409 / 608
第3部 周りと仲良くしろと言われました
106.四神の表情はあまり動かないものらしいです
しおりを挟む
『青龍様、書を教えてください』
『……そなたも熱心なことだ。字など書けずとも問題はあるまいに』
青龍にそう言われて香子はムッとした。
『字は書けます……多分。でも筆で綺麗に書くことは難しいのです。青龍様は意地悪です』
『すまぬ。せっかくそなたと過ごせる日だというのにと思ってしまったのだ』
『……二日に一度は共に過ごしているではありませんか』
香子は頬が熱くなるのを感じた。ほんのりと染まった頬を見て、青龍の口元が綻ぶ。
『そなたと共にある時は、独り占めにしたい』
『で、でも……書を教えてくださるのは青龍様だけなので……』
『……そうか』
何かの琴線に触れたらしい。その後、青龍は本当に真面目に香子の書の練習に付き合った。ほんのちょっとだけ、香子は真面目すぎるのも考えものだと思った。
とはいえおかげで今日は手応えを感じるぐらい書の練習ができたので香子はご機嫌だった。青龍の指導は厳しいが、たまにこうして教えてもらえる分にはとてもいい老師であると香子は思っている。
『明後日もしっかり指導しよう』
『明日張老師に教えてもらえるので……』
連日はできれば遠慮してほしい。
『香子は書の上達がしたいのではなかったか?』
『……はい』
やっぱり青龍は真面目だった。しかしへとへとになって昼食を取った後はそうではなかった。
『香子』
昼食後、青龍の室に連れて行かれた。そこまではいい。青龍は当たり前のように香子を抱いて寝室へ運んでいこうとした。
『ちょっ、青龍様っ!』
『如何した?』
『なんで私、寝室に運ばれようとしているんでしょうか?』
『我がそなたに触れたいからだ』
何を当たり前のことをとでも言いだしそうである。
『さ、触るだけですよね?』
青龍はほんの少しだけ考えるような表情をした。青龍はあまり表情が動かないから、香子はついその顔を見つめてしまう。考えるような表情、といっても香子にそう見えるだけで、侍女たちが見てもわからないだろうという変化だ。だが香子は四神のほんのわずかな表情の変化も最近はわかるようになっていて、
(青龍様も表情が出てきたなぁ)
なんてのんきなことを思ったりもした。
『……舐めるのは触るに含まれるのだろうか』
しかしその後青龍が言ったことに、香子はどういう顔をしたらいいのかわからなくなった。青龍、台無しである。
『……青龍様、そういうことは私に聞くことではないと思います……』
せめて他の四神に聞くことはできなかったのだろうか。いろいろまだまだだなと思う香子だった。
夜も、みたいなことを言われたがそれはさすがに香子も断った。明日は張錦飛が来る。書を習うのもそうだが、香山公園に行ったことも話したいし、円明園について知っていることがあれば教えてほしいとも香子は思っている。その楽しみを奪われるわけにはいかなかった。
『ならばいつならいいのだ?』
切なそうな表情で聞かれ、香子はうっと詰まった。最近青龍はこういう、なんというか香子が逆らいにくいような表情をするようになった。あくまで香子の目にそう映っているだけなので、やはり侍女たちが見ても表情が動いたようにはほとんど見えなかったりする。
『……明後日の夜でしたら……』
明日は張錦飛に書を習った後は白虎と過ごすことになっている。だから、明後日ならばいいかと香子も思った。ちなみに明後日の昼からでない理由は、どうしても昼からそういうことをするのには抵抗があるからだった。愛撫はいいのかというツッコミは入るかもしれないが、それが香子の耳に入ることはないのでそういうものなのである。
『では明後日の夜、忘れるでないぞ』
青龍がニヤリとした。なんというか、人の悪い笑みであった。
あんな表情できたんだ、と香子も驚いた。
何度も言うようだが、香子は青龍に抱かれるのが嫌なわけではない。ただ青龍との営みはどうしても時間がかかることがネックなのだ。
(あれえ? でもなんで青龍様に抱かれる時って時間がかかるんだろう?)
香子は頬を染めたまま首を傾げた。青龍は龍だ。龍の交尾が長いなんて香子は聞いたことがない。それ以前に玄武のがどうだとか、朱雀のがどうだとかも香子はよくは知らない。なにせ抱かれる時は毎回朱雀に「熱」を与えられ、とても感じやすい状態にさせられてから抱かれるのだ。もちろん「熱」を受けないで抱かれたこともないではないが、その回数は少なく、そして四神は彼らのそれを決して香子に見せたりはしなかった。
青龍との交わりが何故長いのか。今頃になって香子は気になった。
だがなんとなくそれはまだ聞いてはいけないような気もする。聞いたらひどくショックを受けるような、そんな予感すらするのだ。
(まだ、触れるなってことなのかな?)
交わり関係については下手に聞くと藪蛇になる恐れもあるので、青龍との交わりは長いとだけ覚えておくことにした。
(考えない考えない……)
その夜、いつも通り玄武と朱雀に抱かれながらつい青龍のことを聞いてしまったが、どう二神が答えたのか香子はさっぱり覚えていなかった。
つまり、やはりまだ触れてはいけないようだと香子は再認識したのだった。
『……そなたも熱心なことだ。字など書けずとも問題はあるまいに』
青龍にそう言われて香子はムッとした。
『字は書けます……多分。でも筆で綺麗に書くことは難しいのです。青龍様は意地悪です』
『すまぬ。せっかくそなたと過ごせる日だというのにと思ってしまったのだ』
『……二日に一度は共に過ごしているではありませんか』
香子は頬が熱くなるのを感じた。ほんのりと染まった頬を見て、青龍の口元が綻ぶ。
『そなたと共にある時は、独り占めにしたい』
『で、でも……書を教えてくださるのは青龍様だけなので……』
『……そうか』
何かの琴線に触れたらしい。その後、青龍は本当に真面目に香子の書の練習に付き合った。ほんのちょっとだけ、香子は真面目すぎるのも考えものだと思った。
とはいえおかげで今日は手応えを感じるぐらい書の練習ができたので香子はご機嫌だった。青龍の指導は厳しいが、たまにこうして教えてもらえる分にはとてもいい老師であると香子は思っている。
『明後日もしっかり指導しよう』
『明日張老師に教えてもらえるので……』
連日はできれば遠慮してほしい。
『香子は書の上達がしたいのではなかったか?』
『……はい』
やっぱり青龍は真面目だった。しかしへとへとになって昼食を取った後はそうではなかった。
『香子』
昼食後、青龍の室に連れて行かれた。そこまではいい。青龍は当たり前のように香子を抱いて寝室へ運んでいこうとした。
『ちょっ、青龍様っ!』
『如何した?』
『なんで私、寝室に運ばれようとしているんでしょうか?』
『我がそなたに触れたいからだ』
何を当たり前のことをとでも言いだしそうである。
『さ、触るだけですよね?』
青龍はほんの少しだけ考えるような表情をした。青龍はあまり表情が動かないから、香子はついその顔を見つめてしまう。考えるような表情、といっても香子にそう見えるだけで、侍女たちが見てもわからないだろうという変化だ。だが香子は四神のほんのわずかな表情の変化も最近はわかるようになっていて、
(青龍様も表情が出てきたなぁ)
なんてのんきなことを思ったりもした。
『……舐めるのは触るに含まれるのだろうか』
しかしその後青龍が言ったことに、香子はどういう顔をしたらいいのかわからなくなった。青龍、台無しである。
『……青龍様、そういうことは私に聞くことではないと思います……』
せめて他の四神に聞くことはできなかったのだろうか。いろいろまだまだだなと思う香子だった。
夜も、みたいなことを言われたがそれはさすがに香子も断った。明日は張錦飛が来る。書を習うのもそうだが、香山公園に行ったことも話したいし、円明園について知っていることがあれば教えてほしいとも香子は思っている。その楽しみを奪われるわけにはいかなかった。
『ならばいつならいいのだ?』
切なそうな表情で聞かれ、香子はうっと詰まった。最近青龍はこういう、なんというか香子が逆らいにくいような表情をするようになった。あくまで香子の目にそう映っているだけなので、やはり侍女たちが見ても表情が動いたようにはほとんど見えなかったりする。
『……明後日の夜でしたら……』
明日は張錦飛に書を習った後は白虎と過ごすことになっている。だから、明後日ならばいいかと香子も思った。ちなみに明後日の昼からでない理由は、どうしても昼からそういうことをするのには抵抗があるからだった。愛撫はいいのかというツッコミは入るかもしれないが、それが香子の耳に入ることはないのでそういうものなのである。
『では明後日の夜、忘れるでないぞ』
青龍がニヤリとした。なんというか、人の悪い笑みであった。
あんな表情できたんだ、と香子も驚いた。
何度も言うようだが、香子は青龍に抱かれるのが嫌なわけではない。ただ青龍との営みはどうしても時間がかかることがネックなのだ。
(あれえ? でもなんで青龍様に抱かれる時って時間がかかるんだろう?)
香子は頬を染めたまま首を傾げた。青龍は龍だ。龍の交尾が長いなんて香子は聞いたことがない。それ以前に玄武のがどうだとか、朱雀のがどうだとかも香子はよくは知らない。なにせ抱かれる時は毎回朱雀に「熱」を与えられ、とても感じやすい状態にさせられてから抱かれるのだ。もちろん「熱」を受けないで抱かれたこともないではないが、その回数は少なく、そして四神は彼らのそれを決して香子に見せたりはしなかった。
青龍との交わりが何故長いのか。今頃になって香子は気になった。
だがなんとなくそれはまだ聞いてはいけないような気もする。聞いたらひどくショックを受けるような、そんな予感すらするのだ。
(まだ、触れるなってことなのかな?)
交わり関係については下手に聞くと藪蛇になる恐れもあるので、青龍との交わりは長いとだけ覚えておくことにした。
(考えない考えない……)
その夜、いつも通り玄武と朱雀に抱かれながらつい青龍のことを聞いてしまったが、どう二神が答えたのか香子はさっぱり覚えていなかった。
つまり、やはりまだ触れてはいけないようだと香子は再認識したのだった。
2
お気に入りに追加
4,026
あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■

誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。
昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。
入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。
その甲斐あってか学年首位となったある日。
「君のことが好きだから」…まさかの告白!
せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?
石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。
彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。
夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。
一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。
愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる