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第3部 周りと仲良くしろと言われました
108.まだ知らないことはあったようです
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例え己の興味がない遺跡であっても、それを破壊するなど許されない。
張錦飛は静かにそう言い、
『花嫁様のご希望に添うよう尽力いたします』
と厳かに言って帰っていった。何やら張の琴線に触れてしまったようだと、香子は冷汗をかいた。
『どうしよう……』
白虎とお茶をしながら、香子はつい呟いた。
『香子、如何した?』
『私、もしかしたら余計なことを話してしまったかもしれません』
白虎に、今日張に話したことを香子は伝えた。すると白虎は笑った。
『何がおかしいんですか?』
『なにほどのことでもあるまい。だが歴史を愛している者たちにとっては許せぬことなのだな』
『そうですね』
それは間違いないと香子は思った。とはいえ香子にできることはない。もしかしたら張が暴走して何か起こるかもしれないが、香子はできるだけ張を守ろうと思った。
結果として、冬が近いということもあり、また皇太后も円明園を訪問するのに乗り気だったということも重なり、どうせ訪問するならば暖かい季節にするようにと皇帝から待ったがかかった。そこは張としても異論はなく、香子としてもさもありなんと思った為残念ではあったが了承した。
ごねたのは皇太后の方であった。
そんなわけで皇太后から呼び出され、お茶と愚痴に付き合わされることとなった。元は香子が言い出したこと、ということもあり、白虎に渋られながらも皇太后のところへ行かないという選択肢もなかったのである。
『いろいろと面倒くさいものだのう』
白虎が苦笑する。
『暖石を大量に持って行くと伝えたのですが、皇上はついぞ首を縦に振りませんでした。静宜園よりも近くにあるというのに全く……』
皇太后は嘆息したが、周りはほっとしていた。やはり出かけるとなると相応の準備が必要だったりする。それを阻止した皇帝に、女官と侍女たちは内心喝采を送っていた。彼女たちにとっても皇帝は女性の敵であることに間違いはないが、皇太后を止めることができるので一応一目置いているような状態である。粉をかけられても皇太后に泣きついてどうにかしてもらうつもりではあるようだが。
『老仏爺のことが心配なのでしょう』
香子は無難にそう返すことしかできなかった。
『花嫁様がそうおっしゃられるなら従おう。しかし……暖かくなってからなどと悠長なことを言っていたら花嫁様とはもう出かけられなくなるのではないか?』
『え?』
香子は目を丸くした。
『花嫁様が四神宮に滞在されるのは一年であろう』
香子は目を泳がせた。四神のことは好きだし、香子は四神の花嫁であるからいずれ全員に嫁ぐことが決まっている。だがまだ誰かの領地に住むということまで覚悟ができているとは言い難かった。優柔不断なようだが、四神宮にいられるだけいるという選択肢はないだろうかなども考えていたりする。
『そう、ですね……ですが、もし、なんですけど……』
提案というほどのことではないが、なんとなく香子の口からこんな言葉が飛び出してしまった。
『一年を超えても四神宮に留まりたいと考えても、実現できるのでしょうか』
皇太后が目を見開いた。
『花、花嫁様……それは……』
『私が四神の花嫁であることに変わりはないですが、一年では短すぎる気がして……』
そう言ってはみたものの、香子はしまったとも思った。皇太后の顔色が非常に悪い。
『も、もちろんこれは冗談ですからっ!』
香子は悲鳴のような声を上げて否定した。それで誤魔化せたわけではないが、皇太后は徐々にだが平静に戻った。
『花嫁様……例え冗談でもそのような心の臓に悪いことをおっしゃらないでくださいませ。全く……心臓が止まるかと思いましたぞ……』
『も、申し訳ありません……』
何故そこまで皇太后がショックを受けたのか香子にはわからなかったが、どうやらこの話は地雷であるということは理解できた。しかし何故だろうという疑問は残った。
『どうしてか、夕玲にはわかる?』
四神宮に戻ってから、延夕玲に聞いてみた。夕玲は困ったように笑んだ。
『残念ながら、私にはわかりかねます』
白虎に聞いたところでもちろんわからなかった。
『なんか気になるんですけど、誰に聞いたらわかりますかね?』
夕飯の席で香子は四神に尋ねた。
『誰が、というならば皇帝であろうな。どれ、のちほど聞いてきてやろう』
朱雀が嫣然と笑み、お茶をした後姿を消した。時間が時間だけにもしかしたら皇帝は誰かと褥を共にしているのでは? と香子は考えてしまったが、気になったのだからしかたないと開き直ることにした。
香子はいつも通り入浴し、薄絹の睡衣(寝巻)を着せられて部屋の寝室で迎えを待っていた。
迎えにきてくれたのは玄武で、朱雀は少し遅くなるという。玄武に抱き上げられて、香子は玄武の室へと連れて行かれた。
『玄武様は……私が一年を超えてここにいたいと言ったらどう思われますか?』
『そうさな……我は変わらずそなたをこの腕に抱けることに安堵するであろうが、そなたを独り占めにしたいと考えるようにもなるやもしれぬ』
『そうなのですか?』
朱雀と共に香子を抱いている玄武である。香子は意外に思った。
そうしてやっと朱雀が戻ってきた時、香子は衝撃的なことを聞かされることとなったのだった。
張錦飛は静かにそう言い、
『花嫁様のご希望に添うよう尽力いたします』
と厳かに言って帰っていった。何やら張の琴線に触れてしまったようだと、香子は冷汗をかいた。
『どうしよう……』
白虎とお茶をしながら、香子はつい呟いた。
『香子、如何した?』
『私、もしかしたら余計なことを話してしまったかもしれません』
白虎に、今日張に話したことを香子は伝えた。すると白虎は笑った。
『何がおかしいんですか?』
『なにほどのことでもあるまい。だが歴史を愛している者たちにとっては許せぬことなのだな』
『そうですね』
それは間違いないと香子は思った。とはいえ香子にできることはない。もしかしたら張が暴走して何か起こるかもしれないが、香子はできるだけ張を守ろうと思った。
結果として、冬が近いということもあり、また皇太后も円明園を訪問するのに乗り気だったということも重なり、どうせ訪問するならば暖かい季節にするようにと皇帝から待ったがかかった。そこは張としても異論はなく、香子としてもさもありなんと思った為残念ではあったが了承した。
ごねたのは皇太后の方であった。
そんなわけで皇太后から呼び出され、お茶と愚痴に付き合わされることとなった。元は香子が言い出したこと、ということもあり、白虎に渋られながらも皇太后のところへ行かないという選択肢もなかったのである。
『いろいろと面倒くさいものだのう』
白虎が苦笑する。
『暖石を大量に持って行くと伝えたのですが、皇上はついぞ首を縦に振りませんでした。静宜園よりも近くにあるというのに全く……』
皇太后は嘆息したが、周りはほっとしていた。やはり出かけるとなると相応の準備が必要だったりする。それを阻止した皇帝に、女官と侍女たちは内心喝采を送っていた。彼女たちにとっても皇帝は女性の敵であることに間違いはないが、皇太后を止めることができるので一応一目置いているような状態である。粉をかけられても皇太后に泣きついてどうにかしてもらうつもりではあるようだが。
『老仏爺のことが心配なのでしょう』
香子は無難にそう返すことしかできなかった。
『花嫁様がそうおっしゃられるなら従おう。しかし……暖かくなってからなどと悠長なことを言っていたら花嫁様とはもう出かけられなくなるのではないか?』
『え?』
香子は目を丸くした。
『花嫁様が四神宮に滞在されるのは一年であろう』
香子は目を泳がせた。四神のことは好きだし、香子は四神の花嫁であるからいずれ全員に嫁ぐことが決まっている。だがまだ誰かの領地に住むということまで覚悟ができているとは言い難かった。優柔不断なようだが、四神宮にいられるだけいるという選択肢はないだろうかなども考えていたりする。
『そう、ですね……ですが、もし、なんですけど……』
提案というほどのことではないが、なんとなく香子の口からこんな言葉が飛び出してしまった。
『一年を超えても四神宮に留まりたいと考えても、実現できるのでしょうか』
皇太后が目を見開いた。
『花、花嫁様……それは……』
『私が四神の花嫁であることに変わりはないですが、一年では短すぎる気がして……』
そう言ってはみたものの、香子はしまったとも思った。皇太后の顔色が非常に悪い。
『も、もちろんこれは冗談ですからっ!』
香子は悲鳴のような声を上げて否定した。それで誤魔化せたわけではないが、皇太后は徐々にだが平静に戻った。
『花嫁様……例え冗談でもそのような心の臓に悪いことをおっしゃらないでくださいませ。全く……心臓が止まるかと思いましたぞ……』
『も、申し訳ありません……』
何故そこまで皇太后がショックを受けたのか香子にはわからなかったが、どうやらこの話は地雷であるということは理解できた。しかし何故だろうという疑問は残った。
『どうしてか、夕玲にはわかる?』
四神宮に戻ってから、延夕玲に聞いてみた。夕玲は困ったように笑んだ。
『残念ながら、私にはわかりかねます』
白虎に聞いたところでもちろんわからなかった。
『なんか気になるんですけど、誰に聞いたらわかりますかね?』
夕飯の席で香子は四神に尋ねた。
『誰が、というならば皇帝であろうな。どれ、のちほど聞いてきてやろう』
朱雀が嫣然と笑み、お茶をした後姿を消した。時間が時間だけにもしかしたら皇帝は誰かと褥を共にしているのでは? と香子は考えてしまったが、気になったのだからしかたないと開き直ることにした。
香子はいつも通り入浴し、薄絹の睡衣(寝巻)を着せられて部屋の寝室で迎えを待っていた。
迎えにきてくれたのは玄武で、朱雀は少し遅くなるという。玄武に抱き上げられて、香子は玄武の室へと連れて行かれた。
『玄武様は……私が一年を超えてここにいたいと言ったらどう思われますか?』
『そうさな……我は変わらずそなたをこの腕に抱けることに安堵するであろうが、そなたを独り占めにしたいと考えるようにもなるやもしれぬ』
『そうなのですか?』
朱雀と共に香子を抱いている玄武である。香子は意外に思った。
そうしてやっと朱雀が戻ってきた時、香子は衝撃的なことを聞かされることとなったのだった。
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