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第3部 周りと仲良くしろと言われました
109.四神にも想定外はあったようです
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朱雀は、『我は知らなんだが』と前置きをして、四神と唐王朝の取り決めについて教えてくれた。
曰く、一年で結婚相手を決めない花嫁は、強制的に皇帝が決めた相手(四神のうちの誰か)に嫁がされる。これは契約で決まっていることらしい。四神がそれを知らない(もしくは忘れていた)のは、今までそんな事態になったことがなかったからだ。また、その契約をしたのは先代の四神なので、現在の四神はそこまでは感知していなかったのである。
そしてそれは必ず履行しなければならないことらしい。香子は頭痛がするのを感じた。
それと同時にあれ? とも思う。
『……それと私が四神宮に残るのとなんの関係があるんです? 誰に嫁ぐか決めたらここにいてはいけないのですか?』
『ここにいてはいけないということはない。だが、一度誰かの領地へ向かい披露目は行わなければならぬ。そうして初めてそなたは自由に行動できるようになるかもしれぬが、そうなった時夫となった者がそなたを自由にさせるとは限らぬ』
『……言われてみればそうですね』
そうでなくても四神は香子にべったりなのだ。誰かを夫に定めたら、余計に執着が激しくなってしまうに違いない。そうなると、来年の春以降は誰かの領地に向かい、そこから出してもらえる保証はないのである。
香子は初めて逃げたいと思った。
『嫁ぐ条件などを決めることはできないのでしょうか』
『決めてもかまわぬが、それを我らが守るという保証もない』
『そうですよね』
香子が聞くだけ無駄だった。
どこまでもときめかない嫁入りである。
だが本来身分のある者に嫁ぐということはそういうことである。四神には人間のような身分制度はないが、子を成す必要はある。せめて一人でも子を成せば香子の自由度は上がるかもしれないが、それまでは四神というよりも眷属たちが許さないだろう。
だけど、と香子は思う。
『例えば、なんですけど。皇太后と出かけたいって時だけ四神宮に一緒に戻ってくるってことはできませんか? それができれば特に問題はないかなぁって……』
難しく考えなければそういうことだった。
玄武と朱雀は顔を見合わせた。
『それぐらいであれば問題はあるまい。どちらにせよ、我らの子は宿しにくい。おそらく江緑が生きている間に子ができるとは限らぬ』
『やっぱりそういう感覚なんですね』
香子は納得したように頷いた。
誰に嫁ぐかはまだ決められないが、香子は誰かに嫁ぐ気にはなった。何度も言うようだが香子は四神が好きなのだ。嫁ぐということ自体に異存はなかった。
ネックになっていたのは誰に嫁ぐかということと、嫁いだ後の行動制限についてである。皇太后との連絡などは香子が頼めばどうとでもつけてくれるだろうし、調整の為に四神宮に戻ることも認められるだろう。どちらにせよ四神は香子が側にいさえすればどうでもいいのだ。四神からすれば子を成せるかどうかということも本来問題ではないのである。(先代の白虎の問題はあったが、白虎は本能が勝ちすぎて花嫁をその手にしただけであり、子が成せるかどうかまでは全く考えていなかった)
『朱雀様、ありがとうございます。じゃあ、ここに残るという選択肢はないのですね。わかりました』
『……そなたはそれでいいのか?』
『……皇帝などに私の結婚相手を勝手に決められるのは論外です』
『そうか』
玄武と朱雀が嬉しそうに笑んだ。そうしてやっと香子は二神に身を委ねることができたのだった。
先代の四神と唐王朝のやりとりなどは後日書面で受け取り、内容のすり合わせが行われた。それらは本来香子が降臨してすぐにしなければならなかったやりとりだったが、一番年を重ねた玄武すら把握する前のことであったから、現物を四神が確認したりと多少面倒くさい出来事はあった。
皇帝も皇太子もため息混じりに、
『神とはこなに適当なものであったのか』
とこっそりため息をついたが、幸いにもそれは四神と香子には伝わることはなかった。
(唐王朝の成立が……618年だっけ。その前に王朝のバックアップを四神に頼んだとしても600年ぐらいの話だもんね。それから1400年も経ってたら、当時の契約とか残ってなかったら四神だってわかんないよねー……)
その契約書のようなものが残っていてよかったのかどうなのか、そこは香子にはわからなかった。ただ、それが残っていて四神と唐王朝の関係が続いていなければそもそも唐が残っているはずはないのだ。それまでの王朝は四神との関係をおろそかにしたことで滅亡していったのである。そもそもの話、四神は漢王室には関わっていたが、その後の三国時代や晋、そして南北朝時代には関わっていないのだ。そして再び大陸をまとめた隋も文帝こそ四神と渡りをつけようとしたが、その子の煬帝は四神を軽んじた。その隙に唐の高祖と太宗となる李淵と李世民が四神とコンタクトを取り、新しい王朝を打ち立てることを宣言した。
つまりこの世界のヤージョウ大陸における四神の役割は、王朝を安定して存続させるということに特化していた。
香子もそれについてはうすうす感じ取ってはいるが、だからなんだと言われるとそれもそうかと言わざるを得ないのだった。
そうしているうちに季節は廻り、冬の気配が訪れる頃、また一つ知らせが舞い込んできた。
それは香子に直接関係があることではなかったが、誰かの運命を変えるには十分であったと言っておこう。
曰く、一年で結婚相手を決めない花嫁は、強制的に皇帝が決めた相手(四神のうちの誰か)に嫁がされる。これは契約で決まっていることらしい。四神がそれを知らない(もしくは忘れていた)のは、今までそんな事態になったことがなかったからだ。また、その契約をしたのは先代の四神なので、現在の四神はそこまでは感知していなかったのである。
そしてそれは必ず履行しなければならないことらしい。香子は頭痛がするのを感じた。
それと同時にあれ? とも思う。
『……それと私が四神宮に残るのとなんの関係があるんです? 誰に嫁ぐか決めたらここにいてはいけないのですか?』
『ここにいてはいけないということはない。だが、一度誰かの領地へ向かい披露目は行わなければならぬ。そうして初めてそなたは自由に行動できるようになるかもしれぬが、そうなった時夫となった者がそなたを自由にさせるとは限らぬ』
『……言われてみればそうですね』
そうでなくても四神は香子にべったりなのだ。誰かを夫に定めたら、余計に執着が激しくなってしまうに違いない。そうなると、来年の春以降は誰かの領地に向かい、そこから出してもらえる保証はないのである。
香子は初めて逃げたいと思った。
『嫁ぐ条件などを決めることはできないのでしょうか』
『決めてもかまわぬが、それを我らが守るという保証もない』
『そうですよね』
香子が聞くだけ無駄だった。
どこまでもときめかない嫁入りである。
だが本来身分のある者に嫁ぐということはそういうことである。四神には人間のような身分制度はないが、子を成す必要はある。せめて一人でも子を成せば香子の自由度は上がるかもしれないが、それまでは四神というよりも眷属たちが許さないだろう。
だけど、と香子は思う。
『例えば、なんですけど。皇太后と出かけたいって時だけ四神宮に一緒に戻ってくるってことはできませんか? それができれば特に問題はないかなぁって……』
難しく考えなければそういうことだった。
玄武と朱雀は顔を見合わせた。
『それぐらいであれば問題はあるまい。どちらにせよ、我らの子は宿しにくい。おそらく江緑が生きている間に子ができるとは限らぬ』
『やっぱりそういう感覚なんですね』
香子は納得したように頷いた。
誰に嫁ぐかはまだ決められないが、香子は誰かに嫁ぐ気にはなった。何度も言うようだが香子は四神が好きなのだ。嫁ぐということ自体に異存はなかった。
ネックになっていたのは誰に嫁ぐかということと、嫁いだ後の行動制限についてである。皇太后との連絡などは香子が頼めばどうとでもつけてくれるだろうし、調整の為に四神宮に戻ることも認められるだろう。どちらにせよ四神は香子が側にいさえすればどうでもいいのだ。四神からすれば子を成せるかどうかということも本来問題ではないのである。(先代の白虎の問題はあったが、白虎は本能が勝ちすぎて花嫁をその手にしただけであり、子が成せるかどうかまでは全く考えていなかった)
『朱雀様、ありがとうございます。じゃあ、ここに残るという選択肢はないのですね。わかりました』
『……そなたはそれでいいのか?』
『……皇帝などに私の結婚相手を勝手に決められるのは論外です』
『そうか』
玄武と朱雀が嬉しそうに笑んだ。そうしてやっと香子は二神に身を委ねることができたのだった。
先代の四神と唐王朝のやりとりなどは後日書面で受け取り、内容のすり合わせが行われた。それらは本来香子が降臨してすぐにしなければならなかったやりとりだったが、一番年を重ねた玄武すら把握する前のことであったから、現物を四神が確認したりと多少面倒くさい出来事はあった。
皇帝も皇太子もため息混じりに、
『神とはこなに適当なものであったのか』
とこっそりため息をついたが、幸いにもそれは四神と香子には伝わることはなかった。
(唐王朝の成立が……618年だっけ。その前に王朝のバックアップを四神に頼んだとしても600年ぐらいの話だもんね。それから1400年も経ってたら、当時の契約とか残ってなかったら四神だってわかんないよねー……)
その契約書のようなものが残っていてよかったのかどうなのか、そこは香子にはわからなかった。ただ、それが残っていて四神と唐王朝の関係が続いていなければそもそも唐が残っているはずはないのだ。それまでの王朝は四神との関係をおろそかにしたことで滅亡していったのである。そもそもの話、四神は漢王室には関わっていたが、その後の三国時代や晋、そして南北朝時代には関わっていないのだ。そして再び大陸をまとめた隋も文帝こそ四神と渡りをつけようとしたが、その子の煬帝は四神を軽んじた。その隙に唐の高祖と太宗となる李淵と李世民が四神とコンタクトを取り、新しい王朝を打ち立てることを宣言した。
つまりこの世界のヤージョウ大陸における四神の役割は、王朝を安定して存続させるということに特化していた。
香子もそれについてはうすうす感じ取ってはいるが、だからなんだと言われるとそれもそうかと言わざるを得ないのだった。
そうしているうちに季節は廻り、冬の気配が訪れる頃、また一つ知らせが舞い込んできた。
それは香子に直接関係があることではなかったが、誰かの運命を変えるには十分であったと言っておこう。
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