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第3部 周りと仲良くしろと言われました
103.他の庭園も見たいと思うのです
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昼食を終え、食休みをしてから香山の敷地の中を散策した。
皇帝が避暑の際に使用するという小さな宮殿もあり、こんなものもあるのかと香子は感動した。これらは香子の世界では英仏連合軍によって壊されたり略奪されたりしているので、形があるというだけでも香子はすごいと思ったのだ。
皇帝の離宮に当たるので入ることはできないのだと案内役が申し訳なさそうに言う。入ろうという気は全くなかったから了承した。
離宮で思い出したのだが、頤和園の他に円明園も存在するはずである。
『老仏爺、そういえば円明園があると聞いていますが、そちらを見学することは可能なのですか?』
『円明園、というと長春園などがある場所かのぅ』
『はい、おそらくはそちらです!』
『庭園を散策することは可能であろうが、離宮故ほとんどの場所は入れなんだはずじゃが……』
『外観だけでも見たいんです!』
なにせ西洋風の建築があるというではないか。この世界のこの国は戦禍に遭っていないから遺跡がそのまま残っているはずである。アロー戦争で英仏連合軍が破壊と略奪の限りを尽くしたせいで円明園は廃墟後しか見たことがないのだ。しかし清の時代に建てられた建築のはずだがこちらの世界ではいったい誰が建てたのかとか、西洋建築というのはどこから学んだのかなどの問題はある。そこらへんは張錦飛が詳しいかもしれない。
『そなに円明園が見たいというのならば聞いてみることとしよう』
『老仏爺、ありがとうございます!』
あの廃墟を見た時、フランスとイギリス許すまじ! と思ったことを香子は忘れない。戦争というのはそういうものとはいえ、文化や遺跡の破壊は香子にとって決して許せないことだった。
戦禍に遭っていない円明園が見られると思ったら興奮しないわけがなかった。
(戦禍に遭ってない世界、最高!)
香子は内心ガッツポーズをした。文化大革命もなかったわけだから各地の遺跡などが壊されることもなかっただろう。そうなるともう見たい遺跡ばかりである。赤壁だって見に行きたいし、雲南省がどうなっているのかも見たい。それらはきっと四神と結婚したら叶えられるかもしれない。
香子は香山の紅葉を愛でながら、四神との結婚をようやく本気で意識し始めたのだった。
遺跡を見て回りたいから結婚? というとすごくおかしなかんじがするだろうが、どうせ香子の結婚相手は四神の誰かと決まっているし、どうもいろいろ話を聞いてみると最初の結婚というのは形式的なもので、香子が四神全員の花嫁であることは変わらないのだ。とはいえ結婚した相手の領地へ移動して、まずは相手の子を産まなければいけないみたいなので今みたいな乱交状態にはならないだろうと香子は思った。
(常に玄武様、朱雀様の二人がかりでってやっぱりおかしいよね……)
今更か、ということを思い、香子は頬を染めた。だが周りの景色が紅葉で赤っぽいせいか、皇太后は気づかなかったようだった。
ごはんもおいしかったし、離宮も外側からだが見られたし、何より空がとてもキレイだったことが香子は嬉しかった。
帰りの馬車の中で皇太后と話しながら余韻に浸り、夕方頃には王城へ帰り着くことができた。
『おお、さすがに外出は疲れたのぉ。花嫁様もゆっくり休んでおくれ』
『老仏爺もゆっくり休んでください。本日は私のわがままに付き合っていただきありがとうございました。いずれまたお礼に伺います』
そう言って香子は頭を下げた。
『ほ、ほ……気にすることはない。妾も静宜園に行けて楽しかったぞ。次は円明園かのぉ。皇上に尋ねてみよう』
『ありがとうございます』
円明園は是非見たい。外観だけでいいのだ。あの廃墟を見て絶望したことは、香子は一生忘れないだろう。日本も戦争でたいへんなことになった。多くの人が死んだ。だがそれだけではない。戦争は文化をも破壊するのだ。戦争反対の原動力はなんでもいい。香子にとっては、遺跡の破壊などという暴挙は何が何でも許せないことであったから。
香山に行った余韻でほうっと香子はため息をついた。
『朱雀様、白虎様、今日はお付き合いいただきありがとうございました』
四神宮に戻った時、香子がそうにこやかに伝えたら、二神が目配せした。
『?』
なんか嫌な予感がする。香子は笑顔で誤魔化そうとしたが、そんなことはできそうもなかった。
『香子、わかっているな?』
朱雀のテナーが耳元で不穏なことを言う。
『え? あのっ、なんのこと……』
『朱雀兄、香子は気づいていないようだ』
『ならばしっかり教えねばならぬな』
『え? だからなんのこと……』
香子が戸惑っているうちに頭上で朱雀と白虎はどうするか決めてしまったようだった。朱雀は香子を抱いたまま、まっすぐ彼の室に向かう。
『なっ、なんでですかっ? 今日は私何をしたんですかーっ!?』
『口にするのも忌々しいことだ』
白虎が楽しそうにいう。あ、これ口実だと香子は気づいたがもうしょうがない。
『……熱を与えないでくださいね? 抱くのもなしです。夕飯はいただきたいのでっ!』
『善処しよう』
朱雀が楽しそうに言う。
『夕飯を満足に与えなかったら家出しますからねっ!』
とりあえず香子はできもしないことを叫んでみた。二神は目を丸くして、笑った。
『そなたにはかなわぬな』
『香子、そなたの望むように』
あやされている自覚はあったが、言うことを聞いてくれればいいのだと香子は割り切ることにした。
(……今回のスイッチはなんだったんだろう……)
夕飯の後ででも聞いてみることにした。
皇帝が避暑の際に使用するという小さな宮殿もあり、こんなものもあるのかと香子は感動した。これらは香子の世界では英仏連合軍によって壊されたり略奪されたりしているので、形があるというだけでも香子はすごいと思ったのだ。
皇帝の離宮に当たるので入ることはできないのだと案内役が申し訳なさそうに言う。入ろうという気は全くなかったから了承した。
離宮で思い出したのだが、頤和園の他に円明園も存在するはずである。
『老仏爺、そういえば円明園があると聞いていますが、そちらを見学することは可能なのですか?』
『円明園、というと長春園などがある場所かのぅ』
『はい、おそらくはそちらです!』
『庭園を散策することは可能であろうが、離宮故ほとんどの場所は入れなんだはずじゃが……』
『外観だけでも見たいんです!』
なにせ西洋風の建築があるというではないか。この世界のこの国は戦禍に遭っていないから遺跡がそのまま残っているはずである。アロー戦争で英仏連合軍が破壊と略奪の限りを尽くしたせいで円明園は廃墟後しか見たことがないのだ。しかし清の時代に建てられた建築のはずだがこちらの世界ではいったい誰が建てたのかとか、西洋建築というのはどこから学んだのかなどの問題はある。そこらへんは張錦飛が詳しいかもしれない。
『そなに円明園が見たいというのならば聞いてみることとしよう』
『老仏爺、ありがとうございます!』
あの廃墟を見た時、フランスとイギリス許すまじ! と思ったことを香子は忘れない。戦争というのはそういうものとはいえ、文化や遺跡の破壊は香子にとって決して許せないことだった。
戦禍に遭っていない円明園が見られると思ったら興奮しないわけがなかった。
(戦禍に遭ってない世界、最高!)
香子は内心ガッツポーズをした。文化大革命もなかったわけだから各地の遺跡などが壊されることもなかっただろう。そうなるともう見たい遺跡ばかりである。赤壁だって見に行きたいし、雲南省がどうなっているのかも見たい。それらはきっと四神と結婚したら叶えられるかもしれない。
香子は香山の紅葉を愛でながら、四神との結婚をようやく本気で意識し始めたのだった。
遺跡を見て回りたいから結婚? というとすごくおかしなかんじがするだろうが、どうせ香子の結婚相手は四神の誰かと決まっているし、どうもいろいろ話を聞いてみると最初の結婚というのは形式的なもので、香子が四神全員の花嫁であることは変わらないのだ。とはいえ結婚した相手の領地へ移動して、まずは相手の子を産まなければいけないみたいなので今みたいな乱交状態にはならないだろうと香子は思った。
(常に玄武様、朱雀様の二人がかりでってやっぱりおかしいよね……)
今更か、ということを思い、香子は頬を染めた。だが周りの景色が紅葉で赤っぽいせいか、皇太后は気づかなかったようだった。
ごはんもおいしかったし、離宮も外側からだが見られたし、何より空がとてもキレイだったことが香子は嬉しかった。
帰りの馬車の中で皇太后と話しながら余韻に浸り、夕方頃には王城へ帰り着くことができた。
『おお、さすがに外出は疲れたのぉ。花嫁様もゆっくり休んでおくれ』
『老仏爺もゆっくり休んでください。本日は私のわがままに付き合っていただきありがとうございました。いずれまたお礼に伺います』
そう言って香子は頭を下げた。
『ほ、ほ……気にすることはない。妾も静宜園に行けて楽しかったぞ。次は円明園かのぉ。皇上に尋ねてみよう』
『ありがとうございます』
円明園は是非見たい。外観だけでいいのだ。あの廃墟を見て絶望したことは、香子は一生忘れないだろう。日本も戦争でたいへんなことになった。多くの人が死んだ。だがそれだけではない。戦争は文化をも破壊するのだ。戦争反対の原動力はなんでもいい。香子にとっては、遺跡の破壊などという暴挙は何が何でも許せないことであったから。
香山に行った余韻でほうっと香子はため息をついた。
『朱雀様、白虎様、今日はお付き合いいただきありがとうございました』
四神宮に戻った時、香子がそうにこやかに伝えたら、二神が目配せした。
『?』
なんか嫌な予感がする。香子は笑顔で誤魔化そうとしたが、そんなことはできそうもなかった。
『香子、わかっているな?』
朱雀のテナーが耳元で不穏なことを言う。
『え? あのっ、なんのこと……』
『朱雀兄、香子は気づいていないようだ』
『ならばしっかり教えねばならぬな』
『え? だからなんのこと……』
香子が戸惑っているうちに頭上で朱雀と白虎はどうするか決めてしまったようだった。朱雀は香子を抱いたまま、まっすぐ彼の室に向かう。
『なっ、なんでですかっ? 今日は私何をしたんですかーっ!?』
『口にするのも忌々しいことだ』
白虎が楽しそうにいう。あ、これ口実だと香子は気づいたがもうしょうがない。
『……熱を与えないでくださいね? 抱くのもなしです。夕飯はいただきたいのでっ!』
『善処しよう』
朱雀が楽しそうに言う。
『夕飯を満足に与えなかったら家出しますからねっ!』
とりあえず香子はできもしないことを叫んでみた。二神は目を丸くして、笑った。
『そなたにはかなわぬな』
『香子、そなたの望むように』
あやされている自覚はあったが、言うことを聞いてくれればいいのだと香子は割り切ることにした。
(……今回のスイッチはなんだったんだろう……)
夕飯の後ででも聞いてみることにした。
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