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第3部 周りと仲良くしろと言われました
110.確かに待ってはいました
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四神宮の空気は冬になっても変わらない。
しかし陽射しは冬のそれだし、時折吹いてくる風も冬のものだ。
香子は庭に出る際なども四神の腕の中にいるから風が吹いたところで寒くはないが、侍女たちは少し寒そうに見えた。
『ちゃんと暖石はみな持っているのかしら?』
延夕玲に聞いたら確認しますと言う。ここで働いている間ぐらい暖石を提供してもかまわないではないかと香子は思った。
そんな冬のある日、香子がすっかり忘れていた知らせが四神宮にもたらされた。
四神宮の謁見の間に呼ばれ、そこで香子は玄武と、朱雀と共に王英明から報告を受けた。
『セレスト王国の船が戻ってきたの?』
香子は指を折って数えてみた。確かセレスト王国からの問い合わせに対する返書を出したのは五か月程前のことである。四神がセレスト王国の船に加護を与えたことで、転覆や海賊に襲われる等のトラブルに見舞われることはないが、それでも早いと香子は思った。
(片道二か月として……五か月なら理論上戻ってこれないこともないけど……)
正味一月で返事をもらうというのはかなり無理をしたのではなかろうか。
『それで、セレスト王国からの使者はどうしているのかしら?』
『王城に近い迎賓館に滞在しています』
『どういう方か、わかって?』
『こちらに保護されているお嬢様の叔父だとおっしゃっています』
『そう、なのね……』
身内ということはちょっと複雑そうだと香子は思った。そもそもその叔父の人となりがわからない。
『わかったわ。できるだけ今日中に返事をします』
そう言って、香子は一旦王を下がらせた。部屋に戻るのは危険なので、朱雀の室へ向かう。
『エリーザの叔父って聞きましたけど……どうしたらいいと思います?』
『直接会わせればはっきりするのではないか?』
朱雀が当たり前のように答えた。
『確かに、血縁者かどうかはそれではっきりしますけど……そういうことじゃなくて。えーと、その叔父って人がエリーザにとって害がある人物かそうでないかということです』
『……それについては我らが直接見なければなんとも言えぬな』
『見れば悪人かどうかってわかりますか?』
『……悪意を持っているかどうかはわかるが、善意で余計なことをする輩についてはこちらも感知はできぬ。あの娘をどうするつもりなのかぐらいは感じ取れるとは思うがな』
『そうですか……』
悪意がわかればまだいいとは香子も思うも、中にはまるっきりの善意でとんでもないことをする輩がいないとは限らない。
『確か、エリーザについては四神宮預かりになっているけど、私が保護者だとは書いてなかったんですよね?』
『そのようだな』
『まぁ、四神の花嫁だなんだと言われてもセレスト王国の人には関係ないですよねー』
だが香子がこの国での紅児の後見人であることは事実である。
『先に私たちで会うことにしましょう。一応船が着いたことはエリーザに伝えないと』
というわけで、セレスト王国から返書に対する返事を携えた使者が着いた(ややこしい)ということは、香子が紅児に話すことにした。もちろんその前に王に使者と会うということは伝え、その日取りが決まってからである。紅児の叔父という人物はよほど気が急いているのか、できればその翌日には返書を渡したいと言ってきた。
(なんにも裏とかがないといいんだけど……)
わざわざ叔父が訪ねてくるというのも解せない。とはいえこんなはっきりしない情報を頼りに母親が連れに来るなんてことはないだろう。紅児の父がもしかして国に辿り着くことができたなら、その人が迎えにくるだろうし、そうでなければやはり紅児の父は行方不明のままである。
三年だ。みな半ば紅児の父は亡くなっていると思っているだろうが、それはさすがに紅児には言えない。以前香子が紅児と話した時は、
『紅夏様が……父は記憶喪失になってどこかにいるのではないかと言っていました』
『そう。そうだったらいいわね』
現実には、そんなドラマみたいなことが起こるはずはないと知っている。だが想像ぐらいはしてもかまわないだろう。なにせこの国は広いのだ。沿海側のどこかへ流れ着いたとしても、もし記憶を失っていたとしたら誰も探せないに違いない。
(たまには紅夏もいいこと言うじゃない)
とその時は香子も思った。
さて、翌日の午後にセレスト王国からの使者との謁見を控え、香子は緊張していた。一応玄武と朱雀、そして白雲と紅夏が付きそうことになっている。
その前に香子は紅児に話をした。
紅児は驚いて目を見開いた。緑の綺麗な瞳が今にも零れ落ちそうである。
誰が使者として来たかということは、香子は話さなかった。叔父が来たなどと伝えたら紅児も行くと言いだしそうだったからだ。
『いい? エリーザ、まず私が(使者と)会ってくるわ。それで問題なければ貴方も会う、という形にさせてもらってもいいかしら?』
紅児は目を白黒させたが、こくりと頷いた。
紅児からしたら大げさともとれる言い方をしてしまったことを、香子はしまったと思った。
『一度会ってくるから、次はエリーザも一緒に行きましょう』
約束をしてはいけないような気もしたが、香子はそう言わずにはいられなかった。
自分のことではないから、余計に気を使わなければいけないと香子は紅児を慮った。
『はい、お帰りをお待ちしています』
紅児にそう言わせてしまったこともまずかったなぁと香子は思ったのだった。
しかし陽射しは冬のそれだし、時折吹いてくる風も冬のものだ。
香子は庭に出る際なども四神の腕の中にいるから風が吹いたところで寒くはないが、侍女たちは少し寒そうに見えた。
『ちゃんと暖石はみな持っているのかしら?』
延夕玲に聞いたら確認しますと言う。ここで働いている間ぐらい暖石を提供してもかまわないではないかと香子は思った。
そんな冬のある日、香子がすっかり忘れていた知らせが四神宮にもたらされた。
四神宮の謁見の間に呼ばれ、そこで香子は玄武と、朱雀と共に王英明から報告を受けた。
『セレスト王国の船が戻ってきたの?』
香子は指を折って数えてみた。確かセレスト王国からの問い合わせに対する返書を出したのは五か月程前のことである。四神がセレスト王国の船に加護を与えたことで、転覆や海賊に襲われる等のトラブルに見舞われることはないが、それでも早いと香子は思った。
(片道二か月として……五か月なら理論上戻ってこれないこともないけど……)
正味一月で返事をもらうというのはかなり無理をしたのではなかろうか。
『それで、セレスト王国からの使者はどうしているのかしら?』
『王城に近い迎賓館に滞在しています』
『どういう方か、わかって?』
『こちらに保護されているお嬢様の叔父だとおっしゃっています』
『そう、なのね……』
身内ということはちょっと複雑そうだと香子は思った。そもそもその叔父の人となりがわからない。
『わかったわ。できるだけ今日中に返事をします』
そう言って、香子は一旦王を下がらせた。部屋に戻るのは危険なので、朱雀の室へ向かう。
『エリーザの叔父って聞きましたけど……どうしたらいいと思います?』
『直接会わせればはっきりするのではないか?』
朱雀が当たり前のように答えた。
『確かに、血縁者かどうかはそれではっきりしますけど……そういうことじゃなくて。えーと、その叔父って人がエリーザにとって害がある人物かそうでないかということです』
『……それについては我らが直接見なければなんとも言えぬな』
『見れば悪人かどうかってわかりますか?』
『……悪意を持っているかどうかはわかるが、善意で余計なことをする輩についてはこちらも感知はできぬ。あの娘をどうするつもりなのかぐらいは感じ取れるとは思うがな』
『そうですか……』
悪意がわかればまだいいとは香子も思うも、中にはまるっきりの善意でとんでもないことをする輩がいないとは限らない。
『確か、エリーザについては四神宮預かりになっているけど、私が保護者だとは書いてなかったんですよね?』
『そのようだな』
『まぁ、四神の花嫁だなんだと言われてもセレスト王国の人には関係ないですよねー』
だが香子がこの国での紅児の後見人であることは事実である。
『先に私たちで会うことにしましょう。一応船が着いたことはエリーザに伝えないと』
というわけで、セレスト王国から返書に対する返事を携えた使者が着いた(ややこしい)ということは、香子が紅児に話すことにした。もちろんその前に王に使者と会うということは伝え、その日取りが決まってからである。紅児の叔父という人物はよほど気が急いているのか、できればその翌日には返書を渡したいと言ってきた。
(なんにも裏とかがないといいんだけど……)
わざわざ叔父が訪ねてくるというのも解せない。とはいえこんなはっきりしない情報を頼りに母親が連れに来るなんてことはないだろう。紅児の父がもしかして国に辿り着くことができたなら、その人が迎えにくるだろうし、そうでなければやはり紅児の父は行方不明のままである。
三年だ。みな半ば紅児の父は亡くなっていると思っているだろうが、それはさすがに紅児には言えない。以前香子が紅児と話した時は、
『紅夏様が……父は記憶喪失になってどこかにいるのではないかと言っていました』
『そう。そうだったらいいわね』
現実には、そんなドラマみたいなことが起こるはずはないと知っている。だが想像ぐらいはしてもかまわないだろう。なにせこの国は広いのだ。沿海側のどこかへ流れ着いたとしても、もし記憶を失っていたとしたら誰も探せないに違いない。
(たまには紅夏もいいこと言うじゃない)
とその時は香子も思った。
さて、翌日の午後にセレスト王国からの使者との謁見を控え、香子は緊張していた。一応玄武と朱雀、そして白雲と紅夏が付きそうことになっている。
その前に香子は紅児に話をした。
紅児は驚いて目を見開いた。緑の綺麗な瞳が今にも零れ落ちそうである。
誰が使者として来たかということは、香子は話さなかった。叔父が来たなどと伝えたら紅児も行くと言いだしそうだったからだ。
『いい? エリーザ、まず私が(使者と)会ってくるわ。それで問題なければ貴方も会う、という形にさせてもらってもいいかしら?』
紅児は目を白黒させたが、こくりと頷いた。
紅児からしたら大げさともとれる言い方をしてしまったことを、香子はしまったと思った。
『一度会ってくるから、次はエリーザも一緒に行きましょう』
約束をしてはいけないような気もしたが、香子はそう言わずにはいられなかった。
自分のことではないから、余計に気を使わなければいけないと香子は紅児を慮った。
『はい、お帰りをお待ちしています』
紅児にそう言わせてしまったこともまずかったなぁと香子は思ったのだった。
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