございます、もう大丈夫です』
『そう。今日はもう休んでもいいわよ』
『いえ。花嫁様の部屋に戻ります』
『そう。じゃあ私はこれから白虎様の室へ向かうから、黒月に白虎様のところにいると伝えてちょうだい』
『はい。わかりました、伝えておきます』

 そう言ってみな茶室を出た。紅夏は紅児に着いていきたそうだったが目で制した。詳しくは紅夏が伝えればいいことだが、紅児がまだ働くと言っているのだから邪魔はするべきではない。紅夏には睨まれたが知ったことではなかった。
 白虎に抱かれたまま白虎の室に移動した。白虎は無言で香子を寝室に運んだ。

『白虎様は私を癒してくださるのですか?』
『……襲うかもしれぬぞ』
『……夕飯を食いっぱぐれたら私もう白虎様とはしませんからね』
『……それは困る』

 精神的にとても疲れたので、香子は白虎に本性を現してもらい、そのまま夕方までもふらせてもらった。この毛皮、やはり最高だと香子は思った。
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